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【第五章開始】悪役転生  作者: まな
第一章
22/173

22 はじめての自律行動ゴーレム

新連載本日分は終了です。



 ポーションを見つめて物思いに耽っていると、突然頭の中にアラームが鳴る。これはボクの脳が作り出した幻聴であり、すなわち警報ゴーレムの反応だ。

 ダンが帰ってきた? 遠隔操作を切り替えるが扉の方に動きはない。ではこれは店内の……


「……誰かいるのか……? ……水……?」


 大きくはないが、確かに人の声が聞こえた。時間をかけ過ぎたんだ。


「ったく、ケントのやつか……? こんなところに水を零しやがって、何の音だ……? まさかまたつまみ食いか……?」


 ボクは急いで即席2号の中にポーションを詰める。今更気がついたが、この即席2号は金属や陶器のパーツが多いから結構音が響くな。


「ケント、店のもんに手を出したら飯抜きだとアレほど……誰だっ!?」

「ギギギギ、ガガガガガガガ……!! ガーッ!!」


 ボクはとにかく怪しげな声を出し、棚の1つを引き倒す。たくさんの小物が飛び散って大変なことになるが、今のボクは悪役だ。見つかったなら致し方ない。

 ちょうどいいのでフレイムスロアを試してみる。勢いはあるが火をつけるには少し時間がかかりそうだ。いや、可燃性のものが多いからなにか対策をしてあるのかな?


「こいつ炎を……!? 大変だ、このままじゃ火事になっちまう! 火事だー! 衛兵を呼んでくれー!」


 店主は慌てて裏口から外に出ていってしまった。とりあえずこのスキルは目眩ましにはなるかな。

 ボクの方は店の入口を蹴破って外に出る。まだ表では騒ぎになっていない。ボクはゴーレムを全力で走らせ、大通りに出る。これは足跡を追わせるための作戦だ。

 適当な路地に入らせてから手足をパージし、再度クリエイトゴーレムで作り直す。ちょうどいいことに屋台を移動させるカートがあったので、これを組み込んでしまおう。

 出来上がったのは前足が金属の棒、後ろ足がリヤカーの奇妙な馬車。

 流石に騒ぎが大きくなり人も出てきたが、それはみんな小火の起きた雑貨屋に夢中だ。

 ボクはケンタウロスカーと名付けたゴーレムを宿の裏口まで秘密裏に移動させ、


「……この部屋は3階じゃないか」


 ここまで来てなにも案が浮かばなかったボクは、仕方がないので自分で盗んだ荷物を取りに行くことになった。

 考えなしに盗品を突っ込んだツボは重く、これが罪の重みなのだとひとりで納得していた。





 スポンジケーキタイプの保存食を魔力ポーションで流し込む。本当ならもっと食事を楽しむべきだけど、これが一番効率がいい。ボクは急いでいるんだ。


「衛兵の動きが予想以上にいい。というより人数が多いのか。気づかれては居ないようだけど……」


 ボクが盗品を運び終えた直後、宿の表に衛兵が来ていたのがわかった。起こされた従業員が対応していたが、内容は放火犯が町にいるので注意せよというもので、ここを疑っているわけではなさそうだ。

 しかしわざわざ一軒一軒訪ね歩いているようなので、かなり敏感になっているように思える。


「……まさかナクアルさんに仲間がいると思われている?」


 あり得ない話ではない。そもそもナクアルさんの処刑理由は放火と殺人であり、衛兵たちはなにも真実を知らない。彼女が単身であの村に居たと知るのはボクだけなので、盗賊だと勘違いし仲間がいると考えるのはむしろ自然なことだ。

 火は良くなかったかも知れない。なんだかボクの行動は裏目ばかりだ。


「でも今更止まる訳にはいかない。他に手はないんだから」


 そもそも悪役がミスをするのは別に不自然なことではない。だって完璧な計画が完璧に遂行されたら、正義の味方の出る幕がない。必ずどこかにミスがあるものだ。

 そう言って自分を納得させつつ、次の準備に取り掛かる。


「ヘドロイド起動。こっちはどれくらい進んでいるかな?」


 地下下水道で自律行動をさせていた怪人一号、ヘドロイドを遠隔操作に切り替える。切り替えた瞬間頭痛が走った。どうやらこいつの操作は負担が大きいらしい。


「さてさて、おお、かなり集まってる! これなら計画を遂行させられそうだ!」


 ヘドロイドに集めさせていたのは自律行動型のゴーレムの材料だ。

 これは処刑当日の陽動に使うものなので、小型で素早いものが望ましかった。本来ならひとつひとつ作る必要があったのだが、この下水道を見たときに名案が浮かんでいた。

 クリエイトゴーレムのスキルを入手したとき、ボクの中には解剖学や生体力学のような知識が入ってきた。そして解放軍の村で最初に作った魚の目を取り付けたアクアボールゴーレム。あんなものでも目としての役割を果たしていた。

 なら最初から揃っている状態なら、そのままゴーレムとして運用できるのではないか? 仮にそのままではできなくても、一部を改造すれば使えるのではないか?


「いくぞ……成功してくれよ……クリエイトゴーレム……!」


 ボクがヘドロイドに集めさせたのは、大量のドブネズミの死体。この世界でもドブネズミと呼ばれているのかは知らないが、うまく行けばこれほど条件に合致した生物はいない。


 果たしてボクの目論見はうまく言った。


「チ、チチチ……」

「ふは、やった。……改造の必要もなく、死体のままゴーレムにできた!」


 起き上がったドブネズミの死体は生前と変わらない速度で走り、壁を飛び、下水を泳いだ。

 完璧だ。これこそボクの求めていた、生体ステルスミサイル。


「ああ、素晴らしい。君たちの名前はC2ネズミサイルだ。あははは、あとでいっぱい魔石を食べさせてあげるからね」


 本来なら全て遠隔操作で1体ごとに火をつけるつもりでいた。だが今のボクには着火用の魔石がなぜかたくさんある。これなら遠隔操作の上限30体を超えて、ネズミの死体の数だけ混乱を齎すことができる。

 そしてここにはすでに40体を超える死体があり、ヘドロイドを稼働させ続ければ明日の夜には更に数は多くなるだろう。流石に魔石の方に上限があるのでそこまではいらないが、これで救出作戦の成功率は上がるはずだ。


「できると分かればあとは数を揃えるだけ。ヘドロイド、あとは任せるよ。引き続き素材集めをよろしく。ネズミサイル1号はこの場で待機。死体を食われないように虫を追い払ってくれ」


 ヘドロイドの遠隔操作を切って意識を自身に戻す。重い頭痛のようなものは取れて頭がスッキリしてきたが、今度は魔力不足だ。

 新しい魔力ポーションの瓶を開ける。これ、確かに回復するけど効率は良くないな。低級品なのか、そもそも魔力の使い方が下手なのか……


「今のところ問題ないけど、結構堪えるな、コレ」

『エル様が作成したヘドロイドなるゴーレムは、エル様の基礎能力値を一部超えた値で構築されています。自律行動なら問題ありませんが、遠隔操作となるとその差異の分負担が大きくなります』

「それはつまり、ヘドロイドはボクよりも強いってこと?」

『はい。肉体的なスペックはその認識で間違いありません』


 どうやら人形師はゴーレムの扱いに長けた職業ではないため、今のボクの能力値ではオーバーパワーなのだとか。

 そもそも人形師の扱う人形とゴーレムは別物だ。人形として作り上げたヘドロイドなら問題なかったようだが、あれをそのままゴーレムにしたことでボク自身に負担がかかっている。

 解決策は2つで、1つは人形師をマスターし、上位の職業を獲得すること。もう1つは遠隔操作を諦めること。


「……一旦は遠隔操作制限か。でも当日は使わざるを得ないからなあ」

『その場合は、ご自身の身の安全を十分に確保してください』


 その注意は前にも聞いた。極めれば人形を自分の分身のように扱い、1人でタッグファイトができるらしいけど、そこまでボクのモチベーションが続くかどうか。


「さて、ダンが戻らないうちにできることをやっておこう」


 準備に充てられる時間はあと2日。処刑日はわかっていても、処刑時間は告知されていなかった。昼間動けないことを考えれば、残された時間は20時間もない。

 できることを、できるだけやっておく。

 ボクはネズミサイルの新しい攻撃目標を設定するため、蜘蛛型ゴーレムを町中にばら撒く。できるだけ重ならないように、できるだけ広範囲に、そして、できるだけわかりやすい、しかし発見しにくい位置に。


 夜が明けるまでに放ったゴーレムの数は100を超え、ボクはベッドの上で朝日とともに意識を失った。


ここまでお読みいただきありがとうございます。


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