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【第五章開始】悪役転生  作者: まな
第二章
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2-7 2人の処遇



◆フェル



「大丈夫だって、森の中で捕まえたからバレてないよ。他に人はいなかったし」

「まあ冒険者は危険がつきものだから足はつきにくいでしょうけど。こいつらEランクの新人よ? そんな連中に料理なんてできるのかしら。装備を見るかぎり貧乏人って感じだけど。というか、食材がなければ料理はできないわよ?」

「食材ならあるよ。帰り道にウサギを仕留めてきたんだ」


 話し声で目が覚める。どうやら地面で寝ていたらしい。

 どうしてそんな事になったんだっけ。起き上がろうとするが、身体を縛られているようで満足に動けない。首だけで周囲を確認すると、隣には泥だらけのカルソーがいた。


 そうだ、思い出した。私たちは森の中でゴーレムに遭遇して、彼が私を庇って……


「あ、目が覚めたみたいだ。ヴィクトリアさん。起こしてあげて」

「仕方ないわね。ほら、起きなさい」

「きゃっ!」


 全身の拘束が一段ときつくなり、強引に持ち上げられる。ロープだと思っていた拘束はつる植物の触手であり、すぐに柔らかい椅子のようなものに座らせられた。


「やあ、ボクはスラー。こっちはヴィクトリア。早速なんだけど、君は料理できる?」

「え? ええっ!?」


 私に話しかけてきたのは疲れ切った笑顔をしたスラーと名乗る男性。彼は貴族風のスーツ姿だが随分とくたびれていて、高級感は感じられない。水色の妙な球状の椅子に座っていて、その椅子が彼のかわりに歩いているようだった。

 それよりも驚いたのは彼が紹介した女性、ヴィクトリアだ。巨大な花のような帽子を被った薄紅色のドレス姿だが、肌も髪も緑色で、目だけが黄色く光っている。そしてそのドレスの裾から覗くのは何本もの触手であり、そのうちの何本かが私とカルソーを縛っていた。


「黙っていられるとわからないんだけど?」

「えっと、あの……えと……?」

「あなたさあ、いきなりそんな事言われてもわからないでしょ? 順を追って説明しないと」


 スラーの質問に答えられないでいると、ヴィクトリアが助け舟を出してくれた。


「フェルさん。落ち着いて聞いて欲しいんだけど」

「は、はい」

「あなたと横にいるお友達をゴーレムで誘拐してきたのはそこにいるスラーなの」


 訂正。助け舟ではなかった。彼らこそが私たちを襲った犯人だった。


「ど、どうして…… っ! カルソーは!? カルソーは無事なの!?」

「息はあるから無事だよ」

「エルは黙ってて。ああ、心配しないで? 殺すとかそういうことはないから。もちろん無理に連れてきた理由はあるわ。それは私の朝ごはんを作る人が必要だったからなの。もう昼だけど。それでね。改めて質問なんだけど。あなた、美味しい料理を作れる?」


 ヴィクトリアの問いかけは優しげなものだったが、その微笑みは貼り付けたようなもので、目は捕食者のそれだ。

 私が答えに迷っていると、触手の拘束が少しずつ絞まっていく。


「あ、あの、えと……」

「どうなの? 私お腹が空いているの。料理が無理ならお菓子でもいいわ。作れるのか、そうじゃないのか。それともそっちのカルソーくんはどうかしら? 彼は料理が作れる?」

「か、カルソーは煮て混ぜるくらいしかできない、です」

「あらそうなの。それじゃ、あなたは?」

「あ、あの……簡単なものなら」


 私の答えに満足したのか、触手による拘束は解かれ、身体から力が抜ける。


「あ、ちょっと。いきなり全部解いて逃げられたらどうするつもりなの?」

「首に巻き付いてるから平気よ。逃げたら絞まるわ」


 彼らの会話ではっと首元に手をやると、そこには細い蔓草が絡みついていた。


「それじゃ、早速料理をしてもらいましょうか」



◆エル



 ヴィクトリアさんはボクがクレイゴーレムを操作している間に、厨房を使えるようにしていたらしい。そこに保存されていた食材がいくつもダメになっていてものすごく怒られたが、調味料はかなりいいものがあったそうでそれは褒められた。

 ……まあ、どっちもスラーの成果であってボクのせいじゃないんだけど。

 よほどお腹が空いていたのか、彼女はボクの持ち帰ったウサギ(どうやら魔物だったらしい)といくつかの植物をフェルに持たせて屋敷の中へ。終わったら呼んでくれるらしい。


 さて、その間にボクにもやることがある。

 それは連れて帰った料理人候補のうちの選ばれなかった方、カルソーくんの使い道だ。

 彼らが眠っている間にヴィクトリアさんと話したうち、彼が納得してくれそうなのは2つ。

 1つは恒久的に食料を確保するため、買い物係にする案。

 もう1つは屋敷掃除係だ。


 ぶっちゃけどっちもやらせるし、なんなら料理係に任命したフェルちゃんも調理中以外は掃除を手伝わせるから、主題となるのは1つ目の方だ。

 まず彼らはそれほど金を持っていない。所持金は2人で3千クォーツほど。ドントリアと同じ物価なら、宿代に食費を入れたら2日分にならないくらいだ。ちなみにヴィクトリアさん曰く、「私の1食分程度」。何の参考にもならなかった。

 だがこれに関しては既に解決している。厨房に食材購入のための準備金がいくらかあったのだ。10万クォーツもあれば、いくらヴィクトリアさんが大食いでもしばらくは持つはずだ。

 問題は買い物に行かせた彼が戻ってくるかどうか。ヴィクトリアさんはフェルを使って脅せばいいと言っていたが、彼らの関係はそこまで信用できるものなんだろうか。


「まあ、それ以上に問題なのは……息はある、だけってことなんだよね」


 先程フェルちゃんにはカルソーくんは無事だと言ったが、実際にはクレイゴーレムで思い切り殴りつけたのでいろんな骨が砕けている。まずは彼を直さなければ。


「というわけでアール。クリエイトゴーレムで、生きた人間のゴーレム化ってできるかな」

『理論上は可能ですが、対象が生きている以上無意識に魔力抵抗されますので現実的ではありません。回復スキルを獲得してはいかがですか?』

「回復魔法ってやつ? ボクは悪役だからいらないよ」


 実際には傷ついた戦闘員や怪人を治す悪の医者もいたが、往々にしてその回復にはリスクがあった。例えば新しい改造を施されたり、新しい怪人の実験台にされたり。普通に治すなんてことはしないのだ。


「ああそうか。別にボクも普通に治す必要はないじゃないか」

「改造となるとゴーレム化させるよりも余程難しいと思いますが。というよりもそれ自体がゴーレム化と変わらないのでは。どちらも肉体改造なのですから」

「そっかー。ところで無意識に魔力抵抗されるって言ったけど、魔法を知らなければ魔法を防御できないんじゃないの?」


 実際ボクはそれを利用して、過去に盗賊村長を焼き殺している。不意打ちでも無意識に抵抗できるなら、ボクが倒せるはずなんてない。


「説明が難しいのですが、そもそもこの世界の人間に魔力はあります。そのためポーションの封印などに魔力を使用しますし、誰でもその解除程度なら魔力操作ができます。しかし魔法への攻撃耐性となると話は別です。攻撃魔法を防ぐには、魔力を操作し防御魔法を構築しなければなりません。これがエル様が村長に勝てた理由です。魔法への対処法も耐性もなかったため、あの貧弱なファイアボールで勝利できました」


 普通の人は魔力はあるけど、その操作の鍛錬はしないから魔法に対する防御はない、ということか。

 防御魔法なんてのもはじめて聞いたけど、それはパンチが来たとわかったらとっさにガードをするようなもので、魔法を知っていると無意識に魔力を操作して固めるものらしい。更に防御専用の魔法なんてのもあるようだ。ところで貧弱なファイアボールは余計でしょ。


「魔法に対する耐性はわかったけど、それでどうしてゴーレム化だと抵抗されちゃうの? 彼が魔法を認識しているから?」

『いえ、そうではありません。無意識に身体を流れる魔力は、肉体を正常な状態で保全しようとする作用があります。そのため何もしなくても怪我が少しずつ治るのですが、ゴーレム化というのは肉体の中に別の魔力を流し込む行為であり、もとより存在する魔力と反発するのは必然かと』


 ゴーレムとして操作するための魔力が、元の肉体の魔力と干渉しちゃうってことか。

 思えばボクがゴーレムにしてきたのは、自分の魔法の他にはゴミやガラクタ、マッドラットの死体だけ。それらには当然ボク以外の魔力はなく、魔力が干渉しあうなんて考えには至らなかった。

 ちなみに精神操作系の魔法が難しいのも、この魔力抵抗をどうにか突破しないといけないから。その最も重要な部分が学べなかったため、スラーは精神操作魔法を獲得できていない。


「あれ? それなら回復魔法はどうして作用するの? それも異物の魔力じゃない?」

『先程少し説明しましたが、生きた生物の魔力には肉体の自己保全機能があります。回復魔法はその後押しをするものであり、実際には自己回復機能の強化です。より上位の魔法であれば肉体の再生や失った部位の復活も可能ですが、それらもベースには対象者の魔力があるため異物と認識されづらいのです』


 回復魔法ってそういうものだったんだ。全然知らなかった。あれ、それならもしかして……


「じゃあさ。ゴーレム化まではしないけど、ゴーレムとしての肉体作りのために折れた骨の位置を戻したり、破れた内臓を修理したりするなら……干渉されない、もしくは干渉されても回復効果は期待できる、ってことにならない?」


 ボクの質問にアールは黙ったままくるくると回転し、


『面白い考察ですね。試して見る価値はあると思います』


 と返答があった。どうやら今までにそんな使い方をする人はいなかったらしい。


「なら試してみようか。クリエイトゴーレム……!」


 ヴィクトリアさんの触手によって簀巻き状態のカルソーくんにボクは魔力を流し込む。


「……うっ、ぐあっ……!?」

「うーん、なんだか苦しそう」

『そうですね。失敗でしょうか』

「まあ、最悪死んだらゴーレムにできるし。できるところまでやってみようか」


 幸いというか、ボクは入院生活が長かったから、医者や看護師さんほどではないけど人体の構造に詳しかった。手術の度に説明されていたからね。

 だから彼の折れた骨を元の位置に戻したり、ズレた内臓を戻したりするのは、なんだかパズルみたいでだんだん楽しくなってきた。砕けた骨の破片なんてまさにジグソーパズルの青空部分。いったいこれはどこに合わせるんだろう。


 そうして時間は過ぎていき……

 ヴィクトリアさんが満足して戻ってきた頃には、カルソーくんは五体満足で治っていた。


 それはこの世界はじめてのゴーレム医療、その誕生の瞬間であった。




ここまでお読みいただきありがとうございます。


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