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【第五章開始】悪役転生  作者: まな
第五章
173/173

5-26 学院ダンジョン探索 2

いつも評価ありがとうございます。





 学院ダンジョンは3層になったからと言って極端に変化があるわけではない。

 足元は相変わらず踏み固められた硬い地面で、迷路のような石壁も罠の痕跡が見え隠れするが気がつけないほどではない。

 しかし2層とは確実に違うものがある。

 それは魔物だ。


「マギラット2体と接触! 泥魔法に注意して!」

「足止めをします。魔法による援護を」

「任せろ! ウインドカッター!」

「ジュウッ!」


 斥候を担当するメイがマギラットと呼ばれるネズミ型の魔物を発見。前衛であるボクが注意を引き、トニー先輩が風魔法で対処する。理想的なパーティ連携だ。


「1体撃破! もう1体は……!?」

「魔法の態勢に入っている! エルくん、離れるんだ!」

「いえ、このまま戦闘を続けます」


 連携自体は間違っていないが、やはり練度が足りていない。1体2人ずつで押さえれば簡単な相手なのだが、メイがボクとトニー先輩の方に気を取られ取り逃がしてしまったようだ。

 教範通りならアカサ先輩の言うように魔法攻撃に対応するため一度引くべきだが、相手は泥団子を飛ばしてくるだけの大きなネズミだ。

 ボクは素早いステップでマギラットに肉薄し、スキルに身を任せてナイフを振るう。

 だけど今回使うのはナイフスキルではない。ナイフ術では時間がかかる。ボクが選択するのは暗殺術だ。短い刃だし弱体化した一振りだが、首を滑らせれば魔物相手にも致命傷になる。

 これで魔法を封殺し、次の一手で仕留める。つもりだった。


「あら、弱すぎじゃない?」

「ジ、ジュッ!?」


 マッドラットも突然のことに驚愕の声を上げて息絶えたが、驚いているのはむしろボクだ。ボクの装備は弱体化用のナイフだったのに、それでも一撃で首を落としてしまった。

 うーん、最近弱体化の効きが弱くなってる気がするな。


「……エルさん、やっぱり凄いね!」

「中級冒険者やトニーのように魔法を使えるならマギラットは一発で倒せるが…… エルさんはそれ以上の腕前なのかもな。見ろ、断面がこんなにきれいだ」

「俺のウインドカッターも授業じゃ最高クラスなんだけど、実戦だと上手くいかないものだね」

「いえ、それほどでもありませんよ。それより先を行きましょう」


 クラブのみんなはマッドラットの死体を見比べ、その傷口を観察し始めた。

 先輩たちに褒められるのは素直に嬉しいが、このくらいのことでいちいち足を止めていたらダンジョンの滞在時間がなくなってしまう。

 課外活動でのダンジョン探索は基本的に日帰りだ。層への侵入を認めたがビンゴでも日を跨いでのダンジョン探索は認めない。そもそもダンジョン内でキャンプをできるだけの装備を持ってきていない。

 ボクは若干呆れた視線をクラブのみんなに送っていたが、先輩たちは一向に気が付かない。

 先にしびれを切らしたのはビンゴだった。


「おいお前ら! 珍しいのはわかるがここはダンジョン内だ! 俺はお前たちを危険から守る義務があるが、だからといって護衛をしてるわけじゃねえぞ? いつまで後輩に見張りをさせるつもりだ?」

「っ! 失礼しました!」

「すみませんでした。なかなか見る機会のない状態だったので…… エルさんも悪かったね」

「いえ」


 ビンゴはああ言ったがボクは見張りをしていたわけではない。先に行きたいと視線をちらつかせていただけだ。

 ともかく教官であるビンゴの指導によりメンバーの動きは先程よりも緊張感を持った状態になり、足取りも素早くなった。このまま進めれば目的の魔道武器もきっと手に入ることだろう。

 もちろん、先に発見されていなければ、だけどね。





「! アイテムボックスを発見! 近くに敵影もないです!」

「なに!? 例の魔導武器か!?」

「焦りは禁物だよ! この階層では、まずは罠に気をつけなくちゃ!」


 数時間の探索を経て、初めてメイが第3層のアイテムボックスを発見した。

 メイの報告によりアカサ先輩は駆け出しそうになり、トニー先輩がそれを咎める。

 だけど安心してほしい。アレはボクが設置したものだ。中身以外に罠はない。


「周囲に罠はありませんね。問題は箱の方ですけど……」

「大丈夫だ。3層のアイテムボックスのトラップは擬態型のモンスターだけ。そのまま開けて問題ないぞ」

「……ビンゴ教官。それ伝えていいんですか?」


 ビンゴも興奮を抑えられなかったのか、慎重にアイテムボックスを探るメイへと声掛けをした。思わず全員が振り返ったが、彼自身は気にした様子はなく、さっさと開けるように顎で示す。


「では、開けますね。……! これは!」

「おお!?」

「噂の魔導武器か!?」

「マジかよ! 本当に武器が入ってやがったぜ!?」


 メイがアイテムボックスから取り出したのは、奇妙な作りの鉈だった。峰の部分が円筒になっており、握りには引き金がついている。鍔には大きな魔石がついているため、一見しただけでも魔導武器だと思わせられる。

 うん。あれは当たりだ。アリタカくんの提案で作成した、魔法を放つ銃に刃をつけた魔導武器。

 その名もガンナタ。ボクは響きがかっこよくないと思うんだけど、アリタカくんの冒険者の武器はダサかっこいいものであるべきとの思想でその名前になった。


「おいおいおいおい、ちょっと見せてみろ! これ、銃じゃねえか!?」


 ビンゴはその魔導武器の形を見て、すぐに銃だと思い当たったようだ。メイから半ば強引に武器を受け取り、引き金に指をかけてその感触を確かめている。


「ジュウ?」

「聞いたことがあるな。最近ザンダラ軍で出回っている弓の代替武器らしいが、これがそうなのか? 刃がついているが」

「これは、なんつーか、銃と剣を合体させたような武器だな。まさか本当にダンジョンから出てくるなんて……メイっつたか? 報告書は俺が書いてやるから少し預からせろ」

「え? それは、取り上げるということですか?」


 第一発見者であるメイはビンゴの言葉に顔が少し曇るが、彼は首を振ってそれを否定する。


「あのなあ、そうじゃなくて…… いや、そうか。お前ら第3階層は初めてだもんな。いいか? この学院ダンジョンから発見されたアイテムや魔物は、すべて学院での研究対象だ。校則にも載ってるぞ。他の生徒たちや冒険者が持って返ってくるものだって、基本的には検閲がある。学院外に出回ってるもんは新発見じゃなかったものか、新発見だったが新規性のないものだったかのどちらかなんだ」


 え、なにそれ知らなかった。でもそれならどうしてボクの呪いの武器は没収されていないんだ? いや、一応偽装工作はしてあるけど。


「縁がないものと見落としていたか…… では教官。なぜ怪しげな噂が立ち、魔導武器が出回っているのですか?」

「今言ったろ? 新規性のないものなら別に構わねえんだよ。例えば燃える剣の魔導武器が見つかったとする。剣は誰でも知ってるだろ? そしてお前らなら火の魔法もいくつか知っているはずだ。その組み合わせがわかればこの燃える剣に新規性はない。なら見つけたやつのものだ」

「なるほど。確認された上で市場に流れているのですね」

「でもでも、それなら今回の武器は? ビンゴ教官も驚くほどのものだったんですよね?」


 メイは今の説明で余計に不安になったようだが、ビンゴは再度それを否定した。


「そんな顔するんじゃねえよ。これはお前たちのためを思ってのことだぞ?」

「……え?」

「さっき説明したように、この武器の構成要素がわかれば発見者に所有権が渡る。逆に言えばこれがどんな武器なのか研究、確認する作業が必要なわけだ。俺が言った報告書ってのはこの部分だ。お前らがこの武器を欲しいのはわかるが、休日どころか平日の授業を潰してこいつの研究をしてえのか? 無理だろ。俺が許してもお前ら中等部の担任は許さねえ」


 こればかりはビンゴの言うとおりだ。新発見なら、なにが新なのか確認しなければいけない。それはとても時間がかかることだし、まだ知識量のない学生にはとても無理だ。

 その一番面倒な部分を肩代わりしてくれるというのだから、ビンゴは意外にいいやつなのだろう。


「ま、終わったら返してやるから気長に待ってろや」

「わかりました教官。……それで、本音は?」

「こんな面白そうなもん、試さねえ理由はねえよな!」


 やっぱりそうだろうな。

 その場の全員がため息をつき、緊張した空気は一気に霧散した。


 なんにしても、これでボクの目標は達成だ。

 呪いの武器が転生者に見つかった。ここから一気に計画が動きだすぞ。




ここまでお読みいただきありがとうございます。


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