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【第五章開始】悪役転生  作者: まな
第二章
33/173

2-3 はじめての悪魔召喚

評価ありがとうございます。



「えーと、なになに、標は銀。その地に繋がる門は狭く……楔は金、いやこれメッキじゃん。え? いいから読めって? しかしてこの地に明日は広がる。この世ならざる理のものよ。我ここに願う。汝の力を示し給え…… これでいいの?」

『はい。召喚陣そのものは機能しています。詠唱に必要な言葉は足りているので、問題ないかと』

「いい加減だなあ……」

『精霊はそれほど上等な存在ではありません。希少なだけです』


 今居るのはスラーの死んでいた部屋だ。ボクが蹴躓いて本を倒してしまっていたから気が付かなかったが、そこには悪魔召喚のための魔法陣があった。

 それをアールの指示に従い作り直し、一部改悪を施して起動。あとは召喚されるのを待つだけだ。


「こういうのって起動と同時に陣の中心に悪魔とかが召喚されるものだと思っていたけど、結構待つんだね。その間も魔力を消費し続けるし、普通の人にはきつい魔法じゃない?」

『通常、精霊や悪魔はこの世界にいません。正確にはこの世界に繋がっている異界、魔力溜まりの向こう側、魔界などと呼ばれる領域にいます。この召喚陣はその世界へ繋がる門でしかなく、呼び出しに応える存在は用意した餌次第で変わります。そのためかなり運に左右される魔法なのです』


 ここは異世界なのに、その上で魔界なんてのがあるのか。まあ現世でも天国や地獄なんていろんな概念があったし、魔法があるんだから魔界があっても普通か。

 それにしても召喚って運だったのか。まあ異世界転生モノでもある日突然何の脈絡もなく召喚されるし、主人公はそれを予め認識していない。精霊も同じなんだろう。なお何らかの方法で既に互いにその存在を認知してる場合は、もっと楽な召喚が可能らしい。

 となると、コレはゲーム好きの家庭教師の先生が言っていたガチャと言うやつなのでは? なんでもガチャというのは先生の食費を奪っていく悪の集金システムらしい。

 ただそこでレアが引けると、同額の食事では得られないほどの幸福感があるのだとか。

 アールも運が絡むと言っていたし、もしかしたらかなりの大物が出てくるかも知れない。そう考えると急にワクワクしてきた。


「何が出てくるのかな! レアな大悪魔とかが出てくるといいな!」

『エル様。失礼ながら今回用意した対価は金ではなく金色の鉄くずです。これに騙されて召喚される悪魔は、大したことはないと思われますよ?』

「えー? やっぱりこれ金メッキだったの? なんでスラーはそんなもので悪魔を召喚しようとしたんだろう。そんなにお金がなかったのかな?」

『予算の問題もあるかと思われますが、スラーとしても高ランクの悪魔を呼びたくなかったのでしょう。高ランクの存在は強力ですが、当然対価も大きくなります。逆に言えば対価としての価値が少ない金メッキのガラクタに釣られるような悪魔なら、低ランクに絞れると予想したのではないかと』

「ああそういうことね。有料ガチャと無料ガチャってことか」


 先生曰く、後者のガチャはレアリティの上限が決まっていたり、有料でないと手に入らないアイテムが有るなど、色々と差別化されているらしい。スラーはあえて上位ランクの当たりを排除するために鉄くずを用意していたのだ。

 当たりはないのかとがっかりしながら魔法陣を眺めていると、突然陣が輝き出し、中心に置かれていた金メッキの鉄くずが溶けるように飲み込まれていく。まるで床に沈んでいくようだ。

 すべての鉄くずが飲み込まれると陣の輝きは一層激しくなり、肉眼可能なほどの魔力が周囲に立ち込めていく。


「……うわ、不味ッ! 金かと思ったらゴミじゃない! 誰よ、こんなもの用意したクソ野郎は!」


 魔法陣から光が失われると、そこには薄緑色の肌をした女性がいた。上半身は貴族風のドレスに大きなつば付き帽子だが、下半身はドレスの隙間からは無数の蔓草が生えている。帽子だと思っていたものもよく見れば巨大な花だ。

 彼女は触手のような蔦で飲み込まれていった金メッキのガラクタを掴み上げ、ナイフとフォークで鉄くずを切り分けて食べていた。不味いと言いながらも丁寧に切り取って口に運び、数回の咀嚼で飲み込んでいく。

 しばらく呆然とその様子を見守っていたが、彼女は食事が終わるとこちらに向き直り、腕を組んでふんぞり返った。黄色いつり目には怒りを宿している。


「お前がこの不味いゴミを用意したの?」

「うーん。そうと言えばそうなんだけど、違うと言えば違うような……」

『今のエル様はスラーなので、そこははっきりとそうだと言っていいのでは?』


 しっ、余計なことを言うなアール。この植物の人は明らかに不機嫌だ。ボクはボク以外の人のせいで怒られるのは嫌いなんだ。ボクが怒らせたなら仕方ないけど、今回は半分はボクのせいじゃない。


「どうなの? もう一度聞くけど、あの不味い金で覆っただけの鉄くずを用意したのはお前ではないの? 違うというのなら、改めてあのゴミを用意した人間を呼び出すように」

「むう。あれを用意したのはこのスラーです。でもそれはボクじゃありません。……そんなに不味いなら一口でやめればいいのに……」

「お前! スラーと言ったわね!? お前は食事の価値を知らないのだわ。嘆かわしい! 食事とはすなわち死ぬまで続く殺戮の連鎖の1つよ。お前の食べるものは植物であろうと魚であろうと、何であろうとすべて命。人は命を奪って、命を食べて生きていく。その命を奪っておきながら、不味いから捨てるですって? そんなことが許されていいはずがないでしょう! 殺したのなら、殺した責任を負う必要があるの! その責任とは、すなわち食べることなのよ!」


 植物の人はすごい剣幕で怒り出した。でも言っていることはわかる。殺したのだから責任を持って食べろ。当然の摂理だ。

 ボクは食事に興味がなかったけど、今後は極力そういう意識を持とうと思った。

 しかし1つだけ、こちらからも言いたいことがある。


「……でも、それ金属じゃん」

「同じことよ! 用意された食事は食べる! 例えそれが鉄であろうと毒であろうと! それが私、ヴィクトリア・グーラ・エギグエレファの歩む美食道! 食事は続くわ! これまでも、そしてこれからも!」

「おー、すごい主張」


 ぐっと天を指差す植物の人、改めヴィクトリアに感銘を受けて思わず拍手をする。

 ところで今まで出会った人の中で一番名前が長いけど、実は凄い悪魔なのでは?


「まあ、その美食道が進みすぎたせいで世界樹の実を食べ、その実に宿る魔力の暴走によって死んだわけなんだけど…… ともかく、人を招くならもっとマシな食事を用意するように」

「わかりました。ところで人って言ってたけど、ヴィクトリアさんは悪魔ですよね?」

「え?」

「え?」


 ヴィクトリアさんは不思議そうな顔で首を傾げ、ボクもまさかそんな反応をされるとは思わず間抜けな声が出る。



「ヴィクトリアさん、悪魔じゃないんですか?」

「私って悪魔なの? 世界樹の実と混ざって死んだのは覚えているけど……」

『少なくとも人間ではなく、かなり強力な魔力生命体です。世界樹についてはわかりかねますが、悪魔召喚で呼び出したのだから、悪魔でいいのではないでしょうか』


 アールにしてはなんともあやふやな回答だった。

 ヴィクトリアさんも疑問符を浮かべ、自分のいた状況を語りだした。


「ふーん。私にはよくわからないわ。私は死んだあと魔力で溢れる世界にいたの。そこはまさに地獄。ろくな食物がなくて、魔力で汚染された泥水を啜り、魔力で汚染された魔物の死骸を食べて暮らしていたわ。時間の感覚も曖昧で、どれくらいそこにいたかもわからない。そんなある日、その世界にすっと澄んだ、いい匂いがする穴が開くのを知ったわ。きっとそれが召喚というやつだったのね。私以外の住人たちはその匂いに導かれて、飛びつくように穴の向こうへ消えていったの。私も気にはなっていたんだけど、一度食べたら食べ終わるまで動かないと決めていたから、いつもそのタイミングを逃していたのよ。そして今日、偶然にもそのいい匂いのする穴が近くに現れたってわけ」

「それで釣られてきたら、不味いガラクタだったと」

「そういうことになるわね。不味いと言っても、あちらの世界のものに比べたらだいぶマシだけど。それでも不味いものは不味いわ!」


 まあそれは仕方ない。そもそも金属だし。


「対価が食事になるなんて知らなかったんだよ。知っていればもっといいものを用意したのに」


 夏リンゴとか、夏リンゴとか、あと夏リンゴとか。

 ボクもスラーになったばかりで、ここにある食物を殆ど知らないのだ。


『エル様。召喚に使用される対価は、必ずしも食用になるとは限りません。呼び出された悪魔によっては魔力として分解、吸収したり、装飾品として変化させるものもいます。そのため金属類や宝石類を対価として準備することがほとんどなのです』

「なるほど。たまたまヴィクトリアさんが食いしん坊だったってことか」

「まるで私が悪食みたいに言うじゃない。私だって金属製の食器は食べないわ。木製と陶器は頂いたけど」


 食器を食べたら、それはやっぱり悪食ではないだろうか。


「それにしても、精霊って思ったよりもはっきり自我があるんだね。いや、悪魔だからなのかな?」

『悪魔の場合、核となる魂に自我の残滓があります。ここまではっきりと生前の記憶を持っている悪魔は珍しいですが。ちなみに彼女の名乗ったエギグエレファとは世界樹のうちの1つです』

「その世界樹エギグエレファの実を食べたら、魔力暴走で融合して死んじゃったのよ。お陰で私は若いままだけど、見てよコレ。肌はすべすべだけど植物みたいに緑色で、足は美脚だけど細すぎてスパゲティみたいに絡まってるわ。そうそう、スパゲティって知ってる? 小麦から作られる細長い紐みたいな料理で、色々なソースと組み合わせて食べるのよ」


 ボクは知識として知っているけど、病院にいた頃はまともな食事ができなかったので食べたことはない。

 いつだったかの家庭教師の先生はパスタは貧乏人の味方って言ってたけど、こっちの世界にもあるなら食べてみたいな。


「ところでボクは悪魔に頼みたいことがあって召喚したんだ。ヴィクトリアさんはお願いを聞いてくれないかな?」

「そうねえ。久しぶりに外に出れたから、そのお礼代わりに頼みを聞きましょう。何でも言いなさいな」


 良かった。悪魔というから魂を賭けろとか理不尽な要求をされるのかと思っていたけど、意外とまともそうだ。ボクは安心して呼び出した目的を告げた。


「それじゃあ、この屋敷の掃除をして欲しいんだ」

「なんだそんなことなの?」


 ヴィクトリアさんは腕を組んだまま部屋を見回し、足元に目を落とし、天井を見てから、ボクと目を合わせた。


「うーん。無理っ!」



ここまでお読みいただきありがとうございます。


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