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【第五章開始】悪役転生  作者: まな
第一章
19/173

19 はじめての侵入

新連載です。



 夜の町をトコトコと歩く小さな蜘蛛型ゴーレム。予想よりも揺れるが視界は安定しており、潜入任務には問題ないだろう。


(問題なのは行動範囲だからね。こんな初歩的なところでは躓けない)


 ボクはこの町に来る前に人形師の職業を獲得していた。

 ゴーレムの自律起動を何度か試したが、クリエイトゴーレムの経験値が足りず満足な結果を得られなかったため、仕方なく獲得した職業だ。

 しかし人形師は想像以上に優秀な職業だった。ことゴーレムの操作に関してはこれ以上の初期職業はないだろう。この職業を獲得した時点で職業スキル『パペットマスター』を獲得し、ゴーレムの遠隔操作が可能になった。これだけでも大満足の結果だ。

 更にゴーレムの制作難易度が低下するパッシブスキルも優秀だった。遠隔操作を前提にするならコアを自分の魔力にすることが可能で、自律起動のゴーレムよりも数段雑に作れるようになったのだ。

 今回の蜘蛛型ゴーレムなんて脚は折り曲げた藁、本体は道中で拾った樹の実だ。これで動くのだから、魔法というのは凄い。視界も自分の魔力によって感覚的に読み取れるので、目玉を付ける必要もない。

 もちろん弱点はある。このゴーレムはものすごく脆い上に、遠隔操作可能な範囲は職業の熟練度に依存している。前者は素材次第だが、後者は職業を獲得したときにあまり練習の時間を取れなかったため、これは実践して強化していく他ない。


 領主の館は、館や屋敷というよりは砦に近い見た目をしている。元々城塞都市の司令部を兼任していたこともあり、かなり厳しい。

 他国の人間を奴隷に使う悪徳領主と言われている割には、無駄に豪華な屋敷を建てたり庭園を作ったりしてないのが意外だった。

 そのためこの屋敷は当時の機能がそのまま使用されているため、今回のように捕まったナクアルさんや、町で事件を起こした犯罪者が地下牢に捕らえられているそうだ。

 なので名前は屋敷だが、どちらかと言えば警察署に近い施設だ。

 当然警備も厳しく、入り口には昼夜を問わず衛兵がついていて、その他にも塔から周囲を観察するものや、館の周囲を巡回しているものがいる。


(それでもこんなに小さなゴーレムなら、簡単に侵入できるんだけどね)


 わざわざ門から入る必要はない。館の周囲は壁で覆われているが、所詮はレンガ造り。軽いゴーレムは小さな凹凸に器用に足をかけ、するすると登っていく。

 壁の向こうは小さな庭になっていて、その奥に建物がいくつか見える。司令部として使われている施設と、そこに務める役人や衛兵のための宿舎、更に奥に見える小さな屋敷は領主の家族のための生活スペースだ。入り口から入ったらそれらを確認することはできなかっただろう。

 ちなみになぜそれらの建物の判断がつくかと言うと、この町に来るまでの道中でダンが教えてくれたからだ。ボクを危険な目に合わせたくないはずなのに、聞けば割と何でも教えてくれた。


(普通に考えたら、囚われているのは司令部だよね)


 流石に地下施設に外から入ることはできないだろう。正面の玄関口は閉まっているし衛兵がいるので、入口になる場所を探して周囲を探索する。

 少し歩いていると、2階に開いている窓を見つけた。光が漏れているのでまだ人がいるようだが、気になったのでその窓に向かって壁を登っていく。

 中は事務室のような部屋だった。たくさんの書類が積まれた机がいくつかあり、ランプの明かりがそれらを照らしている。しかし本来作業をしているはずの人間が見当たらない。

 ゴーレムを侵入させて中の様子を見て回ると、どうやらソファで仮眠をしているようだった。


(……いや、今はやめておこう)


 このランプを倒して火事を起こしたら楽しいかな、と考えたが、今回の目的はナクアルさんの捜索だ。目的の優先順位を間違えてはいけない。

 機会があればあとで火をつけるために脚の一本を切り離し、机の下に忍ばせてから部屋を出る。

 扉は閉まっていたが鍵はかかっていなかったので、軽いゴーレムでもうまく体重をかければ開けることができた。


(さて、地下牢と言えば下だろうけど……)


 7本になった脚で壁沿いに進む。階段は建物の中央あたりにあった。ここには花の飾られた花瓶があったので、その中にも一本脚を切り離して隠しておく。


 一見すると自壊しているだけにしか見えないこの脚の切り離しは、きちんと意味のある行動だ。

 まずこのゴーレムにはボクの魔力をよく染み込ませてある。この魔力は暫く持続し、あとから来たときの目印になる。これは特に自律型のゴーレムを侵入させたときの目標に最適だ。またボク自身でも位置関係の把握のために使えるはずだ。


 階段を降りて1階。大きな扉が見えるが、これは玄関口だろう。上階と同じように花瓶があったのでこちらにも脚をセットする。脚は3本あれば安定するのであと3つまでセット可能だ。

 現在位置は建物の入口から入って中央の場所。廊下は左右に続いていて、扉もそれぞれたくさんある。ちなみに今使用した階段は地下には繋がっていない。

 さてどちらに行こうかと考えていると、奥の方で扉が開き話し声が聞こえてきた。


「ったく、すぐに交代の時間だってのに、今から見回りかよ。なにか奢れよな」

「奢るわけ無いだろ。見回り業務をチップにして負けたのはお前だ。さっさと行ってこい」

「へいへい」

「あ、おい。地下室の鍵持ってねえだろ。ちゃんと見回れ」

「ちっ、バレちまったか」


 そんなやり取りの後、衛兵の1人が鍵をちゃらちゃらと回しながら階段の前を通り過ぎていく。

 ボクはゴーレムを操作してその後をつけた。彼は一々部屋の中を確認せず、鍵の戸締まりだけ確認しているようだ。

 これでは期待できそうにないと思っていたが、一番奥に他とは違う鉄格子の扉があった。中から光が漏れている。


「めんどくせえよなあ」


 彼はボヤきつつも鍵を開け、中に入っていく。間違いない。ここが地下室の扉だ。ボクはてっきりもっと頑丈な扉で、中が見えないようになっていると思っていた。


「定期巡回です。サインをお願いします!」

「はいよ。ってお前、さっきも来なかったか? 相方はどうした」

「相方は酒を飲んで寝ております!」

「……嘘だな。大方カードに負けて巡回を押し付けられたんだろ。さっき見たとおり異常はないからさっさと帰りな」

「話が早くて助かるであります!」


 中にはもうひとり人がいるようだ。衛兵は冗談めいた口調で話をしたあとすぐに部屋を出て、鍵をかけてから来た道を戻っていく。

 ボクはそれを見届けてから、鉄格子の隙間に忍び込んだ。


 入ってすぐの部屋は妙に明るく領民館の受付のような形になっていて、そこに先程見回りの衛兵と喋っていたおじいさんが座っていた。光源はランプではなくなにかの魔法のようで、天井全体が光っているようだ。

 明るいのでバレないかと心配したが、おじいさんは本を読んでいるので気づかれてはいなさそうだ。

 それによく見るとこの部屋はそれほどきれいでもない。四角い部屋を丸く掃除している、と言った具合で、端に寄せてあるゴミ箱からは生ゴミが溢れていた。きっとあのおじいさんが食べたものだろう。机の周りもなにかの食べかすが落ちていた。

 せっかくなのでそこにも脚を切り離し、マーカーとして設置しておく。

 さて、いよいよ地下室だ。ここも同じように鉄格子で閉ざされているが、小型のゴーレムなら関係ない。少し進むと下に続く階段がある。結構深い階段だ。

 ここは1つ前の部屋と違い真っ暗だ。ゴーレムの魔力の感覚によって一応見えるが、それでも視界は狭い。この辺も今後スキルを研究しないといけない。見えるからいいではなく、なぜ見えるのか、どうやったらもっとよく見えるのかが重要だ。

 一番下まで辿り着くと、そこはぼんやりと明るかった。これもなにかの魔法だろうか。地下室は特撮でよく見た、鉄格子がいくつも並んだ通路になっていた。上にある建物の丁度真下に、同じような配置で廊下があり、壁の代わりに牢が並んでいるような感じだ。

 単純な鉄格子なので牢の中は外から簡単に確認できる。意外と空の牢が多く、寝具がきれいに畳まれておいてある。逆に言えば使っていないときも外で干したりはしていないのだろう。トイレのようなものもなく、バケツが2つ置いてあるだけだった。


 人がいる牢を見つけては中に入り顔を確認する。また外れだ。明らかに外から見て男性だとわかる牢はスルーしてきたが、一向に見つからない。

 結局一番奥まで辿り着いてしまった。大きな扉があったが、ここから先には進めそうにない。

 この扉はボクの想像していた大きくて重たい頑丈な扉で、鍵がいくつもついている。ゴーレムを通す隙間もない。

 なんとか中を確認できないだろうか。扉をよく観察し、ゴーレムの脚を上から下まで撫でるように滑らせる。

 すると一箇所、小窓のようなものを発見できた。スライド式の小さなものだ。当然そこも金網で塞がれていたが、中を覗くことはできた。


「……っ……!」


 見つけた。ナクアルさんだ。

 両腕を鎖で拘束され、壁に繋がれた全裸の女性。拷問を受けたであろう痣と擦り傷まみれで、俯いているため顔もよく見えない。

 でも間違いない。ボクには確信があった。彼女から漏れ出る魔力は、間違いなくボクの中を駆け巡ったナクアルさんのものだ。


「……絶対に、絶対に助け出しますからね」


 ボクは新たな決意を胸に、部屋を後にした。


 ナクアルさんはやはりここにいた。であれば想定通り作戦を進めよう。


 ボクはゴーレムを適当な牢の中で自壊させ、その日を終えることにした。


ここまでお読みいただきありがとうございます。


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