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終わりと始まり2

春満開。

風が吹くたびに桜の花びらが、雪のように宙に舞った。私は軽い足取りで、大学構内を歩き回っていた。等間隔に並んだテントの中から、サークルの勧誘の声があちらこちらで響いている。私と同じく入学したばかりの新入生は、どこのサークルに入ろうか、配られたチラシを見ながら悩んでいるようだ。

「そこの子!」

突然目の前に現れた男に、私は驚いて小さな悲鳴を上げる。

「サークル興味ない?映画をひたすら見るっていう映画研究会なんだけど…」

「映画なんて今時流行らないだろ」

今度は別の男が割って入って来た。

「ぜひ、うちのテニスサークルへ」

「この子のどこか運動部なんだよ。テニスのユニフォームを見たいだけだろ!」

「お前こそ、一緒に映画見たいだけだろ!」

なぜか二人で喧嘩し始める。

私はそれを無視し、別のところへ行こうとすると、今度は別の二人組に掴まった。

「日本文学を研究する会なんだけど、興味ない?」

「いや、これからはスケボーの時代でしょ」

「転んだらどうするの」

「ちゃんと教えるに決まってるだろ!」

ここでもなぜかケンカが始まっている。

「怖い人たちが多いよね。落ち着いた部員が多い囲碁なんて…」

途中から入ってきたメガネをかけた生徒は、そこまで言いかけると「何でもないです…」とその場から去った。

(なに…?)

何が起きているか分からないまま立っていると、先ほどのケンカしていた映画研究とテニス部の二人組がこちらに戻ってきた。

「さっきはごめんね。君が可愛…」

そしてまたもや、私の顔を見ると口を閉ざし、そそくさとその場を離れていく。

(一体なんなの…?)

自分の顔に何か変なものでも付いているだろうか。

(それともお昼に食べたカレーのせいか?)

着ている服を嗅いでみるが、そこまで強烈な匂いはしない。

(なんで?)

しかしその答えは、次の二人組がやって来た時に判明した。

「日本文学を…」

「いや、スケボー…」

そう言いかけた彼らの視線は明らかに、私というより私の後ろに行っている気がする。ふと悪寒が走り、私はゆっくりと後ろを振り返った。

「よお。相変わらずモテてるな」

「これは一人にしたらダメだね~」

「先が思いやられる」

「フランス、行かなくて良かった」

榊、蓮見、天城、五十嵐が私の後ろに並んで立っていた。誰よりも身長の高いこの人たちが威嚇していたかと思うと、逃げるという先輩たちの行動にも納得がいった。

「な、何してるの…?」

驚いた顔を元に戻すことが出来ないまま、私は聞いた。

皆を代表して榊が言った。

「俺たち、これからこの大学に通うから」

「はいいい?」

私は口をあんぐりと開けたまま、皆の顔を見た。

「顔」

天城が注意し、五十嵐が追い打ちをかける。

「うん、強烈な変顔だね」

「ちょ、ちょっと待って。意味が分からない…」

慌てて表情を元に戻し、頭に手を当てた。

「だって、入学式でも見てないのに…」

「学部が違うから会わなかったんだと思うよ」

驚いている様子がおかしいのか、未だに口角が上がっている蓮見が言った。

「だって、榊と五十嵐に関しては卒業したら海外って…」

混乱状態の頭を整理したいが、思考が付いていかない。

「俺、そんなこと一言も言ってねぇけど」榊が言った。

「僕は、先生が日本で勉強してもいいって言ってたから急きょ変更した」

五十嵐が言った。

「ここの音楽部、校舎離れてるけど、会いに来てね」

私はおそるおそる聞いた。聞きたいような聞きたくないような複雑な思いが交差する。

「み、皆さんは何学部で…?」

蓮見が真っ先に口を開いた。

「俺は服飾学部。天城は薬学部で、そして…」

蓮見が言い終わらない内に、榊が思いっきり私の首に腕を回した。

「俺は同じ経済学部だ!またよろしくな!」

「な、なんで…」

(誰も白石透を知らない一からスタート計画が台無し…)

私が項垂うなだれていると、五十嵐が私の頭をぽんと叩いた。

「大好きな友人と離れるなんて寂しいでしょ?」

「あのスピーチは心に響いたな~」と蓮見は頷いている。

「あれ聞いちゃ、もう一人に出来ねぇよな!」

私の頭をぐしゃぐしゃにしながら乱暴に撫でている榊に天城が言った。

「榊、一旦離れろ」

何がどうしてこうなったか全く理解不能だが、前途多難だという事だけは分かった。

その時、構内で新入生のオリエンテーションが始まるというアナウンスが流れた。大学キャンパスの中心部にある講堂に集合とのことだ。

「また学部で別れるのか~」

蓮見が頭の後ろで手を組みながら、歩き始めた。

「皆に会いづらいんだよな~」

「大学の規模がでかすぎるから、仕方ねぇよ」

榊は蓮見の後に続きながら言った。

「音楽部はどこよりも遠いんですけど」

「拗ねるな」

不満げに呟いている五十嵐の背中を叩き、天城が言った。

幼少期からずっと一緒に過ごしているというのに、そんなお互いと離れたくないのか。彼らの変わらない友情を語る背中を見て、私は思わず笑みが零れた。

雲一つない晴天の空を見上げる。

(ここからまた、新しい物語ストーリーが始まるんだ)

頭の中でそんな言葉を噛みしめる。

瞼を閉じて、学生たちの明るい声に耳を済ませた。春の暖かい陽気が、私を優しく包む。

(きっとこれからも、私は大丈夫だ)

「おーい、透!」

私の名前を呼ぶ声がした。

四人が後ろを向いて私のことを待ってくれている。

私は足取り軽く、彼らに向かって走り出した。

(だって私はもう、一人じゃないから)



終わり。


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