ナイアガラ
春爛漫、今日は入学式。
桜がいいかんじに満開なんだけど、今日はあいにく春風が吹き荒れてて、凄まじい勢いで散っていっている。
や、散るとか言ったら縁起悪いかな?凄い量の花吹雪が舞ってる、ってかんじか。
さて、そんな、コントみたいな量の桜吹雪で視界不良の校庭にて、俺はいま、
「ねーゆう、おれ入学式出たいんだけどー」
「うるせえ。んなの出るくれーなら桜見てたほうがマシだろうが」
ブルーシートひいて、幼馴染と一緒に、お花見をしています。
俺の隣にあぐらをかいて、三色だんごをばくばく食べているのが、幼馴染の杉原雄大。通称ゆう。
俺と同じで真新しい学ランに身を包んだ新入生だけど、背もでかいし顔つきも厳つくて、とても一月前まで中坊だったとは思えない。
てか桜見てないじゃん、スマホ見てるじゃん。
今朝登校するときコンビニでパックのだんごと烏龍茶買ってたから、なんでかなーとは思ったけど、まさかお花見のためだったとは。
まあ、幼稚園からの長い付き合いで、ゆうの俺様っぷりに付き合うのは慣れたけどさ。入学式ブッチはちょっとビビるよね。
しょーがないから、俺もお団子食べることにする。
「あ、でもうまいね、これ」
「な、花見のほうがいいだろ」
「そーは言ってねえわー。でもまあ、いっかぁ」
桜は綺麗だし、団子はうまいし。まあ、いっか。
と、思っていたところ。
「よーテメェ、三中の杉原と伊藤だな」
そこへ、改造制服を着た生徒たちが五人ほど現れた。
うわ、一人リーゼントいるじゃん。すご。
ところで、実は今日俺とゆうが入学した高校は、不良の溜まり場として悪名高いところだ。俺らバカだし内申悪かったから、定員割れしてるここしか入れなかったんだよね。
あと、伊藤っていうのは俺のこと。伊藤緑です、よろしくね。
「入学早々サボりたぁ生意気だなァ?」
「てめぇら、三中で頭はってたんだってな」
「ひゅー、伊藤マジイッケメーン。ボコボコにしてやりてーわぁー」
「俺らが先輩としてヤキ入れてやんよぉ」
にたにた笑いながら、指の骨をバキバキ鳴らす先輩方。
俺が、めんどくせー、と思っていると、最後のひと串を食べ終えたゆうは、こちらを向いた。
で、先輩方に目もくれず、俺のあぐらの上に頭を乗せた。
え。
「え、なにしてんの」
「寝る」
「ゆう、先輩たち俺らのこと呼んでんだけど」
「…」
あ、聞こえてないふりしてる。
先輩たちを見ると、怒りのあまりか額に青筋立ててぷるぷる震えていた。そりゃそーだよね。
「な、な、なめてんじゃねぇぞコラァ!!」
わーまとめて襲いかかって来た!
俺足動かせないし、やばいって。ゆうの肩のあたりをぱたぱた叩く。
「ねーねー、ゆう、ゆうって」
「…うるせえな」
一瞬後。
むくりと起き上がったゆうは、あっという間に五人全員を叩きのめした。
一人一発ずつで。効率いいよね。
ゆうは喧嘩強いんだよね。俺も戦えないことはないけど、基本ぼーりょく好きじゃないし。
さっき先輩方が言ってた地元のチームのトップっていうのは、ゆうが強くて、周りがケンカ売ってきて、それをいまみたいに倒してたら、なんか、なってたんだよね。
ちなみに俺はそんとき横にいただけなんだけど。
「お見事ー!」
「口ほどにもねー」
「え、で、なにしてんのきみ」
「だから寝るっつってんだろ。枕やれ緑」
再び俺のあぐらに頭を乗せて来るゆう。もう目つぶってるし。
「だから、俺入学式行きたいんだけどー」
桜がさながらナイアガラ、な校庭に、俺の悲痛?な叫びが響き渡りましたとさ。