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第6話 教授の甘言と、奈落への転落【前編】

 

『真実の探求は、人間にとって最も貴い務めである』


   アルベルト・アインシュタイン



 冒険者グレンに導かれ、道中で色々なハプニングに見舞われるものの、3人は遂に目的地であるフェリシア博士の研究所に辿り着いた。


 重厚な両開きの扉が軋みながら開くと、フェリシア博士が満面の笑顔で出迎えた。彼女の目は期待に満ちて輝いており、その表情には一片の曇りもない。

 そして、まるで長らく待ち望んでいた客人を迎えるかのように、両手を広げた。


「よくいらっしゃいました、ミコトさん、キララさん、そしてヒマリさん、ここが私の、わたくしの研究室ですわ! さあ、どうぞ中へ!」


 まるで貴重な来賓客を招き入れるかの様に、丁重に手招きをした。

 3人は博士に促されるまま、玄関のエントランスホールへと足を踏み入れた。


 研究所の内部は、外観の古めかしさとは裏腹に、内装は改修したのか普通に洋館然とした綺麗な造りだった。足元には豪華な赤い絨毯が敷き詰められ、吹き抜けのエントランスの高々とそびえる天井には、重厚なシャンデリアが吊されて、ホール全体を明るい光で満たしていた。


 一階の壁際には剣を持った西洋甲冑が何体か置いてあり、正面に見える二階へと続く曲線の階段の壁には、大きな絵画があり、まるで貴族の館の様な装いだ。

 

「へー、ここがフェリシア博士の研究所なんだ、広いねー」

「なんかそのまま、お貴族様が住む豪邸みたいな感じだね」


 美琴は、オークキングの姿で見上げてもなお、その建物の内装がかなりの威容を誇ることに驚いた。きららも、ワクワクした表情で周囲を嗅ぎ回り、陽葵も美琴の肩から身を乗り出して、好奇心旺盛にきょろきょろと周囲を見回していた。


 3人とも興味深く、この世界に来て初めて見る光景に釘付けになっている。


 その時、ホールの一角に立つ数体の人影が、ゆっくりと動き出した。

 その正体は整然と並んだ、メイド服に身を包んだ女性達だ。その優美な姿は主人を出迎える執事そのものだが、どこか動きにぎこちなさがある。


「オカエリナサイマセ、ハカセ」


 その口から発せられた声は、平坦で感情がこもってない。


 ピクシーである陽葵は、魔力的な流れを敏感に感じ取ったのか「生命の魔力」ではなく「人工的な魔力」が彼女たちに宿っている事が見て取れた。

 

「えっと、フェリシア博士、この人形達は、もしかしてゴーレム?」

「ええ、わたくし、魔道具研究の一環として、人型ゴーレムの製作にも従事しておりますの、この広い研究所も、普段はゴーレムたちが管理しておりますわ」


 博士は陽葵の言葉に目を細め、嬉しそうに頷いて肯定した。


「へー、すごい、博士は本当に天才博士だったんだね」

「ふふ、ありがとうございます、ですが現状だとこの子達は、主人である私の指示にただ従うのみ、自ら学び、考え、進化する知性には、どうしても到達できない壁があるのです」


「ふーん、見た目は、普通に可愛いメイドさんだね」

「そうなのです、外見はかなり拘ったので、ですが、その欠陥を越える切っ掛け、つまりは貴女達の、その『思考と自律性』こそが、研究の最終フェーズには必要なのです! この出会いは、わたくしのゴーレムに『魂』を吹き込む為の、唯一無二の機会なのですわ!」


 その言葉は、3人に対して明確な『研究対象』としての評価がにじみ出ており、美琴は内心で警戒を強める。しかし同時に、このフェリシアとの奇妙な出会いが、自分達が元の姿に戻るための鍵を握っている、という期待感も抱いていた。


 博士はそう言うと、まるで舞台役者のように3人の前に歩み寄った。彼女の瞳は、美琴たちを単なる魔物としてではなく、自身の研究対象として見定めていて、爛々と輝いている。


「まずは改めて自己紹介ですね、わたくしフェリシア・ベヘモットは、この世界のあらゆる生命体、特に魔物の生態や進化の過程を研究しています、彼らがなぜその姿をしているのか、どんな能力を持っているのか、そして、我々にとってどんな恩恵をもたらしてくれるのか……知れば知るほど、尽きることのない探求のテーマが広がりますわ!」


 フェリシア博士は、魔物の姿である3人と視線をしっかりと見合わせて、臆する事なく話を続ける。


「賢狼フェンリルのキララさん!」

「わふ! なぁに?」


 きららは、急に自分の名前を呼ばれて、嬉しそうに尻尾を振った。


「貴女はとても素晴らしい、まだ幼体とは言え、その毛並みは何と見事な銀白色、そしてその筋肉のつき方、しなやかさ! 何よりも驚くべきは、その並外れた知性ですわ! フェンリルは本来は人里に姿を表さず、伝説の魔獣と呼ばれる存在で、知能が高く、人間とも意思疎通ができるという伝承がありますが、まさしくあなたのような個体を指すのでしょう! 更にあなたのように純真無垢で、親しみやすいフェンリルは、この世界広しと言えど、あなたが唯一無二の存在でしょう! その嗅覚、聴覚、そして俊敏な動き……どれを取っても、私のこれまでの研究の常識を覆しますわ、あなたの生態を研究すれば、大型肉食獣の行動原理から、種としての進化の可能性、そして知性の獲得に至るまで、あらゆる学術分野に革命が起こるに違いないですわ!」


 博士は興奮気味に、きららの事をこれでもかと褒め称えた。最初は戸惑い驚いていたきららも、そこまで褒められて、照れくさそうにもじもじと身体をよじる。


 次に博士は、美琴の肩に留まっている陽葵へと視線を移した。


「そして、そちらの可憐なピクシー、ヒマリさん!」

「え、うん! 可憐で可愛い妖精だよ!」


 陽葵は、小さな羽根をパタパタと動かし、少し得意げに胸を張った。


「ああ、なんて神秘的、その姿はまさに妖精の女王『ティターニア』と呼ぶに相応しいですわ! そして何よりも、あなたが見せたあの空間魔法! 通常、ピクシーが使えるのは自然への癒しの術や、幻惑魔法、ごく限られた範囲での空間魔法のはず、あれほどの巨体を一瞬で消し去るほどの空間収納能力は、未だかつて文献にも記された事がありません、あなたの身体そのものが、無限の魔力を秘めた結晶のようなものなのでしょう! 小さき体に秘められた計り知れない可能性、もしあなたの魔力の源や、その亜空間を作り出す仕組みを解き明かせたなら、既存の魔道具の常識は根底から覆され、新たなエネルギー革命すら起こせるかもしれませんわ! 生命体のサイズと魔力総量の関係性、身体構造と魔法力の相関……ああ、想像するだけで脳が震えますわ!」


 博士は身を乗り出し、まるで宝物でも見つけたかのように陽葵を称賛した。

 陽葵は、そこまで褒められて、少し顔を赤らめる。


 そして最後に、博士の視線は美琴へと向けた。


「しかし、何と言っても最も驚くべきは、オークキングの美琴さんですわね!」

「……」


 美琴は、あくまで冷静に、無言のまま博士の言葉を待った。


「オーク種は通常、凶暴で知能が低いとされる魔物です、しかしあなたは違う! その姿はまさしくオークキングのそれでありながら、その瞳には理性的な光が宿り言葉を操り、冷静沈着な判断力と、類い稀なき胆力を有する、それは言うなれば『思考する魔物』、進化の袋小路に陥ったと思われていたオーク種において、貴女はまさに突然変異にして、新たな進化の可能性を示している個体ですわ! あなたの脳構造、社会性、そしてその身体能力、オークキングが人間としての知性を獲得したプロセスを解明できれば、生命体の進化における最大の謎の一つを解き明かす鍵となるでしょう! 知的生命体の発生と、その環境適応、あなたの存在は、まさに生ける学術書ですわ!」


 博士は、まるで至宝を見つけたかのように、熱弁を振るう。その眼差しは美琴を研究対象としてしか見ていないのだが、純粋な探求心に満ち溢れていた。


 流石の美琴でも、ここまで賛美されると、内心平静ではいられない。褒められているのはオークキングとしての彼女自身であり、人間としての「美琴」ではないのだが、それでも自身の持つ能力が、博士によってここまで言語化され、その可能性を指摘されると、自尊心が刺激されないわけでもなかった。


「……ふむ、なるほど、つまり博士の研究に、私たちはとても役に立つ、と」


 美琴は冷静にそう返す。しかし、その口調にはわずかに高揚感が滲み出ていた。


「ええ、その通りですわ、これはまさに運命の出会いです、 だからこそあなた方にご協力いただきたいのですわ。もちろん、長期的に研究に協力していただければ、様々な便宜を図らせていただきますわ、滞在費の心配もいりませんし、多額の報酬も用意いたします、あなた方の安全も保障しましょう」


 博士の言葉には、あからさまな期待感がにじみ出ていた。美琴は、その言葉の裏に、自分たちを研究対象としか見ていない意図を感じるが、同時に自分たちが元の姿に戻るための希望の光も見出していた。


「ところで、フェリシア博士、私達はあなたから聞いた『真実の鏡』というものについて、詳しくお伺いしたいのですが、それを使えば、私達は元の姿と記憶を取り戻せる、と貴女は言ってましたよね?」

「そうそう、グレンもそう言って私達をここまで連れてきてくれたんだよね」


「……ああ、確かに、そんなことも言ったな」

「それなら記憶を失う前の姿を思い出せば、元の世界にも帰れるのかも!」


 美琴は、本題を切り出して、きららと陽葵もその言葉に頷いた。そしてグレンは曖昧な感じで相槌を返した。詳しい内容はフェリシア博士から直接聞いてくれ、と言わんばかりの態度だ。


 フェリシア博士は、美琴たちの言葉に、にこやかに答えた。


「ええ、その通り、わたくしの研究所には『真実の鏡』と呼ばれる魔道具がありますわ、その鏡を見た者の『魂の姿』を映し出し、本来の自身の姿、そして忘れかけている『記憶』をも呼び覚ますことが出来るはずです……ですが」


 そこで博士は再び一呼吸置くと、まるで交渉の主導権を握るかのように、満面の笑みを浮かべた。


「ですが、その為には『先に』わたくしの研究に、協力していただかなければなりませんわ、これは、この世界における『等価交換の原則』というものです」


 美琴は、博士の言葉に難色を示す。結局はそこかい、という思いと、やはりこの博士は相当に胡散臭い、という感想が同時に押し寄せた。しかし同時に、彼女の言葉が真実であるのならば、自分たちが元の姿に戻るための唯一の希望でもある。


 更にフェリシア博士は、こちらに理があると言わんばかりに訴えかけてきた。


「だって、考えてみてください、もしこれで先に鏡をあなた達に差し上げた場合、もしそれで、元の人間、ましてやそのまま元の世界に帰る様なことになれば、私、それではただのお人好しの協力者でしかないですし、これ程の貴重な実験体を前にして、そんなのは研究者として有るまじき事ですわ!」


 フェリシア博士の言う事は、実に的を得て履いた。確かにこのまま、元の世界に帰れるとしたら、美味しい林檎を前にして没収されるロバの様な気分だろう。


 美琴達からすれば、そんなの知ったこっちゃない、ではあるのだが、眼鏡の奥から潤んだ瞳でじっとりと見てくるその姿は、対価を望むのであれば、それに値する価値を示せ、とその視線が雄弁に語りかけている。彼女の言う事はもっともな内容で、まさに正論ではある。


 それにこの場にはグレンもいる。あまり要求を突っぱねて、彼等の機嫌を損ねるのは悪手ではある。ここは取り敢えず交渉に応じよう。


「ふむ、まあ博士の要求はもちろん理解はしていますが、協力、とは具体的にどのような事を指すのでしょうか? その内容にもよりますね、因みに金銭でも応じると言うのであれば、私達もこの異世界で、ゴブリンの棲まうダンジョンを攻略し、それなりの金品を手に入れました、もし『真実の鏡』を譲ってくれると言うのであれば、その全てを差し上げても良いですわ」


 美琴はそう言って、陽葵にアイコンタクトで一瞥する。


 陽葵もそれを理解して、空間魔法の収納から、金銀財宝の山を床のカーペットにドサリ、と出現させた。ジャラジャラ、と音を立てた金貨のその鈍い輝きがシャンデリアの明かりに反射してきらめく。相当の量であることは一目でわかる。


「これは……凄いな、ゴブリン? まさか最近、王都でも被害報告が頻繁にされていたゴブリンキングが統率してる、あのダンジョンの宝か!? 大商人の荷馬車が襲撃されたとは噂で聞いたが、まさかそれほどの財宝を溜め込んでいたとは!」


 その財宝を見て、グレンは感嘆の声を上げ、欲に目の色を変えた。

 美琴は、そのグレンの変化を逃さなかった。


「フェリシア博士、これだけあれば貴女の研究の費用として役立つはずです、これならば対価としては十分なのでは?」


 美琴は自信満々にそう提案した。彼女の論理的な思考が、博士の足元を探ろうとしていたのだ。しかし、フェリシア博士はその金貨の山を一瞥すると、まるで興味がないかのように、フッと優雅に笑った。


「あらあら、お気遣いどうも、でも、わたくし研究資金には困っていませんの」


 博士は、そう言って空間収納トランクから、例のスライムクッションを取り出して抱き抱えた。空間収納バックも王都で人気の商品と言ってたので、その売り上げの一部や印税とかも入るなら、確かに金銭に靡かないのは当然の事か。


 美琴はその事実に気づき、内心でどう交渉するのが最適解か思考した。


「わたくしが求めているのは、金貨なんかよりも、あなたのその神秘的な身体と、そこで起こっている事象そのものなのですわ!」


 博士は身を乗り出し、美琴の顔をじっと見つめた。その瞳には、子どもが新しいおもちゃを見つけたときのような、純粋な好奇心が宿っている。


「お願いです、ミコトさん! キララさん! ヒマリさん! どうか、どうか、私にあなたたちのことを研究させてください!」


 フェリシア博士は、まるで駄々をこねる子供の様に両手を合わせて懇願する。

 そして真剣な眼差しを美琴たちに向けた。


「それにあの『真実の鏡』は、そう簡単に使えるものではありませんの、まずは貴女たちの身体と精神状態を、正確に把握する必要がありますわ、そうしなければ、鏡が思わぬ反応を示す可能性だってあるんですから!」


 博士はまるで鏡の危険性を説くかのように、深刻な表情を浮かべる。

 しかし、その言葉の端々からは、あくまでも美琴たちを「研究対象」として捉えている本心が透けて見えた。そして、今の言い訳が、本当かどうかも疑わしい。


「ふむ、ならこうしましょう、グレン」

「……ん? な、なんだ?」


 まさかこのタイミングで自分の名前を呼ばれるとは思わなかった冒険者のグレンは、少し声が上ずりながら聞き返した。


「もしフェリシア博士を説得して、真実の鏡を入手して私達に譲るなら、この財宝を全て貴方に譲るわ」

「!?」


「ええ!? な、なんですの、それは、まさかグレンを買収して、か弱くて非力なわたくしを物理的に脅すつもりですの!? そそ、そんなの狡いですわ!!」

「ええ、そうよ、だってそっちの方が手っ取り早いもの」


 美琴は、博士のペースに乗せられないよう、あえて主導権を握るかのように提案した。彼女の狙いは、博士の焦りや、その真意を探ることだった。


「みことちゃん、その提案はすごい、そしてズル賢い!」

「まさに逆転の発想だね、確かにグレンをこちらに引き入れれば、実験に付き合わなくても鏡を手に入れられるね」


「グレン、惑わされてはダメですわ! 貴方は請負人、わたくしはクライアント、その立場を忘れてはなりません! それに、もし私に危害を加えたら国が黙っていないですからね! 貴方だって国から追われる立場に逆戻りですわよ!」


 グレンは、美琴のまさかの提案に眉を顰め苦い表情をした。これは彼が考えていた当初の筋書きとは違う、予想外の出来事だ。とは言え自身の利を考えると、そこまで悪くはない提案でもある。


 床にどっさりと置かれた金銀財宝の山は、それだけ魔性の光を放っていた。


「……確かにその提案は魅力的ではあるが、悪いが顧客である博士を裏切ることは出来ん、長い目で見たらここで彼女の信頼を失うのは俺にとっては愚策だ、それにその事がもしバレて、悪評が広まれば、俺の冒険者としての沽券にもかかわる」


 グレンは、ちらりと金貨の山に目をやりつつも、最終的にはその誘惑を退けた。


「ああ、グレン、信じていましたわ!」


 美琴の提案に乗ると言う事は、これまで築き上げてきたフェリシア博士の信頼を裏切り、これまでの関係性を断ち切る事に相違ない。己の立場と状況を冷静に考えた場合、やはりここはフェリシア博士についた方が、利口というものだ。


「そう、それじゃ交渉決裂ね、ひまり、宝はもうしまっても良いわ」

「……ん、分かった、残念だけど仕方ないね、グレンさん」


 ひまりは、美琴の合図で床に積まれていた財宝の山を、瞬時に空間魔法で収納した。あまりの引き際の良さに、グレンもフェリシアも呆気にとられる。


「それじゃあ、フィリシア博士、もしここで私達が、魔物の本能に従って、本気で暴れまくって、この研究所を内部から破壊して、全てをめちゃくちゃにすると脅した場合、怪我をする前に素直に『真実の鏡』を差し出してくれるかしら?」

「ちょっと!? だから何でさっきから物騒な提案ばかりするんですの! と言うか何ですの、さっきからその妙案は、人の心とかないんですか!?」


「え、無いわよ、だって今は魔物だし」

「そ、そうでしたわ!!」


 そう言うと美琴は、威圧するかの様にフェリシア博士を睨んだ。この場の空気が変わる、オークキングという、魔物としての『あきらかな敵意』を2人に向けた。


「ヒィ!?」

「みこと、やるの? 今ここで!」


「え、え!?、みことちゃん?」

「……おい、その冗談は、ちょっと笑えないぞ」


 フェリシア博士は、突然の脅威に晒されて、言葉にならない悲鳴をあげる。そして抱き抱えていたスライムクッションを前に出し、思わず防御の姿勢をとった。

 きららと陽葵は、戸惑いつつも美琴の意図を読み取ろうとした。 


 そしてグレンは冷淡な口調で言葉を返す。その瞳は知性ある人間に対するものではなく、普段から魔物に向ける慈悲なき視線だ。


「ふっ、冗談ではないわ、私達には、そんな悠長にフィリシア博士の提案に応じて、研究を手伝っている時間はないのよ!」

「!!」


 美琴の言わんとする、その真意はこの場に居る全員に伝わった。


 ここまでずっと理性を保ってきたが、博士の見解だと魔物の形に影響されて、魂までもその色に染まる。オークキングの美琴はその傾向が、顕著に表れている。

 以前の自分なら、間違っても「ブヒィ」なんて豚の様に鳴いたりはしなかった。


 ここまでの道中でも、魔物としての本能に従い、そして食欲に従い、ゴブリンや盗賊達と対峙した時など、血が騒ぐような場面が何度もあった。


 他の2人も内心そう感じていた。このままではフェリシアが言ったように、その魂さえも魔物の形に引っ張られ『真実の鏡』に映るのは、魔物になった自身の姿、である可能性も大いにあるだろう。


 とは言え、これではあまりにも強引な取引だ。脅迫と相違ない。


「っ、あの……」


 張り詰めた空気の中、涙目になりながらも、それでも必死にフェリシア博士は、落としどころを探り、そして懇願する。


「だったらこうしましょう、1週間だけ! いえ、この際、三日間だけ、三日だけでも良いのでこの私の研究所で、あなた方3人の生態を研究させてください! そうすれば、きっと『真実の鏡』もあなた方の求める答えをくれるでしょう、ええ、きっと!」


 フェリシア博士は、瞳をウルウルさせながら、必死の形相で美琴たちを見つめ、まるで、欲しかったおもちゃを前にした子どもが、どうにか手に入れたいと駄々をこねているかの様だ。彼女はもし美琴たちが元の姿に戻ってしまうことになれば、これほど貴重な研究対象を失ってしまうという焦燥感に駆られているのだろう。


 何処までも自身の欲に忠実だ。これもある意味で彼女の魅力なのかもしれない。

 

 博士は、身振り手振りで自身の研究への熱意を語り、その成果を美琴たちに応用したい旨を切々と訴えた。彼女が求めているのは、金銭ではない。そして脅しにも屈しなかった。


 まさにそれは知的好奇心を満たすための「新しい研究知見の発見」である。

 博士にとって、研究対象を継続して観察できる事こそが、最大の報酬なのだ。

 例え短い間でも、降って湧いたチャンスを逃したくない、ただそれだけだ。


 美琴は、博士のあまりの熱意に、思わず威圧していた空気が霧散する。

 脅しが通用しないことは、はっきりと分かった。そして、博士が『真実の鏡』を簡単には使わせてくれないであろうことも。下手な強硬手段を取ったら、鏡を割られかねない。


 しかし、三日間の研究……


 美琴は、きららと陽葵に視線をやった。きららは、博士の切実な訴えに、心を動かされたように目をパチクリさせている。陽葵は美琴の肩に止まり小さく頷いた。

 金貨の魅力にも目もくれず、隠す事なくただひたすらに『研究』に執着する博士の姿は、彼女なりの誠意であり『真実の追求』なのだろう。


 その真摯な態度が、ついには美琴たちの猜疑心を霧散させた。


 正直ここまで来たら強硬手段に出ても良いとは思うのだが、三日程度ならば問題ないだろうし、もしもの事があっても、逃げ出すことは可能だろう。

 それに、この研究所には『真実の鏡』が確かにある。この機会を逃す手はない。


「ハァ……分かりました、博士、三日間、あなたの研究にご協力しましょう」


 美琴はそう言って、諦めたように荒い鼻息を吐いた。


「!!」

「ただし、三日経ったらその報酬として『真実の鏡』を使わせてもらう、それまでは、出来る範囲であなたの指示に従いましょう、それでよろしいですか?」


 美琴の言葉に、フェリシア博士の顔は、満面の笑みに変わった。


「ええ、もちろんですわ、ありがとう、美琴さん! 流石は理性的で知的なオークキングですわ! あなた方との出会いは、きっとわたくしの研究に、新たな歴史を刻むことになるでしょう!」


 博士はずっと欲しかったおもちゃを手に入れたかのように、満面の笑みを浮かべ、美琴の手を両手で握りしめる。その喜びようは、尋常ではなかった。


 美琴は少しだけ居心地の悪さを感じながらも、これで『真実の鏡』へたどり着く道筋が見えたことに安堵する。


「ふふ、これで安心して研究に没頭できますわ! あら、ごめんなさい、わたくしとした事が、おもてなしの心を忘れていたようですわね、直ちに応接室の客間に案内いたしますわ、紅茶なども用意しましょう」


 フェリシア博士はそう言って、メイドのゴーレム達にテキパキと指示を出す。


「ふむ、それにしても、この屋敷、というか研究所は、思っていたよりも広いようだけど、その客間以外にも、色々な部屋があるのかしら?」


 美琴はさりげなくそう尋ねた。


「ええ、このエントランスホールの奥には、わたくしの研究室がありますわ、他にも資料室や、貴重品を保管する倉庫に応接室、そして二階が居住スペースになります、私の寝室や執務室などは二階になりますわ」


「なるほど……では真実の鏡は、その倉庫にでもあるのかしら?」


「……ええ、そうですわね、他にも研究施設を備えた地下室などもあるので、王都の研究ラボにも負けず劣らずの設備が揃っていますわ、治験や実験でも使いますので、後ほど案内しますわ」

「魔道具の開発以外に、魔物を使った臨床試験とかもしてるのね」


「ええ、ですが安全性は保証いたしますわ、互いにメリットのある内容ですから、応接室の客間に案内するので、その辺の詳細な契約内容など取り決めましょう」


 そこで陽葵が、美琴の肩から身を乗り出して、目を輝かせた。


「ねぇ、美琴、あっちの奥の部屋、たぶん博士の研究室だよ、見てみたい!」

「そうね、実際に研究室とか見せてくれないかしら、興味があるので」


「あらあら、まあまあ、それは素晴らしいですわ、それだけ協力的になってくれたって事ですね!? 勿論構いませんわ、どうぞ、こちらですわ」


 そのまま招かれた奥の部屋に入ると、中からは薬品の独特な匂いと、何やらカタカタと動くような音が聞こえてくる。


 そこには最新鋭の研究設備が整然と並んでいてフラスコや試験管かあり、壁面の本棚には無数の書物が並び、そして机の上には、研究レポートの資料が山の様に積まれていた。他にも見たこともない奇妙な装置が所狭しと置いてあり、部屋の奥には扉が見える。


「あらあら、私の研究部屋は散らかってましたわね、見られるのが少し恥ずかしいですわ、あなた達が訪れると分かってたら、事前に整理整頓しておりましたのに」

「え、そんなに汚くないから大丈夫だよー」


「うん、いかにも研究室って感じだね、なんか薬品の匂いが色々するけど」

「まあまあ、そう言ってもらえるなら嬉しいですわ」

 

「博士、そのドアの向こうはどうなってるのー?」

「あら、気になりますか? 研究所の奥には今まで作った魔道具の試作品や、大事なものやガラクタなども含めて他にも色々と、まあ物置のようなものですわ」


「へー、そうなんだ……」

「コホン、私の研究はこんな感じですわ、他の施設も気になるなら後でお見せ致しますね、取り敢えず一階の客室で先に今後の事など踏まえて話しをしましょうか、あなた方はわたくしの長年の夢を叶えてくれる、運命のお客様なんですから、丁重におもてなししないと」


 メイドのゴーレムに案内され、美琴たちは応接室へと通された。案内された客間には既に暖炉に火が入り、温かな空気が3人を包み込んだ。

 この数日、肌寒い外でと生活していた美琴たちにとって、この温かさは、至福の時間にも感じる。


「わぁ、あったかいね、なんか人間の暮らしを取り戻した感じがする」

「ええ、そうね、昨日までの仮拠点とは雲泥の差だわ」


 その中央には豪華なソファーに、マホガニー製の大きなアンティークテーブルがあるのだが、3人の視線はまず室内の端にあるガラスケースにくぎ付けになった。


 棚に置かれた瓶のガラスケースの中には、カラフルなスライムの標本が幾つか置かれており、フェリシア博士の飽くなき探求心が垣間見える。


「ふふっ、こちらでおくつろぎくださいませ、そうですわ、王都で購入した貴族御用達の美味しい紅茶がありますの、わたくし、すぐに用意しますね、ああ、それとグレン、貴方に少しお話ししたい事がありますから、付いてきてください」

「……ああ、分かった」


 フェリシア博士は、そう言い残してグレンと一緒に部屋から出て行った。ドアが閉まり、この場には3人とフェリシア博士のメイドゴーレムが一体残された。


 美琴たちは警戒しつつも、招かれた客室のソファーに座った。きららはふかふかなクッションに飛びつき、陽葵はそのまま美琴の肩に留まり、壁に飾られた奇妙なオブジェを観察している。


「悪趣味な応接室ね、自身の研究の成果を相手に示してるのかしら?」

「グレンも部屋から出て行ったけど、何かお話ししてる感じかな?」


「うーん、実際どうなんだろう、グレンって敵だと思う?」

「ふむ、少なくとも味方ではないと考えた方が良いかもね」


「この研究所に行こうと提案したのが、そもそもグレンだから、元から繋がっていた感じだし、親切心だけで提案してくれた訳ではないんだろうなぁ」

「おおかた最初に蹴散らせた冒険者達から、喋る魔物が居ると聞いて、フェリシア博士に紹介して、その手数料とか報酬を貰うつもりだったんでしょうね」


「まあここまでの道中、接した感じだと別に悪党って訳でもなさそうだけど」

「うん、でもフェリシア博士の方は怪しすぎて、そもそも信じる信じない以前の問題だけどね、最初から狂気のマッドサイエンティストって感じだったし」


「わかるー、如何にも魔物コレクターって感じだよね」

「うんうん」


「このメイドさんが監視役になってそうだし、この会話も盗聴はされてそう」

「別に構わないわ、どうせこちらの意図は既に相手にも筒抜けなんだし」


「ソンナコトナイデスヨー」

「うわっ、喋った!?」


 三者三様、やはりフェリシア博士とグレンに対して思う事はあったようで、色々と意見を言い合った。その結果、取り敢えずあの博士は信用できないから警戒しよう、と言う点では意見が一致していた。


「まあ、いざとなれば真実の鏡を、奪取する方向性で良いとは思うわ、真実の鏡を隠してある場所も大体目星は付いたし」

「うん、やっぱりあの研究室の奥の部屋が怪しそうだったね」


「みことちゃんも、ひまりちゃんも露骨に探りを入れてたね、まああっちも警戒してたから、既に狙いがバレてた感じだけど」

「あら、きららだって、その会話に合わせてくれてたじゃない」


「そうそう、最初は貴重品を保管する倉庫とか言ってたのに、ただの物置とか言ってたね、少し笑いそうになったわ」

「えへへ、上手く情報を引き出せたね」


「さっきグレンを連れて行ったのは、私たちがこの三日間、暴れた場合の対応策としてそのまま護衛としての依頼をしてそうね」

「うん、そうかも、それにしても、みことのさっきの牽制には驚いたわ」


「あ、わかるー、下手したらあのまま戦闘になってたかもだよね」

「ふっ、博士の真意とか探りを入れていたら流れであんな感じになったけど、そのお陰で3日間と言う期限付きの条件を引き出せたから良しとしましょう」


「まあ、確かに、悠長にしてる時間はなさそうだしね」

「うん、そうだねー」


 そんな会話をしてると、ドアの取っ手が開いてグレンが帰ってきた。


「おかえり、グレン、フェリシア博士は?」

「ああ、美味しい紅茶と甘い菓子を用意するから、俺は先に戻ってろと言われた」


「ふむ、甘いお菓子か、じゅるり」

「それで、何の話をしてたのー?」


 グレンは、3人の側面のソファーに深く腰掛けながら、慣れた様子で答えた。


「なぁに、お察しの通りさ、契約期間の三日間、もしあんたらが暴走した際の鎮圧と博士の護衛だな、まあそんな事にならない事を願うが」

「……ふーん」


 どうやら予想していた通り、こちらの会話内容は筒抜けな様だ。3人がメイドのゴーレムに視線を向けると、メイドさんは然りげ無く視線を逸らした。

 そして少しの沈黙が流れ、何となく気まずくなった美琴はグレンに尋ねた。


「ところで、あのスライムの標本は? スライムクッションは見たけどフェリシア博士はいつもあんな研究しているのかしら?」

「ああ、あれか、フェリシア博士は魔道具開発も手掛けているが、それ以上に魔物に対する関心が強い、既に分かっているとは思うが、見ての通りこの研究所には様々な魔物の標本や資料があり、彼女は魔物の生態、能力、進化の過程を解明すること、そしてそれをどう活用するかに人生を捧げている感じだな」 


「ふむ、良くも悪くも研究者、いえ、真理の探究者とでも言ったところかしら」 

「ああ、まあそう言う事だ」


「スライムって、そんなにこの森にも居るの?」

「いや、主に湿地帯だな、この森ではあまり見ないが、なんでもスライムの素材はキメラやゴーレムなどの繋ぎとしても使えるらしい、詳しい事は知らないが、俺も何度かダンジョンに生息するスライムの捕獲を依頼された事はある」


 グレンの口調には、博士に対する呆れと、ある種の理解が混じっていた。


 その言葉を聞いて3人は怪訝な表情になった。このスライムの標本の様な未来を辿る可能性も考慮するべきだ。グレンが標的を確保しフェリシア博士に譲渡する。シチュエーション的には今の状況がまさに、そんな感じだからだ。


 そんな空気を察したのか、グレンは言葉を続けた。


「……しかしあんな性格でも、フェリシア博士は決して悪い人間ではない、自分の欲求に対して素直で純粋すぎるだけだ、少々常人の理解を超える言動をする事はあるが、悪意を持って誰かを傷つけたり、騙したりするような事はしない」


 グレンはどこか博士を擁護するような口調でそう言った。その言葉は美琴たちの警戒心をわずかに緩ませる。フェリシア博士の飽くなき探求心というものが、良くも悪くも、彼女の特徴なのだと改めて理解した。


「皆さん、大変お待たせいたしましたわ」


 そうこうしてるうちに、メイドのゴーレム達がトレイを運んで、フェリシア博士が客間に戻ってきた。銀のトレイに乗せられた紅茶と美味しそうなお菓子は、見た目にも美しく、芳醇で甘い香りを漂わせている。


「わー、いい匂い、美味しそう!」

「ふふっ、王都で評判の紅茶と、わたくしのお気に入りの甘いクッキーですわ」


 博士はにこやかな表情で、紅茶とクッキーを、其々の目の前に差し出した。

 しかもフェンリルのきららには、犬用の陶器のフードボールを、ピクシーの陽葵には、そのサイズに合わせたミニチュアのティーカップを用意してくれた。


「わ、このカップ、私のサイズに合わせてある!」

「ええ、ちょうど良いミニチュア模型があったので、持ってきましたわ」


 細部にわたる配慮から、彼女のホスピタリティ精神がヒシヒシと伝わってくる。


「さあ、遠慮せずに、まずはティータイムにしましょうか、紅茶も温かいうちに、甘いクッキーも沢山ありますから、どうぞ召し上がってくださいな!」


「……」


 しかしそれでも3人は直ぐに手を伸ばさず、博士の提供した紅茶と甘いクッキーを前に、警戒するように身構えた。


 フェリシア博士のその笑顔は、深く慈愛に満ちたものに見えた。しかしその瞳の奥には、獲物を捕らえた捕食者のような、欲望の光が宿っている様にも感じた。


 美琴の直感がそのわずかな光を捉えた。まさかこの流れでいきなり騙し討ちみたいな真似はしないとは思うが、彼女の言葉を鵜呑みにせず、オークのその鋭い嗅覚でクッキーの匂いを確かめる。しかし薬品のような異臭は感じられない。


「……クンクン」


 きららもクッキーの甘い香りに誘われ、しっぽをわずかに揺らしていたが、美琴の警戒心を感じ取り、ぐっと我慢している。そして陽葵もテーブルに降り、目の前に置かれた自分サイズに合わせたティーカップを、興味深げに眺めていた。


 その様子を見たグレンは、フッと笑みを浮かべると、何の躊躇もなくクッキーを一口かじり、紅茶を一口飲んだ。


「ハハッ、心配いらないさ、博士は確かに変わっているが、ここで我々に毒を盛るような趣味はない、ほら、美味いぞ?」


 グレンは美味しそうにクッキーを摘み、紅茶を飲み干す。そして安心させる様に3人にも促す。その一連の動作には微塵の疑念もなかった。普段から冒険者として、あらゆる危険に身を晒している彼ならば、もし毒が混入されていたら直ぐにその違和感を感じるだろうし、そもそも食べないだろう。


 つまりこの紅茶とクッキーは安全という事になるのだろうか。


「あら、もしかして私は疑われていたのかしら、ちょっと心外ですわね、こんなに美味しい紅茶なのに……コクッ」


 そう言ってフェリシア博士も自身のティーカップに口を付け、紅茶を一口飲み、そのままクッキーにも手を付ける。


「ふぅ、紅茶もクッキーもとっても美味しいですわ」

「……ゴクリッ」


 その自然な所作は、この場での3人の疑念を晴らすには十分なものだった。

 そんな二人の行動を見て、緊張感が緩和した3人は互いの顔を見て頷く。


「そうね、ちょっと神経質になってたようだわ、戴きましょう」

「わーい! 甘いクッキーだー!」


 きららは、待ってましたとばかりにクッキーに飛びつく。彼女の小さな口は、あっという間にクッキーでいっぱいになった。その様子を見た陽葵も、自分のサイズに合わせたティーカップの紅茶を飲み、その温かさに口元を緩ませる。


 そして美琴もこれまでの旅路の疲れからか、緊張の糸が緩むのを感じながら、温かい紅茶を口にする。そしてクッキーの甘さに思わず顔をほころばせる。


「ふふ、おかわりもたくさんありますからね」


 温かい紅茶と甘いクッキー、そして完璧に演出された安心感。そうしたものが3人の警戒心を解し少しずつ麻痺させて、暖かな暖炉の揺らめく炎が、微睡の世界へと誘い溶かしてしまう。数分も経たないうちに3人のまぶたが重くなり始めた。


「あれ……なんだか、眠く……」

「もう食べられにゃい……スヤァ」


「あらあら、きっと疲れが溜まっていたのね、ゆっくり休んでいいですのよ」

「フェリシア博士、あなたやっぱり、私たちを騙し……」


 美琴の言葉は、最後まで続かなかった。意識は混濁し、体が重く沈んでいく。

 きららと陽葵もクッキーを頬張ったまま、そのまま床に倒れ込んだ。


 美琴は、最後の力を振り絞り、グレンの方に視線を向けた。先程のグレンの行動は私たちの油断を誘う芝居だったのか? それとも……


 グレンは、テーブルに突っ伏したまま、ピクリとも動かない。まるで、自身も博士に騙されていたかのように……その姿は美琴の最後の疑念すらもかき消した。


「まさか、グレンも……フェリシアに……?」


 そこで、美琴の意識は完全に途絶えた。


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