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【第五章開始】悪役転生  作者: まな
第三章
82/173

3-29 転生者vs転生者

おそくなりました


◆エル



「行け行け―! お前たちの自由はお前たちで掴み取れ!」

「「「ウオーッ!!」」」


 シャドウキャリアーによって改造されたバランス・ブレイカーの被害者たち。彼らは足りない部位をシャドウレギオンで補い、ダークオーダーの闇の魔力によって強化されていた。

 彼らは闇の魔力のせいで、負の感情が暴走している。そのため本来なら戦いどころか武器も持ったことのないようなものも、拳を振るい上げて雄叫びを上げていた。


「こちら王都中央基地! 暴徒の群れに襲われている! 門番は何をしていたんだ!」

「無理を言うな! やつらは地下から現れたんだぞ!? あそこは俺たちの管轄下ではない!」


 アリタカから聞いていたが、やはりバランス・ブレイカーの活動は一部の人間しか知らないようだ。そのため今回のような緊急事態に全く対応ができていない。

 兵士が持つ武器も基地内部のせいで剣くらいしかなく、その程度であれば強化された暴徒で十分に倒すことができた。


「お前たちが、お前たちのせいで!」

「や、やめっ!」

「軍人の施設だと! ふざけやがって!」

「ぐはっ!」

「あんなに、あんなに助けを求めたのに! あなたたちは何もしなかった!」

「俺たちは何も知らない! 知らなかったんだ!」


 基地内は混乱に見舞われていた。

 斬っても突いても倒れない暴徒と、戦いにならず逃げ惑う兵士たち。同士討ちを恐れて遠距離武器も使うことができず、怒りの軍団は兵士を飲み込んで外に向かって突き進んでいた。

 飲み込むというのはただ押しつぶしているだけではない。

 文字通りに倒された兵士たちをシャドウキャリアーがその闇の魔力で屍兵へと変え、暴徒の群れはどんどん巨大化している。


「いい眺めだ。悪の怪人と暴れる戦闘員。これが求めていた正しい悪の怪人だ」

『その最後に負けて死にたいというのだから、私には理解できませんね』


 群衆の最後尾を悠々と歩きながら、しかし警戒は怠らない。

 トラマルを追い詰めていたあのとき、魔力を溜めた拳目掛けて飛んできた弾丸。

 アレは扉の向こうから放たれたものではない。角度的には拳よりも上から、たぶん壁も床も抜けて、地下室への階段の途中辺りから飛んできていた。実際に階段を登る最中にトラマル以外の匂いが混ざったので、アリタカが言っていた他の転生者なのだろう。


 結局閉じ込められていた建物を出るまで、兵士以外の妨害はなかった。

 だが基地を出てもまだ敷地の中だ。外には完全武装の兵士や例の大砲がこちらに照準を合わせて並び、塀の上や監視塔にも狙撃手が見える。

 地下室にいたものたちの開放にはまだ遠い。


『そこまでだ! どうやって入ったかは知らないが、抵抗を止めておとなしく投降しろ!』

「ふざけるな! 俺たちはお前たちに連れてこられたんだ!」

「そうだ! ただの農民が、いったいなにをしたと言うんだ!」

「お前たちのせいで、一緒に掴まった仲間は死んだんだぞ!」


 拡声器のようなものを使って投降を促している上官は、こちらの言い分を理解できていないようだ。忌々しげに部下となにか会話をしているが、それは聞こえてこない。

 たぶん偉そうな人をボクが殺してしまったから、地下のことを知る人間がいないんじゃないかな。

 仮に知っていたとしても、どう考えたって軍の不祥事だ。ここにいるのは無理やり連れてこられた奴隷という商品であり、素材は当然ザンダラの国民。

 表沙汰にするわけには行かないので、ボクならまた捕まえるか、ここで殺して何もなかったことにする。

 そして周囲の兵士たちは、状況こそ理解できていなかったが後者を選んだ。


『投降の意志はないと判断した。標的は前方暴徒、構え! 放てー!!』

「あいつら撃ってきたぞ!」

「許せない! 許せない許せない許せない―!」

「殺せ―! 奴らも同じ目に合わせてやるんだ!」


 地下にいた彼らは銃を知らないはずだけど、たぶんシャドウキャリアーの知識を得たんだろう。

 彼らは銃弾も砲弾も恐れずに兵士に向かって突き進み、付け焼き刃の格闘術で攻撃を開始した。


「班長! 敵に銃が効きません! 当たっても、弾かれています!」

「なんだと!? そんな事があるわけ……!」

「砲弾命中! しかし、爆風を無視して突っ込んで、うわあああああ!!」

「近寄らせるな! 撃て! 撃ちまくれ!」

「ぎゃああああ!!」


 周囲から聞こえてくる阿鼻叫喚。バランス・ブレイカーの最新武器を装備した兵士たちが、ほとんど素手の暴徒に倒されていく。

 いいね。戦闘員は普通の武器では倒せない。そういう特徴が実によく反映されている。

 しばらくその様子を眺めていると、不意に一部から強大な魔力反応があった。そちらに視線を向けると、シャドウキャリアーによって強化されていた群衆が吹き飛ばされた。


「うわー!」

「キャーッ!」

「撃っても死なないし、倒されると敵になるとかゾンビパニックかよ?」

「……ようやくお出ましか」

「余裕だなヴァルデス。さっき殺せなかったことを後悔させてやるぜ!」


 魔力反応の発生源は、当然正義の味方ではなく、トラマルだ。

 まあいいけどね。今回は正義の味方に期待しない。それに、彼とは決着をつけるつもりでいた。


「来いよヘタレ野郎! 今度はお前のスキルを、正面からぶち壊してやる!」



◆ヘイヘ



 基地の中央棟最上階。万が一のときのために用意してある垂直離陸機の発着場から、ヘイヘは地上のトラマル対ヴァルデスの戦闘を見ていた。

 当然手ぶらというわけではない。本来は魔物を撃つための特別製狙撃銃を構え、いつでもヴァルデスを撃ち抜けるようにトリガーに指をかけている。

 最初に見たときは銃が悪かった。あのときの装備は対人用の汎用的な銃であり、自身の貫通スキルをどれだけ重ねがけしても、ヴァルデスの外部防御力(・・・・・)を突破できるとは思えなかった。

 だが今の銃ならそもそもの威力が桁違いだ。どれだけ硬くても所詮は人間の防御力。2度の戦闘とトラマルの鑑定からおおよその基礎能力値は判明している。今回は、当たりさえすれば、確実に仕留められる。


「……当たれば、な。確かにトラマルの言う通りだった。あいつに罠は通じない」


 ヘイヘはゆっくりと息を吐きながら、スコープを覗き続ける。

 先のトラマルとヴァルデスの戦闘中。完全な死角である壁越しの狙撃を、煙幕の中でありながらやつは回避した。メインはトラマルの逃走の補助だったとは言え、当てるつもりで撃ったし、当たったのなら確実に腕を吹き飛ばしていた。

 だが結果は見ての通り。やつは生きているし、それどころかどういうわけか地下の被検体を操って、ザンダラ軍に襲いかかっている。

 なんのスキルかは知らないが、異常な身体能力に加えて広範囲の強化なんて、転生者であってもあれはチートだとヘイヘは心のなかで憤っていた。


「トラマルは、勝てますよね?」

「シェスタ王女。危険なので、あの乗り物から出ないでください」

「……彼が負けたら、どのみち私の命はないんでしょ? 私は彼の話に乗ると決めたわ。だから、見届けたいの」


 研究員風の白衣を着たシェスタは裾を硬く握って、覚悟を決めたように言った。


「はあ……それなら、これを使ってください」


 ヘイヘはトラマルの双眼鏡をシェスタに手渡し、再び地上の状況に視線を戻す。


「……2人とも動きが早すぎて、いったいなにをしているのか。……っ! 今トラマルが斬ったわよね? なぜ相手は平気なの?」

「ギリギリの動きで回避しているからです。あの鎧を装備したトラマルのステータスは常人を遥かに上回る、それこそ伝説上の英雄にも引けを取らないでしょう。しかしあのヴァルデスという男もまた俺たちと同じ転生者。元々人間よりも優れた獣人の高ステータスに転生者のチートが上乗せになることで、トラマルと同レベルの戦闘能力になっているのでしょう」

「……相手も一筋縄ではいかないということね」


 悔しいがそのとおりだ。トラマルもヘイヘも地下での戦闘はこちらの装備不足だと考えていた。装備さえあれば、完全武装状態ならそこまで手こずる事はないと考えていた。

 しかし実際には、不覚にもいい勝負をしている。その間にもやつは地下の被検体を使って、軍の兵士たちを次々に打ち倒している。つまりヴァルデスは全力ではないはずなのだ。

 トラマルの攻撃は決して手を抜いているわけではない。それどころか今までで一番キレが良い。鎧によるステータスの上昇。魔剣のスキルを使った不意打ちにフェイント。マジッククラフトで作成した使い捨てのアイテムによるスキルの連打。

 トラマルの現在持てる全てを使ってなお、ヴァルデスにダメージらしい負傷はない。鑑定で確認したときよりも、明らかにステータスが高い。


「王女、その双眼鏡には鑑定のスキルが付与されています。相手を見続けている今ならリアルタイムの情報が確認できるはずですが、なにか変化はありませんか?」

「え? そう言われても……あら、そう言えば上の方になにか黒く靄がかかった文字列が……」

「! ちょっと貸してください!」


 ヘイヘが双眼鏡のスキル表示を確認すると、そこには読みづらいが確かに彼が発動しているスキルが表示されていた。


「……ダーク、オーダー……? ッ! 闇魔法か!」

「! それって、トラマルの鎧と同じじゃない!」


 正確には同じスキルではないが、強力な闇魔法という点では一致している。

 であればスキルの優位性はイーブンであり、ステータス差はむしろ獣人であるヴァルデスが有利だ。装備の差はあれど、スキル目的で作成されているトラマルの鎧や武器では差は埋まらない。


「トラマル! 逃げろ! やつも闇魔法を使っている! 今のステータスに差はないぞ!」


 焦ったヘイヘに対するトラマルの返事は彼らしくない、いや、だからこそ逆に彼らしい熱いものだった。


『ここで逃げたら転生者のチーターとして負けを認める事になる。それを俺は許せねえ! どんな手を使ってでもここでこいつを倒さねえと、俺たちは一生こいつに負け続けることになるぞ!』

「だが、どうするつもりだ!? 今のまま戦い続けていても、お前では勝てない!」


 それに対する返答はない。トラマルは戦闘中だ。逃げるならともかく、戦いながら喋る余裕はない。現に通信をした瞬間からヴァルデスの攻撃は激しくなった。

 しばらくして、虎丸から再度通信が入った。


『クソ、しつけえな脳筋野郎! ヘイヘ、俺は例のやつを使う。お前も覚悟を決めて、ヌークを使え!』



ここまでお読みいただきありがとうございます。


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