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【第五章開始】悪役転生  作者: まな
第三章
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3-6 はじめての知り合い

一部残酷な表現あり



 ユルモが案内したのはいわゆる大衆酒場ではあったが、そこで提供される食事は十分に満足できるものだった。


「作り置きにしてはいい出来だ。……なるほど提供前に揚げ直してあるのか」

「……意外と詳しいんですね」

「知識だけはある。俺は食うのが専門だけどな」


 ヴィクトリアさんがフェルちゃんに料理を教えているのを何度か見ているし、その気になれば調理系のスキルを獲得すれば同じものも作れるだろう。まあするつもりはないけど。

 極端な話だが、ボクは食べて毒でなければそれでいい。だからユルモが吐き出したあの泥臭い魚の串焼きも平気で食べた。

 それでも美味しいことに越したことはないから、こうしているのだけど。やはりボクにとっての食事は栄養補給でしかなさそうだ。


「どうした? お前の首は繋がったんだから、もっとうまそうに食えばいいだろ?」


 ところで先程からユルモの食事は進んでいない。散々吐いたから内蔵が弱っているのかも知れないが、そのために彼女にはシチューのようなゆるい食事をさせている。


「……私は、彼女が心配なんです…… 今こうしている間にも弱り続けていて、いつ死んでしまうかもわからない。まともな神経をしていれば、食事は喉を通りませんよ……」


 そう言いながらもユルモはスプーンを口に運ぶ。まあ食欲には勝てないのだろう。

 だけど彼女にできるのは祈ることだけだ。そもそも全くの他人なのに、なぜそこまで心配できるのか不思議でしょうがない。

 そんな様子を眺めていると、突然後ろから知らない顔に声をかけられた。


「おい、お前ヴァルデスじゃないか?」

「ああ?」


 声をかけてきたのは金属鎧を着た剣士風の男だ。その鎧は使い込まれていて表面にかすり傷が目立つが、かと言って廃棄寸前のボロとは違う。歴戦の風格があった。


「おいおい、いきなり睨むんじゃねえよ。忘れたのか? 闘技場で何度かやりあっただろ?」

「知らん。俺はここ最近の記憶がねえんだ。用がないなら消えろ」

「へえ、マジかよ。頭でもぶつけたのか?」


 彼はボクの威圧にも平気な顔で空いている席に座る。ユルモは威圧の余波で恐怖で震えているのに、なかなかやるな。


「ここの揚げ団子美味いよな。姉ちゃん、一番安いエールとこの団子をもう一皿持ってきてくれ」

「はーい!」

「先に1つ貰うぜ。だけどそうか、記憶がねえのか。なら仕方ねえな」

「なにがだ?」

「お前闘技場を出たあと、旅に出るとかなんとか言って、パラゲのおっさんに防具を依頼してたろ? 賞金で払うとかって話で、まだ代金をもらってないのに消えやがったとおっさんブチギレてたぞ」


 なるほど。全然知らないけど、ヴァルデスにはそんな予定があったのか。

 しかしということはヴァルデスの防具はあるのか。ボクの衣服の問題は解決したかな。


「パラゲねえ? 全然記憶にないが、このあとそいつを取りに行くとするか。お前そこまで案内しろよ」

「あーん? 俺の名はオディアール、忘れたんなら覚え直せ。魔法剣のオディアールだ」


 魔法剣と名乗っているが、彼の装備に剣の類は見当たらない。まさか魔法で剣を作り出すのか? だとしたらそれなりの腕前なのかも。


「案内をしてやってもいいが、一度も勝てなかった俺がお前と連れ歩いているのは癪だ。それをパラゲのおっさんに見られるのはもっとムカつく。お前1人で行け」

「ならちょうどいい小間使いがいる。そこの女を連れて行け」

「……え? ええ!?」


 ボクがユルモを指差すと、彼女はまさか話を振られるとは思っていなかったようで驚いていた。


「そういやさっきから気になってたんだが、お前さんなんでこんな奴とつるんでるんだ?」

「あ、えっと、な、なんて言えばいいのか……」

「俺はこいつの命の恩人だ。イカれた殺人鬼に殺されそうになっていたところを助けてやった」


 嘘ではない。イカれた殺人鬼がボクだと言うだけで、彼女の命は助かっている。


「はっ、冗談きついぜ。イカれた殺人鬼はお前だろ? 闘技場で何人ぶっ殺したんだか。本当のところはどうなんだよ?」

「は、はは……は……」


 オディアールの質問にユルモは曖昧に笑うだけだった。まあ彼女は今自分だけでなく、倉庫の2人の命も勝手に背負っている。彼の実力も話を聞いている分には信用できないので、ボクに従うしかないのだ。

 だけどいいことを知った。どうやら生前のヴァルデスも相当な脳筋殺戮マシーンだったらしい。


「顔合わせも済んだようだし、俺は満足したから帰る。お前らはパラゲのところに行って俺の装備を持ってくる。それで決定だ」

「ちょ、ちょっと待ってください! それでは、私との約束は!?」

「俺を女と2人にするつもりか? 食っちまうぞ?」

「そ、それもやめてください!」


 食うって言われてもここは酒場なんだし、残ってる食事は彼が注文したものだ。好きにすればいい。ユルモの言う約束とは例の女騎士のことだろう。

 ボクは衣服の面倒が解決したから機嫌がいい。彼女は治してあげよう。


「約束は守ってやる。オディアール、俺の装備はいくらだ?」

「そんなことまで知るか。だがおっさんのキレ具合から言って結構な額じゃないのか? というか、お前本当に来ないつもりなのかよ」

「ああ。食いたいなら食っちまえよ。金は……これだけあれば足りるだろ。じゃあな」


 ボクは革袋にあった金貨を取り出そうとして、面倒になったので袋ごとテーブルに載せた。開いた革袋の口から覗く量を見て、オディアールもユルモも絶句していたのでたぶん十分だろう。


 脳筋は強欲だが計算なんて出来ない。だからボクもしない。そもそも金を数えるのは下っ端のすることだ。それにぱっと大胆に使ったほうが、悪役らくていいじゃないか。





 倉庫街へと向かう道中、尾行されていることに気がついた。例のバランス・ブレイカーだろうか。それなら振り返って見えるような位置にいるはずはないだろう。

 ここは特撮で見た正義の味方のテクニックを使っておびき出してみようと思う。やり方はとても単純だ。

 まず適当な路地に入る。人気がなくて狭くて、行き止まりならなおいい。うん、ちゃんと付いてきている。

 そしてしばらく進んでから振り返り、徐ろにこういうのだ。


「いるんだろ? 出てこいよ」


 すると廃材の影から2人組が現れた。ボロボロのローブを着た痩せぎすの男と、革鎧を着た太めの男だ。


「へっへっへっ。見てたぜ、あんた随分気前が良さそうじゃねえか?」

「俺たちにも金を恵んでくれよ」


 ニタニタと笑いながらナイフを構えるローブ男と、これ見よがしに棍棒抜く革鎧の男。正直全然脅威には感じないが、念のため1つ確認することにした。


「お前らはバランス・ブレイカーか?」

「ああ? なんだテメエ、俺たちドープ兄弟を知らねえってか!?」


 革鎧が怒鳴るが、隣のローブ男は笑みを深める。


「へへ、バランス・ブレイカーを知っているなら話が早い。そうだ。俺たちはBBの構成員だ。俺たちの言うことに従わねえと、どうなるかわかってるよな?」

「え? 俺たち試験に落ちて……」

「余計なことを言うな。予備採用みたいなもんだ! ともかく、構成員に代わりはねえ。さあ、わかったら早く金を出しな!」


 なんというか残念な連中だ。バランス・ブレイカーとも関係がなさそうだし、きっと戦っても面白くはない。

 だけどいいことを思いついた。ここは奴らの話に乗ってみよう。


「お前らがあのバランス・ブレイカーの、ねえ。まあいい。金が欲しかったんだな? くれてやるぜ?」

「ええ!? いいのか?」

「ああ。……しっかり受け取れよ!!」


 せびっておいてなぜ困惑したのかわからないが、ボクは金貨を1枚懐から取り出す。さっき酒場で出した分から、飲み物を買おうと思って少し取っておいたものだ。

 それを革鎧の男に向かって投げた。もちろん全力で。


「は、はやぎっぶごばっ!!」

「……は?」


 彼らには金貨が見えなかったらしい。革鎧の男は顔で金貨を受け止めて、顎から上が弾けてなくなった。ただ刺さるだけだと思っていたんだけど、どうやら当たった衝撃で金貨が崩れてしまい、面積が広がってしまったようだ。あれでは金貨も使い物にならない。

 革鎧の男は壊れた噴水のように血を吹き出しながらその場に崩れた。


「は? あ? お、おい、なんで、お前、頭どこにやったんだよ……?」

「さて、金はくれてやったぞ? それともまだ欲しいか?」

「……ひぃっ!?」


 ローブの男に声をかけるとその場にへたり込んでしまった。彼は今回は殺さない。重要なメッセンジャーになってもらうんだ。


「お、俺たちが悪かった! 金はもういらねえ! た、頼む! 見逃してくれ!」

「お前、バランス・ブレイカーのメンバーなんだろ?」

「あ、ああいや! あれはとっさに出た嘘だ! 俺たちは関係ない! 予備でもなんでもねえ!」

「そうか。だが試験を受けたんなら、何かしら情報は知ってるんだろ?」

「な、なんだお前、バランス・ブレイカーに入りたいのか? 俺の知ってる情報なら全部やる! だからここは見逃して……」

「違う、その逆だ」

「……え?」


 ボクは彼に近づいて、懐から1つのゴミを見せる。それは馬車を襲ったときに握り潰した、蛇の置物の頭だ。


「お前の知ってる情報をすべて駆使してそいつらに伝えろ。次はお前がこうなる番だってな」

「っ……!?」


 彼の前で蛇の頭をしてて、それを踏み潰す。金属製なのでぺしゃんこになるだけだが、ローブの男はそれに十分ビビってくれた。


「お、お前! BBの恐ろしさを知らねえのか!? こ、こんなことをして、お前は殺されて、お前だけじゃねえ! お前の家族も、友人も、みんな殺されちまうぞ!?」

「なら期待して待ってると、それも伝えてくれ」


 この世界に来て、はじめての悪の組織。色んな人から恐れられている悪の組織、バランス・ブレイカー。ボクはその組織の目的が気になっていた。

 今後ボクも悪の組織を運営することがあるかも知れない。その時のためにどういった目的で動いているのか、 いったい何のために王女を誘拐したのか。いったい何であんなやつに試験をしたのか。知りたいことがふっと湧いてきた。


 今回のボクの目的が決まった。

 悪の組織バランス・ブレイカーとの対決だ。

 その結果ボクが負けても構わない。ボクに失うものはないからね。

 その結果ボクが勝っても構わない。


 正義の味方は、もう見つけてあるからね。




ここまでお読みいただきありがとうございます。


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