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【第五章開始】悪役転生  作者: まな
第二章
47/173

2-17 はじめて? の想定外

寝てしまいました。



◆エル



 部屋に戻って戦闘員の新しい強化案を模索していると、スキルブックに通知が来た。


「……何だこれ?」


 消滅していると思っていたシャドウキャリアーが、いくつものスキルを獲得し、ボクに共有されていく。

 これらのスキルはボクはまだ獲得していないが、開放されていてすぐに使用可能な状態。つまりボクが転生したときに生前のスキルを無条件で獲得できるのと同じ状態になっている。

 ステータスページとにらめっこをしていると、アールが答えをくれた。


『闇魔法をゴーレム化させたシャドウキャリアーは、エル様の魂を受け継いでいます。魂の一部が獲得しているのですから、本体に還元されるのは当然かと』

「魂? あー、シャドウレギオンの可動範囲を広げるために使ったやつか。でもそれがなんでスキルを? ただの魔法でしょ?」

『魔法とはいえその核にあるのはエル様の魂です。更にゴーレム化までしてしまいましたので、エル様は気づいていないようですが、アレはエル様の魂を元に自我を持った人工精霊ですよ? であれば最初に下した命令に従って、現在もなお行動し続けているのです』

「……ええ?」


 ボクはそんなつもりなかったけど、肉体がスラーだからなのかな。無意識下で彼は望みを叶えたようだ。


「まあスラーの考えていた作成方法ではないし、たぶんどちらかといえば悪魔だよね、アレ」

『ええ。エル様の魂の断片が核ですので、成立としては悪魔が正しいかと』

「おめでとうスラー。おめでとうボク。また1つ実験を成功させてしまって、心から祝福しよう」

『おめでとうございます』


 まるで死後評価されるタイプの研究みたいだ。理論は違っていたけど、アプローチは間違っていなかった的な。


「それはそれとして、なんでスキルを獲得しているの?」

『エル様はカルソーの訓練のためにアレを作りましたが、それと同時にスキルの経験値を得るため、アレ自体に下した命令も訓練としていたはずです』


 確かにそう命令したけど、だからといってこんな簡単にスキルは生えてこない。

 いやまあ、スキルブックを開けばいくらでもスキルが手に入るボクが言うべきではないけど。


『これは推測ですが、そもそもゴーレムはその存在を維持するために魔力を必要とします。闇魔法は強力な分魔力も大量に必要とし、維持コストも相応に高いはず。エル様からの魔力供給がない以上、自我を持った人工精霊なら消滅を免れるために外部から魔力を獲得しようとするはずです』


 まあそれはわかる。出会った直後のヴィクトリアさんと同じ状態なわけだ。


『であれば自身の使用できる能力を発揮して、狩りをしているのではないでしょうか。例えばシャドウレギオンを使用しての魔力源の捜索と確保。命令を遂行しながらとなると、人間を狩るのがちょうどいいのでは? その結果として、偶発的にスキルも得ているのかと』

「ええ? ボクは殺さないようにって言ってあるはずだけど」

『その命令は対象が曖昧なので、殺さない対象をカルソーだけに絞っているのでは? 私ならそうします』


 そう言えばアールも人工精霊だった。ということは、主人をなくしたスキルブックも、自身の存在を維持するために自己判断で活動をしたりするのかな?


「ところで、この獲得可能スキルって、ボクの魂の一部が回収したからこういう状態になっているんだよね?」

『そうですね。一般的なこちらの世界の住人は、反復練習によってスキルを獲得します。ゴーレムとはいえ、自我をもったシャドウキャリアーはこちら側の住人と呼べるでしょう。訓練と称してシャドウレギオンにスキルの真似事をさせ、そのスキル未満の攻撃によって対象を殺害した場合、経験値を得てスキルへと昇華されます』


 なるほど。確かにいま獲得可能なスキルはほとんどが攻撃スキル。それも近接戦闘系ばかりだ。


「いや、ボクが聞きたいのはそういうことじゃなくてね。魂の一部があれば、ボクのスキルも使えるようになるっていうこと?」

『ええ、まあ。魂でなくとも、事実としてエル様は自作のゴーレムに自身のスキルを組み込んでいますから、スキルを搭載することは可能ですが?』


 ああそうか、さっきからゴーレムの話ばかりしていたから、新しいゴーレムに関することだと勘違いしているんだろう。


「そうじゃなくてさ。ヴィクトリアさんのことだよ。ボクと契約して魂が混ざっている彼女は、ボクのスキルを与えることはできるのかな?」


 それはシャドウキャリアーが獲得したスキルのうちの1つに、悪役としてかなり有用なものがあったから、ぜひとも使えるようになって欲しいという思いつきだったんだけど。


『……面白い試みですね。過去の転生者のうち、魂を奪うものはいても、与えるものはいませんでした。是非試してみましょう』



◆シャドウキャリアー



「うわあああぁぁぁっ!!」

「逃げろ! とにかく影のないところに逃げるんだ!!」

「クソッ、なんで突然攻撃が効かなくなるんだ!?」


 シャドウキャリアーが森を抜けると、そこには学習対象兼、魔力の詰まった命が豊富にあった。取り込んだ冒険者なる者の知識によると、ここは森の町というらしい。

 誰も彼もがシャドウレギオンを見るなり襲いかかってきて、しばらくのうちは楽しげに戦うのだが、しばらくして疲れが見え始めると逃げようとする。

 冒険者という存在はどうやら戦いたがる習性があるようで、それ以外の、戦うスキルのを持たない存在はシャドウレギオンに対して恐れを抱いて逃げていく。

 こちらとしても近寄ってくる奴らのほうが狩りやすいので、戦わずに逃げるなら多少は捨て置いてもいいだろうと判断し、冒険者を中心に狩りを続けた。


「影法師は弱いって、お前言ってたじゃねえか!」

「実際弱かっただろ!? 今も霞みてえに消えちまって……!? ごはっ!!」

「おい!? だいじょばべっ」


 冒険者は実に愚かでよい。何人も同じ方法で狩り取ってきたというのに、なぜこうも学習をしないのだろうか。

 そのほうが楽でいいのだが、冒険者たちのほとんどは自分だけは大丈夫だと思い上がっている。


(それにしても、やはり戦いを生業にしている存在のほうが魔力の量が豊富ですしね)


 襲いかかってくる馬鹿は狩り殺すが、かと言って戦えないものすべてを逃したままにするわけではない。逃げ遅れていたものは容赦なくシャドウレギオンで粉砕したのだが、そいつらは取り込んでも魔力が少なかった。

 小さい個体は特にそれが顕著で、いわゆる子供というのは費用対効果が感じられなかった。どうも人間というのは成長によって魔力を得ていくようだ。

 かといって年老いた存在に魔力が詰まっているわけでもないので、結局のところ狩ってみるまでわからない、というのがシャドウキャリアーの直近の悩みだった。


「くらえ、ソニックパンチ! 見ろ、完全に消し飛ばしてやったぞ!」

「やったのか!?」

「馬鹿、すぐに逃げろ! 敵は1体じゃねえんだぞ!」

「へ、俺のフットワークで避けられないこ、ぐげばっ!?」

「は!? 影法師がスキルを使いやがったぞ!?」

「おい、おいおいお、なんでてめえら、武器なんて持ってなかったじゃねえか!?」


 スキルの訓練は順調だった。何人も冒険者を狩り殺したことで、現在のシャドウレギオンは十分に強化され、これ以上はマスターの新たな改造がなければ発展を望めない。

 そこでシャドウレギオンに冒険者の真似事をさせてみることにした。それによりパンチやキックと言った格闘術はより洗練された動きになり、余裕があれば武器を拾っての攻撃も試してみた。

 それらは新しいスキルとしてシャドウキャリアーに蓄積され、自身が展開するシャドウレギオンにも共有されたため、狩りの効率は格段にアップした。


(マスターはもっとよいゴーレムを作るべきでしたね。器用な人型なのはよいですが、影というのはあまりに脆い。もう少し、せめて一撃程度は耐えられれば、強化によって魔力を浪費することもないというのに)


 シャドウキャリアーはそう愚痴るが、エルの目的はあくまで雑魚戦闘員の作成であり、むしろ耐えてもらっては困るのだ。

 そういったエルの歪んだ価値観は、魂の一部を受け継いでなお理解できなかった。


「ちくしょう! 来るな、来るなああ!?」

「た、助けてくれ! 手を、手を貸してくれ……!」

「ちくしょう! もう無理だ!」


 それにしても、群れているくせに助け合わないのはなぜだろう。シャドウキャリアーはここを狩り場にしてからずっと疑問に感じていた。

 マスターの設計思想の一部に、複数のシャドウレギオンを使用した連携攻撃や、連続アクションなるものがあった。

 森の中では障害物が邪魔だったり、人数が足りていないからかとも思っていたが、町まで来てもそのような動きは見られない。

 あるいは、森で出会った剣士と弓使い3人の、あの程度の連携をマスターは求めていたというのだろうか。

 そこだけは訓練ができていないと感じながら、冒険者の死体を飲み込んでいく。彼らの記憶にもマスターの求めるような動きは存在しない。


 魔力も十分に貯まり、襲いかかってくるものも少なくなってきた。

 そろそろ移動しようか。シャドウキャリアーがそう考えていたときのことだった。


「うおおおおおっ!! 消え失せろ!!」


 それはシャドウレギオンの認識範囲外から襲ってきた。

 声と同時に放たれた光の波。今までの戦闘とは比べ物にならない破壊力。

 たったの一撃で、観測手とデコイに使用していたシャドウレギオンが消滅し、


(!? コアまで攻撃が届いている!?)


 それはシャドウレギオンにとってはじめての衝撃だった。

 なにせ展開しているシャドウレギオンのコアは外部に露出していない。にも関わらず、シャドウアフターの虚像を貫通してコアまでダメージが通っているのだ。

 何が起きたのかもわからない、全く未知の経験だった。


「くっ……! 間に合わなかったか!」

「わかってたことだろ? だからあんな大技をいきなりぶっ放したんじゃねえか」

「もし生存者がいたらどうするつもりだったんですか? いないのは確認済みですけど」

「うわっ、アレ闇の魔法だよ! 初めて見た! 本当に生きてるんだ!」


 ダメージが届いたからと言って、破壊されたわけではない。シャドウレギオンを再展開し、声のする方を睨みつける。

 上空に展開された4つの魔法陣。その上に立っているのは4人の若い人間。


(魔力が、これだけ離れていてもわかるほどに多い)


「俺たちが来たからにはもう安心だ! ニーム王国の平和の番人! 勇者ツルギが、この町の闇を打ち払う!」




ここまでお読みいただきありがとうございます。


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