緑と呼ぶ人
全校生徒(サボり等欠席者除く)の前で他校の奴を叩きのめし、晴れて?ゆう(となぜか俺)が学校のトップに立った翌日。
「ちわーす!杉原さん!これ食ってください!」
「ちわーっす!あの、これ二人で昼とかに食ってください!」
「ちわーす!伊藤さん、あの、写メ撮らしてもらっていースか!?」
今朝はちゃんと時間どおりに登校すると、机の上が半端ないことになっていた。
俺とゆうの机の上、お菓子とかパンとかがずらーっと並んでいるのだ。さながら女子会のごとし。
いや、女子会行ったことないからイメージね。お菓子とか食いながら徹夜で喋るんでしょ?
そして、俺らの周りに寄ってきて、ピーチクパーチク騒ぐ奴ら。写メとか何にすんの?
さすがのゆうも、この状況に、意味がわからんといった顔で無言を保っている。
こんなときは、えーと、あ、いたいた。
「赤メッシュ、これどういうこと?」
経験豊富な赤メッシュに聞くのが一番。
ちょうどいま登校してきた赤メッシュもまた、俺らの机におにぎりを乗せた。
「ちわす!あの、俺らバカなんで、尊敬したりシビれたりしたとき、飯をお供えするしか表現する方法がないんス!昨日のはマジシビれたんで、みんな持ってきたんス!あとみんな喋りたいんだと思うッス!」
「え、俺も?てか写メはなに?」
「藤尾の一発を避けた伊藤さんマジシビれたッス!写メはイケメンだからじゃないスか?」
てかお供えって、俺らはお地蔵さんかーい。
もうすぐ授業開始だというのに、学年問わず俺らを見に来る奴らは増えていく一方だ。あとお供え物も。
見ていると、だんだんゆうがイラついてきてるのがわかる。ゆうはヤンキーのくせにうるさいのとかそんな好きじゃないんだよね。なんかもう一押しあったらキレちゃいそー。
ちょっとそわそわしていたら、また一人、俺らにお菓子を持ってきた奴がいた。
「ちわすっ!雄大さん緑さん、これ食ってください!」
あ、やば。
と俺が思ったときには既に、そいつは壁に叩きつけられていた。
そいつをぶん殴って壁までふっ飛ばしたゆうは、苛立ちMAXな顔で、着席する。
周りの奴らもようやく静かになった。
てゆーか教室も廊下も静かになった。
俺は、あちゃー、と思いながら、壁に打ち付けられて目を回している少年に手を合わせた。
「い、いとーさん」
赤メッシュが、恐る恐る、といったふうに俺を見る。さっき教えてもらったし、今度は俺が代わりに教えてあげよ。
「ごめんね、俺のことりょくって呼んでいーの、ゆうだけだから」
正直、俺は別に構わねーけどね。ゆうが嫌がるんだよね。
ゆうは、自分のことはなんて呼ばれてもさん付けなら構わないけど、誰かが俺のことを名前で呼ぶのは、嫌がる。変なこだわりだよね。
ふだんは嫌そうな顔するだけだけど、今はイライラしてたから、手も出た。
つまり、いま殴られた奴は運が悪かったのだ。
ちなみに俺の名前は、みどりと書いてりょくと読みますのでよろしく。
「あとゆうは、うるさくされんのあんま好きじゃないから。とりあえずもー授業始まるし、教室戻れば?」
「「は、はいっ!!」」
「うん、じゃーね~」
みんなが去っていくのを、手を振って見送る。哀れな少年も搬送されていった。
そして静まり返った教室で、俺はゆうの方を向き、笑いかけた。
「ゆう、やりスギ。かわいそーじゃん」
「….」
ゆうも八つ当たりしたという自覚はあるらしく、何も言い返してこない。
何も言わないのは、反省している証拠です。
ならいーよね。
「大丈夫、俺のこと名前で呼ぶのはゆうだけだからさ。今までも、これからもね」
「…バカじゃねーの」
ふざけてウインクしながら俺が言う。その後、ぽつりと言ったゆうの言葉を聞いて、俺は、ゆうの苛立ちがすっかり鎮まっていることを悟った。あーよかった。
その後始まった授業は静寂に支配され、教科の先生は、「こんなに静かな授業は、この学校に来て以来初めてだ!」と感激していた。たいへんですね。
そしてこれを機に、俺は陰で「奥さん」とも呼ばれるようになるのだが、当然知る由もないのであったとさ。