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【第五章開始】悪役転生  作者: まな
第三章
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3-1 剣闘士ヴァルデス

3章です。残酷な描写があります。


◆エル



「うーん、よく寝た。あれ、ここどこだ?」


 空は遠く、周囲には酷い臭いが立ち込めている。どうやら穴の中にいるようだ。

 明かりがないため非常に暗いが、雰囲気からゴミ捨て場のような場所らしい。


「なんでこんなところに……? それに手が毛むくじゃらだし……ああ、そうだ。スラーは死んだんだった」


 頬を掻く自分の手に違和感を覚え視線を下ろす。銀の毛の生えた腕はスラーの3倍くらい太く、爪はナイフのように鋭い。

 スキルブックを起動しステータスを確認すると、今度のボクは獣人族らしい。


『復活おめでとうございます。今回はお早いお目覚めですね』

「おはよう、アール。今度は武闘派みたいだよ」


 この獣人の名前はヴァルデス。獣人と言ってもクオーターくらいの遺伝らしく、腕や脚の毛がすごいのと、犬っぽい尻尾が生えているくらいだ。耳は人間のものが生えているけど、それとは別に頭の上にも犬耳のような感覚器がある。触ってみると柔らかいけど、こちらの感覚器は音が聞こえるわけではないようだ。


「すごい。第三勢力の4つ耳だよ」

『割とメジャーだと思いますけどね』


 スキルブックの略歴によるとヴァルデスは元々ザンダラの兵士だったけど、戦争が終わったことで路頭に迷うことになる。

 戦うことしか脳のなかった彼は一度は冒険者になるも、護衛任務で雇い主とトラブルになって追放。生活能力も皆無だったのですぐに借金奴隷となるが、そこで剣闘士としての才能を見出される。以後数年は地下格闘技場で剣闘士として活躍。ファイトマネーで借金を返済し、自由の身へ。

 しかしその祝勝会で何者かに毒を盛られ、今のここに至る、と。

 装備はないけど、基礎ステータスはかつての下水怪人ヘドロイドを大きく上回っている。ただ魔法関係は苦手なようだ。魂がエル(ボク)なので魔法スキルは使用可能だけど、出力が大きく低減するらしい。


「毒殺だからこんなにきれいな肉体のままなのか。もったいないね。シャドウキャリアーが集めたのとは比較にならないくらい、近接戦闘スキルがあるよ。お、あの勇者といた鎧男のメテオなんとかも使えるじゃん。試してみようっと。えーと、メテオスマッシュ、だったかな?」


 スキルの使い方は身体が覚えている。ボクは慣れた動きで全く知らない構えを取り、振りかぶった拳を壁に叩きつけた。


 ――――――!!!!


 衝撃、そして轟音。

 分厚いと思われていた穴の壁は抉れるように吹き飛び、その余波で穴の上部が崩れる。


「うわっ! 崩れちゃった!」

『この狭い空間で高威力のスキルを発動したのですから、当然の帰結かと』


 このままでは生き埋めになってしまう。そう思った瞬間、ボクの脳内には穴を抜け出すための道筋が見えた。

 壁を蹴って飛び上がり、落ちてくる瓦礫を掴んで体勢を直し、また壁を蹴って、今度は瓦礫を足場にする。まるで正義の味方のワイヤーアクションのような、華麗な体捌きが残像のように再生される。

 今の能力値ならできる。まるでヴァルデスがそう言っているようだ。


「……ふっ!」


 息を入れて、シュミレート通りに身体を動かす。

 すごい。まるで無重力みたいに身体が軽い。エルのときよりも身軽に動けて、自分を宙に蹴り出す脚力はそれだけでスキル攻撃のように力強い。これが鍛えられた肉体の本領なのか。


 実のところボクは、悪役の中でも武闘派の幹部を少し馬鹿にしていた。彼らの考える作戦は単純なのに準備段階で躓くし、しかもお約束として正義の味方には必ずやられてしまう。負けてもなかなか死なないのはすごいと思っていたけど、だからといって戦っても勝てないし、個人で社会に与える被害は他の怪人と変わらない。どのへんが武闘派なのかずっと疑問に思っていた。


 でも今、宙を蹴り上げていてわかる。

 これは強い。力勝負では誰にも負けない自身が湧いてくる。これだけで悪の幹部に登れるだけの実力を感じる。そして、実際に武闘派幹部たちはそうして成り上がっていったんだ。

 正義の味方に負けるのは、どのみち他の幹部も一緒だ。たまに博士ポジションのやつが隠れてそのまま消えてたり、女幹部が寝返ったりするけど、それらは生きてるだけで勝ってはいない。

 悪役は勝てない。その大前提を元に考えれば、何度負けても生きて帰る武闘派幹部は本当は強かったんだ。


 そんな考え事をしているうちに、穴の外に出ていた。外の状況までは見えていなかったので、大きく投げ出されたような恰好だが、幸い周りは穴の中と同じようにゴミの山なので、着地場所には困らない。

 着地のポーズは決まっている。前傾姿勢で右腕を後ろに反らし、大きく広げた両脚と前に出した左手で、獲物を狩るハンターのように大地に降り立つ。


「ふっ、決まった……」

「……えっ!? ええっ!? キャーッ!!!!」


 どうやらすぐ近くに女性がいたらしい。ボクのかっこいい着地姿に感動したのか、黄色い悲鳴が聞こえてきた。


『たぶん違うと思いますよ?』

「え? みんなが一度は真似する、こんなかっこいい着地ポーズなのに?」


 というか、この世界の住人がいるのにアールは出てきて大丈夫なの?

 そう思いながら立ち上がると、目の前に、いや周囲から槍を突きつけられた。


「ここは国営の廃棄施設だ! どこから入った、この変態野郎!」


 周りを囲んでいるのは、ガスマスクのようなものをした兵士たち。顔の部分はレンズになっていて、みんな怖い顔をしてボクを睨んでいる。

 少し離れた位置には、俯いたままちらちらとこちらに視線を向ける女性。しかしその視線の先はボクと言うより、もっとその下にあるような……


「ああ、なるほど」


 そこにあるのは大変立派なオスの武器。

 そういえばさっきヴァルデスのステータスを確認したとき、彼は何も装備をしていなかったね。





 さて、本来なら言い訳をしてみたり、事情を話したりするのだろうけど、今のボクは武闘派の悪役だ。


「聞いているのか!? 両手を上げて、床に寝そべるんだ!」


 武闘派の悪役はたいてい他人の言うことを聞かない。

 なので、全員ぶっ殺すことにした。


「おい、早く……っ!?」

「うるさいなあ」


 とりあえず目の前の兵士の頭を掴む。兵士の体格も決して悪くはないのだが、今のボクは2メートルくらいあるし、手もすごく大きい。そのため顔を掴むつもりだったのだが、頭を丸ごと覆えてしまった。


「な、なにを、はなっべげ……!?」

「え? ……うわ、弱っ!」


 そのまま振り回してやろうと手に力を加えたら、なんと彼の頭は果物のように弾けて潰れてしまった。果物を潰したことはないけど、いちごとかたぶんこんな感じだ。


「うわあ、手が血まみれでベトベトする。気持ち悪っ」

「え……?」

「う、嘘でしょ……? イヤーッ!」

「は? あ、ああっ!? 殺せ!! ここから生きて帰すな!」


 手を話したことで、彼だったものの首から下が地面に落ちる。その瞬間、周囲に居た兵士たちも状況を理解したようだ。

 彼の頭がない事実と、それを誰が引き起こしたのかに。


「う、うおおおお!」

「遅っ。いや、ボクが早いのか」


 横から槍で突かれるが、見てから簡単に回避でいる。今までのボクなら絶対に無理だ。

 それに対してカウンター気味に左手を突き出すと、これまた頭にクリーンヒット。ボールみたいに頭だけ飛んでしまい、身体はその場で縦回転して地面に倒れた。

 見事に一回転したので、首から吹き出す鮮血がまるでジェットエンジンみたいだ。


「ははは、笑えるほど弱いね」

「クソが、舐めるな!」


 おっと、完全に真後ろから槍で刺された。かに見えた。


「っ!?」

「直撃、したよね? その槍おもちゃじゃないんだよね?」


 しかしボクの背中を突いたその槍は、確かに当たったのだが、表面をなぞるように滑ってしまった。鍛えられた肉体は金属よりも硬いって言うけど、この世界だと本当にそうなのかも。

 試しに槍を奪い取り、突いてきた人間を突き返す。


「ごふっ!」

「うーん、本物だったね。疑って悪かったよ」


 狙ったつもりはないが、背の高いボクが槍を突き下ろしたせで、彼は肺を貫かれた状態で地面に釘付けになった。


「た、隊長!?」

「嘘だろ!? こ、こんなの勝てるわけがない!!」

「逃げろ、逃げるんだー!」


 どうやら背後から攻撃してきた彼は隊長だったらしい。残りの部下たちはその光景に恐れをなして散り散りに逃げていくが、ボクは殺すと決めたんだ。例外はないよ。


 まずは一番足の遅かった兵士へと飛びかかって、頭を地面に打ち付ける。


「や、やべぼっ」


 次のやつは走って周り込み、回し蹴りをして近くに居た別の兵士にぶつける。


「はや、ごぶっ!?」

「な、こっちに来るな! あぐぇっ!」


 巻き込まれた方は息があったので、更に飛び混んで踵落とし。すごい、真っ二つになった。

 振り返ると走って逃げる兵士がまだ1人いた。


「こういう武術系のキャラって、何かしら飛ぶ技があるよね」

『どのような技をご希望かは知りませんが、攻撃系魔法を発動すればよろしいのでは?』

「それじゃいつもと一緒じゃん。ボクは武術を極めた末の奥義みたいな感じで、遠距離攻撃がしたいんだよ」

『それでしたら魔力を込めて拳を握り、飛ぶスキルを思い描いて撃ち出してください』

「! あるんだね! よしっ、やってみよう」


 魔力を込めて拳を構える。特に指定はないので、見様見真似の正拳突きの構えでいいだろう。

 そして思い描くのは、青く燃える炎の弾だ。コマーシャルでしか見たことがないけど、格闘っぽいアニメの主人公のようなキャラがそういう技を使っていた。


「はっ!」


 イメージに沿って拳を突き出し、魔力を開放する。


「! 避けてください!」

「え? う、うああああああっ!!」


 一心不乱に逃げていた兵士は女性の声にとっさに振り返るも、僕の放った魔法弾は人1人を飲み込むほど大きかった。

 一瞬で青い炎に包まれた兵士はその場に倒れ、すぐに黒い塊となる。


「……なんか、青いけどこの炎に見覚えがある感じが……」

『基本的にはファイアボールと変わりませんからね。エル様が求めた武術の奥義とは、つまるところスキルの発動です。発動するのがスキルなのであれば、参照先が肉体であろうと魔法であろうと、出てくるものは同じです』


 アールによれば、結果として起きる現象はすべてスキルの発動なのだとか。

 例えば飛んでいくのが火の玉であれば、極めた肉体が撃ち出した魔力弾でも、初期魔法のファイアボールでも、生成過程は違えど分類としてはどちらも同じスキルらしい。

 じゃあ魔法でいいじゃん、と思った人もいるだろう。だけどこの世界は魔法を学ぶ環境が整っているわけではない。肉体を鍛えた結果魔法が放てれば、それは十分に奇跡であり、奥義なのだ。


「でもボクはスキルブックがあるから、やっぱり魔法でいいよね?」

『ええまあ。そのためのチートなので』



ここまでお読みいただきありがとうございます。


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