3-23 アリタカという男
少し下品な表現があります。
みなさんブックマークありがとうございます。
更新遅れて申し訳ございません。
「拙僧は迷寺 有崇! 断じてアリスでは、女ではござらん!」
ボクに押さえつけられながら必死に睨みつけてくるアリタカ。
だけど華奢な身体で整った顔立ちのせいで、どこかヒロインのように見えてしまう。彼は悪くないし、アリスと呼ばれているのもコンプレックスみたいだけど、彼はどちらかといえば可愛い部類の人種だ。
「そいつは悪かったな、男のアリタカ。それで? 男のお前がなんで俺の下半身を弄ってたんだ? 悪いが俺は男には興味がねえ」
「! ち、ちが、そういうのでは、ないでござる……!」
顔を真っ赤にして涙目で言われてもなあ。
「それよりも! なぜ生きているのでござるか! 拙僧は死体を直すように言われて、生きているだなんて聞いていないでござるよ!?」
「ヴァルデスは死んでいたさ。そしてまだ死んでいる。動いて喋っているが、お前を押さえつけているのは正真正銘死体だぜ? 鑑定で確認してみろよ」
「動いて喋れば生きているのと変わらんでござ! それに拙僧には鑑定スキルは無いでござる!」
鑑定は便利スキルだからみんな取るものだと思っていたけど、意外と取得率は低いのかな?
「ふん、まあいい。それより俺は欲しい物があってここに来た。そいつが手に入ればお前は放してやる。協力しろ」
「……うう、拙僧の周りにいる奴らは、みんなそんな事を言うでござる。せっかくの転生ライフなのに、全然自由がないでござ……」
「何だお前、自分からバランス・ブレイカーに入ったんじゃないのか?」
ボクの何気ない問に、アリタカはとくとくと語り始めた。
「違うでござる。拙僧は山の向こうから、エルフの自治区を目指してきたのでござる。知ってるでござるか? エルフと言えば美男美女の長命種。ファンタジーと言えばエルフという程、拙僧の憧れでござった。ここからは自分語りでござるが、拙僧は寺生まれ故に過度な禁欲を押し付けられてきたのでござる。中学までは市立だったでござるが、高校は僧侶の修行ということで強制的に男子校に入れられたでござる。そこは女人禁制の全寮制。ただでさえ趣味を禁止されていたところに、中学時代にはまだあった異性との交流すらなくなると、拙僧はどうなってしまうのかと苦悩していたでござる。しかしいざ入学すると、なんとそこには楽園があったのでござる! 全寮制の宿舎の中には日々の鬱憤を晴らすための漫画が、小説が、テレビが、ゲームが、そこにはあったんでござる! 拙僧はそれまでの禁欲生活から開放されて、たった1日で世俗の快楽を貪り申した。そんな拙僧を哀れんだ先輩方からは、更にお菓子やジュースまで! 拙僧たった1日で男子寮の頂点に君臨したのでござる!」
「…………」
「拙僧はそれはもう可愛がられ申した。同室のものには制服の準備どころか下着の着替えまで手伝われ、大浴室では毎日違う先輩方に隅々まで洗ってもらったでござる。使ったこともないいい匂いのするシャンプーを奢ってもらい、ある先輩には化粧水や肌のケアの仕方まで教わったでござる。疲れただろうと、毎日マッサージをしてくれた先輩も居たでござるなあ。しかし拙僧、ある日気づいてしまったんでござる。この生活、何かがおかしいと」
うん。そうだね。今の時点では可愛い顔をした後輩を可愛がる先輩しか居ないしね。
エルフの話はどこに行ったのさ。
「そう! 先輩方は、いや、同級生たちも! 拙僧に隠し事をしていたのでござる! 拙僧も最初は迷った。あんな優しい方々があえて隠している秘密。それを暴くのは、裏切りなのではないだろうかと。しかし禁欲から開放されていた拙僧は、倫理のストッパーも緩くなっていたのですぐに行動に移したでござる。そして、拙僧は見つけてしまったんでござる!」
アリタカはそこで話を区切り、こちらにチラチラと視線を送ってくる。
別に興味はないけど、これが終わらないと話が元に戻らないんだろうな。
「……なにを?」
「ふひ、聞きたいでござるか? 恥ずかしいんでござるが……拙僧が見つけたのは、ふふ、エロ本でござる」
聞くんじゃなかったなあ。
「拙僧は同室のものが、夜な夜などこかに消えていくのを知っていたんでござる。その際になにか持っていくのも聞こえていたでござる。見つけ出すのには苦労したでござるが、その甲斐あって更に一歩踏み込んだ快楽を知り申した! おお、まさにあれこそ解脱であった! そして同時に怒りが湧いたのでござる。なぜそれを教えてくれなかったのかと、拙僧は同室のものを問いただした。彼は言ったでござる。それは修行の果てに見出すものであって、他人が教えるべきものではないと。そしてそれは同時に穢れでもあるのだと。彼は、先輩方は、拙僧が穢れに塗れて堕落しないよう、必死に隠していたんでござる! 拙僧は後悔した。なぜ無闇に他人の秘密を暴露したのかと。拙僧は酷く後悔して、それ以来エロ本を封印し、と同時にその本に描かれていたエルフをずっと求めているのでござる」
「……話飛んだか?」
「飛んでないでござるよ? 拙僧はエルフと交尾がしたいんでござる」
気持ち悪。ボクは思わず彼を押さえつけていた手を放した。なにかいい話かと思ったら、煩悩まみれの変態だった。
手を放してしまったけど、アリタカは倒れた姿勢のままふうと息を吐く。
「拙僧が求めるのはエルフのハーレム。そのためにここまで来たというのに、拙僧はトラマルたちに捕まったんでござる。そして自分たちの手伝いをしなければ殺すと脅され、今もここにいるんでござる」
「……さっきの話をあいつらにもしたのか?」
「いや、してないでござるよ。トラマルたちからは、中学校の頃のいじめっ子と同じオーラがあったでござる。拙僧の夢を語ったところで、あいつらには理解できないでござる」
ボクにも理解できないけどね。
「じゃあなんで俺には話したんだ?」
「……ヤケでござるよ。ヴァルデス殿にはわからんでござろうが、男子寮の序列は***の大きさで決まるでござる。拙僧はその出自故に良くしてもらってでござるが、あそこではあそこの大きさが全て。もちろんそれに見合う体格や筋力、腕っぷしなんかもたまには必要でござるが、***が大きければそれだけでイチモツ、おっと、一目置かれていたのでござる」
なるほど? たぶんそれは間違ってると思うけど、その理屈だとヴァルデスのものは彼の腕くらいの大きさがある。それなら彼が勝手に諦めるのも無理はない。のか?
「拙僧の負けでござる。ヴァルデス殿に開放されたところで、どうせここからは出られない。なんでも聞くといいでござ。なんでも答えるでござるよ。ちなみに童貞で処女でござる。指まではノーカンだと聞いたので。エルフとしたいプレイはやっぱりスライム系触手が……」
「そんなものは知らん。聞いてもいないし聞きたくもない。勝手に喋るな。俺が知りたいのは爆薬いついてだ。あのトラマルや、正規軍が使っていた大砲の爆薬について知りたい」
ようやく話が進んだ。早速爆薬について尋ねると、彼はこちらに振り返って正座して答える。
「それについてはよく知ってるでござるが、答えを聞いてもあまりがっかりしないでほしいでござる。もちろん気に入らないからと言って、暴力を振るうのもダメでござるよ?」
「いいから答えろ」
「……あの爆薬は、トラマルの職業とスキルで作られた魔導具なんでござる。彼の職業はマジッククラフター。魔導師と錬金術師の複合系に当たる、オリジナル職業でござる」
「オリジナル職だと? なんだそれは?」
ボクの問いに、アリタカはスキルブックを呼び出した。彼のスキルブックはタブレット型になっていて、レベルが上っていることがわかる。
彼は慣れた手付きでタップとスクロールを繰り返し、目当てのページをこちらに見えるように渡してきた。
「オリジナル職業。それは複数の職業の特徴を併せ持つ、この世界には存在しない職業でござる。条件は厳しいでござるがその分強力な、ユニーク職業とも呼べるものでござるな」
取得条件自体はわかりやすい。複数の上級職業を極めることだ。その時点でボクには無理だし、この世界の人間でも難しいだろう。
上級職というのは、例えば魔法使いなら魔導師や賢者。剣士なら剣豪や師範代など、その道のエキスパートだ。
まずこの時点で、この世界ではそこまでたどり着くものが少ない。生物を殺すと経験値が手に入るというシステムがあっても、職業を極めるのに必要なものはまた別だ。条件は職業によって異なるが複数のスキルを極めたり、基本ステータスを要求されたりとなかなかに厳しい。
その上でそんな職業を最低でも2種類以上極めないといけない。これができる人間が、果たしてこの世界にいるんだろうか。仮に極めてもそれらの職業から新しい何かを閃かなければ、オリジナル職業には到達できない。素人目に考えても、この世界には存在しないと思えてしまう。
「トラマルのマジッククラフターは、一言で言えば魔法スキルを魔導具に変えるものでござる。鑑定スキルをレンズに変えて双眼鏡にしたり、爆発魔法を金属に変えて弾丸を製造したり。もちろんなんでも自由に変化、というわけではないようでござるが、自由度はとても高いでござる。結論を言うと、バランス・ブレイカーは彼の作り出した魔導具で成り立っている組織でござる」
そう言われると、様々な出来事が納得できる。
まず先の戦闘において、彼がばらまいた弾丸を爆発させるときの魔力反応がとても小さかった。あれがスキルの発動ではなく、解除だったのなら、それほど不自然ではない。
まあ発動だとしても爆発を避けなかっただろうし、結果は変わらないだろうが。
それとメルシエに使用されていた呪具の件もこれだろう。本人を拘束する自縛魔法も、トラマルのスキルを使えば他人を拘束できる魔導具になる。
でも、そうすると宛が外れたな。
「つまりなんだ。爆薬は手に入らない。そういうことか?」
「……」
おや? 手に入らないならそうと答えればいいものを、アリタカはなにか思い悩むように俯いている。
「答えろ。爆薬はないんだな? あれはやつのオリジナルスキルで、技術的なものではないんだな? どう答えてもお前は開放してやるから、さっさと答えろ」
「その、確かに爆薬に関しては、トラマルのスキル由来のものでござる。しかし正規軍の圧縮榴弾に関しては、拙僧が作り申した。だから許してほしいんでござる!」
「……ほう?」
トラマルは意を決したように顔を上げ、ヴァルデスになってから何度も見ることになった土下座をしてきた。
「拙僧、漫画に憧れて他人のスキルをコピーできる、その名もズバリ『コピー』のスキルを持っているでござる! バランス・ブレイカーに拘束されているのは、トラマルの爆発する金属をコピーしてしまったからで、ヴァルデス殿を殺してしまったのは、間接的には拙僧なんでござる!」
「……俺が死んだのは些細な問題だ。許してやる」
「ほ、本当でござるか!? ありがたいでござる! ***が大きいと懐も大きいんでござるな! 感謝感激でござる!」
「なんでもそれに絡めるのをやめろ。ところでコピーしたのはそれだけか?」
「今の時点ではそうでござる。『コピー』には色々と制約がござって、爆発する金属が本命ではないと知ったときにはトラマルの怒りを買ってしまい……」
また話が長くなったが、まとめるとアリタカはトラマルと出会ったときに敵対を恐れて、バランス・ブレイカーの仲間になった。
行動をともにするうちに彼の武装の1つである爆発する金属をコピーし、スキルを同条件に持って行って待遇改善の交渉をしようとした。
ところがその思惑は失敗。コピースキル自体は有用なので生かされているが、兵士以下の扱いなのだとか。
「なのでほら、爆薬だけは作れるんでござる! このあとの加工も自在でござるよ」
そう言ってアリタカは手のひらにこぶし大の金属塊を出現させる。このサイズで倉庫を吹き飛ばした砲弾2発分になるらしい。
「加工って、爆発の危険とかはないのか?」
「無いでござる。この爆薬には欠陥があって、爆発させるにはトラマルがスキルを解除させるか、強制的に金属化させているスキルを破壊しないといけないんでござる。圧縮榴弾に仕込まれているのは後者でござるな。幸いスキル強度自体は拙者の劣化コピーを参照するので、聖属性の魔石で簡単に解除できるでござる」
まあそれが高いんでござるが、とアリタカは笑っているが、なるほどスキルを解除できれば問題ないのか。
それならボクには問題ないな。
「よこせ」
「いいでござるが、それを使ったところでトラマルには勝てないでござるよ?」
「いいんだ。これは負けたあとに、自爆するのに使う」
「は?」
アリタカは理解できないようだが、これはボクの美学だ。そのためなら、たとえ敵のスキルであったとしても構わない。
ボクが爆発して木っ端微塵になるのなら、何だって構わない。
「悪役は、爆発して死ななければいけない。それが世界の約束だ」
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