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【第五章開始】悪役転生  作者: まな
第四章
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4-9 はじめての部下

ブックマーク、評価、ありがとうございます。

増えているのを見ると本当に励みになります。



◆エル



「ラコス、あなたがエル様を教え導けばいいではないですか。あなたがエル様の補佐につき、あなたが経営を教える。それであれば、少なくとも意見を聞かなかったシェルーニャよりは、マシなのではありませんか?」

「…………むぅ」

「ラコス様……」


 ラコスは難しい顔をして悩み始めた。マリーアはそれを不安げに見つめている。これは懐柔できそうかな?

 あれ、でもちょっと待って。そうなると、ボクが領主なのは変わらなくない? ボクは悪役令嬢がしたいんだけど?


「……マリーア。お前は、私の選択を許せるか?」

「私は、ラコス様についていくだけです」

「わかった……! エル、私がお前に良き領主のなんたるかを教えてやろう。それで手打ちだ。お前を殺すつもりはもうないし、部下のことも水に流そう。私は、お前を領主として認める!」

「よかったですね、エル様。これでラコスが無事配下になりましたよ」

「よくないわ? 私は令嬢を満喫したいの。領主をしたいわけじゃ……」


 そこまで言って、ふとボクはある考えに思い至る。

 悪役令嬢がなにをするのかも、ボクにはよくわかっていない。なら別に領主であっても悪役令嬢はできるんじゃないか?

 確か聞いた話では、悪役令嬢は思いつきで政治を混乱させ、領民に迷惑をかけて、ヒロインに嫌がらせをする。ヒロインというのが誰のことかわからないけど、先の2つは領主でも可能だ。

 それに、その2つはボクのやりたいこととも合致している。


「……まあいいでしょう。これからは協力してファラルド領を繁栄させていくということで、ひとまずよろしくね。ラコス叔父様」

「うむ。ファラルドのために、私も力を尽くそう。……ところで、私の残りの部下はどうした? 一緒について来ていないようだが……?」

「話は纏まったようですね。ではエル様、脱出しましょうか」

「脱出? なんのことだ?」


 ラコスは頭に疑問符を浮かべているが、ボクもなんのことだかわからない。

 アールの方を見やると、口には出さずに返事をくれた。


『ラコスはシャドウレギオンの攻撃対象外ですが、彼の部下は足止めを受けています』

『それは知ってるけど、まさか全部殺しちゃったとか?』

『いえ。戦闘能力は上げていないので、今のところはほとんどが無事です』

『……今のところは? シャドウレギオンはもう下げていいよ?』

『はい。ですが、エル様が仕掛けた発火装置に関しては、私では操作ができません』


 発火装置? いや、でもあれは遠隔起動だったはず


『フリスに用意させた油に関しては、装置と関係なく引火します。同じ位置に設置していたものが、ラコスの部下との戦闘の余波で引火したのでしょう』


 まさかと思い監視ゴーレムを確認すると、2階はすでに火の海だった。


「これは! 2階で火災が発生しています! 急いで逃げましょう! アールはフリスを運んで。叔父様はマリーアを!」

「なんだと!? まさかそんな事になっているとは! だがどうやって脱出する!? ここは3階だぞ? 飛び降りても無事ではすまない。どうするつもりだ?」

「……私の魔法を使います」


 ボクは久しぶりにアクアボールの魔法を展開。クリエイトゴーレムで変成し、スロープ状の道を作り出す。


「なんと、こんな魔法まで……」

「いいから早く、これを使って降りてください」

「わかった。いや、待て。私の部下はどうなる?」

「それもこの水魔法で押し流します。運が良ければ、助かるでしょう。さあ乗って!」


 流石にすでに死んでいたら無理だからね。ボクはラコスをスロープに押しやり、下についたのを見てからアールを送り出す。


「本当に彼の部下を助けるのですか? 彼らは戦力としても数合わせになりませんが……」

「戦力としてでなければ、使い道はあるわ」


 それにいつまでもボクとアールだけでやっていくわけにも行かないだろう。せっかくの領主なのだから、面倒事は部下に任せてしまいたい。


「そうだ。久しぶりに魔法の全力も試してみようか。アクアボール、最大出力!」


 2階にいるラコスの部下を助ける。これに関しては本当に助けるつもりで行動をした。

 だけど、やり方を完全に間違えていた。


「あー、これはマズいかも……ヤベ」


 アクアボールによって生成された水球はボクの膨大な魔力により、一瞬にして膨らんだ。でもその時点ではまだ良かった。

 だけど部屋を押しつぶしそうになった水球を、ボクは焦って解除した。その瞬間に魔力による支えを失った水は流れ出し、しかし全力を注いだアクアボールは完成していなかったために水の供給は止まらなかった。例えるなら、お風呂の分の水を用意したけど、コップしかなかったから溢れ続けているような状態だ。実際にはもっと多かったみたいだけど。


 結果として、流れ落ちた水によって2階の火は消し止められた。部下の人たちもほとんどが助かった。

 だけどその水の流れはボクの全力のアクアボールの完成に達するまで止まることはなく……


「エル様。あの水は、いつになったら止まるんでしょうか?」

「さあ?」

「ヤバい、崩れるぞ! 下がれ、下がるんだ―!」

「うわあああー!」

「わ、私の、私の屋敷が……!?」

「ラコス様! お気を確かに!」


 火は食い止められた。火災による被害は、実際には殆どなかった。

 だけど、過ぎたるは及ばざるが如し。

 ボクの溢れさせた大量の水によって、屋敷はなくなってしまった。





 不幸中の幸いと言うべきなのか、屋敷はなくなったが領主としての政治機能は生きていた。


「シェルーニャが文官たちを別けていたお陰、と言っていいのかしらね」

「無能だった頃の名残だな。重要書類の殆どを会議所とかいう新設した施設で管理していた。私にも情報が流れてくる杜撰な管理体制だったが、それのせいですぐにでも仕事を再開できるぞ」


 屋敷を失った翌日。ボクはアールを連れてラコスとともに会議所に来ていた。

 新設したと聞いていたけど、どうやら元々あった倉庫を改築しただけのものらしく、外から見ると大きいのに中はほとんど使用されていなかった。

 そんな感想を漏らすと、ラコスは困ったように首を振った。


「いや、使用されていなかったわけではない。食料備蓄や公共事業に使用するための資材などがあったのだ」

「ああそういうこと。使ったか売ったかして、補充がされていないのね」

「話が早くて助かる。以前のシェルーニャは領内税収の減益分を、こういった緊急性の低いものから切り詰めていった。だが予算がないだけならまだしも、過去の予算で備蓄していた分にまで手を付けたのだ」


 使えるお金がないから今年の備蓄を減らすというのは、まだ理解できる。たぶんどこもやっているふつうのことだ。

 だけど備蓄していた分を使用したとなると話が違う。それはすでに収入がなくなっているのと同じだ。


「すでに領を支えられるだけの税金が得られていないの?」

「いいや。それならそれでやりようはいくらでもある。問題は税金の使い道だ。マリーア、例の資料を」

「はい。こちらですエル様」


 すでに会議所にいたマリーアは、ボクたちが来る前に資料の準備を進めていた。ボクは財政支出の資料の読み方なんてわからないんだけど。

 一応数字だけ見比べてみるけど、それであってるのかどうか。


「うーん…… うん? 税収は減っているのに、支出は前年と変わらない?」

「そこなのだ。税収が減れば、使える予算も減る。その当たり前のことが行われていない。その不足分を補っているのが……」

「……すでにあるものを売ったというわけね」


 でもそれはおかしい。予算も支出も変わっていないなら、備蓄はそのままになっているはずだ。だってその購入費も予算に含まれているのだから。


「えーと、ということは、書いてあるとおりに予算運用されていない?」

「そういうことになる。先程私が言ったように、ここの書類管理は杜撰だ。そのため最初の税収と、最終的な支出以外の部分は信用できん。実際私が見ている間でも数回書き換えられている。だが……これが本当の支出状況だ」


 ラコスは不敵に笑うと、自分の懐から小さな箱を取り出す。その中には先程渡されたものよりも上質な紙に書かれた書類が入っていた。


「……どうやってそんなものを?」

「驚いたかね? 私はこれでも商人だ。横の繋がりは今でもあるし、自分の生まれ育った田舎領地の金の動きなど簡単に追える。なに、本当に簡単な理屈だ。結局のところ金を使えば、金を得たものが居る。そちらから裏取りしただけだ」


 なるほど。確かに食料を買えば食料を売った人間が、武器を買えば武器を売った人間が居る。建設業なんかでも当然その場で働いた人間が居るわけで、それこそ金を燃やして遊びでもしない限り、必ず足がつく。

 ラコスは思った以上に使える人間だった。理屈は簡単かもしれないが、実際にそれをやるとなると相当な苦労だろう。歪んだ正義おじさんから、領地の危機に立ち上がった義憤おじさんにクラスアップだ。

 そしてその資料を見て、読み方がわからないボクでも気がついたことがあった。


「金を使っているのは、ほとんどがバウマン騎士隊?」

「そうだ。ファラルド家に仕える真の騎士だったバウマン家だが、その頭首は私の兄であり領主であったローロスとともにハレルソンで殉職した。その後もバウマン家はファラルド家に仕えてはいるのだが、シェルーニャの無能ぶりに我欲を表してな。シェルーニャを担ぎ上げて、実際には騎士を派閥にして好き放題だ」

「殉死……そうですか。それは、残念ですね」

「ああ。私とも良き友人であったが……エル、君は知らないだろうが、隣のハレルソン領でも正体不明の魔物が現れてな。そいつは勇者によって倒されたそうだが、人を飲み込む凶悪なやつだったらしい。飲み込まれた人間は死体もなく、倒した勇者も詳細を語らなかったので、当時は相当揉めたものだ……」


 ハレルソンで勇者にねえ。

 ……それってボクでは? 正確には、スラー・ハレルソンが生み出した人工精霊、シャドウキャリアーなのでは?

 あー、それは悪いことをしたなあ。でも勉強になったよ。パラゲの言っていた悲しみの連鎖って、こういう事だったのか。

 当時の思い出に浸っていると、不意に会議所の外から声をかけられた。


「シェルーニャさま! こちらに居られましたか!」


 振り返るとそこには、ニタニタとした笑みを貼り付けた恰幅のいい鎧の男がいた。


「……誰?」


 ボクがラコスに尋ねると、彼は忌々しそうにため息をついた。


「……あれが現在のバウマン家頭首、ブスタ・バウマンです」


ここまでお読みいただきありがとうございます。


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