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【第五章開始】悪役転生  作者: まな
第一章
25/173

25 最終準備

新連載です。

途中少しだけ残酷な描写に該当するシーンがあるかも知れません。

念のため注意書きを置いておきます。


「明日の昼に開放、ですか?」


 なんでそんな半端な時間に。そう聞こうとしたが、ケウシュは嫌な笑みを浮かべて口を開いた。


「ああ、明日の昼だ。お前の命の恩人、ナクアルだったか? そいつが処刑されるのを目の前で見せて、それで終わりだ。あとは自由さ」

「……え?」


 何を言っているんだ? 処刑は3日後と聞いて、いやその日の晩に準備を進めたから2日後のはず…… それが、明日?


「ああ、あんたは随分寝ていたからな。寝ているうちに処刑が終わって、計画が破綻するかと心配したくらいだ。私が昨日夜中にあんたを捕まえてから丸一日は経ってるぜ?」

「そんな……なんで……」

「あんたを盗み出すときに部屋を確認したが、あんたマギパンをまるまる食ったろ? 美味いから気持ちはわかるが、あれは冒険者のための保存食。回復効果を高める薬草が練り込んであるんだが、それには睡眠作用もあってな。あんたみたいな子供が食いすぎるとちょっとした中毒症状になる。と言っても強い催眠作用だけだから、無害と言えば無害なんだがな」


 お陰で私の用意した麻痺毒がいらなかったぜ、なんて言っているが、そんなばかみたいな理由でボクの1日がすっ飛ばされてたまるか。ドカ食い気絶で救出失敗なんて洒落にならない。

 しかしそうなると魔力の残量が気になる。丸一日寝ていたのになんでそんなに回復していない? いや、もしかして寝ていたせいで栄養が足りていないのか。

 それについては今の食事で回復量を確かめればいい。ともかく今必要なのは1人になれる時間だ。


「……ボクは、明日までどうなるんですか」

「リーダーが求めているのは領主の野郎への復讐心だ。解放軍なんて名乗っちゃいるが、それはおまけに過ぎない。だからあんたも真の仲間になれるように、あんたの恩人を目の前で処刑させる。そうすればあんたも領主を恨むだろうって考えらしい」

「っ! そんなの、解放軍を恨みますよ。それより、ボクの質問に答えてください」

「私も同じことをされたら、解放軍を恨むだろうな。まあその辺リーダーはよくわかってねえらしい。力はあるが心がガキだ。みんなおんなじ価値観で生きてると思ってるのさ。かわいいよな。犯してやりてえぜ」


 ケウシュはスラスカーヤのことを語るとき、悪そうな笑みを浮かべていた。ボクを拐ったのだからわかっていることだが、この人も善人ではない。人の話を聞かないし、自分の所属の上司なのに欲求の捌け口にしようとしている。……悪役の参考にしよう。


「んで、あんたがこれからどうなるかなんてのは知らないね。ガキのお守りなんてしたくねえ。私への依頼はあんたを処刑の直前まで監禁し続けること。死なれないように飯は用意してやるから、部屋から出ないなら好きにしてな。どうせ何もできやしねえからな」


 くつくつと笑うケウシュは、ふと思い至ったようにエプロンをたくし上げて笑みを深める。


「それとも……お姉さんとイイコトして、何もかも忘れちゃおっか?」

「いりません!」





 ケウシュの相手をしていたら、すっかり夜になってしまった。処刑までの時間はあと18時間もない。


「ああクソ。ただでさえ時間がないのに、無駄に体力を使わされた!」


 恐ろしい女だった。ボクの知っているどの特撮の女幹部よりも手強かった。まさかあんな攻撃で体力を奪われるなんて。頭が何度も真っ白になりそうだった。

 部屋を出る間際、好きに使っていいと穴の空いたパンツを渡されたが、こんなもの何に使うっていうんだ。それよりも彼女の体液で汚れた服をどうにかしたかった。


 夕飯を作る時間がないからと保存食を渡され、部屋の鍵はきちんと閉められたがそれはいい。ゴーレムのパスが繋がっているなら、遠隔操作でどうとでもなるはずだ。

 ケウシュめ。この日のことはきっと一生忘れないだろう。ナクアルさんを助けられなかったら、それこそ思い出す度に発狂してしまうほどに。


『その割には楽しそうでしたが、よろしけれればそういった方面のスキルを確認されますか?』

「アール? 殴るよ? いいね?」

『スキルブック及びその人口精霊である私はエル様の魂の一部ですので、物理的な攻撃は効果がありません。それで気が済むのなら、どうぞお殴りください』


 さらっと言ったが、物理以外の攻撃なら効果があるのか。それってかなり重要なことじゃないのか? とりあえずアールは2回殴った。


「まあ今はそれはいい。ケウシュから情報も貰えたしね」


 それはナクアルさんの処刑の手順についてだった。

 処刑は昼12時過ぎ。この国には正確な時計がないため、広場に建てられた日時計の針がナクアルさんの首を覆ったときに執行される。

 順序はまず処刑の1時間ほど前に、領主の館から拘束された状態のナクアルさんが衛兵に連れられ出てくる。衆人環視の中処刑台までゆっくりと歩かされ、台上にあがったところで器具に固定される。

 そして罪状の読み上げが始まり、ここで罪を認めるかの質疑が行われる。認めれば執行までの間鞭打ち刑に処される。認めなければ、認めるまで鞭打ち刑に処される。要は茶番だ。衣服が裂けて血肉が飛び散るのが非日常的な新鮮さで、ある種の娯楽らしい。ボクには理解できない。

 時間がきたら斬首刑だ。これもその道のプロのスキルによる処刑で、一番の見せ場らしい。


「ボクは悪役を目指していたけど、ボクの目指していた悪役は所詮子供向けのお話だったんだ。処刑が娯楽だって? 一般人の方がよほど残虐で醜悪じゃないか」


 ボクには理解できない感性をもつ大多数の一般人たち。それに寄り添う正義の味方は、果たして本当に正義なんだろうか。

 だとしても、ボクの目指すべき悪役は変わらない。残虐性が肯定されるなら、ボクはその上を行くだけだ。残酷な非日常が新鮮な娯楽なら、その残酷を日常に広げてやる。


「ヘドロイドは遠隔操作できなくても、ネズミサイルは問題ないんだよね?」

『はい。スキルレベルは上回っていますし、基礎能力値もそこまで高くありません』


 アールの言うスキルレベルだが、ボクには自分のスキルレベルが確認できない。

 よくわからないがボク自身の中にレベルの基準がないからだそうだ。スキルをマスターすればそれがレベル上限というのは誰が獲得しても同じらしいのだが、その途中経過をどう判断するかが人によって異なるのだとか。

 なおアールには基準がわかっている。もちろん聞いてみたが、機密開放レベルに達していないため、お伝えできません、だってさ。


 スキルレベルはさておき遠隔操作を起動し、ネズミサイルの視界を共有する。


「うわ、すごいな。どれだけ狩ったらこうなるんだろう」


 目の前にあったのは山と積まれたマッドラットの死体。何体居るのか数えるのも面倒だ。ヘドロイドは近くにいない。徘徊しながらマッドラット狩りをしているのだろう。正直もういらないけど。

 ネズミサイルの役割は町中に設置したマーカーの位置での陽動、要は騒ぎを起こすことだ。数が多いので単純に複数匹現れただけでも騒ぎは起きそうだが、それで処刑の進行が止まるとは思えない。

 当初はすべて遠隔で操作し、フレイムスロアによる放火を考えていた。だが夜食を得るために盗みに入った雑貨屋で面白いものを見つけていた。

 それは使い捨ての魔石だ。その中でも火属性の魔石がボクのプランに合致していた。これは一定量魔力を加えると発火し、魔石内の魔力が切れるまで燃え続ける。火力自体は大したことはないが、それも組み合わせ次第だ。


「誘拐されたときは焦ったけど、ダンに見つからないように盗んだものを排水口から下水に落としておいたのは正解だったね」


 と言っても捨ててあるのは魔石やランプの燃料だけで、食料品やポーションのたぐいは宿においたままだ。特に魔力ポーションが手元にないのは少し心もとない。


「残りの魔力でネズミサイルを作って……ああもう、他にも色々考えていたのに、全部台無しだよ」


 文句を言っても手元にあるものでなんとかするしかない。現在操っているネズミサイル実験機でマッドラットの死体を1つ運び出し、腹を食い破って穴を開ける。


「実際に感覚があるわけじゃないけど、これだいぶグロいなあ」


 そしてその開けた穴に着火剤代わりの魔石をねじ込み、クリエイトゴーレムで無理やり起動させる。消費魔力はそれほどでもなかった。これならなんとかなりそうだ。


「ネズミサイル2号機、君はあの死体の山からマッドラットを運んできて腹に穴を開けるんだ」


 最優先はネズミサイルの量産だ。命令の上書きは後からでもできるので、まずはボディを作りまくる。同時進行で魔石の配置とクリエイトゴーレムの発動までできればよかったのだが、流石にこれはボクにしかできない。

 そうしてネズミサイルを量産すること約2時間、問題が起きた。


「……魔石がもうない……」


 わかっていたことではあるが、店頭にあった魔石は大小合わせて50個ほど。下水に落としたことでいくつかは紛失し、最終的に着火用として機能するのは40体にまで減った。

 いや逆に考えるんだ。遠隔操作に頼ったネズミサイルは30体が上限。ヘドロイドの分を引けば29体だ。それに加えて遠隔操作は魔力パスが必要であり、行動範囲は限られている。

 だが今作ったネズミサイルはその制限がない。正確には行動範囲に限界はあるけど、それは魔力パスの範囲よりも広い。


「こいつらはボクの手の届かない範囲外で起動させよう。足りない分はボクが火をつければいい」


 それに火以外でも陽動はできる。それこそこの数が一度に現れたらそれだけでもパニックになるはずだ。

 ネズミサイルたちに追加分のボディに穴を開けるのをやめさせ、そのままゴーレム化させていく。ところで死体をゴーレムにするのって、どちらかと言うとネクロマンサーでは?


「うーん、これって何が違うんだろ。アール、ゴーレムと死体を操る術の違いってなに?」

『死体をゴーレム化させるという点のみで考えるなら差はありません。ゾンビやアンデッドと呼ばれる存在はフレッシュゴーレムやミートゴーレムとも呼ばれ、通常のゴーレムとは素材が違うだけで広義には同じものです』


 アールによれば作った時点での性質は同じものらしい。しかしゾンビであれば襲った相手をゾンビ化させたり、アンデッドであれば倒しても復活したりと、通常のゴーレムとは異なる性質を持っている事が多い。

 ちなみにクリエイトゴーレムはそういった死霊術関連の基礎スキルに位置づけられており、直接の派生はないがそのような職業の獲得には必須技能らしい。

 アールを呼び出したついでに、先ほど聞きそびれたことを質問してみた。


「今更だけど、生物を殺すと魂からスキル経験値を得られるってどういう事?」

『そのままの意味です。この世界では殺された生物のスキルレベルに応じて、殺したスキルの経験値が獲得できます。例えばエル様がファイアボールで魔物を殺せばファイアボールの経験値に、アクアボールで殺せばアクアボールの経験値になります』

「なにそれ? そんなの殺し続けるだけ有利じゃないか。ボク知ってるよ。そうやって殺し続けた末に残った最後の1匹だけ外に出られるんだ。蠱毒ってやつだ」

『はい。聡明で何よりです。そうして残った最後の1人が新たな神になれます。エル様はすでにそのルールから外れた存在になっていますが』


 ちょっと待って。ボクはほんの冗談で蠱毒だと言ったつもりでいた。それがなに? 新たな神? いったいなにを言っているんだ?


「待って、落ち着いて、ウェイト、ストップ。なんで突然そんな新しい情報を出すの? それってかなり重要じゃない? いつもなら機密開放レベルがどうとか言うじゃないか。なんでそんなヤバそうなことを教えてくれるの?」

『エル様はすでに参加資格を失っているので、お伝えしても問題ありません』

「参加資格がないなんて、別に神なんて興味はないけど、そんなのズルいじゃ…………もしかして【敵】になったから、ってコト?」

『はい。その認識で問題ありません』


 なんか、それは納得するしかない。たしかにボクは【敵】だ。【敵】を望んで【敵】になったからそれは間違いなくて、であれば神の【敵】であってもおかしくない。当然【敵】なんだから神になれるはずもない。


「でも冷静に考えたらそれって成立しないよね。この世界にどれだけの生物が存在するか知らないけど、その全員を殺し尽くすなんてそれこそ神でもなければ不可能だよ」

『ええ、そのとおりです。参加資格はすべての生物にありますが、現実的ではありません。そのため実際の運用では神のスキルをマスターしたものが神になり、そのステージはリセットされます』


 なんだか一気にゲームっぽくなってきたが、その詳細は流石に教えてくれなかった。気になるところではあるが、これ以上はなにを聞いても無駄だろう。

 それにボクには差し迫った緊急の課題がある。突然の情報に意識を持っていかれたが、まずはナクアルさんを助けること、それが最優先だ。


 限界が来るまでネズミサイルを用意し、できるだけ簡単な命令もインプットした。あとはその時が来るのを待つのみ。


「流石に、そろそろ休むべきか……」


 体力も魔力も残り僅かだ。無理をするのは今ではない。ナクアルさん救出の、その瞬間にこそすべてを出し切る。焦っても意味がない。しくじったら全てが終わりだ。

 移動を開始したネズミサイル軍団の進軍を見届け、ボクは意識を落とした。



 ――ナクアル処刑まで、あと8時間。


ここまでお読みいただきありがとうございます。


本編に合わせて明日の投稿で1章完結とします。


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