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【第五章開始】悪役転生  作者: まな
第三章
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3-30 空間消滅魔法兵器


◆エル



「おらおら! 剣と鎧を装備の意味がねえな! 得意のスキルを使ってもそんなもんかよ!?」

「チィッ! 避けれねえくせに偉そうに!」


 常人なら一撃必殺の右ストレートを剣でいなされ、すぐさま左脚で蹴り上げるが、それも鎧の防御スキルで弾かれてトラマルに距離を取られる。

 トラマルの装備は剣や銃だけでなく、魔石や巻物のような使い捨てで魔法を放つものも多かった。ダメージは大したことがないが、とにかく反撃の密度が濃い。

 火炎魔法や爆発魔法を浴びながら、強引に距離を詰める。魔法が煙幕代わりになっているせいでこちらの飛び蹴りは命中するが、しかしスキルによってそれも無力化された。まるで分厚い空気の壁を蹴ったような感触だ。

 トラマルには息をつけない攻防で疲れが見えるが、それでも自動発動のスキルで倒すまでは至らない。


 トラマルの攻撃のほとんどは身体能力ではなく、スキルをメインにしたものだ。だからと言ってステータスが低い訳では無いが、それでもヴァルデスの肉体には遠く及ばない。

 だがそのスキルが厄介だった。トラマルが防御に使うスキルは本来致命傷になるボクの一撃をほとんど無力化し、命中してもすぐに回復してしまう。

 もちろんそれを強引に突破する強力なスキルもあるが、ボク自身の練度不足により隙が大きい。そのため発動した瞬間に例の狙撃手に悟られて邪魔をされるだろう。

 そうなったら当然スキルは不発になるし、そんな隙を見逃すほどトラマルも甘くない。


 ボクはスキルの練度が足りず、トラマルはステータスそのものが足りない。

 お互いに欠けている部分があるせいで、この戦いは思ったよりも拮抗して長引いていた。


(あの地下でとどめを刺せなかったのが、結構響いているな)


 攻撃のテンポを握っているのはこちらだが、その攻撃を理不尽に処理されてしまうのでだんだん飽きてきた。

 もちろん勝負を捨てたわけでも諦めたわけでもないが、それでも進展のない状況は飽きがくる。

 なにか一撃でこの拮抗状態を打開できる策はないか。

 トラマルを観察しながら自分の習得スキルを思い出すが、ヴァルデスが攻撃魔法を使うのはイメージと違うし威力が全然足りない。

 かと言って戦闘員を今更ぶつけても足手まといにしかならないし、それは逃げるためにする行為だ。

 そう言えばうちの戦闘員は、きちんと仕事をしているのかな?

 考え事をしながら惰性で拳を振っていると、特に致命傷と言うわけでもないのにトラマルが大きく距離を取った。


「……なんだ?」

「ここで逃げたら転生者のチーターとして負けを認める事になる。それを俺は許せねえ! どんな手を使ってでもここでこいつを倒さねえと、俺たちは一生こいつに負け続けることになるぞ!」


 どこかにいる仲間から指示でも来たのか、彼は突然そんなことを叫びだした。

 だがそれは集中力を乱す愚策だ。そんな隙を見逃すはずもなく、ボクは一気に距離を詰める。


「ふん、戦闘中におしゃべりとは余裕だな! ソニックパンチ!」

「チッ!」


 超加速による高速移動によって完全にトラマルの裏に回り込み、隙だらけの後頭部に拳を打ち下ろす。

 しかしそれもまた彼には効かなかった。確かに殴った感触はあるのだが、衝撃で吹き飛ぶだけで致命傷になっていない。


「……くだらねえな。完全に隙をついても防げるのか」

「はっ、これがスキルの力だよ脳筋バカが! 何度食らっても無駄だっての!」


 とはいえ、何も変化がないわけではない。トラマルが装備している鎧から溢れる闇の魔力の濃度は目に見えて現象している。

 たぶんアレはボクのダークオーダーと同じような、強化系の闇魔法なのだろう。彼は魔法を素材に変えることができるので、何かは知らないが闇魔法で鎧を作ったのか。

 そこでふと、ボクはある言葉を思い出した。


『この魔法はまだ取得していないスキルになります。変化を加えると強制的にスキルが解除されますがよろしいですか?』


 これはアリタカが生成した、爆発する金属をゴーレム化しようとしたときの警告だ。

 あのときは単純に自分では加工ができないだけだと思っていたが、後にアールは加工ができないわけではないと教えてくれた。

 この世界でのスキルにとって、魔法も素材のひとつだ。ただしその素材を知らなければ、加工はできない。だが加工はできなくても、加工を試みることはできる。

 つまりクリエイトゴーレムは、同系統のスキルを破壊することができるんじゃないのか?


 思いついたなら直ぐに行動をしない理由はない。

 ボクは今までの殴る蹴ると言った単調な攻撃から、とにかく鎧を掴んだり相手を転ばせたりするような動きにシフトした。

 ……だからと言ってそう簡単に捕まるような相手ではないが。


「避けるんじゃねえ。さっき見てえに鎧で受けろよ! 回避ばかりじゃ勝てねえぞ?」

「お前のへなちょこパンチなんざ受ける理由すらねえんだよ! いい加減、無駄だと気づきやがれ! お前じゃ俺に勝てねえんだ!」


 こちらの思考が読まれているというわけではないようだけど、トラマルの動きも回避が多めになっている。たぶん鎧の魔力が少なくなっているんだろう。

 彼は激しい閃光を使って距離を取り、また誰かと会話を行った。


「クソ、しつけえな脳筋野郎! ヘイヘ、俺は例のやつを使う。お前も覚悟を決めて、ヌークを使え!」

「敵の前で隠し玉を使うなんて宣言して、余裕だな。オイ?」


 ボクの中の脳筋悪役らしく煽ってみせるが、今までと違ってトラマルは乗ってこない。


(雰囲気が変わった?)


 何かが彼の中で切り替わったらしく、その表情には先程まで感じられた余裕がない。覚悟を決めたってやつかな。


「さっきまでは、正直舐めてたよ。転生者であっても、俺たちほどこの世界のシステムを攻略してるとは思ってなかった。だがそれは訂正する。お前は、俺たちバランス・ブレイカーと同じだけの実力がある」

「は? 何言ってんだ? あれだけ必死に逃げ回って舐めてた? 冗談が上手いな」

「一度勝ってたからな。だがもう容赦はしない。今度は、こっちから行くぜ!」

「!!」


 トラマルから闇の魔力が溢れ出す。それはボクが使うダークオーダーと似て非なるもの。

 なるほど、切り札は闇の強化魔法だったか。彼の動きはスキルを発動した瞬間から明確に変わった。剣を構えての突進の速さが体感で倍ほどに違う。

 これを突然発動されていたなら、たぶん斬撃を食らっていただろう。

 しかしボクに聞こえる状態で切り札を切ったら、そんなもの警戒するに決まっている。

 だから、


「……獣霊回帰!」


 ボクもヴァルデスの、獣人の奥義を開放していた。

 瞬間的にトラマルの速度が、倍速になっているように感じた彼の袈裟斬りが、スローモーションのように遅くなる。


「!! んなあぁぁぁにいぃぃぃ……!!」


 彼の驚きの声もゆっくりと聞こえるせいで、笑っちゃいけないのについ口元が歪む。

 トラマルの斬撃の横を抜け、背後から両手で彼の鎧をがっしりと掴む。掴んだ瞬間に自動防御スキルの発動を感じるが、今のボクの前では遅すぎた。


「お前のスキルが一度に全部発動すると、いったいどうなるんだろうな?」


 ボクは掴んだ鎧に対してクリエイトゴーレムを発動。

 その瞬間、視界のすべてが魔力に包まれた。



◆ヘイヘ



 ヌーク。核兵器を意味するそれは、トラマルたちが開発したこの世界におけるバランス・ブレイカーの最終兵器だ。

 スキルを解析し、魔法を物質化し、いくつもの組み合わせを地道に試して作り上げたそれは、実のところ実験そのものは失敗していた。

 トラマルたちが欲していたのは空間転移やテレポートと呼ばれる魔法であり、存在そのものはあるのだが入手には至らなかった。

 しかしその過程で偶然生まれた魔力暴走による空間消滅魔法兵器。それがヌークだ。


『ヌークを使え』


 トラマルにはそう言われているが、あれは周囲の全てを巻き込む。ヘイヘはすぐに判断を下せなかった。

 ヌークはファンタジーにおけるブラックホールのように、発生地点を中心に魔力が尽きるまであらゆるものを吸い込み続け、最後には消滅する。

 まさに最終兵器にふさわしい威力を誇るが、トラマルたちはこれがテレポートの、異世界へ渡るための扉の失敗作だと認識している。

 つまり吸い込まれた先があるはずなのだ。ヘイヘが躊躇っているのは、この兵器は問題を先送りにしているだけで、実際には解決策ではないという点。

 ただ、吸い込まれる過程で巻き込まれたものが魔力分解されてしまうため、その先がどうなっているのかわからないし、転生者ヴァルデスであってもそれを生き延びれるとは思わないが。


「……それを使わなければ勝てないと、トラマルが判断したのでしょう? なら、使ってください。彼が勝てなければ、私たちも彼の後を追うことになります」

「…………しかし」


 ヌークは、魔力暴走を強制的に引き起こさせるものだ。つまり最低でも弾を命中させる必要があり、その対象の魔力量が大きくなければ発動しても威力が出ない。

 ヴァルデスには当たらない。やつは壁を抜ける銃弾すらも回避した。

 地面に当たっても意味がない。自然界の魔力量は豊富だが、励起状態ではない。不発に終わってしまう。

 では何を撃つべきなのか。決まっている。敵のすぐ側で戦っている、もうひとりの転生者だ。

 この銃弾を使えば、ヴァルデスは倒せる。だがそれは同時に、トラマルを殺すことにもなる。


『お前も覚悟を決めろ』


 トラマルの言葉が脳内に響く。

 銃弾は切り替えるが、それでもすぐには撃てなかった。ヘイヘは、友人を撃てるほど悪に染まってはいない。

 眼下では覚悟を決めたトラマルが闇魔法、ダークブーストを発動。彼のステータスを引き上げる強力な魔法だ。まだチャンスはあるのだと、ヘイヘは思った。

 闇魔法のバフに鎧のバフを重ねたトラマルの、正真正銘全力の一撃。しかしヴァルデスはそれ以上の速度で回避した。やつもまた、全力ではなかったのだ。

 その瞬間すぐに悟った。これはダメだ。トラマルの指示に従うしかない。

 トラマルを、撃つしかない。


「シェスタ王女は急いで飛行機へ、あの乗り物に走ってください」

「え?」

「早く!」

「わ、わかったわ!」


 トラマルがヴァルデスに後ろから掴まれる。何をするつもりか知らないが、ここまで届く強力な魔力反応があった。

 決めるなら、今しかない。


「――ふっ」


 軽く息を止め、鎧越しのトラマルの心臓を狙う。

 恐ろしく軽い狙撃銃の引き金を引くと、おもちゃのような乾いた音が耳元に響く。

 ヘイヘのスキルによって軌道補正された弾丸は、寸分違わずトラマルを射抜く。

 ヴァルデスの方は当たらないとわかっていたのか、回避もせずにスキルを発動する。


『俺の勝ちだ』


 魔力に包まれる最後の瞬間。トラマルの口はそう動いていたように見えた。



ここまでお読みいただきありがとうございます。


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