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【第五章開始】悪役転生  作者: まな
第一章
24/173

24 はじめての誘拐

ブックマークや評価ありがとうございます。


◆エル



 目が覚めるとそこはまっくらで、果物の匂いが立ち込めていた。

 少なくとも泊まっていたはずの宿ではなく、光源がない。いや、目隠しをされているのか。外そうと腕を動かすが、そちらも後ろ手に拘束されていた。それでもなんとか拘束を解除しようと身を捩っていると、床に滑り落ちてしまった。

 床に落ちたせいで上半身が痛いし、拘束は解けていない。どうにかしようと足掻いていると、扉が開く音ともに人が入ってきた。


「お、ようやく目が覚めたか? 朝飯は用意してたんだが、もう冷えちまってるよ。どんだけ寝坊助なんだ?」


 荒っぽいが女性の声だ。声の主は喋りながらボクの後ろに回り、ボクを抱えあげる。


「誰ですか? ボクをどうするつもりですか?」


 返答次第ではファイアショットとフレイムスロアを出鱈目に放って焼き殺す。ボクも火傷するだろうが、アクアボールで応急手当はできるだろう。


「私の名は開かせないが、あんたもよく知ってる解放軍のメンバーだ。危害を加えるつもりはない。ただ少しの間大人しくしていて欲しい、それだけだ。抵抗しないなら拘束は解いてやるが、返事は?」


 解放軍だって? それならダンの仲間のはず…… いや、ダンはボクが雇ったから、もしかしたら裏切り者扱いされているのかも知れない。それに拘束されていた理由も不明だし。

 とにかく今は情報が必要だ。ここは大人しくしていよう。


「抵抗はしません。でも解放軍ならボクがダンさんと一緒に居たのを知っているのでは?」

「あ? ああ、ダンな。あいつは解放軍から除名になったよ」

「……え?」


 それはいったいいつのことだ? たぶんボクのせいだろうけど、こうなるといよいよナクアルさん救出作戦に使える手駒が少なくなってきた。

 腕の拘束を解かれ、目隠しも外される。とっさに後ろを振り返ると、口調とは裏腹にきれいな赤い髪のお姉さんだった。少し露出度の高い踊り子のような衣装を着ていて、……よく見たらこの服透けてないか?


「なんだ? ガキのくせに興味あんのか? 触らせてやろうか」

「い、いいです! いりません!」

「はっ、もったいないねえ。まあ待ってな。温め直して飯を持ってきてやる」


 くねくねとした独特の歩き方をする煽情的なお姉さんが部屋を出ていったのを見届け、すぐにアクアボールゴーレムを生成。コレは警報として部屋の外に置いておく。鍵はかかっていなかった。

 この部屋はどこかの物置のようで、箱詰された夏リンゴがいっぱいおいてある。ボクは木箱の上に寝かされていたようだ。

 さて、今すぐに確認するべきなのは現在の時間とヘドロイドの状況だ。もし魔力パスが切れていたら……

 すぐに遠隔操作の接続を試みたがそれと同時にスキルブックが起動し、アールに止められてしまった。


『失礼ながら現在のエル様は魔力不足状態にあります。このままヘドロイドに対して遠隔操作スキルを起動した場合、エル様の肉体に不可逆かつ致命的な損傷が発生する可能性があります。それでもスキルを起動しますか?』


 スキルブック上のステータスでは魔力の残量は半分程度だった。でもこのくらいなら昨日も遠隔操作している。なにが原因なのかわからないし、そもそも致命的な損傷ってなんなんだ?


「……致命的って、具体的には?」

『魔力不足状態での魔法やスキルの使用は、肉体を削って強引に魔力を捻出します。そのため軽度であれば筋肉断裂や内蔵出血等で済みますが、重度になると急激な老化や肉体の壊死などが想定されます』

「それは、……確かに今はマズいね。でもなんで急に? 昨日はできていたじゃないか」

『エル様のステータスの予備項目をご覧ください。現在エル様の指揮下で起動しているゴーレムの一覧が表示されます』


 こんな項目あるなんて知らなかったよ。でもこれでボクの心配事は1つ消えた。少なくとも現在の自分の位置は、ゴーレムとの魔力パスが切れるほど離れているわけじゃない。ボクはまだドントリア内にいる。

 ボクの起動中のゴーレムは3体。ヘドロイドとネズミサイルの実験機、それから今作った警報機だ。だが気になる点を見つけてしまった。


「ヘドロイドレベル6と、ネズミサイルレベル2?」


 ボクにはレベルがないのに、なんでこいつらはレベルがあって、しかもそれが少し高いんだ?


『エル様。ゴーレムはその構成している要素すべてがその個体のスキルによるものであり、レベルの概念があります。人間が成長すると基礎能力値やスキルレベルが上がるように、ゴーレムもまた成長しスキルレベルが上がります。結果としてスキルレベル依存の能力値を持つゴーレムは、基礎能力値が上がります』

「……ボクよりも成長率が良くない? ていうかなんで成長しているのさ?」

『ゴーレムは構成されている素材の上限以上の成長を望めません。そのため上限自体が低くスキルレベルの成長も早く感じられますが、最終的なステータスは並のゴーレムと同程度です。しかし人間は、特にスキルブックを持つエル様たちのように異世界から来たものは無限の成長性を秘めています。そのため上限が見えないので成長を感じにくい傾向にあります。スキルレベルの数値は目安に過ぎません』


 つまりゴーレムのレベルアップ速度が早いのは、上限が近いから少しの経験値でレベルアップしているから、ということなのだろう。それでもボクより強いのは気に入らないけど。

 しかし、上限が無限ねえ。でもボクの知っているお話でも、転生者は異世界の平均値を軽々と超えていた。本当に無限かはともかく、頑張っていればゴーレムよりは強くなれるはずだ。


『ちなみにゴーレムのスキルレベルの成長に関しては、エル様が命令したからとしか言えません』

「え? ボクはヘドロイドにドブネズミの死体を集めるよう言ったけど……」

『そもそもエル様がドブネズミと認識している生物はマッドラット、泥ネズミと呼ばれている魔物です。ゴーレムたちは魔物と戦うことで経験を積み、成長しているのでしょう』

「……ええぇぇ?」


 あのドブネズミ、魔物だったの? それで倒すと経験値が手に入って、レベルアップしてるってこと? なんか今までそんなにゲームっぽくなかったのに、ここに来てそんな事ある?


『エル様、勘違いしないでください。スキルとは使用しているだけで経験を積めます。ただぼんやりとファイアボールを作り続けるだけでも、いずれはスキルをマスターできます。しかし工夫をすることでその経験値の獲得量は増える、それはすでにご存知かと思います』

「ああうん。それこそファイアボールで試したからね」

『ゴーレムもまたそれと同じです。エル様の命令に従って、なおかつ効率的にそれを成し遂げようとします。その結果としてゴーレムのスキルレベルが上がっている、というわけです』


 なるほど。それなら確かに理屈としては正しく思える。ヘドロイドは効率的にマッドラットの死体を集めるため、死体探しではなくマッドラットを狩ることにした。戦闘の許可は与えてるからね。

 そしてより効率的に狩るための工夫をしたことでスキルレベルが早く上がっている、と。

 ところが話はそれだけでは終わらなかった。


「それでもネズミサイルに比べて上がり過ぎな気もするけどなあ」

『生物を殺すことで魂からスキル経験値を獲得できますから、その影響もあるかと』


 ……なんて?


「アール? なにそれ、ボク聞いてないんだけど、……っ、こんな時に!」


 さらっと重要なことを言われたタイミングで、警報機に反応があった。さっきのお姉さんが戻ってきたんだ。


「入るぜー? 寂しいのはわかるけど、独り言はもう少し小さな声でやりなー?」


 お姉さんは着替えたのか、さっきよりもまともなエプロン姿だ。パンの入ったかごを腕に下げ、小さな鍋ごとスープを持ってきた。


「……聞こえてました?」


 迂闊だった。いや、今まで隠れて行動するという経験に乏しかったから、視覚情報ばかり気にしすぎていたのかも知れない。


「なんか言ってるのはな。内容までは聞こえねえし、ガキの独り言に興味はねえよ。大方ダンのことであーだこーだ考えてたんだろ?」


 お姉さんは適当な箱をテーブル代わりにして、布を引いてからその上に鍋を置いた。ドロッとした赤いスープは、香り豊かでとてもお腹が空いてきた。


「まあ食え。食いながら今後の話をしてやるよ」

「えっと、いただきます。……器とかスプーンとかは?」

「あ? そこにレードルがあるだろうが」


 お姉さんは鍋をかき混ぜるための、器に注ぐためのお玉を持ち上げ、それに口をつけて豪快にスープを啜った。


「うん、熱くて美味い! これが私、冒険者ケウシュ流よ! ほれ、お前もやれや」


 口の周りをスープで汚して笑うお姉さん。どうやらケウシュという名前らしい。名は開かせないんじゃなかったのか。

 なお食べ方は非常に気に入らなかったが、スープの味はとても良かった。





「あんたのことはリーダーから聞いているよ。エルって名前で、なんでも特別な仲間なんだろ?」


 ケウシュは千切ったパンでスープの具を器用にすくい上げ口に運ぶ。多いとは思っていたが、彼女の分でもあるようだ。……2人で食べるのならやっぱり個別に器が欲しい。


「仲間になったつもりはありません。保護されていたのは感謝しますが……」

「仲間じゃないってか。そんなことだろうと思ってたぜ。ダンの行動が怪しいと聞かされていたが、あいつはあんたと一緒になって解放軍を抜け出したってわけだ」

「いつからボクのことを聞いていたんですか? それにダンのことも…… 解放軍の村を出たのはほんの7、8日前なのに」


 返答はないだろうと思っているが、それでもつい聞いてしまう。

 ダンがボクを連れてきた時点から怪しいと思われていたんならお手上げだが、村を出た後からなら情報の伝達が早すぎるのだ。

 この町に向かう途中解放軍の追手は現れなかった。であれば少なくともこの町に到着してから僕たちの位置が発覚するはず。だとしたら僕たちが歩いて移動した5日間をたった1日で往復できる連絡手段があることになる。

 そうやって考えを巡らせていると、ケウシュはあっさりと答えをくれた。


「んなもん簡単だぜ。解放軍にはメロミィっつう千里眼のスキル持ちが居る。そいつが作った遠見の魔導具があれば、距離なんて関係なく文字のやり取りができるってわけよ」

「へえ。それじゃあボクたちの行動は、この町に入った時点でバレていたというわけですか」

「なんだお前、普通は自作の魔導具っつったらもっと驚くんだぜ? まあいいさ。あんたらの行動は常に監視されていたわけじゃない。もっと間抜けな話さ。ダンのやつが慌てて冒険者ギルドに駆け込んできてね? 処刑される女についての情報がほしいなんて手当たり次第に声をかけて、そんな行動をしてれば解放軍の耳にも届くってもんよ」


 あー、それはきっと昨日のことだ。広場で処刑の日時を知って、それからダンは落ち着かない様子で宿から出ていった。ボクにも作業があったから気にも留めていなかったが。


「そんでその日のうちにダンはサブリーダーのデルガドに力を貸してくれって頼みに来てね。何もかもが不審だったんでリーダーに直接聞いたら、エルを拐った裏切り者扱いされていた。流石に私らも冒険者としての一面を知ってるから一旦話を聞くことにしたんだが、処刑される女を助けられないならもういいってさ。自ら除名を望んだんで、そのまま解放軍から蹴り出してやったよ」


 なんと。ダンは自ら解放軍を抜けたのか。ボクの渡した金をスラスカーヤにあげてしまったのに、抜けてしまって本当に良かったんだろうか。


「ダンについてはそれでおしまいだ。今でも元気に情報収集をしてるぜ? まあ、探す情報は変わったみたいだけどな」

「……ボク、ですか」

「正解。……おっとそんな目で見ても何も出ないぜ? さっきも言ったように危害を加えるつもりはない。ただ明日の昼まで大人しくしていれば、それでいいんだ。その後は開放してやるよ」

「明日の昼?」

「ああ、明日の昼だ。お前の命の恩人、ナクアルだったか? そいつが処刑されるのを目の前で見せて、それで終わりだ。あとは自由さ」



ここまでお読みいただきありがとうございます。


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