表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第五章開始】悪役転生  作者: まな
第四章
96/173

4-6 はじめての防衛戦

ブックマークやいいね、ありがとうございます。



◆ラコス



 ラコスにとってファラルド領は自分のものであるべき場所だ。

 兄であるローロスが領主になったとき、その運営方針を巡って袂を分かつことになったが、それでも互いにファラルド領の繁栄を思って行動していた。

 だから商人に身を落とし領地を離れることになっても、後悔はなかった。


 兄の急死は本心から残念に思った。当時ラコスはニームを離れる際に相続権を返上していたので、領地を引き継ぐことが出来なかった。

 だがそれでもファラルド領のために、ローロスの娘であるシェルーニャに手を貸してやろうと考えていた。

 しかしその考えはすぐに変わった。

 シェルーニャは無能だった。ローロスの直接的な死の原因ではない冒険者を逆恨みし、有害無実な騎士どもの戯言ばかりに耳を傾け、基本以下の保守的な政治しかしない。

 その先にある領地の未来は緩やかな死だ。


 ラコスは自分の愛した領地が、魔物程度の簡単な脅威によって荒れていくのを見ていられなかった。

 ローロスの方針通りにしていれば、シェルーニャであっても対処できた簡単な問題だ。

 それなのに、シェルーニヤはそうしなかった。貴重な税金で余計な騎士どもを増員し、自身の誠実さをアピールするために屋敷の、ローロスに仕えていた貴重な人材を切っていった。

 今屋敷にいるのは給金が安くても安定を求める穀潰しだけ。

 その証拠に少し金を撒いたら、簡単に財務状況などの貴重な情報を提供した。ローロスの時代なら、ラコスが血縁であったとしても従者が喋るなどありえないことだ。


 それほどまでにファラルドの領主は、シェルーニャの運営は腐っていた。ラコスの提言も無視し、増長した騎士どもに持ち上げられ、独断で余計な仕事を増やしていく。

 だからラコスはシェルーニャを始末すると決めた。彼女が消えてしまえばファラルドの血縁はラコスしかいなくなる。そうなれば権利を返上していたとしても、ニームはラコスに領地を任せることになる。中途半端な貴族社会の名残だが、使える手段ならなんでも使う。


 消すと決めてからはすぐだった。メイドたちも計画には乗り気だったし、騎士の遠征情報はすぐに手に入った。

 作戦はまずは穏便に、事故死に見せかけてメイドたちにシェルーニャを殺害させる。ここで成功すれば言うことはないが、当日になって彼女たちが恐れを抱くかも知れない。仮にもシェルーニャは魔法使いだ。

 だが失敗したときのために襲撃をかける部隊も当然用意してある。生まれ育った実家を破壊するのは心苦しいが、領地を破壊されるのに比べればずっとマシだった。


 そして作戦当日の夜。メイドたちから状況を聞きに行った使いのマリーアはおかしな事を言い始めた。


「シェルーニャは殺したが、生き返った?」

「はい。私も何人かに聞き取ったのですが、全員が確かに浴槽に沈めたと言っているのです。現在は部屋に閉じこもっているため直接の確認は取れませんでしたが…… それと、悪魔を召喚し引き連れているとも」

「はっ、バカバカしい。死んで生き返ったら悪魔だと? 失敗の言い訳だろう」


 ラコスはその報告を鼻で笑った。悪魔は実在するが、悪魔との契約は容易なものではない。仮に契約できたとしても、この世界にいるだけで魔力を消費する悪魔を見せびらかして歩くなど無能の極みだ。

 ところがマリーアはその悪魔について、さらなる情報を追加してきた。


「メイドたちだけなら口裏を合わせたものだと私も思います。しかし本日は食料品の定期配達があったようで、その者からも証言を得ています。シェルーニャさまは黒い影のような人形を連れ歩いていたとのことで……」

「それだけで悪魔だと? いや、悪魔を見たことがなければそう思っても仕方のないことか。だがそんなものは悪魔ではない。悪魔とはもっと人間のように振る舞うものだ。それは悪魔ではなく、影法師の出来損ないだろう」


 ラコスは悪魔というものを知っている。魔力によって歪んだ、この世界にあってこの世界ではない場所から現れた魂の悪意の残滓。

 それは魔力によって構成された生命体であり、黒い影でもなければ黙って人に付き従うようなものでもない。

 シェルーニャの魔力によって作り出された、魔法のなりそこないだろうというのがラコスの予想だった。


「ですが悪魔ではなくても、魔法であれば脅威ではありませんか?」

「ふん。無能な小娘に使える魔法などたかが知れている。もし強力な魔法が使えるのなら、最初から自分で領地の異変を解決するだろうし、そうでなくても学院が人材の流出を止めるだろう。そうしなかった時点で、やはりアレは無能だ」


 学院というのはシェルーニャの通っていたニーム国立魔導学院のことであり、主に魔法を使える貴族が通うことになっている。昨今では過去の戦争のために人材を広く集めるようになり、貴族だけでなく平民でも魔法の才能があれば入学できる場所だ。

 ちなみにシェルーニャは貴族枠での卒業という形になっている。これは急遽シェルーニャが領地を継がなければならなくなったことが理由で、他にも勉強についていけなくなったが貴族としての品格を損なわないために利用する者もいる。事実上の自主退学だ。


「それにこちらの部下は全員が冒険者や元軍人。多少魔法の使える小娘や軟弱な騎士が何人いようと、敵ではない。……そろそろ時間だな。作戦に変更はない。部下たちに開始の合図を送れ」

「わかりました」


 マリーアはラコスの乗る馬車から出て、自分の部下に命令を伝える。


「作戦に変更はない。シェルーニャが魔法を使えるようだが、それだけだ。別働隊にも合図を送れ。作戦に変更はない。目標ファラルド本邸。すべての人間を殺し尽くせ」



◆エル



 正門を抜け、庭を突っ切ってまっすぐに駆け寄ってくる武装集団。

 彼らはすぐに屋敷に入る集団と、出てくるものを逃さないために展開する集団とに別れた。

 見た感じどちらもそれなりだけど、全員が入ってこないのは面倒だな。


「1人も逃したくないわね。どうしようかしら」

「裏門の方はそもそも動いていませんし、あれは逃走経路を潰すための部隊なのでしょう。彼らはこちらを脅威だと思っていないのでは?」

「舐められたものね。まあ、メイドに殺されたのだから当然とも言えるけど」


 アールと話しながら1階に降り、エントランスホールで敵を待つ。

 すると玄関の扉を破壊して4人の男たちが現れた。

 全員が山賊のような荒々しい恰好をしているが、抜かれた剣の整備はきちんとされている。そして彼らの後ろにも様子をうかがう後衛が見える。全員の視線が同じ方向を向いていないことから、戦闘経験はあるようだ。


「……お前がシェルーニャだな?」

「皆様、ようこそいらっしゃいました。私がシェルーニャ・ジス・ファラルド。ファラルド領の領主です。用件を伺いましょうか?」


 悪役令嬢というジャンルの存在は知っていたけど、その中身は全く知らない。なんとなくそれっぽく煽ってみたが、これで合ってるかな?

 様子をうかがっていると一番前にいた剣士風の男は剣を構え直し、鼻で笑った。


「用件は1つだ。その首貰い受ける……!」


 剣士がそう言い捨てると、前衛4人全員がボクを取り囲むように展開して踏み込んできた。

 だけど、正直言って全然遅い。ヴァルデスのときに戦った馬車の護衛よりもずっと遅い。これは期待できないな。


「アール。こいつらでは話にならないわ。処理して」

「かしこまりました。エル様」


 ボクが右手を上げて合図をすると、彼らの目の前に突如としてシャドウレギオンが現れる。今回は相手が4人なので4体だ。


「な、何だこいつは……!?」

「影法師だと!?」

「さようならお客様。お帰りは、ありません」

「あ、がはっ……!?」


 シャドウキャリアーのときとは違って、今回は完全に狩ることが目的で戦いによる訓練を求めていない。

 そのためシャドウレギオンも最初から全力だ。相手に合わせてスキルを使用し、それぞれがたった一撃で4人を仕留める。

 更に仕留めた4人はすぐさまアールの展開するダークオーダーの闇の魔力に飲み込まれていき、まるで最初から何もなかったかのようにその場に静寂が訪れた。

 突然の、それも想像もしていなかったであろう出来事に、こちらを見ていたはずの後衛たちも動けないでいた。


「……これで終わりかしら?」

「ふ、ふざけるなー!」


 外にいたうちの誰かが叫び、矢が飛んでくる。だがそれも避けるまでもなくシャドウレギオンが掴み取り、外に向かって投げ返した。


「ギャッ!?」

「当たるものねえ」

「当てる予定はなかったんですけどね」

「な、舐めやがって! おい、このままじゃ終われねえぞ! 行け、突っ込め―!!」

「「「うおおおおー!!」」」


 そうそう、最初からそうすれば良いんだよ。後ろにいた指揮官のような男が命令し、花火のようなものが打ち上がる。すると残っていた部隊も屋敷に突入してきた。

 玄関の扉だけでなく窓を破壊して入ってくるものもいたし、監視ゴーレムを確認すると裏門の部隊も動き出したようだ。


「影法師は所詮影の魔物だ! 普通の魔物と違って耐久力が極端に少ない! 一発でも当てればそれでおしまいだぜ! そらよ! ビビってねえで俺に続け!」

「あら、やるわね」


 ゴーレムの操作から思考を戻すと、シャドウレギオンのうち1体がやられていた。突っ込んできたうちの1人が倒したらしい。

 影法師とやらは知らないけれど、ボクの戦闘員は一撃で倒されるようになっているので彼の言うことは正しかった。


「シェルーニャ! お前が影法師を操れるのは脅威だが、影法師は低級の魔物なんだよ! 不意打ちを食らわなければ大したことねえぜ!」

「リーダーに続け! こいつら全然弱いぞ!」


 リーダーと呼ばれた男はそれなりに戦えるらしい。動き自体は最初の4人より少しいいくらいだが、なにかのスキルでシャドウレギオンの攻撃を躱している。

 さらにシャドウレギオンが倒せるとわかった瞬間に、他の集団も強気に動くようになった。最初からスキルを受ける盾役が現れたことで容易く突破されている。どうやら彼らは魔物相手は慣れているようだ。

 まあ、弱い代わりにたくさんいるんだけどね。


「ふふふ、ならおかわりを用意しましょうか。アール」

「仰せのままに」

「!? リーダー、影法師が復活したぞ!」

「馬鹿な! だが問題ねえ! 所詮は同じ魔物だ。俺たちはこんなやつらを何体も倒してきただろ!」


 いい具合に乗ってきたかな? ならここらへんで一度逃げてみようか。せっかく設置した罠を使いたいし、悪役令嬢って逃げそうだしね。


「ぜひ頑張って、倒し尽くしてくださいませ。私の首が欲しいのでしょう?」

「チッ! 逃げるな!」

「あははははは!」


 ナイフが飛んできたが、それはアールが弾いて落とした。

 逃げる道中にも大量のシャドウレギオンを配置し、来るものをすべて攻撃するように設定する。

 さて、彼らは次にどんな手を使うのかな。




ここまでお読みいただきありがとうございます。


よろしければブックマーク、いいね、ご意見、ご感想、高評価よろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ