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【第五章開始】悪役転生  作者: まな
第三章
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3-20 オディアール

吐瀉表現があります。


「……うぷっ、ふーっ、はーっ、う、おろろろろ……!」


 ユルモは相変わらずだった。

 彼女の死体を用意して追跡を逃れようとしたのに、また吐いた。これじゃあ意味ないよ。


「おい。お前のために死体を用意してやってるのに、吐くんじゃねえ」

「……わがっでまず、わがっでますが、うぅ……」


 ユルモと受付の職員の背格好がちょうど良かったので、切り離した頭部をクリエイトゴーレムで整形していたときの事だ。より本物に近づけるためにユルモの顔の隣に首を並べただけなのに、なぜ吐くかな。まだそんなに臭くないよ。


「まあいい。どうせお前にも姿を変えてもらう。好きなだけ吐け」

「……え? 私を、あんなふうに弄るんですか……!? それは、それだけはやめてください!」


 あんなふうというのは、たぶん首を作り替えていたときの話かな。粘土みたいにぐちゃぐちゃになっていたし、あれをすると言われたらボクもビビると思う。


「違う。変身の魔法だ。……よし、できたな。あとは首の断面を再現して……」

「うう……自分のためとは言え、私の頭部をそんな乱暴に転がさないでください……」

「お前の頭じゃないだろ」

「……私の顔だというのが嫌なんです」


 投げなかっただけマシだと思って欲しい。

 ちなみに首から下は受付に置きっぱなしだ。血溜まりに沈んでいるので、アレを細工すると却って怪しまれる。頭がユルモのものならそう簡単にバレないだろう。


「外も騒がしくなってきたな。まずはここを出るが、その前にさっき言った変身魔法をお前にかける」

「……それで助かるなら、どうにでもしてください」

「とはいえまた人を連れて逃げると、どこまでも追ってくる可能性がある。かと言って動けない物はダメだ。お前が動かしやすくて俺が運びやすい小動物が良いと思うが、なにか希望はあるか?」

「動物、ですか……その、私は昔猫に引っ掻かれて以来どうも苦手で、犬はその、最近苦手になりましたし……」


 ユルモはボクの頭頂部と尻尾を見ながらそんな事を言う。もしかして犬ってボクのことか?


「なら蜘蛛にするか。素早くて静かで、俺は気に入っている」

「ああ、いえ! 犬です、犬が良いです! 私犬が好きだな―! かわいいワンちゃんとか、もう抱きしめたいくらい好きで……」

「……『メタモーフ』」

「わっ……!」


 ボクは彼女の希望通り、その見た目を犬に変身させた。種類は詳しく知らないけど、茶色くてシュッとしている、賢そうなやつだ。

 すっかり犬に変わったユルモは、自分の動きを確かめるために室内を歩き回り、突然硬直してこちらに振り返った。


「……あの」

「成功だな。犬は喋らないから怪しまれる。少しの間黙っていろ」

「わかってますけど、あの、1つだけいいですか?」

「なんだ? 手短にしろ」


 実際のところボクは実物の犬を見たことがない。犬みたいな魔物と、映像の中の犬は知っているからそれほど乖離していないと思うけど、なにかおかしなところでもあったのかな?


「なんというか、後ろ足の股の間に……あるんですけど」

「なにが?」

「えー……っと、そのおちん……」

「いたぞ! 王女殺害犯だ!」


 おっと、話をしている最中に衛兵たちが来てしまった。

 ボクは咄嗟にユルモ(犬)を抱き上げ、


「メテオスマッシュ!」


 壁を破壊して外へと脱出する。

 うーん、やっぱり物を壊すのは爽快だ!





「そういえば、あの店にいた、……あの男はどうしたんだ?」


 衛兵には王女の殺害犯として顔が割れているので、ボクは一度町の外まで出ることにした。

 門も壁もヴァルデスの圧倒的暴力の前には意味がなく、全て拳で強引に突破。外に出てからはある程度撹乱しながら走り、今いるのはニームとの国境線沿いの森だ。


「名前忘れていましたね? 昼食の席に現れた男はオディアールさんです。あなたが居なくなったあと、私は彼に脅されているのだと告げました。そうしたら彼は衛兵を呼ぶように店員に指示をして、気がついたときには居なくなっていましたよ」

「人任せにして自分は逃げたのか。酷い男だな」

「……あなたよりは酷くありませんよ」


 悪役と比べたら誰だってそうだろう。特に昨日までのボクは悪役として目指すべきものが定まっていなかったし、ユルモの扱いもかなり酷かった。

 今も犬の姿のままだし、扱いが良くなったとは言えないだろうけど。


「店員の話では知り合いの店に行くとかなんとか……それが何処かまでは結局聞いていません」

「それならきっとこの上着を作った、パラゲの店だろ」


 パラゲはオディアールに聞いたと言っていたし。

 だけどそこで、ふと違和感に気がつく。


「ユルモ、お前は、やつにどこまで話した?」

「え? えっと……直接話したのは、脅されていること、ですね」

「その時に廃棄場の警備兵が殺された話は?」

「……いえ? それは衛兵にも話していません。廃棄場も軍の施設なので、そこでの情報を指揮系統の違う組織には話せないですから」

「……」


 ならなぜパラゲは、ユルモの仲間が殺されたことを知っていた?

 彼が軍の人間なら知っていてもおかしくはないが、それならあの状況で最初に殺しにかからなかったのはおかしい。軍人ならボクにヴァルデスの昔話をすることなどなく、ボクを拘束できたタイミングで殺すはずだ。

 それに彼は衛兵を呼んでいた。すぐに帰したのは謎だけど、呼んだ時点ではまだヴァルデスだと思っていたのならそこまでおかしくはないか。

 ではパラゲの情報源は? 彼の言葉通りなら、それはオディアールだ。しかしユルモはオディアールに話をしていない。

 とするなら……


「ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁっ……! やっと追いついたぜ……!」

「……なぜお前がここにいる?」

「オディアールさん!?」


 息も絶え絶えに走ってきたのは、オディアールだった。噂をすれば影と言うが、こんな高速で回収しなくてもいいだろうに。


「ああ? 今、犬が喋ったか……?」

「あっ!」

「ああ? 今、俺のことを犬呼ばわりしたか?」


 バカなユルモ(犬)は思わずと言った具合に口を塞ぐが、そのほうがよっぽどおかしい。

 ところでオディアールの雰囲気は以前と変わっていた。

 ボサボサだった髪は整えられ、年季の入った鎧は新しいものに。相変わらず剣は装備していないが、代わりに両腰に拳銃を下げていた。


「犬は、まあいい。ヴァルデス、俺がなぜここにいるかって? そんなもんは決まっている。お前をもう一度殺すために来たんだ」

「あ? 何言ってやがる?」

「ふん、覚えてねえのか? お前の門出を祝って、毒酒をしこたま振る舞ったってのによお!」

「……! お前は離れていろ!」


 オディアールは叫ぶと同時に魔法を発動した。それはただのウインドカッターだが、無詠唱かつ、飛ばすのではなくボクの目元に直接発生させるという不思議な技法だった。

 ユルモに遠くへ逃げるよう指示を出し、ボクもその場にしゃがんでウインドカッターを回避する。持続は一瞬のようで、発生させた場所だけを切断する魔法のようだ。


「チッ! 相変わらず、なぜこれが避けられる? 俺の魔法剣は最強なんだ! ありえねえだろうが!」

「魔力がダダ漏れで、わかり易すぎるんだよ」

「んだと?」


 なるほど。今のが彼の魔法剣だったようだ。

 だとしたら、残念だけど魔法使いとしての技量はとても低い。ウインドカッターの威力だけなら、馬車の護衛のほうが遥かに強い。

 なぜかと言えば、さっき言ったとおり彼の魔法剣、もといウインドカッターは敵に当たる位置で発生させるというものだ。

 普通に考えたら目の前を直接斬るなんて恐ろしい技に思えるけど、実際には違う。魔法として発動させるなら魔力が必要であり、相手の目の前を斬るなら相手の目の前まで魔力を展開させる必要がある。

 魔力を感じ取れない一般人ならともかく、魔法を学んだことがある者ならこれは凄まじい違和感だ。なぜなら薄っぺらいオディアールの魔力がこの空間に満ちている。わかりやすく例えるなら、彼の周囲だけ異様に臭い。


「ふざけるな! 誰の魔力が、漏れてるってんだよ!」


 そんな状態で目の前を斬る、つまり魔力を集中させるのだから、何をされるのかは分からなくても、なにかしようとしていることはわかる。それなら誰だって避けるでしょ。

 今も足元を斬るように魔力が集まるけど、その収束速度も並程度。そんなの少し動いただけで当たらないよ。

 アイディアは面白いと思うけど、彼には魔力が足りなすぎた。


「なぜ当たらねえ!?」

「お行儀よく今からここを斬ります、って教えながら斬るやつがどこにいるんだよ」

「がはっ!? なんだ今のは!?」


 お返しにボクは彼の展開する魔力(・・)を殴った。その瞬間、彼を覆う薄い魔力のヴェールは崩れていく。

 これはパラゲに教えてもらった技だ。やられて理解したがスキルを発動する前の魔力は、魔力を込めて攻撃すれば破壊できる。

 オディアールの場合、空間そのものがスキル準備状態に等しい。適当に宙を殴るだけで魔法剣は封殺され、それどころかかなりの魔力を使用していたのか彼にもダメージが入った。弱い上に弱点が重すぎるぞ。


「弱すぎだろ魔法剣。本当に俺はお前なんかに殺されたのか?」

「クソ、舐めやがって……! ぐふっ!?」


 性懲りもなく再展開をしたので、今度は斬られる直前に蹴り返した。ボクは何もない中を蹴り、彼は何も食らっていないのに大きく仰け反って倒れる。コントかなにかか?


「よくそんな腕前でもう一度殺すなんて言えたな。ああ、毒を盛ったんだったか」

「……ああそうだ。俺にはまだそれがある。お前を殺したあの毒が、まだあるんだよ」


 間接的に蹴り飛ばされたオディアールは腰に下げた銃を手にし、不敵に笑う。


「獣人殺しの猛毒薬、バルバス! もう一度、あの地獄の苦しみを味わえ!」

「当たるといいな」

「……死ね! ……あ?」


 獣人殺しだかなんだか知らないが、オディアールが引き金を引く直前に、彼の手はその場に落ちていた。

 もちろんボクが斬り落としたからだ。この至近距離で銃なんか撃たせるわけないって。


「あ、ああ……? お、俺の、俺の腕が……!?」

「本当に雑魚だったな……ん?」


 ふとその銃を見ると、そこには最近よく見るマークが刻まれていた。

 蛇の絡みつく天秤の紋章。


「……そうか。お前、バランス・ブレイカーだったのか」


ここまでお読みいただきありがとうございます。


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