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誕生日会2

とうとう、出てきた。西園寺響子。

ドキドキと鳴る心臓がうるさい。冷や汗が首の後ろを伝っているのが分かった。

(私の動悸か。それとも、るーちゃんのか)

「全ての元凶・・・」

るーちゃんを苦しめた黒幕。

(でもまだ、直接手出しはしないはず)

全ての虐めの背後にはそれを操っている人物がいた。それが、西園寺響子。

最初の頃は、ただ単に天城に恋をしていたからこそ、天城の婚約者である透が恨めしくて、根回しを始めた西園寺だったが、次第にエスカレート。人を使った心理戦が得意だったが、最終的には自らの手を使って物理的な攻撃もしてくるようになる。

(ただ・・・)

私は下唇を噛んだ。

(黒幕が彼女ってだけで、今後どういう風に絡んでくるのか分からない)

そこが問題だった。

漫画の中では、最後の最後に登場し、白石透の命を奪おうとする。その最終場面で、今まで透が味わった苦痛の全ての種明かしをする。透は一命を取り留めるが、これ以上は耐えられないと、大量の睡眠薬を飲んで、自殺を図る。

(とりあえず、出会ってしまったのだから、どんな攻撃にでも耐えられるように準備しないと)

固く拳を握り、先ほどのパーティー会場へ戻ると、プレゼントの山の近くで数人が集まっていた。

「本当のこと白状しなさいよ」

「自分で買えるドレスじゃないわよね」

「あの、私は・・・」

「正直に言いなさいよ、貧乏人。どこでそのドレスを手に入れたの?」

藤堂やその取り巻きが伊坂のドレスを引っ張っているように見える。

「こんな高価なドレス、私だって何度も買ってもらえる代物ではないわ」

藤堂が恨めしそうにドレスを見つめている。

「まさかとは思うけど、盗んで・・・」

「私があげたのだけど、何か文句があるかしら?」

私はつかつかと輪の中に入り、伊坂の隣に立った。

「あ、あげたですって?貴女、これがいくらなのか、お分かりになって?」

藤堂が明らかに動揺した様子で、ドレスと私を見比べている。

「報告する義務がありまして?」

「貴女、いくらなんでも・・・」

私は藤堂の言葉を遮って言った。

「私が誰に何をあげようか、私の勝手です。それとも・・・」

藤堂が大事そうに抱えている、限定物のバッグを指さした。

「それ、返して頂きましょうか?かなりお値段が張りましたし」

「えっ!」

藤堂はドレスから手を離し、思わずバッグを守るように抱えた。

「それから、貴女のネックレスも、ブレスレットも、私があげたものよね」

二人は無意識にアクセサリーに手を伸ばしている。

「ドレスを貰ったことが罪なのであれば、貴女たちも同罪よね?」

誰も何も言わない。ただ口をパクパクさせている。

「伊坂さん、パーティーは楽しんだかしら?そろそろお暇しましょうか」

「え、あ、うん・・・」

私は伊坂の手を取った。

「それでは皆さま、ごきげんよう」

そして未だにバッグを大事そうに抱えたままの藤堂に視線を向けた。

「プレゼント、気に入っていただけたようで嬉しいわ」

カツカツとヒールの音を鳴らし、広間を後にする。

後ろで藤堂の声にならない叫び声がして、私は思わずにやりとしてしまった。


「あー、怖かった」

門の外で平松が来るのを待っている間、伊坂が隣で大きなため息を吐いた。

「お嬢様たちっていつもあんな感じなの?」

「どこの世界も一緒よ」

私はまっすぐ前を向いたまま言った。

強い者が弱い者を支配する、弱肉強食の世界。それは、お金があってもなくても同じ。

「ねえ、白石さん。本当にいいの?藤堂さんたちが言うくらいだから、相当高価なドレスなんでしょ。こんなの受け取れないよ」

私は勿体なさそうにドレスを触る伊坂を見た。

「こんな素敵なドレス、もう着る機会もないと思うし」

きっともう二度とお金持ちのパーティーには誘われない、と寂しげに呟く伊坂。

「卒業パーティーがあるわ。ぜひその時も着てらして」

そう言って、胸がツキンと痛んだ。

白石透が出ることがなかった卒業パーティー。自分も出られるのか、まだ分からない。

「それに」

私は付け加える。

「その素敵な青色、残念ながら私には似合わないわ。そのドレスは、伊坂さんのためのドレスよ。だから、返すなんて悲しいこと言わないで」

そこまで言うと伊坂は黙った。

「気が晴れないというのなら、これはどうかしら。この前の話じゃないけど、私の家庭教師をしてくれない?そうね、週3で放課後1時間とか」

「やる!やります!」

伊坂が元気よく手を上げた。

「全然金額が見合わないと思うけど、やります!テスト前とか、予想問題も作ります!」

「心強いわ」

それから、私の手を握って言った。

「私、決めた!白石さんの成績を爆上がりさせる!」

「爆・・・?」

とっても心強い言葉のはずなのに、なぜだろう。凄く不安がよぎる。

「テストで満点を取って、先生達をぎゃふんと言わせましょう!」

今この瞬間、キラキラと目を輝かせている伊坂を止められる者は誰もいなかった。



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