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【第五章開始】悪役転生  作者: まな
第五章
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5-20 呪いの装備の製作

評価ありがとうございます。





 デメリット付き装備、仮称『呪いの装備』を作るのはボクにとっては簡単だ。

 ファラルドで作った『アクアロッド』のように魔法をゴーレム化させる必要もない。あれは対象を捕縛するために高度な魔法運用が必要だったからゴーレムにしたのだ。

 今回作るのは魔法が撃てる武器というわけでもないし、正攻法である付与魔法ですぐに解決だ。


「というわけでアール。私に付与魔法のスキルをちょうだい」

「はい。……それは構いませんが、クリエイトゴーレムで問題ないのでは?」

「作るだけなら問題ないけど、今回は付与した武器を学院に撒くのが目的なの。転生者が多いここでリスクのある行為をするわけなのだから、少しくらいはリスクを減らすべきでしょう?」


 行き当たりばったりで行動をするボクだが、だからと言ってなにも考えていないわけではない。残さずに済む痕跡をわざわざ残す必要はないのだ。

 スキルの取得はすぐに終わり、ボクは早速自室にあったペーパーナイフに付与を試してみる。


「さて、なにをつけようかしら」

「試作品なのでわかりやすい効果が良いでしょう。そうですね。手に持っていると痛みが走るなどはわかりやすくていいのでは?」

「それいいわね。もちろんデメリットだけでは誰も拾わないから、帯電している刃なんて面白いと思わない?」


 電気を纏った武器ならデメリットの痛みにも納得がいく。

 ヴィクトリアの話ではきちんと動作するダンジョン産の魔剣自体が珍しいため、デメリットがあっても愛用している冒険者は多いらしい。

 付与魔法は元となる素材に魔法陣を書き込むのではなく、素材そのものに魔法を押し込むイメージが近い。

 そのため素材の耐久値が低ければ付与に失敗することも多いそうだが、ボクは仮にも貴族令嬢であり身の回りのものはそれなりに高級品だ。数打ちのペーパーナイフであってもボクの込める電撃魔法を難なく耐えた。


「うん。ちゃんと完成したわ。持つと弾かれるくらいには電気が流れていて……想定通りの失敗作よね?」


 完成したペーパーナイフは見た目はなにも変わっていない。

 しかし何気なく触った瞬間に持った人間の魔力に反応して青白い電撃が周囲に漏れ出て、手から弾かれて飛んでいってしまった。

 意図的に魔力を抑えていれば電撃が出てこないので拾うことができるが、それだと電撃が出ないので付与されていないものでいい。


「前提としてデメリット付き武器なのですから扱いにくい、あるいは扱えない武器ということであれば成功なのではないでしょうか」

「そうなのだけれど……仮にコレがナイフやショートソードだとして使いたいと思う?」

「いいえ。私は遠慮しておきます」


 そうだよねえ。わかっていたとしてもボクもこれは要らない。

 ここは呪いの装備という名前を出してきたアリタカくんと、過去に実際に使ったことのあるヴィクトリアの意見を参考にしてみるとするか。





「そうでござるなあ。電撃というメリットと痛みというデメリットはわかりやすい相互関係だと思うでござるが、これでは出力が高すぎるでござるよ。もっと抑えないと普通の冒険者では触ると怪我をするだけでござる。呪われている武器として扱われる前に、ただの危険物として処理されそうでござるな」

「アリタカの言うように出力が高いというのは同意。だけどそれこそ力のない冒険者なら、これほどの魔法武器を喉から手が出るほどほしがるのもまた事実。常に帯電しているから拾い難いと思われるなら、私が使った武器みたいに槍にしてしまえばいいのよ。持っているだけではなにも起こらず、武器として突き刺したときに反動で自分にも痛みが走る。これなら使うまでわからないから立派に呪いの武器じゃない?」

「作った武器をそのまま使うのではなく更に改造するというのはありね。ちょっと試してみるわ」


 槍の柄の代わりに庭にあった物干し竿を素材とし、魔法の効果を抑える結界魔法を付与する。こちらは平常時には魔力を抑制し、強い衝撃が加わると効果が解けるように細工した。

 これによって攻撃した瞬間に電撃のデメリットが発生する槍の完成となるはずだ。


「フリス。訓練用のゴーレムを用意したから、それに向かって試し斬りをしなさい」

「ええ、なんで私なんですか? エル様が自分でやればいいのに」

「私たちの中ではあなたがちょうどいい具合に弱いからよ。文句を言わずにやりなさい」

「わかりましたよ…… ふっ! っ! 痛い、けど、我慢出来ないほどではないです」


 フリスは弱いと言ったが、それはこのメンバーの中での話だ。仮にもボクの部下だし、ファラルドではかなり経験を積んでいる。戦闘技能がないだけで肉体能力だけなら中堅上位ほどはあるだろう。

 痛みの反動も怪我をするレベルのものでもないし、一度ではフィードバックは不十分だと思い数回繰り返させたところ、フリスに面白い変化があった。


「せいっ! はっ! とうっ!」


 最初は電撃の反動の痛みに耐えながら槍を振っていたフリスだが、そのうちにリズムよく攻撃を繰り出すようになっていったのだ。


「痛いならそのへんで止めていいのだけれど?」

「ああ、エル様。なんというか、私この武器のコツが分かってきてしまったんです。攻撃をした瞬間から痛みが届くまでにはほんの少しの間があって、その間だけ手を放せば痛くないんですよ」

「へえ?」


 よくよく見ればフリスは説明通りに攻撃した瞬間だけ手を放していた。ボクはそれを器用なものだと感心していたのだが、アリタカくんはそれを欠点だと捉えたようだ。


「エル殿。あれでは呪いの武器としては不合格でござるよ。デメリットの回避方法はそう簡単にはない方がいいでござる」

「そう? 普通の戦いでは一瞬とは言え武器を手放すことなんてないと思うのだけれど。叩いたり突き刺したりした衝撃もどこかへ行ってしまうし、それで弾かれでもしたら本末転倒よ?」


 それ以前に使用者の魔力が刃の部分まで伝わっていなければ電撃は出ない。そう思っていたのだが、アリタカくんにはその点も回避方法が思い浮かんでいたようだ。


「確かに魔力を抑えて触れば電撃が出なかったように、使用者の魔力に反応しているというのはわかるでござる。しかしながら投擲系スキルではどうでござろうか。ただ投げるだけならいざ知らず、ある程度の実力者はスキルを知らなくても無意識に得ているスキルによって魔力を込めている。この場合ではデメリットを完全回避できてしまうでござるよ」

「ふうん? なら試してみましょうか」


 ボクにはシャドウキャリアー経由で入手した投槍スキルがある。試すのならすぐのほうがいいとフリスから電撃槍を受け取り、訓練用ゴーレムに向かって全力で投げつけた。


「!?」

「これは……! 耳を塞いで口を開け、すぐに伏せるでござる!」


 結果はアリタカくんが想像した通り。それどころかボクも予想だにしなかった結果を齎した。

 スキルによって投擲速度と威力が増幅された電撃槍はフリスが単純に叩いていたときの何倍もの性能を発揮し、ゴーレムに命中した瞬間周囲を照らすほどの輝きとともに放電。槍を中心に数メートルの範囲を激しい稲妻によって焼き尽くしてしまったのだ。


「凄まじい威力だったわ。見て、刃の部分が真っ黒に焼き焦げてる。これはもう使い物にならないわね」

「スキルの魔力でここまで強化されるとは……そこまでは想像できなかったでござる」

「これはもう少し威力を落とす方向で調整しないと、学院のダンジョンにばら撒くのはまだ危険ね。せっかく新しい77不思議になると思ったのに」


 ともあれ付与魔法の感覚は掴めた。これを足がかりにもっと調整し、より便利でより悪質なデメリットを付けた武器を作ろう。

 次はなにがいいだろうか。相手の魔力を吸い続けるが、奪った魔力を毒として自分に付与する剣なんてのもいいかも知れない。


 なんにせよ、ボクの作った『呪いの装備』が学院を騒がせるのはそう遠くないことだった。





ここまでお読みいただきありがとうございます。


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