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【第五章開始】悪役転生  作者: まな
第四章
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4-5 フリスの決断

いいねやブックマークありがとうございます。





 アンネムニカ。

 それはボクが最も好きな悪役の組織だ。

 突如として別次元から現れた悪の軍団であり、その活動目的は世界征服。

 お話上の設定ではアンネムニカは日本以外の殆どを支配した状態から始まり、正義の味方たちは同じく異世界から現れた勇者たちの魂を元に変身する。

 紆余曲折を経てアンネムニカは敗北し滅ぼされることになるのだが、その最後に現れるのが闇色の髪と銀の目を持つ少女。

 しかし彼女は正義の味方と喋ることもなく、戦うこともなく、崩壊する基地とともに次元の狭間に消えていった。

 何も出来ずに消えていった大ボスなのになぜ好きなのか、言葉では説明ができない。それでもボクはアンネムニカが好きだった。


 それが、その憧れの敵が目の前にいる。

 ボクは感動のあまりしばらく言葉を失っていた。


「アンナが、アンナが消えて別の人に……!?」


 そう言えばフリスがいたんだった。彼女の空気を読まない声で現実に引き戻される。


「……エル様、どうされました?」

「あ、ああ、なんでもないよ。なんでもないわ……?」


 見た目はアンネムニカだが、その中身はアールだ。ここで動揺する理由はない。

 ちなみに服装はアンナの着ていたメイド服のままだ。


「エル様の中にあった強い想いの姿を模倣しました。もし気に入らなければ、変更しますが……」

「いいえ、それには及ばないわ。気に入っているから、そのままでいなさい」

「かしこまりました」

「シェルーニャ様、その、その人はいったいなんなんですか!?」


 フリスは未だに混乱したままのようだが、最初に言わなかったかな?


「彼女はアール。私の最初の従者よ。で、こっちは裏切り者のフリスよ」

「……その紹介のされ方は、ちょっと……」

「裏切り者の方なのですね。よろしくお願いします」


 アールは整った顔立ちだが表情を動かなさないので、握手を求める手も不穏に見える。フリスは恐る恐る手を握るが、アールに悪意はないので別に何も起きたりはしない。


「ともあれこれで私の戦力は整った。それで、フリスはどうするの?」

「え……?」

「あら、あなたは自分のことも忘れてしまったの? あなたは私とラコスのどちらにつけばいいのかわからなくなって、私の次の行動を確認したのでしょう? 私の手札は見せたのだから、あとは自分で判断しなさいな」


 ボク自身の能力は教えないけど、そこまでする必要はないだろう。

 実際相手に転生者が来なければアールとシャドウレギオンだけで戦うつもりだし。


「ああ、もう1つだけ言っておくことがあるわね」

「……なんですか?」

「あなたは、いえ、あなたたちは私を殺そうとした。その上でまた私を裏切るのなら、あなたたちも皆殺しよ」



 ◆



「よろしかったのですか?」

「なんのことかしら」

「フリスのことです。行かせてよかったのですか?」


 アールにドレスを着させてもらっていると、ふとそんなことを聞かれた。

 結局フリスはボクの元を去った。まさかここまで見せてラコスにつくとは思わなかったな。


「フリスはアレでいいのよ。悪と悪の間で戸惑う弱者がどうなるのか、それを見てみたいの」

「どうにもならないのでは? 今までにも居たはずですが、みな死にましたよ」


 アールが言っているのはボクがヴァルデスだったときに、ユルモの情報を差し出した受付の女のことだろう。あのときは裏切り者を許せなかったから殺したけど、今回は違う。


「それは私が殺したからよ。でも今回は手を出さない。事故で死ぬことはあるかも知れないけど、最後まで見届けるつもりでいるわ」


 裏切り者が裏切り続けたらどこに行くのか。ボクは単純にそれが知りたかった。


「出来ましたよ。これならどこへ行ってもおかしくはないでしょう」

「ありがとう、アール。……でもこれ、すごく窮屈ね」

「ドレスなんてそんなものです」


 シェルーニャの部屋にあった衣装からアールに見繕ってもらい、今着ているのはフリルがたくさんついた赤いドレスだ。頭にも飾りがついていて、激しい動きをしたら簡単に取れてしまいそうになる。


「ところで、アールはその姿で戦うことができるの?」

「お望みとあらば、この肉体(ゴーレム)にスキルを授けてください。私はあくまでもこの肉体を操作をしているだけですので、今のままではシャドウゴーレムの操作しか出来ません」

「そうなの。なら最低限の自衛能力はほしいわね」


 自分のスキルから適当な攻撃魔法を選択し、アールの操るゴーレムに付与していく。しかし2つセットしたところでエラーが出た。


「あら? シャドウボールとシャドウスピアしか使えない……?」

「どうやらこのゴーレムの性能限界のようですね。元の肉体が悪かったのでしょう」

「ああそういうこと。なら少し本体を改造して……」


 クリエイトゴーレムを使用し、アールの操るゴーレムに魔力を流し込む。能力値が足りないなら直接改造してしまえばいい。ハイモアにやったのと同じことだ。


「……ぅっ……ふっ……」

「……変な声出さないで」

「……ぅあ、そ、そんなつもりは、ふっ、ないのですが……くぅ、身体が、勝手に……」


 カルソーくんは痛みに苦しんでいたのに、なぜアールは喘いでいるのか。

 ボクも少し気まずくなりながら、なんとか処置を完了させた。


「ふぅ……ああ、なんだか視界がスッキリした気分です」

「それはよかったわね」


 ともあれこれでアールの操るゴーレムの改造は完了した。ハイモアほどの性能はないけど、近接戦もこなせる。スキルの方もヴァルデスから受け継いだものがあるし、現時点では十分なものだろう。

 ちなみにやろうと思えば、自分自身にも同じことができる。これはヴァルデスが死亡したときに体内にゴーレムを作って魂を移動させたものの応用で、シェルーニャをゴーレム化させて改造するというものだ。

 だがあのときのことは、正義の味方以外に負けたくないという思いからしてしまったズルだ。本来ならするべきではない。なので今回は基本的にはしない方針で行く。


「さて。ラコスが来るのは夜ということですし、その前にこの屋敷の中を見て回りましょうか。罠なんかもあったら、面白そうね」

「エル様がドントリアで仕掛けたものでしょうか。たしかに有効でしょうが、自分の屋敷を燃やすつもりですか?」

「ふふ、そこについてはいい考えがあるのよ。悪役令嬢として、悪の政治をするためにね」

「きっとろくでもないことなのでしょうね。ですがそれでこそエル様です」


 世界で最も嫌われているシステムを使用するだけだ。それはきっとファンタジー世界でも有効だと思うし、もし成功しなかったとしても失うものはない。

 そんな悪巧みをしていると、不意に部屋の扉をノックされた。


「あら? 誰かしら」

「……フリスです。あの、入ってもよろしいですか?」


 扉越しに声をかけてきたのは、ボクを何度も裏切ったフリスだ。

 アールに目配せをし、彼女に扉を開けさせる。


「なんの用ですか?」

「あ、アール、さん……えと、その……昼食の準備ができましたので、持ってまいりました……」


 ボクは驚いた。ボク自身もすっかり忘れていたのに、裏切ったと思っていたフリスがまさか食事を持って戻ってくるとは思わなかったからだ。


「シェルーニャさまが希望されたのが、何のお肉かわからなかったので、茹でた鶏と牛のソテーを用意しました…… これで、これで殺さないでくれます、よね?」


 ああ、そんなことも言ったっけ。肉を希望したことも忘れていたよ。


「ふふ、ふふふあははははは。いいわフリス。あなたはいい従者ね。また裏切ったのだと思っていたけど……そう、昼食の準備をしていたの。面白いわ。ねえアール」

「私にはわかりませんが、少なくとも評価を下げる必要はないようですね」


 彼女は部屋を出ていったが、それは裏切ったからではなかった。あの場で裏切り者だと殺してしまっていたら、この結果は絶対に有り得なかった。

 うん。やっぱりたまには殺さないのも悪くないな。





「それで、あなたは私につくということでいいのね?」


 食事を終え、改めてフリスの意志を確かめる。

 ちなみに食事に毒などはなかった。あっても今のボクには効かないが。


「……はい。私は他のメイドたちに聞かされました。ラコスさまの側にいても、彼が勝っても失敗した自分たちは助からないかも知れないのだと。それなら、一度は許していただいたシェルーニャさまのほうが……」

「まだマシだと言いたいのね。でもそれは正解よ。私たちがあなたを直接殺すことはないわ」


 生かすと決めたのだから殺しはしない。だが戦闘に巻き込まれたら、そこまではこちらも責任を持てない。


「ところで、他のメイドたちに私の計画を話したりした?」

「いえ、そんなことはしていないです。調理中に何人か声をかけられましたが、わからないとしか……」

「そう。なら食器を下げるついでに、私が悪魔を召喚したと話してきなさい」

「え!? そんな、シェルーニャさまの重要な戦力を教えていいんですか?」


 フリスは驚くが、それほど大したものではない。


「いいのよ。悪魔と言っても強さまでは伝わらないし、それに恐れて手出しをしてこなくなるなら、こちらも余計な力を使わなくて済むから」


 今もシャドウレギオンを1体護衛風に立たせているが、ただの黒い人影であり見た目から強さの判断はできない。


「あなたが言わなくても、今から私たちはこの悪魔の兵士を連れて屋敷を見て回ります。そこでバレるよりは、あなたが先に報告したほうが良いのではなくて?」

「それは、確かに責められないとは思いますけど…… でも、どうしてそんなことを? 隠れて迎え撃つ方が安心なのでは……?」

「私なら隠れている相手は屋敷ごと燃やすわ。そのための動線確認かしらね」

「ッ……! ラコスさまは、そこまでしませんよ……たぶん」


 ボクはラコスを知らないが、少なくともボクと同じくらいの悪意には備える必要はある。

 それに今のボクにはシェルーニャだったの頃の記憶はないから、どのくらいの規模かはっきり見ておかないといけない。部屋から食堂までの道のりもそれなりに広かったし。


 アールとともに屋敷を見て確認し、門や人通りの多そうな場所に監視カメラ代わりのアクアゴーレムと、遠隔起動型の発火装置を仕掛ける。爆発魔法はまだ獲得していないが、フリスに用意させた油を使用しているのでただのファイアボールでも大きな被害が発生するだろう。

 フリスはきちんとシャドウレギオンについて話して回っていたようで、メイドたちから嫌悪の視線が飛んできても、作業を邪魔されることはなかった。


 そして夜。フリスに用意させたサンドイッチで軽く夕食を済ませ、部屋でくつろいでいると監視ゴーレムから反応があった。

 ご丁寧に正門から入ってくるつもりらしいが、裏門の方にも怪しげな影がある。


「エル様、敵が現れました。表には40、裏に20。武装していますが、脅威度は高そうにないですね」

「! 来た。ラコスさまが、本当に来たんだ……!」

「予定通りね。フリスはこのまま私の部屋にいなさい。私は出迎えに行かなくては」

「そんな! 危険ですよ!? あの悪魔に任せればいいじゃないですか!」


 フリスはボクを止めようとするが、シャドウレギオンが一方的に倒すだけではダメだ。

 その悪魔を誰が操っているのか。それを見せる必要がある。


「平気よ。あなた以外の従者たちにも見せつけなくてはいけないからね。この領地の主が、いったい誰なのかを」




ここまでお読みいただきありがとうございます。


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