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【第五章開始】悪役転生  作者: まな
第三章
61/173

3-8 はじめての失敗

残酷な表現があります。


 魂とはなにか。

 実のところボクにも詳しくわかっているわけではないし、アールに聞いても答えはない。

 感覚的には記憶を伴った高位の魔力塊だと思っている。


 根拠はまずボク自身だ。現世の日本で死んでからというもの、ボクは何度も転生を繰り返している。正確には肉体を乗り換えているのだが、本来そこには元の人物の脳があり、その人物の記憶があるはずだ。

 だけどボクはスキルブックを見ることでしか、肉体を奪ったその人物の過去を辿れない。つまりその身体の記憶を持っていない。

 そして魂だけのはずのボクには過去の記憶がある。脳みそという容器がないのに、ボクは好きだった悪の組織を思い出せる。

 なのでボクは、記憶とは魂に保存されているのだと勝手に結論づけた。脳は情報を記憶として魂に書き込んだり、或いは記憶を取り出すための生体コンピュータでしかない。重要な器官だが、一時的には必ずしも必須ではないのだ。

 そうでなければヘドロイドに入ったときの説明がつかない。あれには脳みそどころか生物的な臓器は一切なかった。


 もう1つの根拠は精霊と呼ばれる存在。その中でも悪魔についてだ。

 ボクが偶然召喚した悪魔ヴィクトリアさんは人間だった頃の記憶を持っていた。アールの話では自然に悪魔化する場合は人格の殆どが失われてしまうそうだけど、彼女はそうではなかった。

 これは憶測だけど、彼女は世界樹の実と融合したことで、より上位の存在として魂の魔力を維持できていたのだと思う。それによってすぐに悪魔化したので、ほとんど元の魂を失わずに済んでいたのだ。

 アレほどの調理の知識を持っていて、完璧に料理を作り上げていた。それだけでなく人間だった頃の話も聞かされている。あの料理を勘で作り上げて、過去の記憶も作り話だったのなら、むしろそっちのほうがすごい。


 とまあ魂の定義を勝手に決定したところで、話を戻す。

 今ボクの目の前には、立派な騎士となるべく改造するために解体された女騎士、ハイモアだったなにかがある。

 普通なら死んでいるであろうバラバラ具合だが、彼女の魂は失われていない。

 ボクは一度ヘドロイドに魂を移している。そして悪魔は魔力生命体だ。ということは予め魂の器を用意しておけば、たとえ肉体を殺しても復活させることができるのだ。


『だからといってアクアボールに入れるのは、流石に可哀想だと思いますが……』

「一番使い慣れたゴーレムだからね。それに魔力の水で包んでおけば余計な損傷も少ないでしょ」


 ボクはまず、意識を奪ったハイモアの首を切断して、すぐにアクアボールで包み込んだ。

 これにはちゃんと理由があって、人の魂は万遍なく体内にあるわけではなく、その殆どが脳に集中している。だから脳が生物の弱点として成り立っているのだ。

 逆に言えば、生きたまま頭部を切断するとほんの数秒間は生きている。その間にゴーレム化すれば、この世界なら魔力だけでエネルギーを賄える。

 その辺に放置して踏んで壊したら嫌だったので、今は王女の腕の中にある。あれはあれで絵になるね。


『私はエル様を人の心がないと評価してきましたが、ここまでの鬼畜だとは思いませんでした』

「ボクが目指しているのは悪役だよ? 意識がないだけ感謝してほしいな」


 本当ならヴァルデスがやることではない。だけどヴァルデスは強すぎるから、彼女に殺されるためには必要な処置だ。

 ゴーレム化によって骨を強化し、筋肉を増強し、スキルを付与していく。見た目は大事にしたいから、なるべくそのままの体型を保たせながら、最大限の改造を施す。

 ゴーレム化の処理の都合上、彼女の肉体はどんどん闇の魔力に汚染されていくが、それもまた初代のヒーローみたいでいい。


「それにしても不思議だよね。こんな細い身体の中に、あんなにいっぱい内蔵が詰まっているんだなんて。最初取り出したき、どうやって戻すのか分からなかったよ」

『私は突然味見したいと言って臓器を舐め出した、エル様のほうが不思議で仕方ありません』

「それはボクにもわからないんだ。ボクもなぜそんなことをしたんだろうって、不思議に思っているよ」


 彼女の胴体をこねくり回しているとき、突然ヴァルデスの肉体がそれを求めた。でもボクにはそれがなんなのか分からなかったから、とにかく肉体の望みに任せて臓器を口にしたんだ。

 今ではその要求は落ち着いているけど、肉体が強いからなのかヴァルデスはたまに変な暴走をするのがちょっと難点だ。


「さて、本体の方はもうだいたいいいかな。あとは脳のリミッターを破壊して、目にもスキルをねじ込んで……」

『エル様? 下手に脳を弄るのは危険です。他と違って脳は繊細な器官なのです。粘土のように組み立て直せる、他の臓器とは違うのですよ?』

「わかってるって。ボクがいったい何回脳の手術をしたと思ってるのさ」


 とは言えボクは被手術経験はあっても、実際に手術をした経験があるわけではない。なのでそもそも脳を直接弄るつもりはなかった。

 ボクは荷台に積んだままの宝石の中から、魔力を溜め込むのに特化している大きなダイヤの装飾品を手に取った。

 少しもったいないけど、ダイヤ以外のパーツはいらない。金属部品を破壊して、そのダイヤに魔法を込める。

 使用する魔法は、もちろんダークオーダーだ。闇魔法なのでダイヤは真っ黒に染まってしまったけど、かっこいいから良し。


「脳には触らないけど、このダイヤを頭の中に埋め込む。これは無意識に精神が昂ぶると勝手に発動する仕組みになっていて、保有魔力が切れると魔法も効果を失う。魂を喰わない代わりに、魔力を常時溜め込むように設定してみたんだ。結構自信作なんだけど、どうかな?」

『彼女の言葉を借りるならまさに外道の所業ですが、強化案としてはなかなかよろしいのでは?』


 ちなみにダークオーダーは魔法を強化する魔法だが、彼女の肉体はほとんどがボクのクリエイトゴーレムによって強化されているので、肉体強化としても有効だ。

 これはシャドウキャリアーの展開するシャドウレギオンで証明済みで、実際にほとんど実体のないシャドウレギオンが物理攻撃を受け止めている。


「本当ならスラーがやるべきだったんだろうけど、あとはこの頭を身体につなげて……よし、魔力も正しく巡回している。ふは、もしかしてこれって初の蘇生魔法なんじゃないかな?」

『聖属性の魔法に、失われた魂を呼び戻すリザレクションというスキルがあるので初ではありません。アンデッド系のスキルとも類似点が多いです』


 まあそうだろうね。クリエイトゴーレムの派生先に死霊術があるのは知っていたし。でも生きたまま肉体を再構築したのは、なかなか居ないんじゃないかな。

 ともかくこれにて悪人に改造された悲劇の女騎士、ハイモアは無事に完成した。闇魔法の魔力汚染によって髪が真っ黒に染まってしまったけど、些細な問題だろう。

 あとは目覚めるのを待つばかりだ。


『ところで、服を着せなくてもよろしいので?』

「たしかにずっと裸だね。でも見てよ。この箱に入ってる衣服はサイズが小さい。ユルモは小柄だったから着れていたけど、これ全部こっちの王女様のための服なんじゃないかな」


 ボクが馬車を襲った時点で、木箱に詰められていた騎士ハイモアは衣服を身に纏っていなかった。あのときは王女を守るように抱いていたのだと思ったけど、彼女は内臓にも怪我をしていた。だからあれは王女を守って受けた傷ではない。そもそも、木箱に入っている時点でそれはおかしかった。


 そこでボクなりに悪役的な思考を巡らせてみたのだが、1つ思い出した事実がある。

 ここザンダラには奴隷ブローカーが居て、それは隣国ニームに売り払われている。そのニームで解放軍を率いていた転生者は、その奴隷商の商品だった。

 状況としては似たようなものだ。王女という商品に、それを着飾るための衣服と宝石類。商品ではなく献上品のようなものだとするなら、馬車の中身に納得がいく。

 ではこの女騎士はいったいなにか。王女と同じ箱に詰められた、今にも死にそうだったこの騎士の存在意義はなにか。


 ボクなりの悪役の考えだが、こいつは王女を操るためのコントローラーだ。

 言うことを聞け、さもなくばこの女騎士を殺す。そんな事を言って、口答えをしたら騎士を殴る。それで頷くなら都合がいいし、聞き分けが悪いなら実際に見せしめにする。

 ボクがそうしたように、悲鳴を聞かせながらバラバラに解体して王女に絶望を味合わせる。

 きっとそういう使い道なのだろう。あるいはただの梱包材かも。ともかく服がないということは、少なくとも発送者には生かしておく意味がそれほどなかったということだ。


『よくもまあそんな考えが思いつきますね。エル様が【敵】で良かったと、本当に安心してます』

「それどういう意味さ」

「……う……くっ……」


 どうやらハイモアは目が覚めたみたいだ。スキルブックを戻し、空いている木箱に腰掛ける。


「目が覚めたみたいだな。俺はヴァルデス、お前たちを……」

「黙れ!」


 起き上がったハイモアは、一度目とは比べ物にならない速度で飛び上がり、天井を踏んで加速。一瞬のうちにボクの胸ぐらに掴みかかってきた。

 まさかここまでとは。その速度にはボクも対応しきれず、木箱から転げ落ちて床に押し倒されてしまった。だけど本当に驚いたのはその後だ。

 ボロボロと涙を零しながら、ボクの胸を殴りながら、ハイモアは叫んだ。


「お前は、お前は私に何をした!? 答えろ!!」

「……え、記憶あるの?」


 力なく何度も振り下ろされる拳と、彼女の恐怖に歪んだ表情。

 ボクの問にハイモアは力なく頷き、そのまま泣き崩れた。





 これは、完全に失敗だよエルくん。

 ボクの施術は完璧に成功していた。騎士ハイモアは超人的な能力を身につけ、その力を十全に発揮してヴァルデスの巨体を床に倒した。

 だけど成功したのはそれだけ。彼女にはボクが首を切り落とした瞬間からの記憶があった。彼女の生首は確かに意識を失っていたけど、ゴーレム化したアクアボールに彼女の魂は溶け出していた。

 もちろん生命維持は完璧に果たされたんだけど、まさかそんな弊害があるとはねえ。


「つまり君は、目の前で解体される自分を眺め続けていたわけだ。改造するところも、失敗して内蔵が飛び出るところも、君の額に魔石と化したダイヤを埋め込むのも……」

「……私の身体を、……っ舐め回していたのも見たぞ……!」


 ああ、それはボクだけどボクじゃない。ノーカンにしてくれないかな。


「本当なら今すぐにでもお前を殺してやりたい! お前の話が本当なら、私にはその力があるのだろう!?」

「イーブンな状況だとそれでも無理だろうけどね。死闘の末に弱ったところで覚醒してくれないと、ボクにも倒され甲斐ってものが……」

「だが! お前の話が全て本当なら、姫様を襲った犯人が別にいるのだろう!? 答えろ!」

「それは前回もそう言ったじゃないか。君たちはボクが襲った馬車に積まれていたの。ボクは君たちを誘拐から救った誘拐犯だよ」


 ちなみに既に本性はバレているので言葉遣いは気にしていない。アールのこともバレていそうだけど、そっちはどうしたものかな。


「なら、そいつらの、最初の襲撃犯の情報は!?」

「知らないよ。ただ、一緒に積まれていた置物から、バランス・ブレイカーって組織の仕業じゃないかって話だよ」

「バランス・ブレイカーだと……? まさか、なぜそこで奴らの名が出てくる!」

「ボクも詳しくは知らないよ。蛇の絡みついた剣の天秤の置物を見た御者がそう騒いでいたんだ」


 ハイモアはその答えを聞くと、顎に手を当てて考え込む。いい加減どいてほしいな。全裸の女性に馬乗りにされていると、解放軍のケウシュを思い出してしまう。

 ……おや、何故か心臓の鼓動が早くなったような……


「お前の言う剣と天秤と蛇は、確かにバランス・ブレイカーの意匠だ。しかし奴らは、今はもう解体された武器商人連合だぞ? 戦時中ならともかく、なぜ今更になってその名前が……」

「ん? 武器商人? その御者は闇組織だって言ってたけど」

「闇組織……いや、確かに表沙汰にはできない組織ではある。武器商人は結局のところ戦争屋だ。戦後になってわかったことだが、奴らはザンダラだけでなくニームにも武器を売り歩いていた。ザンダラ政府はその事実を国民に知らせるべきではないと判断し、秘密裏に連合を解体した」

「それ、ボクが聞いてもいいの?」

「お前は私が殺す。それをお前も望んでいるのだから、不都合はないだろう」


 強引過ぎて笑えるけど、実際そうなるように彼女を作り替えた。ボクも変に言いふらすつもりはないから、確かにどうでもいいか。

 しかしそれを聞いて1つ納得した部分がある。彼らには国に楯突く理由があるのだ。


「少なくともバランス・ブレイカーには、ザンダラへ復讐する理由があるってわけだ。連合を解体したってことは、その商人たちを生かしておくわけがない。だけど連中はニームにも居て、着々と準備を進めていた……」

「……浅い考えだが、ありえない話ではないな」


 浅くて悪かったね。ボクの悪役はもっと子供向けなんだよ。


「ボクの知っていることは全て答えた。だからこっちからも聞くけど、誘拐されたあとになにかされたんじゃないの? 傷だらけだったし、助けたときから服を着ていなかったし……」

「……っ! そうだ、私は……姫様の代わりに嬲られ、犯され…… 殺されはしなかったが、身体を切り刻まれた。お前から受けた仕打ちよりはマシだったが……」

「仕打ちだって? ボクは作り直したんだよ? ああそう言えば、確かにいくつかの内臓がなくなっていたね。代わりに微量な継続回復の魔石が詰まっていたよ」


 それは1度目の回復の時の話だ。ボクは彼女の臓器を作り直した。クリエイトゴーレムの予備知識で新造したものだから、それらの内蔵は元の彼女の肉体のものではない。


「奴らは私を触媒に、なにか呪具を作ると言っていた。……おそらく姫様の拘束具がその呪具だ」

「ああ、あれか。外そうとしたら、なぜか君が苦しがっていたね。しかもまるでくっついているように外れなかった」


 アールも呪われていると言っていたし、呪具なのは間違いないだろう。問題はその内容だ

 いったい何のために、どういう能力を発揮するために作ったのか。それが分からなければ外せない。闇魔法とはそういうものだ。

 聖属性のスキルに解呪というものがあるから、それも絶対ではないのだけど。


「奴らは、私の命がどうとか……もしかすると、私が死ななければ外せない。そういう呪いなのかもしれない」

「突拍子過ぎない? なんでそんな具体的な呪いだと思いついたの?」

「……前例があるのだ。主に政治犯など、死刑相当だが実刑を下せない高位の犯罪者に対して執行される刑罰で、教会が行うため表には出されていない」


 普通は当該人物を拘束するために、本人の魂の一部を使用して作成するらしい。拘束された人間は自分自身の魂によって、自分自身を命尽きるまで永久に拘束し続ける。

 今回使用されたのは魂ではなくハイモアの内臓だが、女性の場合、脳の他にも魂が集中している臓器がある。今回はそれを利用されたのだろう。


「……酷い話だね」

「私の身体を斬り刻んで弄んだお前がそれを言うのか?」

「何度も言うけど、ボクは治したの。現にボクを掴んでいるその両腕は何なのさ。ボクに伸し掛かっている、その身体に詰まった内蔵は? 君の話ならそこは空っぽのはずじゃない」

「……その怪しげな治療の腕を見込んで、1つ頼みがある」

「え? 嫌だけど?」


 ボクは普通に断ったけど、彼女は勝手に話を続けた。


「私は今から姫様の拘束具を外す。もし呪具の力が本物なら、その瞬間に私は死ぬ。どうやって死ぬのかはわからない。だから、そのときはもう一度私を治して欲しい」

「嫌だけど?」


 めんどくさいし、ボクだって結構な魔力を使っているから、無駄に死なれるのはすごく困る。

 それにどのように死ぬのかも問題だ。ボクは魂の器を用意していたから、実際にはハイモアを殺しているわけではない。だけど今回はそうは行かない。

 殺されるとその魂は経験値として発動者に回収される。殺された経験から言うと、だいたい3割くらいなくなる。ボクは【敵】の能力で転生できるけど、他の人はどうなるのか全く知らない。

 だからここで死なれると、仮に回収できたとしても、その魂の判別はできない。


「……頼んだぞ」

「あ、待て、身体は直せても、魂はどうなるか知らないんだって!」


 ボクの返事は聞きもしないで、勝手に悲壮な覚悟で王女の拘束具に手をかけるハイモア。

 彼女は小さく息を入れ、その目隠しに力を入れる。


「……ふっ! …………なんとも、ない?」

「あれ? すごい簡単に外せるじゃん」


 だけどその拘束具は、それこそただの布切れだったかのように、あっさりと外された。


「よ、よかった……姫様……私は、もう一度そのお顔を見れて……くぅっ……」

「ボクのときは全然外れなかったのに……なんで?」


 そんなボクの独り言に答えるように、アールから返答があった。


『あの肉体拘束の解除条件は、命が失われることです。エル様は改造のために彼女の魂を、その肉体から完全に分離しています。であれば命は失われたと定義されるので、何も不思議ではありませんよ』



ここまでお読みいただきありがとうございます。


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