表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第五章開始】悪役転生  作者: まな
第二章
32/173

2-2 はじめての人工精霊

少し短いです。



「……スラーは人口精霊を作りたいって思ってたみたいだけど、実際のところ精霊ってなんなのかな」


 今のところボクはアールしか知らない。そのアールにしてもスキルブックが喋っているようにしか見えないので、音声アシスト機能くらいの認識でしかない。


『一般的に精霊とは架空の魔力生命体として扱われています。実際には複数の異なる魔力が融合した結果として、自然発生した自我を持つ魔力生命体のことを精霊と呼びます。発生することも稀ですが、それが生き残るのは更に稀です』

「ということはスラーの考えはあながち間違いじゃなかったのか」


 自然発生した自我のある魔力が精霊。人工的に自我をもたせたものが人工精霊。アール自身も人工精霊に意志はなく、あくまでも命令に沿って動いているだけだと言っていた。

 意志のような命令を植え付けられた魔力か。なんかそれ、覚えがあるような。


 ボクはアクアボールを生成し、それをゴーレムにした。エルだったときには遠隔操作で散々使ったかなり使い勝手のいいものだが……


「もしかして、こいつも人工精霊に分類されるの?」

『認めない人は多いでしょうが、製作工程自体は同じものです』


 魔法をゴーレム化させるのはわりと基礎的な技術だ。

 一般的に想像される岩や金属でできているゴーレムも地属性魔法でボディを組むことが多いとされるし、ゴーレムが身体を動かすための、人で言う骨格に当たる部分は魔法によって作られている。

 その他にもコアと呼ばれる命令を書き込む脳のような器官は魔法で作るし、動くためのエネルギーは当然魔力。

 ざっくり言えばゴーレムとは魔力でできた人形に、集めてきた素材を貼り付けているに過ぎないのだ。元々が魔法の塊なのだから外側が魔法でも、極端に言えば外側がなくても問題ない。まあ、その場合はとてつもなく弱いゴーレムになってしまうが。


「えーっと。つまりスラーが目指した人工精霊作りは、本当ならゴーレム作りを目指すべきだった、ってこと?」

『そうとは言い切れません。あくまで現在確立されている人工精霊作成においてはゴーレムの発展形が近いもの、というだけです。その場合は確実に自我は発生しません。スラーの目標が自由意志にあるのなら、全く違う工程をする必要があった、その可能性は否定できません。現時点では誰も成し遂げていない未知の分野です』

「あー。よくわからないけど、アールが言っているのは、アールみたいな人工精霊を目指すならゴーレムを目指すべきってことで、自我を持った自然の精霊を人工的に作り出したいなら、まだ誰も成功してないから否定しきれない、ってことなのかな?」


 人工的に作られた自然の精霊ってなんなんだ。それが人工精霊だろ。ばかか。


『はい。これはスラーにとっての人工精霊と、一般的な人工精霊に関する認識の差ですね。そのため私も少々誤解をしていました。彼は間違っていたのではなく、探求者だったのです』

「ややこしいからスラーの人工精霊はもういいや。それで、ゴーレムは人工精霊と認めないってのはなんでなの?」

『端的に言えば精霊に抱いている幻想、でしょうか。一般的に知られている寓話に登場する精霊の特徴は、身体が魔力でできている、魔力なので向こう側が透けて見えている、また魔力なのだから触ることができず、精霊自身も物を貫通する、などでしょうか』


 ああ、現世で言うところの幽霊みたいな扱いなのか。いや、現世でも精霊ってそういうイメージあるけど。


『そのためより高度で強力かつ繊細な魔力ゴーレムのみが人工精霊とされ、それ以外の、特に物理的に触れることのできる人工精霊はゴーレム扱いされます』

「なんかクジラとイルカの区分みたいだ。大きければクジラで、小さければイルカ。どっちも分類は同じなのに、人間が決めてるだけなのか」


 結局のところゴーレムと人工精霊の違いはほとんどなく、イメージによる差だけらしい。ところでシャチはイルカだけど、クジラなみに大きいらしいね。


「うーん。じゃあスラーの目標は達成だ。おめでとうボク」

『スラーはこの結果を望んでいたとは思いませんが、おめでとうございますエル様』


 アールはスキルブックを開いたり閉じたりして拍手する。器用なことだ。


「でもそうするとどうしようか。ボクは悪役になりたいのに、これじゃただの変な科学者じゃないか」

『それなら以前言っていた戦闘員の作成を目指すのはどうでしょうか』

「それいいね! 確かに戦闘員は研究者が作るものだ! よし、早速実験してみよう!」


 ボクはその場で跳ねるように起き上がり、そのことを酷く後悔した。


『……エル様? どうされました?』

「……足を挫いた」


 この身体、弱すぎる。





「おお! これは快適だ! コレ現世にも欲しかったなあ!」


 ボクがクリエイトゴーレムによって作り出したのは、4脚歩行する椅子だ。屋敷の中にあった適当な椅子を解体し、ゴーレム化させることで自由に歩行可能にした。硬かった座面や背面には、アクアボールを加工したクッションを設置することで快適性も確保してある。

 操作方法は遠隔操作スキル頼りなので多少のラグがある。それでもこの弱々しい新しい身体よりはずっと自在に動かせていた。


「さて、悪の研究者らしい椅子を手に入れたけど、そのせいで余計に屋敷に入りにくくなっっちゃったな。この書類や本の山、誰か簡単に片付けてくれないかなあ」


 積み上がった本や溢れる書類はいかにも研究者らしくていいが、ボクには不要なものだ。中身を精査すれば役に立つものもあるかも知れないが、ボクの目標は戦闘員ゴーレムの研究。彼の目指していた人工精霊とは似て非なるものだ。


『エル様の目標に必要なものはスキルレベルアップと素材の選定ですから、確かにスラーの研究資料はそれほど役に立たないでしょう。しかし1点だけ考慮してもいい要素があります』

「ふうん? それはなにかな? というかなんでアールがそれを知っているのさ」

『私はエル様に開示されていないスラーの経歴の詳細を確認できますので。しかしこちらは確認いただけます。最後の部分、彼の死因いついてです』


 薄っすらそうだろうとは思っていたけどアール、というよりスキルブックは確実に僕たち転生者より上位の存在だ。まあこの世界のチートを与える立場なんだから当然だろうけど。

 まあいいや。ボクが好き勝手にするように、アールも好き勝手にすればいい。

 さて、アールに示されたスラーの死因とはなにか。それは悪魔召喚についてだった。


「……人工精霊の研究から悪魔召喚って、飛躍してない?」

『それだけ追い詰められていたんでしょう。あるいは研究が思い通りにいかず、自暴自棄になっていた可能性も考えられます。彼は自身での研究を諦め、既に確立されている精霊召喚術の1つ、悪魔召喚を行いました』

「精霊? 悪魔召喚って書いてあるけど…… 悪魔って精霊なの?」

『はい』


 悪魔とは負の魔力によって構成されている魔力生命体なのだとか。これは人間や魔物の魂が消滅せずに魔力溜まりに流れ込み、それらが偶然融合することで発生するらしい。

 精霊との差異は大きく2つ。

 1つには元となる魂があるため、自然発生した自我ではない。

 2つ目は大抵の場合魔力溜まりの負の魔力で汚染されていて、人間にとって有害。とのことだ。


 つまり生まれ出た魔力生命体としての精霊と悪魔の差はほとんどない。人間にとって有益か有害かの2つで大別されているのだ。


「なるほどねえ。発生過程は違うけど、結果として出てくるものはほとんど同じだから、分類上は精霊ってことなんだ」

『その他に聖なる魔力で洗浄された魂を核とした魔力生命体も存在します。そちらは聖霊などと呼ばれ、神の使いや守護霊として悪魔と対をなす存在として有難がられています』

「結局のところ人間にとっての利益で区別してるだけってことか。それで? スラーの死因はわかったけど、それがどう考慮する部分なの?」


 区分に関しては理解したが、それとボクの戦闘員研究との関係性がわからない。悪魔を戦闘員にするってこと?


『直近の課題に対する、もっと単純な理由です。スラーの召喚術式自体は既に完成していましたが、彼は発動に使用する魔力不足によって死亡しました』

「そうらしいね。ボクもそれは読んだよ」

『召喚術によって召喚された悪魔は、対価を与えれば使役が可能です。そしてその準備は既に整っていて、エル様であれば発動に要する魔力は十分あります。そこで提案なのですが、その悪魔を召喚し、屋敷の掃除をさせてはいかがですか?』


ここまでお読みいただきありがとうございます。


よろしければブックマーク、いいね、ご意見、ご感想、高評価よろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ