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体育祭

気がつくと夏休みが終わっていた。

バーベキューをした以外には大きな予定は入れず、ほとんど毎日勉強していた。しかし、気分転換にまどかを連れて外へ遊びに行ったこともあった。私が昏睡状態の時に、妹とどんな話をしたかは定かではないが、私たちが一緒にいても母親は何も言わなくなった。時々、海外から戻って来ては、私の様子を観察していたが、大学を受験すると言っても反対も肯定もせずただ「好きにしなさい」とだけ言った。

父親に関しては、自分の娘が事故にあったことがよほどショックだったのか、家にいる時間が増えた。知星大学を受けると言った時には、かなり驚いた様子だったが、必要なものはないかしつこく聞いて来た。今まで一人の力でやって来たものの、限界があると思い、遅いながらも、塾に通わせてもらえることになった。まどかは、その決定について反対のようだったが、塾には他に天城や蓮見もいると伝えると渋々OKを出した。レベルの高い大学受験を目指している塾だけあって、朝から晩まで缶詰状態で講義を行う日もあり、毎日出される宿題をこなすだけでほぼ休みが終わった。


夏休みが明けた、数週間後。

学校はやっと受験ムードになった。早い生徒で9月の後半から面接の試験が始まる。ほぼ合格は確定したと言っても過言ではないが、やはり緊張している生徒が多い。

クラス内にも夏休み気分を引きずっている生徒は少なく、先輩から貰ったであろう過去の質問集を、互いに頭を寄せ合って読んでいるグループが目立った。郡山やその取り巻きも、その質問集を元に面接の練習をしている。

取り巻きの一人が言った。

「では、志望理由を教えて下さい」

郡山は椅子に座り直し、固い表情で答えた。

「母が真徳大学出身です。話を聞いたところ、ここでは学べることが沢山あると思い志望しました。また抱負なカリキュラムも魅力的で、この大学に入学したら一生懸命勉強したいと思います」

「うん、完璧ね!絶対合格よ」

「ほんと!?」

「ええ!」

(どこがや…)

嬉しそうに取り巻きとはしゃぐ郡山をちらりと見て、私は思わず突っ込んでいた。

(薄っぺらい回答で受かるのだから、お金の力は怖い)

私は頭を振り、目の前の参考書に視線を戻した。しかし、すぐに左隣を見る。そこには、自習時間だからと、教科書を枕にして眠っている榊がいた。

(学校内試験がないとは言え…)

真徳高校は、いつも夏休み明けに校内試験がある。しかし、休みが明けてから真徳大学の面接試験を控えている生徒が多いため、なぜか校内試験が免除された。

(しかし)

私はしっかりと瞼を閉じている榊の顔を見た。

郡山でさえ迫る面接に緊張して練習しているというのに、なぜこんなにも余裕があるのか。

(やっぱりアメリカに帰るのか・・・?)

その時、私の視線を感じたのか榊が目を開いた。

「俺の寝顔に見惚れてたの?」

にやりと笑いながら榊が体を起こし、椅子の上でうんと伸びをした。

「惚れても無駄だぞ。俺は心に決めた奴がいるからな」

「受験前なのにずいぶん余裕だなと思って」

榊の言葉を無視して、私は言った。聞いていいものか迷う。未央ともう話は済んだのかどうかと。

「ああ。俺は推薦だから」

欠伸をしながら榊が言った。

「推薦?」

「おう。親父の知り合いの学長がいる大学に入る。親父の推薦で」

「つまり、コネ…」

私が小さく呟くと、榊はにやりと笑った。

「おうよ」

何の気負いもなく答える榊に私は複雑な気分だった。

(榊のお父さんって確かアメリカ在中。やはり、向こうに戻ることにしたんだ)

「そう」

私はそれだけ言うと、参考書に向いた。

「透は必死だな。そんなに試験が難しいのか?」

榊は机にうつ伏せになり、顔だけ私の方に向けた。

「ええ。全教科7割以上は確実に取らないとダメみたい」

小さなため息が出た。ここまで勉強したのは人生初だった。知識が増えることは嬉しいが、詰め込みすぎてパンクしそうな脳みそは毎日悲鳴を上げている。

「受かりそうか?」

全く書き込みのない自分の教科書をパラパラとめくり、興味なさそうに榊が聞いた。

「努力する」

「スポ根だな、さすが」

からかうように笑ったが、私は軽く肩をすくめるだけにしておいた。

その言葉もあながち間違ってはいない。生前は、根性だけで何でも乗り越えてきたのだから。

「これからは眠る時間も削って頑張るわ」

「透」

前の席で入試に向けて音楽史を読んでいた五十嵐が振り返った。

「時間はあっという間に過ぎちゃうよ。時間は有限なんだから、勉強だけに時間を取られるなんて勿体ない。どんな瞬間もちゃんと楽しまないと」

前髪の隙間から覗く瞳がこちらを見つめてくる。

突然まともなことを言った五十嵐に驚いて、私はしばらくぽかんとしてしまった。

「卒業したら、みんな離れ離れなんだよ」

「そうね」

私は真剣に頷いた。

「だから遊びに行こう!」

「お前は勉強に飽きただけだろう」

五十嵐の後ろ頭を丸めたノートでぽこんと叩きながら、蓮見が言った。

「あ、そういうことね」

いつになく哲学的な言葉を発したと思ったが、自分の勘違いだったらしい。

「カラオケ行こーよー」

「お前は歌わないだろ」

蓮見が五十嵐の机に座りながら言った。

「聞いているのが楽しい。特に壮真が歌っているのが」

「強烈な音痴だから」

五十嵐の隣で静かに勉強していた天城が話に入って来た。

「な、なんだよ!海斗だって…」

「海斗は上手い」と五十嵐。

「俺も上手いぜ!」

今度は榊が身を乗り出して言った。

「嘘。それは絶対嘘。お前は下手な顔をしている。絶対こっち側の人間だろ」

蓮見が榊の方を指さして言った。

「見た目で判断すんな!」

(うるさい…)

どんどん会話が盛り上げるにつれて、声も大きくなる。参考書の文字を読んでも中々頭に入って来ない。郡山とその取り巻きがこちらを睨んでいるのが分かった。しかし、受験前に変な騒動に巻き込まれたくないのか、榊が暴れるのを恐れているのか、今回は何も言って来なかった。

「透!俺、歌上手いよな!?」

突然、榊が私の方を向いた。

「知らないわよ。ってか、静かにして」

しかし私の言葉は誰の耳にも届いていない。

「俺のバラード聞いたら卒倒するぞ!」

「じゃあ、勝負するか?カラオケの採点機能で」

もはや仁王立ちになっている蓮見が言った。

「やめとけ。結果は目に見えてる」

天城はやれやれと首を振った。

「俺が榊なんかに負けるわけないだろ!」

「なんか、って何だよ!」

「カラオケは決まりだね」

事が上手く運んだのが嬉しいのか、満足そうに五十嵐が言った。

「いつ行く?」

「俺はいつでもいいぜ!」と気合満々の榊。

「透は?いつ空いてる?」

五十嵐が身を乗り出した。

会話を耳に入れないように努めていたが、同じところを4回ほど読んでいることに気づき、私はため息を吐いた。

「2月」

「はあ?だいぶ先だな」榊が驚いたように言った。「今まだ9月だぞ!」

「推薦組は知らないと思うけど、本試験が1月なの」

「その通りだけど、その間全く遊べないのはなんか寂しい気もする」

一気に気分が下がったのか、蓮見が悲しそうな表情を作った。

「あ」

五十嵐が手を上げた。

「来月の体育祭の後は?後夜祭を抜けて、カラオケ行くの」

「おお!いいな!」

真っ先に榊が賛成した。

(た、体育祭…?)

私は目の前の五十嵐を見つめた。

「…あの。受験生なのに、体育祭に参加しないといけないの?」

「うん。だって、真徳生の進路ってほとんど確定しているもん」

「いや、でも、外部を受験する人もいるじゃない…?」

理解が出来ず、私は目を瞬いた。

「透。考えてみろ」

いやに真剣な顔をしている榊が私の肩に手を置いた。

「体育祭だと、一日中スポーツが出来るんだぞ。しかも、学校行事で。受験勉強の気分転換になると思わないか?」

私ははっとした。

「そ、それもそうね…」

「おいしいだろ?」

強めに言う榊の言葉に、私は思わず頷いてしまった。

「じゃあ。決まりだね。体育祭のあとにカラオケで」

五十嵐が呑気に拍手をしている。

後になって知ったのだが、受験を控えている高校三年生は、体育祭の参加を強制されておらず、希望者だけ名前を提出するというものだった。勝手に白石透の名前を書かれていたとはこの時の私は微塵も想像していなかった。


あっという間に時間は過ぎて行く。

五十嵐の言葉通り、毎日を必死に生きているだけで、いつの間にか季節は紅葉が終わりに向かっていた。冬の訪れを朝晩に感じる10月末。真徳高校の体育祭が開催された。

いつになくその日は朝から気合いが入っていた。制服を着るのも面倒で、真徳生だと一瞬で分かる校章が入ったジャージを着て家を出た。頭の高いところでポニーテールを作っているため、ときおり吹く冬を含んだ風に首筋を撫でられると身震いした。

「気合い十分ですね」

いつものように車の扉を開けて待っていた平松が、どこか苦笑いで言った。

「今日思いっきり体を動かしたら、受験日まで引きこもるつもりよ」

後部座席に入りながら私は言った。

「なるほど」

そう呟きながら平松はドアを閉めた。

朝からスマホが鳴りっぱなしである。今日が体育祭と話すと、伊坂と未央のグループチャットから怒涛のようにメッセージが来る。

未央からは、榊の雄姿を撮って来てと何度も念を押されるし、伊坂からは全員の写真が見たいから全員分を送ってくれと来ている。夏休みに伊坂の家にお邪魔をしたとき、私が不在の間、みんなで散歩にでかけたらしい。その近所で、都会で洗練された高校生たちが美しいと話題になり、聞きつけた町の人たちから写真を見せて欲しいと連絡が殺到したという。

「お友だちですか?」

必死でメッセージを返している私にミラー越しに平松が聞いた。

「ええ。もう大変よ」

私がスマホを横に置きため息を吐いた。

「そう言いながらも楽しそうですよ。お嬢様のその表情は初めて見ます」

平松が言った。

「は、初めては言い過ぎでしょう…」

顔が赤くなるのを感じた。確かに女友達が二人も出来て浮かれているのは否めない。

「お嬢様に心許せるご友人が出来て、私も嬉しいです」

ミラー越しに平松を見ると珍しく笑顔を作っていた。

「お嬢様が、ご友人たちとバーベキューに行くなんて、夢にも思っていませんでした。本当に変わられましたね。本当に」

語尾を強めて、平松は噛みしめるように言った。

「そうね。変わったかもしれない」

窓の外を見つめて私はぼそりと呟いた。

いつも自分の周りにいる10歳年下の友人たち。彼らを好きになっている自分がいることに私は気づいていた。


気分も明るく登校したのに、参加競技が書かれている掲示板を見てがっかりした。てっきり、1年の時のようにせわしなく競技に参加できるものと思っていたが、私の名前が書かれていたのは、借り物競争と、リレーのみだった。

「応援専門ってこと…?」

他のメンバーと言うと、榊はこれでもかと言うくらいどの競技にも名前を連ねており、天城や蓮見はバスケやドッチボールなど、私がやりたかった種目に組み込まれている。五十嵐は、本人の希望なのか、綱引きだけに参加している。理由はおそらく、大人数の競技であれば、適当に休めるからだろう。

「・・・不公平すぎる」

誰が選出したのかは不明だが、あまりにも不平等な選抜に私はむっとしていた。

(スポーツは観る選じゃないのに)

二階席に立ち、3-Aのバスケの試合が始まるところを眺めながら、ため息を吐いた。しかし、試合が進むにつれて、私の不機嫌さはどこかへ消えていた。天城や榊のバスケ能力を知っていたので、勝手に圧勝するものと思っていたが、対戦相手である3-Bはバスケ部だけで選手を揃えて試合に臨んできていた。接戦が続き、いつの間にか、私は前のめりで試合を見守っていた。どうしたら体力も技量もあるバスケ部員を出し抜けるか。勝手に脳内でフォーメーションを考えていたが、たびたび隣で発せられる叫び声で気が散ってしまう。天城と蓮見を目当てで見に来た女子生徒が、二階席にあふれ返っていたからだ。

たまたま廊下ですれ違った榊に「バスケの試合を絶対見に来い」と何度も言われ、体育館に到着したときにはもう遅かった。学年を飛び越えて集まる女子たちが、ほぼ二階席を占領していた。かろうじて隙間があった最前列の端の方から、静かに試合を見守っていた。

ホイッスルの音が体育館に鳴り響き、後半戦が始まる前の休憩時間となった。

天城てんじょう先輩!」

最前列から一人の女子生徒が身を乗り出して叫んだ。ジャージの色から判断するに、恐らく2年生だろうか。

「良かったらこれ使って下さい!」

体育祭の日だからと、友達とお揃いで髪を部分的に赤く染めていた女子が、有名なスポーツブランドのタオルを下に向かって投げたのが見えた。

(おお。やるな)

私はそのタオルの行方を目で追う。

タオルはひらひらと宙を舞うと誰にも触られないまま床に落ちた。

その場にいた女子全員が、壁際に消えた天城が姿を現すのを待ち構えていたが、一向にタオルが拾われる気配はない。結局、試合の邪魔になるからと審判が拾い上げ、隅に置いた。

(さ、最低すぎる…)

私はやれやれと頭を振った。

「ひ、酷い!」

タオルを投げた女子が泣き始めた。隣にいた、髪を二つに結わいている生徒が、背中をさすって慰めている。

「天城先輩はいつもあんな感じでしょ。話かけても無視されるって」

「でも私には優しいよ!私が先輩の服に飲み物をこぼしちゃった時、弁償するって言っても、「いい」って言ってくれた!怒ってないって言ってたし!」

(へぇ~。そういうところもあるんだ)

新しい天城の一面を発見して、思わずにやりと笑った。

後半の試合開始の笛が鳴ったにも関わらず、私は二人の女子の話に聞き入っていた。

「そうは言っても、顔は怖かったじゃない・・・」

友人は首を横に振っている。きっと彼女は天城のことが苦手なのだろう。

「えっちゃんには先輩の良さが分からないのよ」

タオル女子は、憤慨したように頬を膨らませた。えっちゃんと呼ばれた友人は、肩をすくめている。

「私は、蓮見先輩の方が明るくて好きだな。機嫌が悪い日を見たことないもん」

ちょうどドリブルをしている蓮見の方に顔を向けると、えっちゃんは言った。

「分かる!私も蓮見先輩派!」

二人の後ろで、別のクラスの女子が声をあげた。

「蓮見先輩は、挨拶したら必ず返してくれるのよね!」

「そうそう!あなた、気が合うわね!クラス、どこ?」

「C組!」

私は、クラスの垣根を超えて、友情が芽生え始めているところを目撃していた。

(すげぇな・・・)

「私は五十嵐先輩派かな~」

どこかで誰かが言った。

「分かります!音楽室でピアノ弾いてるところ見たことあります?すっごく神秘的でした!」

「あのミステリアスな感じが凄く素敵よね!」

また別の友情が芽生えている。

共通の話題から友人を作るのかと学習していると、少し苛立ちを含んだ高い声が響いた。

「貴女たち、静かにしてくれない?」

さっきまで和気あいあいと話していた女子生徒たちは、一斉に声のする方を振り返った。

「天城さまたちに迷惑よ」

体育祭に参加するつもりが全くないのか制服姿の藤堂が、腰に手を当て立っていた。もちろんいつものように、後ろに取り巻きを従えている。身に着けているネクタイの色から、最高学年だと気付いた後輩たちは一気に静かになった。

「さっき、天城さまにタオルを投げた子は誰?」

タカのように目を鋭く光らせて、藤堂は一同を見渡した。私の存在に気がつくと、口元を不快そうに歪めたが、すぐさま目を逸らした。

「私です」

先ほど泣いていた女子生徒が、すっと手を挙げた。驚いたことに、藤堂の迫力に全く気圧されず、背筋を伸ばしている。

藤堂はゆっくりと階段を下り、タオル女子に近づいた。

(おお、モーセ)

私は思わず感心した。

二階席には大勢の女子生徒がいるというのに、藤堂が階段を下りると、まるで海が割れたかのように道が出来た。

「先輩。私、何か悪いことでもしたのでしょうか?」

一段上で立ち止まった藤堂を見上げて、タオル女子が言った。

「ええ。あれは完全に迷惑行為よ」

「天城先輩がそう言ったんですか?直接聞いたんですか?」

突然強気になって質問するタオル女子に、藤堂は眉をぴくりと動かした。

「聞かなくても分かるでしょう。貴女、一人がやっていいことではないの。私たち皆が平等にルールを守っているのよ」

いつもの覇気が効かないことに驚きが隠せていない藤堂は、普段より落ち着きがなさそうに、声を少し荒げた。

「どんなルールがあるんですか?抜け駆けをしてはいけないルールでもあるんですか?」

腰に手を当てて先輩に抗議しているタオル女子は、誰の助けも必要としてなさそうだ。私はただの野次馬となって、この場を眺めていた。

「ええ。そうよ!天城さまは、貴女ごときが近づける存在ではないの!」

興奮で顔を真っ赤にしながら藤堂がそう言った時、試合終了の笛が鳴った。

「先輩も天城先輩が好きなんですか?」

試合が終わったと言うのに、誰一人その場から動こうとしない。この会話がどうなっていくのか固唾を呑んで見守っている。

藤堂が言葉に詰まるのが分かった。私は首を傾げた。

(あれ、藤堂って途中から蓮見に移行してなかったっけ?また天城に戻ったの?)

「貴女に言う必要はないわ」

しばらくしてから藤堂が言った。しかし、すぐさまタオル女子は言った。

「ずるいですね」

今度はタオル女子が藤堂を追い詰める番だった。

「自分が告白する勇気がないからって、ルールを作るなんておかしいです。私は正々堂々と、先輩が好きって言えますし、もっと近づきたいと思っています」

年が上とか関係なく自分の意見をはっきり言える彼女に対し、思わず感心していた。それは周りの後輩たちも同じだったらしい。「おお」と感嘆する声が聞こえた。しかし、次の彼女の言葉で、敵を大勢作ることになった。

「ライバルがいるなら、全員蹴落とします。彼女がいるなら、奪い取るつもりです」

一線を超えたセリフに、周りのざわめきが強くなった。

さきほどまで年下に気圧され余裕のなかった藤堂も風向きが変わったのを感じたようだ。

「そんな性格で、振り向いてもらえるのかしら。天城さま、下品なタイプは嫌いよ」

意地悪そうに笑うと藤堂はスカートの裾を翻し、その場から去って行った。

ここでやっと試合が終わったことに気がついた生徒たちは「先輩の雄姿が全然見られなかった」など愚痴をこぼしながら、タオル女子を睨むとその場から次々と退散していく。

数分後。私たちの他には誰もいなくなった時、タオル女子は突然その場にうずくまった。

肩を震わせて泣いている。

隣にいた友人は、慰めるかと思ったが、背中を叩きながら言った。

「なんで、いつも敵を作るかな」

「だって~。あまりに先輩が怖くて、思わず変なこと口走っちゃったのよ~」

それから顔を上げて、りっちゃんの顔を見つめた。

「私、下品なタイプだって・・・。わ、私・・・天城先輩に嫌われているの?」

さっきとはまるで別人のように、かなり弱気だ。しかし友人は意外とさっぱりしていた。

「さあ?私、先輩の好きなタイプ知らないもん」

微塵も天城に興味がないようで、知りたいとも思わないと首を振っている。

「あ、あなたには先輩の魅力は一生分からないわ!」

「それ、さっきも聞いた」

「先輩に嫌われてたらどうしよ~!ねえ、りっちゃん!私、もう生きていけない~!」

大げさに泣くタオル女子に、友人ははあとため息を吐いた。

「大丈夫だよ。だって、あなたには優しいんでしょ。天城先輩」

「そうだけど~」

「なら、いいじゃない」

「でも~・・・」

泣きごとを言うタオル女子とりっちゃんの会話を背中で聞きながら、私は静かにその場を離れた。


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