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【第五章開始】悪役転生  作者: まな
第五章
157/173

5-10 エレインと

ブックマーク、評価、ありがとうございます。





「彼はエレイン。旅の途中で出会った子で、自由を探しているんだって。いろいろな人といっしょに行動をしてきて、今はうちと一緒に学生の自由を謳歌してるの」

「ご紹介に預かりましたエレインです。……よろしくお願いします」

「拙僧はアリタカでござる。よろしくでござる」


 アリタカくんは気にせず挨拶をしているが、ボクは心中穏やかではない。そう言えば彼は直接は会っていなかったか。

 エレインと名乗っている少年は、ボクの闇魔法『ダークオーダー』が元となっているゴーレム『シャドウキャリアー』だ。

 ザンダラでは転生者集団『バランス・ブレイカー』の実験台として捕らわれていた民衆を開放し扇動させたのだが、その後の行方はボク自身が死んでしまったため知らなかった。

 しかしまさかこんなところで再会するとは思わなかったよ。


「エルよ……よろしくお願いするわね」

「それじゃエレインの紹介も済んだから中を案内したいんだけど……」


 そこでバニラはボクの方を見る。エレインとの挨拶が不自然だったか?


「奥の講義室は他の転生者もよく集まってて、今日も何人かいるんだけど、そこには面倒な人見知りの子もいるの。だから転生者のアリタカくんしか入れないのよ。本当はエルちゃんも一緒に連れていきたいんだけど、エレインに案内させてもいい?」

「私は構わないわ。アリタカくんも同郷の人間と積もる話もあるでしょうし」

「エル殿がいいなら拙僧は構わないでござるよ」

「ごめんね! 根はいい子なんだけど、こっちの常識に慣れなくて病んじゃってるのよ。あっちから興味が出てくればエレインみたいに会えると思うから」


 そう言ってバニラはアリタカくんを連れて屋敷の奥へと進んでいく。

 別にボクはその人見知りの人間に興味はないから、会えなくても構わないんだけど。


「……行ってしまいましたね」

「そうね」

「ではこちらも講義室の中を案内しましょうか。エル様」

「ええ、お願いするわ」


 ボクはエレインのあとについて中を探索する。

 と言ってもこの日本家屋か寺のような講義室の中はすべての部屋が1本の廊下で繋がっているため、ぐるりと1周しただけで彼の案内は終わりだ。部屋の数も6つで1部屋が広い代わりに数は少ない。バニラが入れないと言っていた部屋も場所だけは教えてくれた。

 案内が終わってしまえば特にすることもないので、ボクはエレインと余っている部屋でアリタカくんを待つことにした。


「あなたは普段ここでなにをしているの?」

「講義室ではなにも。学院でということであれば、バニラの話を聞き、たまに食事を提供しているだけです」

「それって自由なの? というか、なぜ自由を探しているの?」


 ボクは紹介されたとき気になっていた自由というワードを彼に質問する。

 すると彼は少しだけ眉にシワを寄せ、苦笑する。


「それをあなたが問うのですか。エル様、あなたはザンダラの地下で、私に仕事を任せましたね? 敵に捕まっていた民衆を戦闘員に変え、彼らの求める場所に運べ、と」

「そんな事を言ったかも知れないわ。そしてあなたはそれを無事に果たしたはずよね」

「ええ。そのときエル様は、それが終われば帰っていいと言っていたのですが。愚かにも私は深く考えずに顕現していました。そして連れ出した彼らがいなくなってから気がついたのです。はて、私の帰る場所とはどこなのかと」


 ああうん。それは確かに、申し訳ないと思うくらいにはあまりにも無責任な召喚だ。

 そもそも最初の、ハレルソンで生み出されたシャドウキャリアーは、こんなふうに自我を持つとは考えていなかった。

 そして残念なことに最初の彼はそこで勇者に倒されたのだが、その時獲得していたスキルをボクに引き継ぐという形で、彼はボクの中に戻ってきていた。


 彼を2度目に召喚したのはザンダラでのときだ。今目の前にいるエレインは、またしても使い捨て感覚で呼び出された。

 今考えると、たぶんボク自身の一部なのだから役割が終われば返ってくると思いっていたのだ。それこそハレルソンで回収できたときのように。

 だけどそうはならなかった。なぜなら彼は倒されなかったから。


「私自身も自分なりになぜあんな死ぬことを前提とした召喚に応じたのかを考えたのですが、今その答えがわかりました。私はあのときは、分離される直前まではエル様だったんです」

「うん。うん? どういう意味?」

「エル様は、ご自身でも理解されていると思いますが、自分が死んでも転生できる自覚がある。そのため死ぬことに躊躇いがない」

「そうね」

「ですが今の私は、そしてその前の私は、死ぬのが怖かったんです。だからこそ1度目の召喚ではエル様の命令よりも自身の生命維持を優先し、たくさんの命を喰らって生き延びようとしました。結果的には失敗して死んだわけですが、それでも生きようと藻掻いていた。そんな私がなぜ2度目の召喚に応じてしまったのか。それはエル様とともにいると、また死ぬと思ったからです」


 えーとそれはつまり、彼はボクの魂といっしょにあった状態でなお、死にたくなかったってこと?


「そうとも言えますし、そうでないとも言えます。召喚されたのなら、それはまた別の闇魔法として生きることにほかなりません。今でこそこの身体を理解しましたが、魔力の消耗を抑えるのには相当苦労しました。それに当時のエル様、ヴァルデスの肉体は今思い返しても亜人類としては最高クラスの生命体です。あんな状況であっても離れたいとは思いません。それでも魂を分かち、召喚されることを選んだのは、やはりエル様の死を恐れない無謀な精神性の影響だったのだと思います」

「なるほどね。じゃああなたの、エレインの求める自由とは、私からの完全な解放ということかしら?」


 ボクなりに彼の言葉を解釈してみたのだが、首を横に振られてしまった。


「いいえ。話のはじめに戻りますが、私は仕事が終われば帰っていいと言われていた。しかしその帰るべき場所はなかったのです。エル様は死んでいましたから」


 あー。ボクがトラマルと相打ちになたときだもんね。その後は先生たちとパーティをしていたら、なんか1年経っていたらしいし。


「帰る場所がなかったため私自身の自我で自由に過ごそうと考え、かと言って生きる以外の目的もなかったので、自由とはなにかという目的を自分に課して過ごしていました」


 エレインはボクの魂の一部と自我を持ち、自律行動できるが、あくまでもゴーレムだ。

 だからボクという命令源が消失したせいで、最低限の生命活動を残したまま自分の中で命令を作り出すことにした。

 それが自由か。なんとも難儀な命令だこと。


「あなたの事情はわかったわ。私の無責任が過酷な命令を作り出したことを謝罪します。ごめんなさいね」

「いえ。あなたがそれを本心で言っていないことも理解しているので、謝罪は不要です」


 ああそう。まあ別れていても結局ボクだからね。

 でもそれはそうとして、もう1つの質問の答えはボクは知らない。


「学生の自由は楽しい?」

「そうですね。私はここに来る前にある方から、自由とは与えられた制限の中で許容されているすべてなのだという話を聞きました。そういう意味では、ここの学生に許されている許容限界はとても広く制限も少ない。バニラは楽しそうですよ」

「バニラはどうでもいいのよ。あなたはどうなの?」


 ボクの何気ない質問に、エレインは困ったように笑う。


「さて。ゴーレムの快楽とは命令遂行にあるのだと私は思います。私は自分なりに自由を探して旅をしていましたが、楽しいと思ったことはありません。はっきり言って、最初の召喚で冒険者相手にスキルを鍛え、スキルで殺し、スキルを奪っていた、あのときのほうが楽しかったです」

「あら、それは残念ね。彼女があなたを殺した勇者の仲間だからかしら」


 彼の答えは本心から残念だと思った。彼はボクの一部だけど、その彼が楽しくないと言っているのなら、それはきっと本当につまらないのだろう。

 もちろんボクとエレインとでは事情が違うが、それでも彼には楽しく生きていてほしかった。


「どうでしょう。あの戦いは負けましたが、上には上があるのだと教えられた貴重な経験でもあります。もしまた勇者やバニラと戦えるなら、それはきっと今の生活より楽しそうではありますが」

「そう。それならいっそバラしてしまったら? それならまた戦いになるし、ザンダラのときとは違って帰る場所もある。それに、今のあなたならいい勝負になると思うのだけれど?」

「ふは、あなたはそうやって気軽に人を死に誘いますね。本当に私の魂の大本なのかと疑いたくなるほどイカれている」


 エレインは今日出会って初めて笑いをこぼした。

 だけど、その後すぐに残念そうに首を振る。


「いい提案ですが、それは受けられません。あのときとは状況が違うんです」

「ふうん? バニラに拾われて気に入っちゃった? ようには見えないけど?」

「この生活は悪くないですが、楽しくもありません。しかしぶち壊して楽しくなるかと言えば、そうでもないのです」

「そんなこと、やってみないとわからないじゃない?」


 悪役を目指すボクとしては、拾った少年がかつての魔物だったという裏切りシチュエーションも羨ましいのだが、どういやらそういう事情でもないらしい。


「壊すべきものはもうないんですよ。エル様。勇者パーティはある事件の後に解体されました。私が戦いを望むべきものは、もうないんです」




ここまでお読みいただきありがとうございます。


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