21 はじめての地下水路
新連載です。
2章以降全然進んでいないのに、こんなペースでアップして平気なんでしょうか。私は知りません。
ダンが情報を求めて外に出ていった頃、ボクもまた情報収集のために暗躍していた。
しかし現在作成可能なゴーレムはあまりにも貧弱だし、足もそれほど速くない。それに日は沈みかけているが、この国は街灯もぼんやりとした光だが存在する。そのため昨晩のように堂々と道を歩かせる訳にはいかない。
ではどうするか。答えは簡単。下水道を使えばいい。
「と、思っていたんだけど…… うへえ、すごく汚い……」
アクアボール製のゴーレムを遠隔操作で排水口に突入させたまではいいが、ボクはそこから先に進むのを躊躇っていた。
この国の下水道はとても単純な作りなので、下水道内に降ってくる水の通り道を逆走すれば外に繋がっている。しかし単純な設計で誤作動や故障などが少ないためか、整備されているようには見えなかった。
下水道内の主要な通路は人が歩ける程度の高さと石畳はあるのだが、ここは不潔な生物でいっぱいだ。
「たぶんなんでもここに捨てればいいと思っているんだろうなあ……」
直接水路に落ちれば問題はないのだろうが、着水の衝撃で跳ねたりして床に打ち上げられているものも多い。それらは炊事や洗濯の残り水のような生活排水だけではなく、明らかに悪意を持って捨てたであろう裁断された衣服や壊れた小物などもあった。
うまく流れていけば下流の川に出るのだろうが、ここには結構な量のゴミ山が出来上がっている。
「直接回収できればゴーレムのいい材料なんだろうけど、この排水溝を逆走させるのは無理だろうなあ」
諦めて他を当たろうとしたところ、スキルブックが勝手に起動してアールが助言をくれた。
『エル様。遠隔操作中のゴーレムは、作成時に設定をしていなくてもスキルを使用可能です』
「……え?」
ボクは一度遠隔操作をやめ、スキルブックを確認する。
かなり重要な項目なのに、なんでこれを見落としていたんだろう。と思ったが、どうやらスキルレベルアップで追加されたもののようだ。それでも見落としではあるのだけど。
曰く、スキルを使用する高性能なゴーレムを求める場合は、作成時のコアに使用させたいスキルを設定しておく必要がある。ボクは使用できないが、剣術や格闘術を使わせるために必要なようだ。
そして重要なの要素がもうひとつ。遠隔操作をしているゴーレムであれば、これらの設定を指定なくても使用可能なのだ。もちろん剣がなければ剣術はできないし、手足が正常でなければ格闘術は使えない。
しかし魔法スキルは? これは魔力パスで繋がっていればそれを経由して使用ができる。たとえどんな粗末なゴーレムであろうと、遠隔操作中のゴーレムは手足の延長であるとされている。もちろんスキル仕様から発動までは距離の分だけラグが発生するが、それでもこれはかなりの違いだ。
「これなら、ボクの考えていた救出計画がずっと簡単になる!」
ボクが今回集めようと思っていたのはゴーレムの素材だ。
ナクアルさんが閉じ込められている場所は地下深く厳重だ。仮に開放できてもナクアルさんに動けるだけの体力があるとは思えないし、その間に衛兵が山程現れるだろう。
なのでボクはあの場所でナクアルさんを見つけた瞬間から、救出は公開処刑の当日にしかできないと考えていた。
彼女が外に出てきた瞬間、町中で騒ぎを起こす。ナクアルさんを外に出した状態で足止めできればそれでいい。
それだけの隙ができれば、ダンなら必ず助け出せるはずだから。
「というわけで、クリエイトゴーレム……!」
ボクはアクアボールゴーレムをゴミ山に接近させ、スキルを発動。こんなに大型のものを作るのは初めてだから、身体から魔力がすごい勢いで減っていくのがわかる。
発動から数分。意識が飛びそうになったけど、なんとかゴミ山をゴーレム化させることができた。
「は、ははは、やった、本当にできた! ボクのスキルで、怪人を作り上げることに成功したぞ!!」
本当なら戦闘員を作るはずのスキルで、本当ならボクが成るべきだった悪の怪人を作り出した。だけどそんなことはもはやどうでも良くて、ボクは自分の成し遂げた偉業に歓喜した。
「やった! 怪人一号だ! 悪役にふさわしい明らかに嫌悪感を誘う見た目! そしていかにも最初にやられそうなコンセプト! いいか、お前は下水怪人ヘドロイドだ!」
下水のゴミ山を、何のひねりもなく人型に組み上げただけのゴーレム。全身の構成要素の殆どはヘドロであり、所々から生ゴミや折れたモップ、壊れた食器などが見え隠れしている。
作成時にスキルを発動させたアクアボールゴーレムも飲み込まれてしまったが、そのお陰か保水力が高く、身体が崩れにくくなっていた。
試しに色々と動かしてみたが、上半身をプロペラのように回転させたり、腕や足を伸ばしたりと人間には不可能な動きも問題なくできる。まさに怪人だ。
さてこれから次なる準備を、と思ったところで僕自身の視界が揺らいだ。恐らく魔力不足というやつだろう。スキルブックのステータスを確認すると、かなり削れていて文字が赤い。
「あー、ははは、気合を入れすぎたかな。ちょっと休もう。ヘドロイド、お前に仕事を任せる」
ヘドロイドは制作したばかりなので自律行動の設定をまだしていない。そこでいくつかの命令を与え、ボク自身は遠隔操作をやめて少し休むことにした。
◆
深夜。ボクは空腹で目が覚めた。今までお腹が空いたとこんなに意識したことはなかったので、少し感動している。
「……夜か。屋台はもうやってないだろうな」
一応旅の保存食はあるが、ダンのものなので勝手に食べるのは気が引ける。かと言って買いに行くには遅い時間だし、子供が1人で出歩いているのも面倒が起きそうだ。
「んー。ああそうだ、ゴーレムに取りに行かせよう」
ナクアルさんを助けるためにダンと行動していたせいで忘れていたけど、ボクの目標は悪役だ。真面目に金を払う必要なんてない。食べたければ盗めばいい。それこそが悪の自由だ。
というわけでアクアボールに拾った枝で手足を付けたゴーレムを窓の外に投げ出し、遠隔操作で周辺をうろつく。このゴーレムに物を掴む性能はないが、盗みに入った店で新たにパーツを組み立てればいい。
そんな浅い考えで手頃な店に侵入する。昼間に出歩いていたので、大体の目星はついていた。2階の窓が開いているので簡単に入れた。どうやら子供の寝室のようだ。ぐっすり眠っているので起こさないように転がり、……ドアも開いていた。無用心だなあ。
階段は簡単に見つかったので1階まで転がり落ちて店内へ。
「これは……いきなり当たりだ」
どうやらただの雑貨屋ではなく、冒険者向けの商品も販売しているようだ。
小型のナイフに細くて長いロープ、寝袋や小型テントもある。なにより嬉しかったのは充実した携帯食料のラインナップだ。
この世界では魔法があるせいか保存食が充実していて、特に乾燥食品が多い。しかしそれらはどうしても塩辛く固いものになりやすい。そこで短期間に食べきるのを前提とした冒険者や旅人向けの携帯食料が、現代ほどではないがかなりのレベルで独自に進化していた。
保存に使用されているのは異世界ならではの魔石だ。光属性とか聖属性とか呼ばれている属性の付いた魔石には邪を払う能力があると言われていて、その石をケースと一緒に入れておけばそれなりに保つというなんともアバウトなもの。しかし効果は侮り難く、生ものでなく水分が少なければ4、50日も保つらしい。
この町に来る道中ダンにいくつか貰ったが、特にボクが気に入っていたのは分厚いパンケーキのようなものだ。しっとりとしているが中はみちみちに詰まっていて1つで2食分は賄える。それにとっても甘くて、初めて食べたのにどこか懐かしさを感じる味だ。食べ飽きないように中に様々な木の実が入っていたのも良かった。
そしてこれはやはり人気商品のようだ。レジと思われるカウンターにたくさん積んである。
「折角だからこれを2つと、期間限定の夏リンゴ味? そういうのもあるのか。じゃあこれも。あとは、塩っぱいのもほしいな」
カウンターのものを物色しながら日用品にクリエイトゴーレムを発動し、即席の2号機を作り出す。アクアボールゴーレムの方は役目を終えたので簡易警報装置にして、新たなゴーレムに遠隔操作を切り替えた。
この即席2号はナイフとフォークの手を持ち、お腹には保存用のツボを使用している。このツボに盗み出すアイテムを入れるのだ。両足にはテント用の金具を使っているので金属製だがしなやかな動きができる。
「ボクが食べるものは一旦入れるとして、他にはなにかあるかな」
視界が高くなったので店内をもう一度見回る。本当に買い物に来た気分だ。昼にも買い物はしたが、服屋と雑貨屋では気の入り方が違う。こっちはなんというか、見るものすべてがワクワクするんだ。
「使い捨ての魔石? へえ、何に使うんだろう」
ボクは言語スキルを獲得していないが、解放軍の村やこの町に来る道中でダンに少し教えてもらっている。この世界の文字はアルファベットのように文字の組み合わせで単語となっているため、知らない単語があると意味がわからないこともあるが、ここにあるものはだいたいわかった。ちなみにスキルブックは日本語だ。
「へえ。この石1つで着火剤の変わりに、こっちのは水の浄化……ああ、飲料水を作るためにね」
面白そうなのでいくつか掴んでツボに入れる。特に着火剤は便利だ。全部貰っちゃおう。
その他には魔物避けの簡易結界や、閃光を放つ目くらましなどもあった。
そしてその売り場の隣に、今のボクに最も必要なものが置いてあった。
「魔力ポーション……」
飲めば魔力が回復するという、言ってしまえばそれだけの代物。だけどそれはゴーレムを扱うために魔力を消費し続けているボクには何よりも必要なもので、
「……ナクアルさん。絶対に、助けますからね」
この世界で初めて魔力を教えてもらった人との、大切な思い出の欠片だった。
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