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4 アリタカの交流

年内の更新はこれでおしまいです。良いお年を。

1月から新章スタートです。


◆アリタカ



 アリタカの朝は早い。

 同じコテージに泊まるメンバーが起きないうちに目を覚まし、朝の修行を始める。


「……10センチ、くらいでござるか? なかなか変わらんでござるな」


 測定をしたら軽い筋トレだ。解すように柔軟をして、腕立て伏せ、上体起こし、スクワット、懸垂と順に熟す。

 これらを数セットしたところで一度休憩をはさみ、自分のスキルブックを確認。

 タブレット型のスキルブックには自身のステータスが映り、そこにメモを書き加える。


「やはり変化はないでござるな。いつかはヴァルデス殿のモノのように立派になるといいんでござるが」


 筋トレを繰り返せば基礎能力値は増加する。そのお陰でアリタカのステータスはこの世界の住人よりもかなり高く、ステータスだけでAランク冒険者と匹敵するレベルだ。


 しかしそれが見た目に反映されることはない。

 バランス・ブレイカーにいた頃、トラマルたちに強制されてスキルやステータスの共同研究をしていた。

 研究内容自体は許容できるものだったので不満はないが、そこでの結果は、まだ完結していないとは言え、アリタカにとってかなり疑問の残るものだった。


 まず基礎能力値と肉体の変化について。

 これは経験による基礎能力値の上昇の他に職業による基礎ステータスの補正も含めて、見た目には変化がなかった。

 取るだけならタダなので剣士にも盗賊にも魔法使いにもなったが、見た目は一切変わらずに足が速くなったり重たい装備が持てるようになった。

 逆に言えば、どれだけ筋トレしても腕が太くなったり腹筋が割れたりしなかった。

 これは転生者限定のもののようで、一緒にトレーニングをしていた兵士たちはしっかり筋肉がついていた。


 では暴飲暴食では太るのか。

 上の例で言うなら変わらなさそうだが、結論から言うと太った。

 しかし少しのトレーニングですぐに身体を戻すことができて、あまり大きな変化には感じられなかった。

 後にトラマルの研究でわかったことだが、肥満という状態がこの世界ではステータス異常扱いになるようで、運動はその治癒というニュアンスになるらしい。

 そのためそこまでキツく動かずとももとに戻り、逆に言えば怪我などで大きく手足を欠損してもきちんと対処すれば完治できる。

 これは時間が経っていても可能だった処置なので、この世界ではスキルか金さえあればほとんどの怪我を治すことができるとわかった。


 なら一生このままなのかといえばそういうわけでもなく、時間経過での変化はあった。

 ヘイヘはこの世界に来てから2センチ背が伸びたと言っていたし、それに伴い体重も増えていた。トラマルは自分のステータスを明かさなかったが、アリタカも少しは背が伸びたのでここは疑っていない。


 しかしアリタカはまだ納得していないし、諦めてもいなかった。

 スキルブックを仕舞ってもう一度朝のトレーニングに戻る。

 いつか立派な肉体を得るのだと、そのために日々修行を続けていた。





「朝の散歩の時間でござる」

「……なんで私だけ付き合わないといけないんですか?」

「犬は散歩をするものでござる」

「私は人間なんですけど……?」

「健康にいいでござるよー」


 犬の散歩は飼い主の義務だ。ユルモは毎回断ろうとするが、見た目が犬なのでどうにも言うことを聞かせたくなる。それに、絶対に彼女たちの前では言わないが、アリタカはペットプレイに興味があった。

 それに、彼女の犬の姿には明らかな変化があった。


「ユルモ殿は気がついていないと思うでござるが、散歩に行く前の頃は太っていたでござる」

「は? 女性に向かっていきなり何を……」

「犬の姿の話でござるよ。このエル殿の魔法は非常によくできていて、ユルモ殿が変身中に得た余分な魔力を蓄える性質があるでござる。ここで言う余分な魔力とは、ユルモ殿が生きるのに必要な量よりも多い、食事のことでござる」

「……食べ過ぎ、って言いたいの?」

「本来は緩やかに減少していくはずの魔力が減っていないことから、そう言えるでござるな」


 実際にはユルモの変身のための魔力は全く減っていない訳では無いが、たまに補充されていることにアリタカは気がついた。

 数日に渡ってユルモの観察を続け、それが食事のせいだとわかったのだ。


「そうして余分に得た魔力のせいで、犬の姿では太っているように見えたでござる」

「うう……私自身じゃなくても、私に太っているって言わないでください……」

「いやいや、安心するでござるよ。散歩をし始めてから、すぐにそれは改善したでござる。今はすらっとした見た目でござる」

「……もしかして、これを続ければ変身も早く解けるようになる?」

「無いとは言い切れないでござるな」


 変身魔法は魔力で稼働する鎧なので、激しく運動すればその分消費も大きくなる。

 まあ、込められた魔力量が桁違いなので誤差レベルだが、無いわけではない。


「じゃあ行きます! 私はこれから毎日庭を走ります!」

「わかったでござる。じゃあ、首を上げて―」

「……その、毎回なんですけど、首輪は本当にいるんですか?」

「もちろんでござる! 色々と理由はあるでござるが、これがないと野犬だと思われて叩かれても文句を言えないでござるよ」

「それは嫌ですが……」


 ユルモはアリタカの楽しそうな顔がどうしても不審げに見えていた。

 それもそのはずで、アリタカはメタモーフを看破できている。その気になれば変身をしていない状態の姿で見ることもできるし、その状態の彼には困惑した女性に首輪をかけるなんとも言えない背徳感があった。

 だから面倒な散歩の時間が、アリタカは楽しくて仕方がなかった。





「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……」

「ふう、今日もいい汗をかいたでござるな」


 散歩兼ジョギングから帰ると、アリタカはすぐにシャワーを浴びる。

 火照った身体を冷まし、汗を流すためだ。


「おかえりなさい。朝食の準備もすぐにできます」

「ありがとうでござる。今日はオムレツでござるか」

「……食べにくいんですけど」

「あまり食べ過ぎはよくないと聞きましたので」

「文句があるなら外で食べてきていいわよ」


 フェルはユルモに同情しているが、ヴィクトリアを崇拝しているので食事に関しては厳しかった。

 ヴィクトリアはユルモを庇護下においているが、彼女がなにか役に立っているわけではない。そのため文句を言われることに不満があるので、基本的にあたりが強い。

 このメンバーの中でユルモの事を気にかけているのはアリタカだけだった。


 朝食を終えたらアリタカは買い出しに行き、戻ったら昼食の時間だ。

 午後からは基本的にスキルの研究や修行などの自由時間だが、今日はヴィクトリアに呼び出された。


「スキルに関してはあなたも結構詳しいんでしょ? メタモーフの魔法を解除するスキルって、なにか無いのかしら」

「ヴィクトリア殿はすでにメタモーフを獲得していたはず。であれば解除はいつでも可能で……ああ、ユルモ殿のことでござるな」

「そうよ。私も何度か試してるんだけど、他人の魔法は同系統でも操作や解除ができないの」

「基本的には防御魔法と同じなので、攻撃を加えれば壊れはするんでござるが、拙僧犬をいじめるのは無理でござる。それにあれだけの魔力量の鎧を壊すとなると、中のユルモ殿が無事という補償もないでござる」


 ちなみに初歩的な魔法破壊スキルは、基本的に相手の魔力を上回ることで破壊する。普通に破壊するよりは効率的だが、根本的な魔力量の問題を解決できていないのでこの方法は取れない。


「流石に私も無防備な子を殴るのは気が引けるわ。あなたのスキルブックはどう? なにかいい解決策は出てこないの?」

「うーん、いろいろ探してみるでござるが、そんなに簡単には調べられないでござるよ」

「そうなの。エルのスキルブックは話しかけたらすぐに回答を出してくれたのに、人によって違うのね」

「それは凄いでござるな。さすがエル殿、トラマルを倒すだけの事はあるでござる」

「ちなみにあなたのはなんて名前をつけているの? エルのスキルブックの人工精霊はアールって名前だったけど」

「……え? 人工精霊?」


 アリタカにとって、それは初耳の情報だった。


「ええ。人工精霊。スキルブックのレベルが上がると喋るようになるって……え? これ言っちゃダメなの? ああごめんなさいね。なにも聞かなかったことにしてくれる?」

「いやいや、そんなの無理でござるよ!? 喋るって、人工精霊ってどういうことでござるか!? というか、ヴィクトリア殿はいったい誰と喋っているんでござる?」

「あー、あはは。……そうなるわよねー。ごめん、あとはお願い」

『……仕方ありませんね』

「!?」


 ヴィクトリアが拝むように頭を下げると、2人の間に1冊の魔導書が現れた。

 それはボロボロの状態だったが、アリタカには見覚えがあった。


「スキル、ブック……? 本当に喋って……」

『お初にお目にかかります。エル様のスキルブックの精霊、アールと申します』


 これがアリタカとスキルブックの進化の、はじめての出会いだった。



ここまでお読みいただきありがとうございます。


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