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第1話出会い

西暦5329年1月1日年が明けた。

ナツメ村では、村を挙げての催しが行われ見慣れない者も参列していた。多くの人種と文化が入り乱れている非日常な光景を俯瞰的に見ていた。


(あかつき)〜!そんなとこにおらんで、こっちに来て参加しろ〜。」


見下ろすとそこには、爺さんが優しい顔で手招きして呼んでいた。


「同じ歳の子もおるから、一緒に遊ばんか〜?」

「いい。ここで見てるだけで楽しい。」

「むぅ。1人でおるより皆といる方がきっと楽しいぞ。」

「……。」

「まったく。言うこと聞かんな〜。」


困ったな。と小さく呟きながら頭を掻いていると、中年の男性と女性が仲良く並んで歩いてきて話しかける。


「村長。無駄ですよ。7歳児にして大人顔負けの技・心の持ち主なんですから。」

「しかしだなぁ。…せめて屋根から降りてはくれんか?見ていてヒヤヒヤもんじゃわい。」


心配そうな村長と目線が合うと、隣りにいる2人は慣れた様な目つきで早く降りて来いと言わんばかりに目配せしてきた。全体を見るには最適な場所だったのだが、困らせてしまうのは不本意な所なので屋根から飛び降りる。


「うおっ。危なかろう!」

「…。1人で降りられた。」

「ははは。そうか。そうか。ちゃんと子供らしい所もあって安心したわい。」


誰もいない所に飛び降りたつもりが、突如目の前に村長が現れ太い両腕でがっちりと捕まってジト目を向けると、嬉しそうに笑い抱き寄せられる。


「痛い。」

「うりうり。可愛いのぉ〜。」


抱き寄せられる力と、頬を擦る髭が当たり痛い。そんなこんな騒いでいると、歳の近い子が「抱っこ抱っこ」と、村長目掛けて集まりだし皆を抱き抱える。その数2人・3人と抱えいつの間にやらぎゅうぎゅう詰めで苦しい。


「どんな力してんだよ。」

「ははは。」


村長は満足したのか抱き抱えていた子供達を慎重に下ろして、全員を下ろし終えると僕の頭を雑に撫でてこの場を離れて人の輪に入っていった。

撫でられた頭を触り乱れた髪を軽く直す。

僕の時だけ、力が強いんだよ村長はさ。

離れていく背中を見つめていると聞き慣れた声が耳に届く。


「みなし子が、おっと聞こえちまったか?悪気はなかったんだ。ごめんね〜。」

「別に。事実だから。」


この村でのガキ大将は、ニタニタと笑いながら謝罪してきた。僕の反応が面白くなかったのか舌打ちして目の前に立ちはだかる。歳上という事もあってか僕は見上げる形となり、5対1で対峙する。


「みなし子が調子に乗るなよ。」

「普通だけど?村長が無駄に絡んでくるだけだ。」

「お前のそういう態度が気に入らねぇんだよ。」


ガキ大将の隣りにいた奴が、いきなりキレて手を出す動きをしたので、腰を少し落とし構えようとすると止めが入る。


「はい。そこまでだよ。せっかくの年1の祝い事なんだよ。それに、この時の為に、一生懸命準備したんでしょ。それを台無しにしたくはないでしょ?」

「兄さん。…。わかったよ。暁。次はないからな。」


ガキ大将は皆を引き連れ出店へと向かって行った。


「ごめんね。暁。ワルツには、帰ったらきつく言っとくよ。」

「気にしてないから大丈夫。」

「暁。悩みがあるならいつでも相談に乗るよ。」

「いつも助けてもらってます。」


家の横に置いてある樽の上に座り、行き交う人を再び観察し始める。


「テネシー。」

「リョウに優子(ゆうこ)。見ていたなら止めてくれよ。」

「ふふ。あの子なら1人で解決してましたよ。」

「怪我人を出したら、それは解決した事にはならないでしょうよ。」

「一度痛い思いした方がいいんじゃないか。あいつらは?」

「まぁ、それもそうだが…」


ぐいっと、2人の腕を掴み引き寄せて囁く。


「2人はきちんと教育しているんだろうな?段々と人相が悪くなってないか?」

「あの子はあれでいいのよ。ありのまま生きてもらえればそれでいいの。」

「放任主義にも程があるだろ。あのままじゃ居場所がなくなるぞ。このままあの行動が続けば庇いきれなくなる。」

「あいつは、それを狙っているんだろ。」

「は?」

「多分だけどな。ははは。」

「笑ってる場合じゃないだろ。」

「リョウの考えは間違いだとは思うけど、大人が干渉し過ぎるのは良くないわよ。成長の妨げになるわ。テネシーは過保護だから、弟君が我儘なままなんじゃない?」

「それは違うと」


「暁〜!帰るぞ〜」


リョウが元気よく呼ぶ声に反応して見ると、大きく手を振って目立っていた。


あまり自分の名前を大声で呼ばれたくないんだよなぁ。恥ずかしい。


「はい。」


リョウの近くに寄ると、両肩に手を置かれ目を合わせながら問われた。


「暁。何故、1人になろうとする。みなし子という理由でハブられるからか?」

「おい!リョウ何言ってるんだ!」


普段温厚な人が、珍しく怒気を混じらせた声で胸ぐらに掴みかかる。


「幼い子供に対して」

「テネシーさん。大丈夫です。」

「何が大丈夫なんだ⁈」


テネシーの言葉を遮り、大人2人の会話に割って入ると凄い形相の顔が向けられる。


おぉ、初めて見るかも。この人がここまで怒っているの。赤の他人の為にここまで怒れるの凄いな〜。


その真摯な姿勢に胸を打たれ、誰にも話したことない思いを伝えた。


「僕の夢に必要な事だから。」


僕の一言で、3人はより注目し真剣な眼差しを向けた。


「僕の夢は、聖王国の近衛隊の教官になること。」

「…本気か?」

「冗談でこんな事言わない。」


3人共驚きの目を向け、肩に置かれた手に力が加わり同じ目線になると、真っ直ぐ見つめられながら確認をとられる。その問いに対し胸を張って答える。


「爺ちゃん…村長から色々聞いた。話しだけじゃなく書籍も、この村にあるだけの情報を集めてたどり着いた夢。僕は、転生者の導き手になるよ。」

「「「⁉︎」」」


騒がしい祭りの音、行き交う人々の声がなくなり、音の無い世界になった気がした。それほどまでに、目の前の3人は時を止めた様に固まっていたが、一気に弾けた。


「クッ、ハッハハハハハー。」

「ふふ。そうでなくてわね。」

「………。」

「見たか!聞いたか!テネシー!この子の夢を!!」

「…あ、あぁ。」


興奮気味のリョウは、大笑いしたのち満面の笑みで、テネシーに向かって叫ぶと周囲にいた関係のない人々は驚き白い目を向け避けて通る。


「大きな夢ね。ここ2年の行動はそうゆう事だったのね。合点がいったわ。」

「優子。」

「ねぇ。リョウ、この子に私達の想いも託してない?」

「それは、流石にだめだろ。」

「ふふ。ここで常識人ぶるつもり?」

「……。」

「明日、祠に行きましょ。」

「「「!!」」」


『祠』神を埋葬した場所を指す。本来祠に立ち入る事ができるのは、成人の儀を済ませた者が恩恵を頂く時しか許されていない。理由は様々だが、大きな理由としては、それ以外の目的で足を踏み入れた者達が突然死するという不可解な事件が各地で報告に上がった為、暗黙の了解として不用意に近づく事すら許されていない。(一部を除くが)


「正気か⁈」

「いくらなんでも危険過ぎる!」

「あら、臆したのかしら?まぁ、無理に…とは言わないけど?」


リョウが珍しく狼狽え。テネシーは当然の反応をする中、普段と変わらない態度で話しを続け試す様な目つきで見下ろしてくる。


「今のやり方では、()()()()()()。」

「それは…そうだが。」

「?」


小首を傾げ何の事だろうと疑問符を頭の上に浮かべていると、ため息と共に冷静な言葉が降り注ぐ。


「調べが甘いわね。前回の転生の儀から70年近く経っているわ。あと約10年もすれば、再び転生の儀が行われるわ。逃せば、夢は一生叶わない。」

「……やる。明日祠に行くよ。」


2人は目を瞑り頭を悩ませていたが、優子だけは口角をほんの少し上げると胸元から綺麗な宝石が嵌め込まれた首飾りを渡された。


「明日、これを着けていきなさい。きっと守ってくれるから。」

「ありがとう。」


受け取った首飾りをポケットに入れると、リョウと優子に手を引かれ帰路に着いた。


ー翌朝ー


ベッドの上で目を覚まして、見慣れた天井を見上げつつ手を胸に当てる。いつもより心臓の鼓動が早い。昨日はぐっすり眠れたのに、緊張で体が震えている。


新たな自分になるのが嬉しいのか。…違うな。きっと、怖いんだ。今日が命日になると思うと。


ゆっくりと体を起こして、足を床に下ろし立ち上がる。足が地についていない様なふわふわした感覚を感じながら、昨晩リョウから渡された服に着替える。普段着ている服とは物が違った。上下共に、魔物の皮を用いた軽く丈夫な長袖長ズボンと鉄板が入った靴を着用して自室を出る。


「おはよう。」


食卓には、朝食にしては豪華な料理が並べられていた。すでに家族は着席していて僕が1番最後だった。


「待たせてごめん。」


謝ってから空いている椅子に座る。真正面には、家主である爺ちゃんが座り、右側の席には優子と産まれたばかりの勇輝が座り、左側の席にはリョウが座っていた。普段はリョウの隣りに座り最後に家主である爺ちゃんが現れて朝食を食べるのだが、今日は'特別'だった。だから、いつも爺ちゃんが言う言葉を真似る。


「命に感謝を」

「「「命に感謝を」」」

「「「「いただきます。」」」」


一言も会話を交わさず黙々と食べ進め食べ終える。食事を終えると、爺ちゃんが古びたローブと使い古された小太刀を持ち玄関に立つ。


「……。」


ポケットに入っていた首飾りを首にかける。

空いた皿をそのままにし立ち上がる。

玄関まで歩き爺ちゃんの前に立つと、持っていたローブを着せてくれる。小太刀を受け取り腰の後ろに装備すると玄関の扉が開く。


「アゥ。アゥ。アァ。」

「……。」


優子に抱っこされていた勇輝が、何かを感じ取ったのか、小さな手を必死に伸ばしてきた。自然と体が勝手に動き両手で、伸ばされた手を握り締める。


あぁ、温かい。ありがとう。…勇輝、君は真似しちゃだめだからね。


「行ってきます。」


勇輝から手を離し背を向けて歩き始めると、カチカチと音が鳴る。振り向くとリョウの手には火打石があった。


村から外れた森へと足を踏み入れ歩き続けること1時間以上。手付かずの道を掻き分け、川を渡り、今も足場が崩れそうな細い道を歩っていくと目当ての洞窟が見えてくる。


「あの中か。」


ここまでの道中にも感じていたが、祠に近づくにつれて生物の気配がない。


しかも…


今踏み締めている地面には、無数の骨が散らばっていた。独特の雰囲気が漂っている。洞窟の入り口近くにあった岩場に腰掛け、水分補給をしつつ洞窟内を観察する。


このくらいの暗さなら、松明はいらないかな。


充分な休憩を済ませて、いよいよ洞窟内へと足を踏み入れる。当たり前の様に、人骨がそこらに転がっていた。


神が埋葬されている場所と言うけど、これじゃ神に命を捧げる場所みたいだな。


所々横穴が空いていたが、それらは無視して先へと降りて行く。外から入ってくる風が跳ね返ってくる為、道が繋がっていないのは肌で感じる。風が届かない場所は、大きめな石を投げて音の反響で判断した。


「凄い。」


広い空間に出ると、神秘的光景が目の前に広がっていた。透き通った水が緩やかに流れている。リムストーンプールになっていて最奥には、立派な御殿が建っていた。心を奪われるとは、この事なのだろう。暫く放心状態だったが、頬を叩き意識を復活させ御殿へと近づく。


御殿の前に立ち、見上げると首が痛くなるほどの高い門に手をかける。


「よく来ましたね。」

「!?」


左へと勢いよく飛び跳ねる。声のした方へ向くと、長い白髪に真っ白い服を纏い。白い木の杖を持った20代くらいの男性が立っていた。全てが白い。肌も毛も何もかもが白い。


見ているだけで、全身の毛が逆立ち鳥肌が止まらない。


何なんだこいつ⁉︎


産まれて初めて感じる。異質な存在。


「そう警戒する事はないでしょう。私は敵ではないのだから。」

「信じるとでも?」

「警戒心の強い子ですね。」


口調はおっとりとしていて、纏っている雰囲気も柔らかいが…全身に危険信号が流れる。


「…。君。混血だね。」

「?」

「稀に誕生するんだよ。多くの他種族の血が混じった結果、極端に発達した生物が誕生する事がね。それを踏まえても君は異常だね。」

「異常なのはどっちだよ。」


男は杖を構える素振りを見せたので、腰についた小太刀に手を置く。


開示(ディスクロージャー)


半径1M程の範囲で、足元から眩しく発光する。左腕で目元を隠すが、僕の両目はまともに強力な光を直視してしまった為、暫く使い物になりそうにない。


「ほう。名は夏目暁。転生者の様な名前だが現地人だね。面白い生い立ちだ。しかもこの血統は、おっと!」


呑気に喋っている男に向かって、素早い動きで接近し喉元へ斬りつける。


「危ない危ない。見えないのによくやるよ。」

「チッ。」

「!?本当に君は、7歳児かい?」


初撃も追撃も全て弾かれる。戦い方を変えるか。手にしていた小太刀を至近距離で投げつける。想定していた通り、金属を叩く音が鳴ると同時にしゃがみ足払いをして飛び掛かる。


「あらら。まさか、立ち場をひっくり返されるとはねぇ。」

「はぁはぁ。…あんたは何者なんだ?」


仰向けになった男性の胸に座り息が荒い状態で問う。


「それは、こっちが聞きたいね。まさか子供に負けるとは、ショックで泣きそうだよ。」

「質問に答えろ。」

「ここに居る事が、答えだよ。」

「…。わからない。」

「今、脳裏によぎった人物だよ。」

「ありえない!」

「ありえるのだよ。それが神という存在なんだよ。地上にある法則の全てを無視する存在なんだ。私達はね。」


目の前に起きている事が信じられない。いや、正確には見えていないのだが、下敷きにしている者が神?嘘だと言いたいが、出会った時の風貌といい纏っていた雰囲気を思うと納得してしまう自分もいた。


「じゃあなんで、むやみに生物を殺す?」

「簡単だ。私がこの世に留まる為だよ。私の肉体は朽ち果て骨も残っていない。留まる為には、彼らの魂が必要になるからだ。」

「…。邪神か?」

「それは断じて違う。私は見届けなくてはならない責任がある。この世界が平和になる時まで!」


嘘はついていない。嘘をつく人間の言葉には淀みがある。この人物からはそれを感じないが、その枠に入れていい存在だろうか。


「仕方ない。殺すか。」

「ま、待て!それは」

「これが確実だ。あんたの口ぶりだと、これからも殺し続けるのだろ?だったらここで終わらせる。」

「神殺しになるぞ!」

「それが何か?」

「ツッ!?……わかった。これからは、最低限の命しか奪わない!」

「信じられない。残す言葉は、それでいいな。」

「……。では、暁!君が私の監視役になるのはどうだろうか?」

「は?」

「それなら問題なかろう。君ならいつでも私を殺せる。自慢ではないが、私は造化の神だ。戦闘はからっきしなのだ。だから、その手を下ろせ。いや、下ろしてください。」

「僕の命が尽きるまでここにいろと?」

「私の恩恵を其方に与える。それを使用すればいつどこにいても私を監視する事ができる。」

「……。」


殺さなくていいのなら、それでもいいのか?


「よし、決まりだな。」

「まだ、考えて」


思考中に自称神が、俺の胸に手を当て何かが流れ込んでくる。


「!?お前、覚えてろ。」


平衡感覚がおかしくなり力無く横に倒れ落ちる。走馬灯が脳裏を駆け抜ける。


何がいつでも殺せるだ。やっぱ、迷わず殺すべきだった。


自分の判断に後悔しながら、意識が遠くなり気を失う。水面に水滴が落ちるかのように、体の中心からゆっくりと脈をうち、余波が全身へ広がっていく。全身に巡っていく余波の間隔が短くなり、脈が早くなっていく。まるで、新しい命を宿し体を造り替えられ産まれ変わる感覚だ。



「ここは。」


気がつけば、いつの間にか寝ていたのか真っ暗な世界にいた。死んだのかと思ったが、今も止まらず心臓が動き鼓動が聞こえる。


「いてっ!」


縮こまっていた体を伸ばすと頭をぶつける。


「?」


手を前に出すと壁に当たる。何か小さな物に閉じ込められている。中指で軽くノックする。壊せない程の硬さではいな。2回、3回と壁を叩くとヒビが入り、外の明かりが差しこむとそこからは、ボロボロと勝手に壊れはじめる。

久しぶりに風が肌に当たる。周りには殻が散らばり、頭の上に乗っている物を手で振り払う。


「………。問題なし。」


五体満足。ちゃんと目も見える。


「起きましたか。」

「顔色悪いな。」

「久しぶりだったので、張り切ってしまいましてね。私の最高傑作を超える可能性大ですよ!いや〜、造化を司る神として誇らしいですよ。うん!」


目にクマをつくり、げっそりとした顔とは真逆で、テンションが高く1人置いてけぼりにされる。


「!?」

「痛い!何をする⁉︎」

「服はどこにやった?」

「あ、あぁ。あれか?どこにやったかな?痛い痛いぃぃぃ!!」

「……。」

「じょ、冗談だ。ほれ、ここ!ここ!」


胸ぐらを掴み揺さぶり脅すと、指を差した方に綺麗に畳まれ置かれていた。それを見て、男を突き飛ばし畳まれた服を一つ一つ見る。


良かった。全て綺麗だ。


これらは、僕に預けてくれた物だ。きちんとあるべき場所に返さなくてはいけない。


「…。やはり、不思議な奴だな。」

「何がだ?」

「人間らしい感性を持ち合わせながら、獣に近い感性も持っている。非常に興味深い。君の将来が楽しみだよ。」

「そうか。で?」

「?」

「今までと変わらないが、これでどう監視しろと?」

「瞼を開ければわかるぞ。」


今、こいつ何を言った?瞼を開ける?


恐る恐る手を目元に持っていき触る。


いやいやいやいや。おかしい。


男が言った通り僕は瞼を閉じていた。じゃあ、なんで今普通に見えてる?


「鏡だ。」

「なんなんだこれ?人間じゃないだろ。こんなの?」

「はは。その状態になる前も、人間辞めていただろ。だが、神から恩恵を貰うとはこういう事だよ。人という枠を軽くはみ出す存在になる。」


唾を飲み込む。鏡に映し出された見た目は前と然程変わらないが、不思議なメイクが施されているだけだ。瞼から黒い涙が垂れた様な跡が5cmくらいの長さで残っていて落ちない。それはともかくだ。瞼を開いた瞳は、異形の者だった。球結膜は黒く虹彩は金色。瞳孔には先程あげた特徴ある瞳が3つ三角形に並べられていた。そして、瞼を開けて景色が変わった。良くも悪くも自在なのだ。物を透き通って見通したり、色彩をかえて白黒の世界にして暗がりでも普通に見えたり、後方も把握できたり…など。極めつけは。


「その視線。見えるようだね。これが魂だよ。」

「嘘だろ。」

「本当だよ。おっと、これは斬らないでね。どんな存在でも魂を失くせば生命を停止させる。」

「……。」

「おめでとう。これで、君の恩恵も判明した。全てを見通す瞳。スキル『八咫烏(やたがらす)』君にピッタリだ。」

「これが、恩恵持ち。」

「う〜ん。別格だと思うけどね。」


恩恵持ちは皆こんな感じなのかと驚いてると、苦笑いしながら人差し指で頬を掻きながらツッコミが入った。他にも、恩恵をいただいたおかげで魔法を一つ覚えた。それ以外は、変わった所はない。


「あれから何日経った。」

「4日ぐらいかな?」

「だからか。」


爺ちゃん、リョウがお通夜の様に重苦しい顔をしているのを見て自分が出発してから、相当時が経っていたのかを物語っていた。優子だけは、何一つ変わらない。


「優子も私の恩恵を受けた人物だ。どうなるかどうかある程度わかるのだろう。あやつも()()力だからな。」

「そうか。ずっと気になっていたんだがいいか?」

「構わんぞ。」

「あんたの名前と心を読んでるのはどうやってる?」

「……ははは。名前。名前か〜。久しぶりに名乗るな。私の名は、高御産巣日神(たかみむすびのかみ)。心を読めるのは神だからだな。」

「高御産巣日神。覚えた。ずっと見てるからな。」

「怖いね。」

「無駄に殺さなければ、何も干渉しない。貴方には感謝してる。ありがとう。」

「感謝など不要だ。自分で掴み取った結果だ。」


最後の最後で、初対面の時の様な圧を感じた。


神…ねぇ。実在してたんだ。


「僕は行くよ。」


気がつけばこの場から姿を消していた。現れた時もそうだが、神出鬼没すぎる。


帰ろ。


早く帰って皆を安心させなくては、そしてまた皆と楽しく食事をとろう。

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