表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第五章開始】悪役転生  作者: まな
第二章
50/173

2-20 はじめての勇者

23/11/11 0330 屋敷を出る前にシャドウアーマーを展開したままだったため微修正。


◆エル



 シャドウキャリアーに別れを告げたところで、肉体の意識が戻る。

 と同時にすごい剣幕でヴィクトリアさんが掴みかかってきた。


「起きたわね、変態!」

「……何言ってるの?」

「うるさい! あんなに人の裸をまじまじと見ておいて、とぼけるつもり?」


 そう言われれば、確かに殴られた理由は裸のヴィクトリアさんを見たからだったような。

 ちなみに今は変身前と同じようなデザインのドレスを纏っている。


「そんな事言われても、裸に変身したのはヴィクトリアさんじゃん」

「知らなかったんだから仕方がないでしょう!? それはそれとして、事故とは言え未婚の女性の裸を見たんだから、誠意を持って謝りなさい。そして責任を取りなさいよ」


 知らなかったのはボクも同じだ。でも思い描いたものに変身できるんだから、結局それって自分の裸を想像したんじゃないの?


『メタモーフで変身する際の外見は、スキルレベルに応じて生成できる範囲が広がります。生物に変身する場合、初期レベルでは生物として基本的な状態での設定となります。要は裸ですね』

「まあそれはそうだよね。普通の動物は服とか装備とかないし」

「……なに? 私が悪いって言いたいの? 普通そういう重要なことは、最初に説明するでしょう!?」

『スキルレベルごとの詳細は公開されていません。服を着た状態での変身もいずれは可能ですが、現時点では不可能とだけお伝えしましょう』


 アールはスキルの情報に関してときどき突き放したような説明をするが、これはヴィクトリアさんに限った話ではなく、ボクにも詳細は明かさない。

 前に少しだけ説明されたけど、どれくらい経験を積んだか、というのは人によって異なる。そのためスキルレベルは何ができるようになったか、で判断することが多いんだけど、このできるようになった事というのもまた、人によって異なる。


 たとえば基礎スキルのアクアボールを、大きく作り出すのがレベル2で、複数同時に作り出すのがレベル5だと思ってる人がいる。

 でも逆に複数作るのはレベル3くらいで、大きく作るのはレベル7くらいの練度が必要だという人もいる。

 この差はなにかというと、本人の魔力量や魔法の扱いのセンスの差だ。最終的にスキルレベルが最大になればどちらもできるのだが、これは逆で、どちらもできるようになったからスキルレベルが最大なのだ。


 これはたぶんレベルと言うと単純に数が増えていって、同じ方向にだけ進むと思っているからわかりにくいんだと思う。

 実際にはスキルレベルはレーダーチャートのようなもので、項目ごとに経験値の方向性が違う。だから同じ訓練だけでスキルレベルを上げ切ることが難しい。のだと思う。

 一応アールに聞いてみたけど、答えは返ってこなかった。まあそういう場合はだいたい正解だと思う。


 それはそれとして、怒っている人は正論では納得しない。なのでヴィクトリアさんは不機嫌なままだ。


「エル。アールがどう言おうと、あなたが私の裸を見たのは事実なの。それに関しては謝罪をして、責任を取りなさい」

「嫌だよ。ヴィクトリアさんはもうボクのことを殴ったでしょ。それでおあいこ、それでお互い様じゃない?」

「ああ言えばこう言う! いい? 殴ったのは正当な防御反応よ。そしてあなたは防ぐことも避けることもできたけど、それをしなかった。ほら、私に非はないわ」


 暴論がすぎる。それにスラー(今のボク)では避けられるような速度じゃなかった。


「そんな事を言いだしたら、そもそも元の姿との違いを教えてほしいって言われていたわけだし、きちんと見ないほうが失礼じゃないか」

「……っ、確かに、それはそうね。……それで、どう、だった……?」


 そう指摘すると、ヴィクトリアさんは急にしおらしくなって顔が赤くなる。


「どうって、なにが? きれいだって言ったと思うけど?」

「そうじゃなくて、元の、世界樹と混ざった悪魔ヴィクトリアと比べてよ。エルは、あっちの姿も好きだったんでしょう? それと比べて、今はどう思ってるのか、ってこと」


 そう言われると難しいなあ。

 悪魔ヴィクトリアさんの魅力は、植物の悪魔という悪役らしくてわかりやすいヴィジュアルだ。緑色の肌に、怪しげなツタの触手。頭に咲いた花は大きくてきれいだけど、それが一層人間味を失わせている。貴族風のドレスも相まって、悪の女幹部にふさわしい存在感があった。


 一方今のヴィクトリアさんは、美しくてきれいだけど、ただの人間だ。

 悪役というよりヒロインで、それも正義の味方と一緒に戦うのではなく、馴染みのお店でよく挨拶するような、出番は多いけど重要ではない感じがする。


 もちろんどちらも大好きだけど、悪役という立場で考えるなら、残念だけど悪魔の姿のほうが好きかもしれない。

 でも今の姿は印象が薄いお陰で、人間社会に溶け込んで情報を収集する悪役という意味ではぴったりだ。部下に任せず自らそういう姑息な手段を取るタイプの悪役は多いし、バレてしまって突然幹部に変身するというのも王道だ。


 うん、やはりどちらにも味があっていい。ボクはどっちも大好きだ。


「ヴィクトリアさん。たしかにボクは悪魔の姿も好きだったけど、今の姿にも……」

「……あなたさあ。私たちは魂が繋がってるから、考えごとはバレてるって、前に言わなかったかしら?」

「そうだっけ? ボクにはヴィクトリアさんの考えはわからないから、忘れていたよ。でも、それならわかるでしょ。ヴィクトリアさん、ボクはどっちの姿も大好きだよ」

「っ、そういうの、面と向かっていうのは、少し卑怯よ……」


 複雑な表情をしたヴィクトリアさんだったけど、ボクの答えに満足したのかすっと立ち上がって部屋を出ていこうとする。


「あれ、もう行っちゃうの?」

「ええ。聞きたいことも聞けたし、今はそれで十分」


 ヴィクトリアさんは部屋を出る前に振り返り、悲しそうに別れを告げた。


「じゃあね。エル」

「うん。またね、ヴィクトリアさん」


 なんであんな表情だったんだろうか。少し考えて、気を失っている間のことを思い出した。


 ああ、なるほど。魂が繋がっているって、そこまでわかっちゃうのか。

 ――戦闘員が完成したら、ボクは満足したから、あとは死ぬだけさ――

 ヴィクトリアさんは、そんな独り言まで読み取ってしまったんだろう。


「なら、張り切って戦わないとね。雑魚戦闘員を必死に駆使して戦う、脆弱な悪の博士。地味に死のうかと思っていたけど、あの勇者が相手ならきっと派手に死ねるぞ!」


 サモンゴーレムを発動。召喚のために登録されているゴーレムは、もちろんシャドウレギオンだ。部屋を埋め尽くすシャドウボールに満足しつつ、シャドウアーマーを展開してそれらを格納していく。

 今回は戦闘員しか使うつもりはないので、アーマーを服の裏に隠す。これで準備は完了だ。


『エル様、ご武運を』

「負けるために戦うのに、勝ちを祈ってどうするのさ。じゃあ、いってくるよ」


 アールにも別れを告げて部屋を出ると、珍しくフェルちゃんがいた。


「おや、どうしたの?」

「あ、いえ、その……夕飯ができ上がったんですけど、ヴィクトリアさまは食欲が無いと言うので、代わりに私がスラーさまを呼びに来ました」


 フェルちゃんはヴィクトリアさんには懐いているけど、ボクとはそれほど会わないので未だに緊張しているようだ。まあ、もうそんなこともなくなるけど。


「そうなんだ。でもごめん。ボクも今日は夕飯はいらないよ」

「えっ、あ、そう……ですか……」


 彼女は自分の料理に自信を持っているので、立て続けにいらないと言われたのが悲しかったのか表情に出ている。

 ボクも最期の晩餐と洒落込みたかったけど、食べている時間はないんだ。

 落ち込むフェルちゃんの横を通り過ぎ、でも最期の挨拶くらいはしようと思った。


「フェルちゃん。美味しいご飯をいつもありがとう。ボクはもう戻らないから、好きにしていいよ。じゃあね」

「あの……それは、どういう……?」

「賢い君ならわかると思うけど、ボクはゴーレムで君たちを襲った誘拐犯だ。悪人だ。悪は裁かれないといけなくて、っ刑罰の執行者はすぐそこにいる。君たちは被害者なんだから、余計なことは言わずに正義の味方に助けられるといい」


 廊下を通ると、焼き立ての肉のいい匂いがしていた。これを食べられないのは本当に残念だ。人の気配がするから、カルソーくんは待っているのだろう。

 なにか声をかけようかと思ったが、でも彼はボクを善人だと勘違いをしているからいいや。


「……星がきれいだ。雲もないし、天体観測なんてのも楽しそうかも」


 屋敷の外に出ると、空はすっかり暗くなっていた。


「いるのはわかっているよ。勇者ツルギ、だったかな? 君転生者でしょ」


 屋敷から少し離れた森との境界に向かって声をかける。

 気配も魔力も感じなかったが、ボクの言葉に反応して4人の正義の味方が現れた。1人は白い鎧の勇者ツルギ。あとの3人は重鎧の騎士と聖女と賢者。名前はよく覚えていない。

 彼らがそこにいるとわかったのは、転生者にだけわかる謎の違和感のせいだ。以前解放軍のリーダースラスカーヤに転生者だとバレた。彼女も転生者だったのだが、そのときに感じた違和感が、何もない空間にあったからわかったのだ。


「……ということは、君も転生者なのか?」

「そうだよ。ボクの名はスラー・ハレルソン。君と同じ日本人だ」


 日本人かどうかは確定していないのでカマかけのようなものだけど、黒髪黒目が4人も居て名前がツルギならほぼ間違いないだろう。


「そうか。では俺も一応名乗っておこう。俺の名はツルギ。このニーム王国で勇者をしている日本人だ」

「お、名乗る流れか? じゃあ次は俺だな。俺の名はゴウ……」

「いや、いいよ。勇者意外に興味ないし、勇者じゃない男なんて雑魚じゃん」

「……んだとテメエ!?」


 重鎧の男が前に出てきたが、あえて名乗りの邪魔をする。興味がないのは事実だけど、それ以上にこの場を離れないといけないからだ。

 彼らの戦闘能力はシャドウキャリアーの記憶から十分に理解している。ここで戦ったら、まだ屋敷にいる3人まで巻き添えになる可能性が高い。

 別悪役のせいで3人が死んだとしても、それは仕方のないことだ。だけど無実の3人を殺してしまったことで、正義の味方の価値が曇ってしまうのは許せない。


 だから挑発した。誰でも良かったんだけど、重鎧のゴウ……なんとかは、瞬間湯沸かし器のように怒り出す。


「ゴウドさん、落ち着いてください。ここに着た目的を忘れたんですか?」

「……チッ、悪いな」

「目的ってなにかな? 同じ日本人同士、知っていることなら何でも答えよう」


 せっかく怒らせたのに、聖女が宥めて少しだけ落ち着きを取り戻す。怒らせて殴りかからせて、逃げ去る作戦だったんだけどな。


「私らは町を襲った真犯人を探してるのよ。ゴーレムを何体も操る闇の怪物だったんだけど、そいつはもう倒した。だけどどうやら黒幕がいるっぽいのよ」

「町が襲われたんですか。それは気の毒に」

「……その怪物が消えたあと、残った魔力がこちらへと飛ぶのを俺は見た。なにか知らないか?」


 たぶんその魔力とやらはシャドウキャリアーの魂を回収した件だろう。

 でもちょうどいい。方角はわかっていても、その魔力の質までわかっていないなら誘導可能だ。


「魔力については知らないけど、ちょっと前に牧場の方で騒ぎが起きたんだ。そこで飼育されていた動物がみんな死んでしまって、もしかしたらそこになにかあるのかも。案内するよ」



ここまでお読みいただきありがとうございます。


よろしければブックマーク、いいね、ご意見、ご感想、高評価よろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ