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第2話 記憶なき怪物たちの森【前半】


『ペルソナは世界に対して私たちが見せる仮面である』


     カール・グスタフ・ユング



 目が覚めて、気がつけば、そこに広がっていたのは見慣れぬ鬱蒼とした深い森。

 そして見慣れぬ、自分たちの姿だった。


 光が完全に収束し、意識がはっきりと覚醒した時、目の前に広がっていたのは、夢見ヶ丘学園の、あの旧演劇部の部室ではなかった。


「……異世界の、森の中?」


 周囲を見渡すと鬱蒼と茂る、見知らぬ樹々。その葉は濃く暗い緑色で、まるでこの世ならざる場所に足を踏み入れたかのような錯覚に陥る。


 湿った土の匂いが鼻腔をくすぐり、耳を澄ませると遠くからは、「ホー、ホー」と野生の梟と思われる鳴き声が聞こえる。足元にはふかふかとした草と苔が生い茂り、一歩、足を踏み出すと、小枝が「パキリ」と音を立てる。頭上を見上げれば、木々の隙間から射光が差し込み、その白い光がより一層この森の神秘性を際立たせていた。


「ええぇ!? なにこの姿!?」


 その暗く深い森に、三つの影が佇んでいた。


「うー、わ、わたし、いつもより身体が重いんですけど……わふぅ」


 星宮きららの声は、いつもより少し低い声質で、野性的な響きを帯びていた。困惑した彼女の視線は、自分の前足に向けられている。そこには、銀白色の毛並みに覆われた、狼のような四肢が見えた。尻からは、ふさふさとした立派な尾が生え、耳はピンと立ったまま、周囲の音を鋭く捉えている。まだ幼い体躯だが、その瞳は、賢狼と呼ぶにふさわしい光を宿していた。


 その姿は、通称『フェンリル』と呼ばれる魔物そのものだ。


 きららは、不慣れな身体の動きに「へぇー」と声を上げながら、新しい手足を何度か動かしてみる。その表情はとても楽しげで、柔らかい毛並みのモフモフの身体で、ぴょこぴょこと地面を跳ねてみせた。 


「それにしても、きらら、あんたすごいことになってるけど私もよ! なんか身体が、めっちゃちっちゃくて軽いんだけど、これじゃ剣も持てないよ!?」


 神楽坂 陽葵は、自分の身体の異変に驚きつつも、その軽やかな身のこなしに好奇心を覚えているようだ。彼女は宙にふわりと浮かんでみる。

 背中からは蝶にも似た透き通る綺麗な羽根が生えていて、手や足は小さく、全身からは微かな燐光が放たれる。


 その姿はピクシーと呼ばれる妖精種の女王『ティターニア』だ。

 氷上を滑る様に、空中を華麗に滑空して飛び回っている。


「わぁー、ひまりちゃん、可愛い! ずーるーいー!」

「ずるいって、なに言っているのよ! もう、これじゃ、戦えないよー!」


 普段の陽気な雰囲気を残してはいるが、ティンカーベルのような自身の姿に、戸惑いつつも、可愛らしい女の子然とした姿に何処か胸を撫で下ろす。


 ちらっと、もう一つの影を見て、陽葵はそう思った。きららも同意するかの様に、もう一つの影、月夜見 美琴の姿を見て同じ感想を抱いたのだった。


「ぶもー! あなたたちはまだマシよ! 私なんてオークよオーク! 豚じゃないの! 何よこの姿!?」


 美琴は、絶叫にも似た雄叫びを上げ、ゴツゴツとした両手を広げて、きららと陽葵にその不満をぶつけた。豪奢な腰蓑と重厚なマントを身に付けて、どこか気品のようなものすら感じる。しかし、その顔はまさにオーク、豚そのものだ。


 いや、ただのオークと言うよりは『オークキング』と呼ぶにふさわしい威圧感を放っていたが、その表情はどこまでも人間的な困惑と、悲壮感に満ちていた。


「うわぁ、これは醜い……けど、でも強そう、だよ」

「うん、私が変わってあげたいくらいには強そうだね、まあ取り敢えず何と言うか、ドンマイ!」


 陽葵は美琴のそばにふわりと寄って、その巨大な肩を遠慮がちにポンポンと叩く。その小さな手のひらと、美琴の分厚い皮膚の対比が、どこかコミカルだ。


 そんな軽口の、ひまりにオークの姿になった美琴は忌々しげに睨みつけた。


「いや、ごめん、でも普段は凛々しい雰囲気の美琴がその姿って、ぷふっ」

「ぶもー! ピクシーの陽葵は素敵だし、モフモフ狼のきららも可愛い、それに比べて私なんて、ただの飛べないブタ……」


 美琴は、怒りにも似た声で反論するが、どこか間が抜けて聞こえる。異世界の森で目が覚めた3人の声は、混乱と困惑に満ちていた。


 なぜ自分達はこんな恐ろしい姿になっているのか。なぜこんな見知らぬ場所にいるのか。頭の中には霧がかかったように、ぼんやりとしていて、思考しようとするほど謎が深まる。まるで記憶喪失にでもなったかの様に、以前の事がよく思い出せない。


「とにかく、状況整理しましょうか、今の姿が本来の自分じゃないってのは何となく理解できるから、何か原因があってこんな状況に陥ってるんだとは思うけど」

「うーん、確か、皆んなで集まって、何か楽しい事をしていた様な?」


「わふー、これからどうしよう……私たち、ここが何処かもわからないし、こんな姿だし、人間に見つかったら、たぶん大変なことになるよね?」

「えぇ、そうでしょうね、この姿では、人間社会での活動は困難を極めるわ」


「うん、でも取り敢えず、ここが何処か調べる必要があるよねー」


 三人の間に、重い沈黙が流れる。そして、これからどうすればいいのか。何もかもが分からない。


 それに何故かこの姿になってから冷静な思考が難しい。それとも、これもこの姿の影響なのだろうか、そんな状況に3人は、どんよりと気分が沈む。


 美琴は、重々しい足取りで、森の地面に座り込む。


「困ったわ……どうしたらいいのかしら」

「お、果物を発見、これ食べられるかなー?」


 陽葵はそう言って、フワリとその羽で軽やかに飛び上がり、近くにあった木々に実っていた果実を、その小さな体全体でもぎ取ろうと、全身でしがみついた。


「クンクン、あ、ちょっと待って、何かの気配がするわ」

「どうしたの、何か変な匂いでもする?」


 陽葵が、警戒しつつきららに尋ねた。


「うん……なんか少し生臭くて、ちょっと甘いような、嫌な匂いがする」


 きららの言葉に、美琴の思考が加速する。


「……それは、もしかして私たちの匂い?」

「わふぅー、違うよー、なんか鉄臭いというか、汗と血の匂い?」


 それを聞いて美琴が、警戒しつつゆっくりと立ち上がる。その巨体は、わずかな振動を地面に伝え、周囲の空気がぴんと張り詰める。

 おちゃらけていた陽葵も果実を抱えて持ちながら、沈黙して様子を確認する。


 そして二人はきららが向いている茂みの奥を覗き込んだ、その時。


 ガサリ、と音を立てて、一人の男が顔を出した。その男は、軽装の革鎧を身につけた斥候らしき冒険者で、美琴たちの姿を見るなり、息を呑んで硬直した。眼前に現れたのは、巨大なオークと、その傍らに佇む小さなピクシー、そして幼いながらも威厳を放つフェンリル。


 一瞬の静寂が訪れる。


 お互いを認識した瞬間、まるで時間が止まったかのようだった。


「……ッ、何だ、このデカいオークは!?」


 男の驚きの声が、静寂を破る。


「それに、希少な、ピクシーに……え、まさか、あれはフェンリルか!?」

「おい、どうした!?」


 斥候の男が驚いた声を上げたことで、森の奥から仲間の冒険者たちが合流してきた。彼らは斥候の視線の先にいる美琴たちの姿を捉えるやいなや、一斉に武器を構え、深く息を飲む。


「ま、まさか……オークに、賢狼の幼体!? それに、あれはピクシーか?」

「なんだ、こりゃ、こんな街道沿いに居るような魔物じゃないぞ!?」


 リーダーらしき男の声が、驚きに染まる。他の冒険者たちも、そのあまりにも珍しい組み合わせに、ざわめきが起こる。オークキングだけでも厄介なのに、ピクシーは精霊に近い希少種、そして幼体とは言え明らかに普通のウルフとは毛色の違う、賢狼フェンリルと言えば、叙事詩に出てくる様な伝説の存在。もし捕獲や討伐できれば、その素材は希少この上なく、莫大な報酬や名誉が手に入る事だろう。しかしその危険度も計り知れない。


 彼らは討伐クエストの帰りの道中、王都へと続く街道の近くで、斥候が魔物の気配を察知し、警戒しながら近づいてきたのだろう。


「いや、なんだこの組み合わせ……ありえねぇ、しかもコイツら並の魔物とは、見た目からして違うぞ! まさか上位種か!?」


 冒険者たちは、顔色を変え、一歩ずつ慎重に間合いを詰めていく。欲と恐怖、そして疑問が、彼らの表情に複雑に刻まれていた。


 彼ら冒険者の目つき、そしてきららが嗅ぎ取った匂い。それはこの森の生態系で、彼女たちがどう見られているかを物語っていた。彼らの態度から、まともな対話は期待できないと直感する。


「ちょっと待ちなさい! 私たちは別に……」

「喋ったッ!? 魔物が喋ったぞッ!?」


 美琴は、対話を試みようと口を開いた。しかし、その言葉は遮られる。


 リーダーらしき男が、驚愕に目を見開く。その表情は、先ほどの欲と恐怖が入り混じったものから、純粋な「疑心」へと変わった。彼らの常識では魔物が人間のように言葉を話すはずがない。彼らが見ているのは巨大なオークの魔物、そしてこれは既に部室で繰り広げられる演劇の範疇ではない。今まさに、この場には見知らぬ人間たちが、こちらに明確な『敵意』を向けているのだ。


「喋る魔物、まさか、知性のある魔族か!? これは尋常じゃないぞ! だが、この機会を逃したら二度と会えないかもしれない……」

「おい、どうすんだリーダー、戦うのか?」


 男は舌なめずりをすると、美琴の姿を値踏みするように見つめた。

 その目には、大金への途方もない欲望が見え隠れする。


「オークキングは不要だ、ここで討伐するぞ! だが、賢狼の幼体とピクシーは生け捕りにする! 斥候は捕獲罠の準備をしろ、こいつらを生け捕りにできれば、莫大な金になる、まずは攻撃して弱らせるぞ!!」


 冒険者たちの顔に、ギラギラとした欲望の色が浮かんだ。しかし言葉とは裏腹に、彼らの足は震え、表情には「本当に俺達で勝てるのか?」という不安が色濃く浮かんでいた。もし戦ってみて、手も足も出ない様なら、すぐにでも逃走する腹積りだ。


「……ッ、勝手なことを!」


 美琴の額に「ピキッ」と青筋が浮かんだ。冷静な対話を試みようとしていた美琴の思考が、まるで熱い液体を注がれたかのように、もやもやと沸騰した。

 自分たちは、この世界に転移してきたばかりの人間だ。なのに魔物だからと一方的に決めつけられ、罵られ、挙句の果てには仲間を金儲けの駒にしようとする言葉が、美琴の倫理観、ひいては彼女の価値観そのものへの侮辱に等しい。


 許せない、これは、戦うしかなさそうだ。


 そう決心した美琴は、大地を揺るがす勢いで立ち上がると、冒険者たちに向かって雄叫びを上げた。その声は森の獣すら怯ませるほどの純粋な怒りだった。それは怒りというよりも、オークキングとしての「威厳」をかけた咆哮だった。


「ブモー! 来るなら来なさい、相手をしてやるわ!!」


 その巨体から大地へと届く声は、まるで地響きにも似ていた。美琴の激昂した雄叫びと共に、冒険者たちは一斉に襲いかかってきた。彼らの目には、金欲と危険な存在への畏怖という二つの感情が揺れていた。しかし、喋る魔物=魔族=人類の敵という短絡的な判断が、彼らを攻撃へと駆り立てる。


「え、ちょ、ちょっと待ってよ、話せばわかるかもしれないのに!」

「わふー、戦うしかないの!?」


 陽葵は、混乱しながらも、空中でひらひらと身構える。ピクシー特有の身軽さは、彼女のパニックを和らげるように、自然と体を動かした。しかし、冒険者たちの攻撃は容赦なく、彼女たちに向かって振り下ろされる。


「危なっ、もう、これでも喰らいなさい、とりゃあ!」

「ぐぶぇ!?」


 陽葵は咄嗟に持っていた果実を、襲ってきた冒険者に投げつけた。その小さな身体で必死に投げた果物は、見事に冒険者の顔面にクリーンヒットした。


「ひまりちゃん、ナイス! って、今度はこっちを狙ってきたしぃ!」

「この、通常種のオークや、ウォーキングウルフなら、こちとら何度も討伐してるんだ!」


「ブモー! やらせはしないわ!! こっちを狙いなさい!!」


 その瞬間、三人の意識に、どこからかまるで天啓のように、戦闘の知識と、身体を動かすための本能的な衝動が閃いた。それは、かつて様々な『シチュエーション』で繰り広げた『経験』の断片が、彼女の脳裏をよぎったかのようだった。


 この魔物の姿は、自分の意志に呼応する。


「ぐっ、この苛つく咆哮、挑発スキルか!?」


 美琴は、その巨体できららを庇うように身構え、冒険者の前に立ちはだかった。

 振り下ろされた剣が、オークキングの分厚い皮膚に当たると「ボヨン」と鈍い音を立てて弾いた。まるで硬いゴムにでも当たったような衝撃に、冒険者は目を見開く。


「なっ、なんだ、この皮膚の厚さ、肉厚で硬すぎるッ!?」

「ブモー! かかって来るなら、こちらとて容赦はしないぞ!」


 美琴は、怒りに任せて雄叫びを上げた。その声には、オークキングとしての威圧感がこもり、冒険者たちを怯ませる。しかし彼らもプロの冒険者だ。

 すぐに態勢を立て直し、魔法を構える者、連携して攻撃を仕掛ける者、とそれぞれが動き出す。


「わ、私たちだって、やられっぱなしじゃないんだから!」


 陽葵は、素早い身のこなしで冒険者たちの攻撃をかわしながら、彼らの視界を惑わす。身を翻すたびに、彼女の体から放たれる微かな燐光が、夜の森に幻想的な光の筋を描いた。それは、ピクシーが持つ、魔力を帯びた瑠璃色に輝く羽だ。


 その光は、冒険者たちの視界を奪い、一瞬の隙を生み出す。


「くそっ、目くらましか!」


 冒険者の一人が、目をこすりながら叫ぶ。その隙を、陽葵は逃さなかった。

 ピクシーの小さな身体から、キラキラと輝く細かな鱗粉を振りまく。それはまるで舞い散る星屑の様な鱗粉。吸い込んだ冒険者は「へっくしゅん!」と大きなくしゃみをし始めた。


「ふぇ、フィクション!」

「な……なんだこれ、く、くしゃみが、止まらねえ!」


 冒険者たちの視界を塞がれ、咳き込み、身動きが取れなくなったその瞬間。


「この隙に、一気にいくよわよ、きらら!」

「うん!」


 きららは、陽葵が作ったわずかな隙を逃さなかった。まだ幼さの残った身体からは想像もできないほどの俊敏さで地面を蹴り、瞬く間に冒険者の懐へと飛び込む。白銀色の四肢から繰り出される爪は、冒険者の革鎧を軽々と切り裂いた。

 激痛に男が呻き声を上げる。しかし、きららは殺意を宿しているわけではない。あくまで、相手を戦闘不能にするための最小限の攻撃だ。狼としての本能が、相手の隙や急所を的確に見抜いている。


「え、こんなに軽々と動けるの!? これなら私でも戦えるよ!」

「きらら、スゴい、イイぞー、頑張れ!」


「よーし、頑張る、がるるぅぅ、わぉん!!」


 きららは、攻撃を加えながらも、自分の中に眠っていた新たな力が発揮されていることに驚く。そして本能的に、喉から咆哮が溢れ出す。それは、森を震わせるほどの轟音となって、冒険者たちの耳を打ち、彼らを怯ませた。


 美琴は、その二人の勇姿と連携に、自分たちの中に眠っていた能力の覚醒に、はっとした。身体の奥底から湧き上がる知識は、ただの力ではない。それは、この身体を最大限に生かすための「生存本能」であり、彼女たちの「弱さ」を補う、生き抜く為の『術』だった。

 まるで自分の手が、身体が、勝手に動くかのようだ。彼女の脳裏には、かつて先輩たちが、異世界の魔物に対して熱く語っていた時のことを思い出した。


「……なるほど、そういうことね!」


 美琴は、大地を揺るがすような勢いで、巨大な腕を振り上げた。オークが持つ大地との親和性。それは「オークキングならきっと地形くらい操れるはず!」と豪語していた、あの周防部長の『妄言』の再現だった。

 彼女の拳は冒険者に直接叩きつけられることはなかった。代わりに彼女の掌が大地に触れたと同時に、地面が隆起し、鋭い土の槍が無数に突き出したのだ。


「えっ、地面が、勝手に!?」

「なにこれ、すごーい!」


 美琴自身も確信はしてなかった『土魔法』の発動。その突起した無数の土の槍は、冒険者たちの行く手を阻み、その前方にバリケードの様に包囲した。


 敵対していた冒険者パーティーは、魔物の連携と、想像を凌駕する身体能力、そして未知の能力に、完全に戦意を喪失した。その表情は、大金への欲望よりも、生命への恐怖が勝っていた。


「ひぃ!? 魔物が魔法を使うなんて、聞いてねぇぞ、こんなの、もう無理だ!」

「お、おい、逃げるぞ、こんなところで無様に死んでたまるか!」


「ま、待てお前ら、俺を置いて行くなぁ!」

 

 彼らは、散り散りになって森の奥へと逃げ去っていく。

 そして夜の森に、再び静寂が訪れる。


 きららは、息を弾ませながら、陽葵と顔を見合わせた。


「やったね、勝った! わんわんおー!」

「まさか、こんなに簡単に追い払えるなんて……私たち、結構、強いのかも!?」


 きららが喜び、陽葵もフワリと、その頭の上に降り立ち、安堵の息を漏らす。


「ふぅ、そうね、どうやら私たち、この身体の使い方を、自然と理解できるようだわ、まさか、この巨漢なオークの身体で土魔法を使えるとは……」


 美琴は、荒い息を整えながら、倒木の幹にもたれかかった。肉体的な疲労も少しあるが、それ以上に、慣れない身体に精神的な疲弊を感じる。しかしそれ以上に、今回の体験は、彼女の知的好奇心を深く刺激していて、気分が高揚していた。


 まるで、これまで経験したことのない、新たな「学習」が、身体の奥底で行われているかのようだ。


 美琴はふと周囲を見渡した。日の光が、木々の隙間からきらきらと降り注ぎ、森の地面を照らしている。その目が映すのは、冒険者たちが逃げ去った方向とは真逆の、より深く豊かな森の奥。


「ふっ、この森は、私たちにとってはまだ未知の領域、しかし少なくともあの冒険者たちよりは、この環境に順応できるようね」


 美琴の瞳には、再び知的な輝きが戻っていた。彼女の口元にわずかに不適な笑みが浮かぶ。まるで何か悪巧みでも思い付いた、とでも言わんばかりに。

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