3-24 爆薬とゴーレム化
少し短いです。
「自爆して、死ぬ? それに悪役とはいったい……何を言ってるんでござるか?」
「お前も一度くらいは観たことがあるだろ? 日曜の朝にやっているお話だ。俺はこの世界に来る前はそれだけが唯一の楽しみだった。そしてそのときに決めたんだ。悪役らしく自由に振る舞って、正義の味方のために死ぬ。すでに何回か死んでいるが、今までは爆発が足りなかった。だがこれさえ手に入れば完璧だ。……ところでこいつはもっと派手な色にできないのか?」
「特撮ヒーローなら拙僧も観たことがあるでござるが、そこまで悪役に思い入れがあるとは。いや、それがヴァルデス殿にとっての拙僧のエルフなのでござろう。何度も死ぬほどの目に遭うとは、今まで苦労したんでござろうなあ。ちなみにその爆薬と特撮とでは爆発しているものが違うので、光魔法で色を混ぜるくらいしか思いつかないでござるな」
色はすぐにはつけられないのか。少し残念だ。
それはそうとエルフか。悪役の爆発と破戒僧の色欲を一緒にしてほしくないけど、ボクは最初この世界に来たときに会ったことがある。当時はうざい人質だったから殺してしまったけど。
「俺は前にエルフと会ったことがあるが、お前が言うほどの美人だった覚えはないぞ。身体つきは貧相だったし、顔色も悪かった。顔だけなら今のお前のほうが幾分マシだな」
「拙僧を女扱いするのはやめてほしいでござる! それに、エルフと言えど個人差があるのは仕方がないことでござ。拙僧はエルフを求めていても、エルフならなんでもいいというわけではないでござるよ!」
それもそうか。盗賊村で奴隷にされていたわけだし、今思えば健康状態が悪かったのかもね。
ともかくボクは爆薬を手に入れた。厳密には爆薬とはちょっと違うが、派手に爆発するならそれでいい。
早速クリエイトゴーレムで爆発魔法の金属を変化させようとすると、聞き慣れないエラーが脳内に響く。
『注意! この魔法はまだ取得していないスキルになります! 変化を加えると強制的にスキルが解除されますがよろしいですか?』
「ああん?」
「どうしたんでござるか?」
「いや、俺のスキルで使いやすいようにゴーレムにしようとしたら、警告が出たんだ」
スキルが解除されるというのは、たぶんトラマルが金属化させているスキルのことだろう。だが取得していないということは、どうにかすれば取得できるのか?
いや、前例ならある。この金属のもととなったものはトラマルのスキルだが、これ自体を生み出したのはアリタカだ。
アリタカは彼自身が生み出した金属なのに、トラマルでないと起爆できないと言っていた。
しかしそうなると、アリタカが自在に加工できると言っていたことと矛盾するような……
「この爆薬は加工可能なんだろ? なぜ俺のスキルでは弾かれるんだ?」
「うーん、すぐには分からないでござるなあ。どれ、拙僧も試してみるでござる。メタルボール! ……加工できたでござるよ?」
「なに?」
メタルボールは土属性のボール系初級スキルだ。アースボールやらマッドボールやら種類がある。この系統は発生させるのには他の属性より魔力消費が激しい分、すでに存在する土や金属を操作するのは簡単という特徴がある。
そしてアリタカはあっさりと爆発する金属を球体に変化させ、そのまま弾頭のように伸ばしたり、お皿のように平らにしたりしてみせた。
「それはお前が作り出した金属だから、お前は簡単に操作できるとかじゃないのか?」
「いやいや。流石に軍隊で運用するための大量生産品を、いちいち手作りするのは効率が悪いでござる。拙僧だって毎回同じ形に作れる訳では無いし、そんな不揃いなものをトラマルが使うわけ無いでござる。拙僧は金属を生み出して納品し、あとの加工は王都にある軍の研究工場で行っているはずでござる」
「……ならなぜ俺にはできないんだ?」
その問いに答えたのは、今までずっと黙っていたアールだった。
アールは姿を表さずに脳内に直接答えを届ける。
『簡潔に説明しましょう。トラマルの使用しているスキルと、エル様が行おうとしているクリエイトゴーレムは、内容こそ違いますがなにかを変化させると言う点で同じものです。そのため同種のスキルが競合する形になり、元となった爆発魔法をエル様は所持していないためゴーレム化は不発。そのため使用できないのです』
なるほどなあ。
アールの説明によれば、トラマルとボクとで同じ素材を取り合っている状態というわけだ。
これは元となっているのが爆発魔法だからわかりにくいけど、他の素材なら簡単に理解できる。
例えるならある金属でトラマルは剣を作り出した。ボクはそれを奪ってゴーレムを作ろうとしている、という状況だ。そしてボクはその金属を加工するための技術がないので、剣をゴーレムにできないでいる。
例え話終わり。
でもそれなら、爆発魔法を使えるようになればゴーレム化できるってこと?
『はい。……今更何を言っているんですか? アクアボールも、シャドウアフターも、ダークオーダーすらも、エル様は今までいくつもの魔法をゴーレムにしてきたではありませんか』
「……うーわ、マジかー」
「? 口調がおかしいでござるよ?」
『全く同じように、とは行きませんが、ヒントはすでに持っているはずです』
そう言ってアールはふっと消えていく。脳内妖精なのに、何故か存在感があるんだよなあ。
「なんというかな。俺にはこの爆薬を加工できないが、俺は元々爆薬を製造できたらしい……」
「? それは、よかったのではないでござるか?」
「今すぐにはできないんだ。まったく、とんだ無駄足だぜ」
トラマルに負けたのはボクが悪いけど、わざわざここに来る必要はなかったなんて。
でもこの爆薬がなければ、ここで加工に失敗しなければ、アールはヒントをくれなかったんだから、全くの無駄というわけでもない。
でもテンションは下がるよね。
「はーあ。もういいや。アリタカくん、これなんかこう適当に、丸っこく加工して」
「!? ど、どうしたんでござるか!? ヴァルデス殿? おーい?」
テンションの下がったボクはふて寝をすることにした。
あーあ。次の目標はどうしようかな。
◆アリタカ
「おいアリスー。あの死体は直ったか?」
アリタカは寝てしまったヴァルデスを置いて倉庫から自室に戻る途中、トラマルに声をかけられた。
「な、なんでござるか?」
「ああ? 何だじゃねえよ。直せって言ったろ? どこまで進んでる?」
「あ、ああ! 拙僧の持つスキルでは直せそうになかったので、魔導具をつけるか新しくスキルを取るか、考えていたんでござる!」
「そうかよ。それならなぜここにいる? 期限は2日だ。直すまで出てくるんじゃねえよ」
「……ご、ごはんぐらい食べたっていいでござろう?」
実際にはヴァルデスは生き返ってしまったのだが、アリタカはそれを報告しなかった。
トラマルの絡みはいつもの難癖だ。それに対してアリタカはなんとか言い返すが、彼は黙って睨んだままそれ以上何も言わない。
アリタカは彼の相手をするのが嫌なので、すぐに視線を反らす。
「……そんなに気に入らないなら、携帯食料を持って戻るでござるよ……」
「チッ……ナヨナヨしやがって、そのくせいっちょ前に言い返してきやがる。お前を見てるとイライラするんだよ。なにか言いてえなら男らしくはっきりと言え! 女々しいままならさっさと俺の前から消えろ!」
消えろと言うくせに自分から去っていくトラマルに、アリタカはため息を吐く。
「拙僧だって、男らしくありたいでござるよ……」
アリタカは自分の整っていて愛らしい顔が嫌いではない。むしろ好きだ。
だけどそれはナルシズムではなく、自分の顔の都合の良さを理解してしまっているからであり、本音で言えばもっとかっこいい顔が良かった。
別にイケメンでなくてもいい。ブサイクでも、肉体が立派ならそれがいい。
と同時に、自分の顔の評価を知っている。アリタカは男子校寮生活時代に、自分の顔がグラビアアイドルの顔と入れ替えられているのを知っていた。
同級生や先輩たちが自分をかわいがってくれたのは、男としての不憫ではなく、女のような可愛らしさからだと知っていた。
そしてアリタカ自身も、その境遇に甘えていた。
自分に男らしさはない。どれだけ鍛えても筋肉がつきにくく、太ろうとしても長い寺生活のせいで多く食べることができない体質になっていた。それは転生した今でも変わらない。ステータスは増えても、身体の変化は大きくない。
仮に男としてあの男子寮にいたのなら、アリタカのカーストは最下位になっていただろう。舎弟やパシリならまだマシで、上級生に気に入られると彼らのあんこにさせられていた。最悪のカースト最下位だ。
ではなぜアリタカが無事でいられたかと言えば、ひとえに女顔のおかげだ。普通ならこの顔と身体ならとっくの昔に犯されていたであろうところを、この顔と世間知らずで初な身の上のおかげで上級生たちに気に入られた。
換えのある玩具ではなく、珍しい愛玩動物として、アリタカは男子寮という牢獄に迎えられた。
男らしさだけが全てを支配する世界を、女っぽさだけで乗り越えた。乗り越えてしまった。
(……ああ、拙僧にもヴァルデス殿のようなモノがあれば、トラマルなんかに気後れしないのに……!)
彼がこのような考えを持つのも、愛らしい顔と男らしさの両立から来ている。
負の成功体験が、アリタカの心を歪ませているのだった。
(しかし、ヴァルデス殿の変化はいったい何であったのでござろう?)
アリタカは食料をカートに積み込みながら、ふと最後の会話を思い出す。
直前までは俺様系のような口調だったのに、爆鉄が加工できないとわかると突然子供のように投げやりになっていた。
もう一度話をしてみる必要がありそうだ。
しばらくトラマルに出会わないように、食料の他にも着替えや寝具を積み込んでアリタカは倉庫に戻った。
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