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【第五章開始】悪役転生  作者: まな
第五章
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5-16 はじめての中等部

文字を並べる勘が鈍り、2週間も経過していることに自分自身で驚いています。

今後の更新ペースは回復傾向にあればいいなと考えております。





「はじめまして。ファラルドの方から来ました、エルです。よろしくお願いします」


 賢者バニラの提案により中等部への編入を決めた1週間後。王様の部下のラーセル教官に相談したらあっさりと許可され、ボクはこうして真の意味で初めての学園生活を開始する運びになった。


「エルくんは諸般の事情により遅れての入学になりますが、みなさん仲良くしてあげてください。エルくんは、今日は一番うしろの空いている席を使ってください」


 ボクは視線だけで教室内を見回し、リリー教官に指定された席に向かう。

 中等部の教室は3人ずつ座れる机が並べられていて、すでにそれぞれのグループが出来上がっているようだ。ダンジョン探索の授業もあるようだし、そのパーティでもあるのだろう。


 ボクを見つめる視線はまばらだ。美人だと騒ぐクラスメイトもいるが、授業前のおしゃべりを楽しむグループもある。

 少しだけ不安に思っていた数日遅れての入学というのは、実際にはそれほど珍しくないらしい。直前まで仕事をしている貴族や冒険者に多いそうだ。

 ちなみにアリタカくんはいない。彼はバニラたちの方で情報収集をすることになっている。


「エルさん、私はメイ。よろしくね」

「よろしく」


 先に座っていたクラスメイト、メイに挨拶をして席につく。彼女の隣にはもう1人クラスメイトがいるのだが、彼は寝ていた。


「起こさなくていいのですか?」

「……あははは…… エドは起こしても起きないから……」


 メイの話では寝ている彼、エドモンドは早朝から牛乳配達のアルバイトをしているとのことで、いつも午前中は寝てしまっているそうだ。

 学院は国営機関であり授業料は免除されている。しかし学院生活で必要な資金、例えば食費や衣服などの生活必需品は自分で用意する必要がある。

 家からの援助も冒険者としての実力もないエドモンドは、そのための資金稼ぎに苦労しているのだとか。


「学生なのに勉強ができないのでは、何のために学院まで来たのかわからないわね」

「初対面でそれは辛辣…… 言いたいことはわかるけどね」

「みなさん準備は整いましたか? では授業をはじめます。まずは基礎計算の復習から……」


 リリー教官も眠っている生徒をスルーして授業を始めている。先生としてそれはどうなのかと思うが、生徒たちから異論が出ないのでもう慣れた光景なのだろう。


 この日の午前中の授業自体は当たり障りのない、現代で言う小学から中学レベルの数学とニームの歴史について。数学は転生前から知っている内容だったけど、歴史は全く知らないことばかりで楽しかった。

 授業と授業の合間の休憩時間にはクラスメイトが自己紹介に来たがそれだけで、これが新入生の日常なのかとぼんやり考えていた。

 授業の時間はあっという間に過ぎ去り昼食のための長い休憩時間に入ったとき、隣の席のメイが小さな包みを取り出して話しかけてきた。


「エルさんはお昼はどうする予定なの? 私はお弁当があるんだけど、学食に行く?」

「私も昼食は持参しているわ。学食は騒がしいから、教室で食べようと思っていたの」


 学食に生きたくなかった理由は、またセタンスと出会うと面倒だと思ったからだけど。

 ボクはカバンからフェルの弁当を取り出し、机の上に広げようとしたところでメイが待ったをかけてきた。


「それなら静かな場所があるんだけど、よかったらそっちで食べない? 紹介したい友だちもいるの」

「ええ。いいわよ」


 特に断る理由もなかったし、ボクは彼女のあとについて行くことにした。





 メイに案内されたのは教室よりも小さな部屋だった。


「ようこそ。学院77不思議調査クラブへ」


 ここは学生の楽しさの半分を占めるという、噂に聞く部室のようだ。中ではすでに2人の生徒がいて机の上に弁当箱を広げている。


「メイ隊員がまた新人を連れてきたぞ」

「彼女は行動力の化身だね。77不思議の補欠に入れておこう」

「先輩方、聞こえてますよ。彼女はエルさん、今日入学してきた遅刻組です」

「……どうも」

「エルさん、こちらは敬愛するクラブ長のアカサ先輩。それからこっちは副クラブ長のトニー先輩です」


 どうやら目の前の2人の男女は先輩らしい。メイに紹介されたが、ボクはクラブについて何も聞いていないので挨拶に困る。

 そんなボクの微妙な反応を察したのか、アカサ先輩は苦笑する。


「その様子だと、また何も言われずに連れてこられたね?」

「ええ、はい。紹介したい友人がいると」

「友人か。間違ってるとは言いたくないがメイ隊員、初登校のクラスメイトを誘うならそれは適切な言葉じゃないと思うよ。彼女も困っているじゃないか」


 アカサ先輩はメイを軽く叱るが、本人はそれほど気にしていないように笑う。


「へへへ、すみません。でもエルさん、騙すつもりはないのよ? 先輩と言ってもそれは学院での上下関係であって、クラブ活動中は隊長と隊員なの」

「……それは、どのみち上下関係は下では? それに今は学院内での関係を重んじる時間だと思うのですけど」


 ボクがそう指摘するとトニー先輩が手を降って否定した。


「いやいや、昼休み中くらいそんなのはいいんだよエルさん。それに中等部の学生は年齢層に幅がある。入ってきた後輩が尊敬する先輩冒険者だった、なんてことも普通にあるんだ。だからそんなに堅苦しく考えなくていい。アカサはああ言ったけど、俺たちのことは同級生と同じように見てもらって構わない」

「初対面の先輩だと萎縮する子もいるからメイ隊員には注意したけど、エルさんも気にせず砕けた口調で喋っていいからね」

「そうなのですか。ですが私自身学校という場が初めてなので、慣れるまではこのままの立場でありたいと思います」

「え、そうなの? 地元に学校とか私塾とかなかったの?」


 アリタカくんから先輩後輩の関係というのはボクの立場上貴重な経験だろうと聞いていたので、せっかくの先輩と後輩という概念を失いたくなかった。

 だから失礼にならない程度に先輩方の提案を断ったのだが、そんなボクの言葉に驚いたのはクラスメイトのメイだった。


「あるにはありましたけど、行ったことはありません」

「へえ。どうして行かなかったの? わかった、実は超お金持ちなんでしょ? じゃないと学校に通わず学院に来るなんて無理だろうし。ねえ、私の推理はあってるかな?」


 メイは好奇心旺盛に質問を畳み掛けるが、ボクは今の自分の設定をそこまで考えていない。なんでもいいから適当にごまかすか。


「私は、病気がちだったので、外にはあまり出ない生活をしていました。それが成長とともに体調が回復し、学院に来れるようになったのです」

「そうなんだ。でもでも、ということはやっぱりお金持ちなんじゃないの?」

「こらメイ隊員。金銭の話は失礼だぞ。前にもそれで隊員を失ったというのに、また繰り返すつもりか」

「! あ、ごめんなさい! 私お金の話になると止まらないみたいで、悪気はないの。本当にごめんなさい!」

「気にしていないから大丈夫よ」


 ボクは金に無頓着だから気にならないけど、一生懸命働いて学院生活を送っている生徒には嫌な話題だろう。そう言えば隣の席のエドモンドについて話してくれたときもアルバイトの話だったような……


「ところで、今更だけどこのクラブはどんな活動をしているのかしら。わざわざ部室まで案内してくれたのだし、先輩方を紹介して終わりというわけではないのでしょう?」

「ああ忘れてた、忘れてた。エルさん、ここ学院77不思議調査クラブはその名の通りこの学院にまつわる77の不思議を調査し、それを確かめる部活なの」

「へえ、面白そうね。それで、どんな不思議があるの?」


 メイの人物像はともかく、ボクはこのクラブ活動に興味が湧いていた。

 なにせ学院の不思議の調査と来ている。この学院はザンダラとの戦争のために作られた施設だから歴史は浅いが、そのかわり多くの(いわ)くがあるに違いない。

 それにここは王様が多くの転生者を囲っているのだから、魔法の存在するこの世界においてなお不思議なことがあるのだろうと想像していたのだが、どうも様子がおかしい。

 部長であるアカサ先輩は気まずそうに視線をそらし、トニー先輩は天上を見上げて頬をかいている。ただ、メイだけは自信満々に腰に手を当てて答えた。


「学院の不思議は未発見よ」

「はい?」

「だから、77不思議はまだなにも見つかっていないのよ。だからこそ生徒たちの間に広まるうわさ話を調査、確認し、それを77不思議に認定する。それがこの学院77不思議調査クラブの活動なの」




ここまでお読みいただきありがとうございます。


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