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【第五章開始】悪役転生  作者: まな
第一章
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17 冒険者ダン



 元々そこまで期待していなかったが、まさかあんな理由で断られるとは思っていなかった。


「その様子だと、やっぱりダメだったようだな……」

「……」


 やっぱりということは、ダンも昨日の時点で薄々わかっていたのだろう。

 しかし不思議なのはボクのスキルブックを見たあの2人の反応だ。あのときボクの目にはしっかりと職業が選択できるようになっていた。なのに彼女たちには見えていなかったのだ。

 口ぶりから察するに、明らかに彼女たちのほうが職業に対する知識はあったはずなのに。


「ダンさん、少し1人にしてください……」


 それを確かめるべく、俯いたまま憔悴した子供を演じてとぼとぼと歩く。

 と言っても向かう先はダンの家だ。外ではスキルブックを開けないし、かと言ってまたトイレを長時間占拠する訳にはいかない。


「……わかった。俺もなんとかならないか、もう一度リーダーに掛け合ってみる」

「……」


 気の利くダンはそう言ってスラスカーヤの家に向かっていった。

 ダンの家に戻り、念のためベッドに潜り込んでからスキルブックを起動する。やはりボクの職業は獲得可能状態になっている。


「アール、なんで彼女たちにはボクの職業が見えなかったのかな?」

『もともとスキルブックは契約者にしか閲覧できません。開示することは可能でも、エル様が無意識にそれを望まなかったのでしょう』


 ああ、それはあり得るかも知れない。【敵】の職業は無闇矢鱈にひけらかすものではないし、正義の味方ではない彼女たちに見せたくもなかった。


 しかしどうしたものか。獲得可能なスキルを確認しながら思考を巡らせる。

 一度は断られたが、例えばいまここで魔法使いになり、また掛け合ってみたらどうなるか。

 その場合はたぶん助けを借りられると思うが、色々と怪しまれるだろう。それに今更彼女たちに借りを作るのは釈然としない。断られた以上同じ方法を試すのは諦めるべきだ。


 昨日考えていた隠密行動からの救出作戦はどうか。

 作戦自体は良さげだが、これは穴だらけで現時点では使い物にならない。


 まずボクはナクアルさんのいる街を知らない。

 次に囚われている場所を確認してからでないと行動できない。確認手段のゴーレムも作れていない。

 そして助け出すための隠密行動をボクはできない。

 ないない尽くしな上に不確定要素が多い。正義の味方の主人公ならこれでなんとかなるのだろうけど、ボクには無理だ。

 ダンならできそうな気もするけど、実行するにはボクがゴーレムを使えることを明かさなければならない。

 うーん、一時保留。


 なにか他に案はないか。ボクの記憶には特撮のお話くらいしかないが、近い状況はなかったか。


 そう言えば公開処刑になると言っていた。どのような処刑方法かは知らないが、現状の文明レベルから考えると少なくとも外でやるはずだ。

 ボクは特撮であった話を思い出していた。と言ってもよくある状況だ。人質が大きな鳥かごのようなものに閉じ込められ、それがクレーンで海に沈められそうになっているという状況。

 そこで正義の味方はどうしたか。だいたい想像はつくと思うが、クレーンから吊り下げられている鎖を破壊して助け出した。

 これも状況だけなら公開処刑の直前で助け出す図と言えなくもない。ギロチンだろうが火炙りだろうが絞首刑だろうが、執行の直前は周囲の人は少なくなってるはず。

 他に案がなければ、最後の手段としてこれを使うことになるだろう。


 改めて自分の使える手札を考える。

 スキルは炎魔法が3種に水魔法。それからどれだけ使えるようになるかわからないクリエイトゴーレム。

 炎魔法は攻撃系なので相手の魔法への対応力次第だが、盗賊相手には有用だったのでそれなりの活躍はするだろう。特にフレイムスロアは陽動にも使えそうなので期待しているが、いずれも現地に行ってから出ないと役に立たない。

 職業はまだ獲得していないが、確認している範囲ではすぐに実戦投入できるものはない。ダンと一緒に基礎能力を上げるための訓練はしていたが、しっかり身体を鍛えるためのものではなく軽い運動程度だ。基礎能力値がぜんぜん足りないので、今から有用な戦闘職を獲得するのは諦めた方がいい。


 その他にボクにあるものはなんだろう。

 ステータスを見ながら確認するが、チートでスキルを手に入れられるがまだまだ未熟。身体能力はたぶん下の下。装備だってダンから貰った魚を解体するためのナイフくらいしかない。子供相応といえばそのとおりなのだろう。【敵】の詳細も不明なのでこれもあてにできない。


 うんうん唸りながらスキルブックとにらめっこをする。何度見ても強そうには見えない子供のステータスだ。しかしその中で1つだけ、極端に高い値があった。今まで自分にとっての価値がなかったから忘れていたが、ひょっとしてこれはすごく使えるんじゃないだろうか。


「……どこにしまったって言っていたかな」


 ボクは適当に積まれた革袋の口を開きながら、あの盗賊村長から頂いたものを探し始めた。





「……戻ったぞ、エル……」


 ダンが帰ってきたが、雰囲気でわかる。ダメだったのだろう。


「ダンさん。話があります」

「なんだ……? 金……?」


 けどボクはもう解放軍には期待していなかった。

 ボクは床に金貨を並べ、ダンが戻るのを正座して待っていた。


「ダンさんは冒険者だと言っていました。ボクの認識が正しければ、それはお金をもらって仕事をしてくれる人のはずです。あっていますか?」

「あ、ああ。……まさか……」

「ボクをナクアルさんが捕らえられている町まで連れて行ってください」


 誠心誠意を込めて頭を下げる。この世界でそれが正しい礼儀なのかは知らないが、どこの世界にも跪く文化はあるはずだ。


「……エル、とりあえず頭を上げてくれ。子供がこんな事するもんじゃない」


 ダンは困ったようにため息をつき、ボクの前に座った。だがまだ頭は上げない。


「本音を言えば、ナクアルさんを助けてほしいです。でもみんなの言う通り、まだ捕まった人がナクアルさんと決まったわけじゃない。……ボクはそれを確かめたいんです」

「気持ちはわかるが、確認するだけなら仲間たちが情報を集めている。不安だろうがそれを待てばいいだろう?」

「……ボクはダンさん以外のメンバーを、リーダーのスラスカーヤさんも含めて信用していません。リーダーは助けに行かないと決めたんでしょう? それならどんな情報だろうと、自分たちに有利になるように言うはずです。捕まったのは実は男だったとか、名前が違う別人だったとか、ボクの知る人物じゃなかったとか。あとからいくらでも口裏を合わせられる。そもそも捕まった人がボクを助けてくれたナクアルさんだと、ボク以外の誰が確認するんですか? 誰にできるんですか?」

「……っ、それは……」


 ダンや解放軍にとって必要なのは、不正の証拠になる(と思われている)ボクだけだ。いや、リーダーであるスラスカーヤとしてはボクも一応転生者なので、彼女の思惑はそれだけではないだろう。

 しかし結論は同じだ。現時点では解放軍が動く意味は薄い。人の命が関わってるとはいえ、それだけで組織として助ける理由にはならない。

 処刑そのものを不正隠しだとするのも無理筋だ。罪状は殺人と放火であり、真実はともかくこちらには物的証拠がある。

 どうあってもナクアルさんは解放軍にとってボクの恩人でしかなく、組織の名を傷つけてまで助け出す価値はない。


 だけど個人レベルでなら?

 自分で言うのもなんだが、ボクは外面は幼気に見える。そして行く宛がなく、奴隷として拉致されたものだと勘違いされている。

 そんなボクに命の恩人を助けてくれと言われたら、正義感のためにここにいる冒険者のダンなら?


「お願いします……! 他に頼れる人はいないんです……」


 無碍にできるわけがない。こんな不審なボクを絶対に守ると言ったダンなら、きっと受けてくれる。


「……もし受けてくれないなら、ナクアルさんが助けられないなら、……ボクは何も喋りません。不正なんて知らないし、奴隷なんてこの領土にはいない。ナクアルさんがいないなら、もう、どうでもいいんだ!」


 涙をためて、ダメ押しでダンを睨みつける。

 ダンは視線を逸らさなかった。まっすぐにボクを見つめている。ボクは涙を拭うためにまた俯いた。

 いつまでも見つめ合っていたら、きっと疑われる。心理学には明るくないが、ボクみたいな子供が大の大人相手にいつまでも睨み続けられるはずがない。と思う。


「……このお金は、全部あげます。ダンさんが使ってもいいし、解放軍のために使ってもいい。どっちにしても、ボクにはもういらないものだから……」


 ダンの返事を待たずに立ち上がろうとして、よろけてしまった。足の感覚が鈍い。ずっと正座をしていたので、麻痺してしまったみたいだ。


「っ、大丈夫か……!?」


 倒れそうになったボクを、ダンはすぐに抱きかかえた。動きが早すぎて、本当に倒れそうになったのかわからないくらいだ。


「……すみません、ありがとうございます」

「ったく。……お前さん、いつからああして待っていたんだ?」


 ダンに問われるが、いつ帰ってくるのかわからなかったので、準備をしてからずっと正座で待っていた。たぶん6時間くらいだろう。


「ダンさんが冒険者だと思いだして、お金を積んでからずっとです」

「……なん……はぁ…… エル。本当ならいくら依頼だとしても、冒険者が正面切って領主に歯向かうなんてことはしねえ」

「……そう、ですか。……では町の方角を教えてください。ボクは1人でも行きます」

「ったく。本音で言えば俺は反対だ。町に行っても、その捕まえられた冒険者が確認できるかはわからねえんだぞ? お前は賢いから言っておくが、最悪の場合処刑される当日まで確認できず、気づいたときにはなんにもできずに目の前で殺されるなんてこともあり得る。それはとんでもない心の傷になる。俺たちが危惧してるのはそのことなんだ。だから行かせたくないし、嘘でもなんでも言ってお前をここに留めるつもりでいた」


 だがダンは床に並べられた金貨を数枚拾い上げて、頭をかきながら苦笑した。


「だけどな。解放軍の戦士ダンじゃなく、ザンダラの冒険者ダンへの依頼なら仕方がねえ。それも依頼内容に対して怖いくらい報酬のいい前払いだ。これを受けないやつは、はっきり言って冒険者には向いてない」

「……じゃあ……!」

「護衛依頼だけだ。俺はお前さんを領主のいるドントル領首都のドントリアまで連れていき、処刑の前日まで町で行動をともにする。いいか? 前日までだ。当日にはもう町を出る。なんて言われようと、子供のお前に処刑なんてものを見させる訳にはいかないからな」




ここまでお読みいただきありがとうございます。


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