5-9 再会の連続
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転生者バニラが案内してくれるという『未来技術に関する考察』の講義室。
そこは講義塔の最上階にあると言い、そのためになぜか地下へと潜ることになった。
「この塔って実は超超巨大な大砲なんだよ。ここニームと隣のザンダラが戦争していたのは知ってると思うけど、その初期に『相手がチートで戦ってるのに、こっちだけこの世界のレベルでは勝てるはずがない』って至極当然なことを言った転生者がいて、そいつが作ったんだって」
「なんと、これが大砲だったんでござるか? 拙僧は日本の高層タワーを見たことがあるでござるが、この講義塔はアレよりも高い気がするでござるよ?」
「あー、正確な高さはわからないけど、どこかの山よりは高いらしいよ。現代技術と異世界チートが合体したらこんなものまで作れちゃうんだから、王様が無闇にスキルを渡したくないってのはちょっとわかるよね」
バニラは笑いながらスマホをいじっているが、本当にそれが自分と同じ異世界人が作り出したと理解しているんだろうか。
正直ボクはこの塔を作った人物に憧れを抱いた。戦争のために、相手国を攻撃するためだけに、こんな兵器を作り出そうなんて発想は悪役を目指すボクにはパッと出てこなかった。
これを思いつけるのは本気でこの世界を取りに行こうとしている、攻撃的な侵略者の発想だ。ただの世界征服ではなく、世界征服のためには残りの半分はなくても良いという判断が下せる悪人の思想だ。
ぜひ会ってみたいな。戦争自体が数十年前に起きたものらしいし、なんとなく死んでいるんじゃないかと思うけど。
「技術はともかく塔が砲というところでピンときたでござるよ。この講義塔、中が空洞なんでござるな? ということは最上階は直通なのでは?」
「お。アリタカくんせいかーい。講義塔で一般利用されているのは大砲を柱として、その外側に作られた建物なの。表向きに大砲だなんて言えないから、その建前としてね。でも大砲としては利用されることがなくなっちゃったから、誰にも言えないでっかい空洞が残ることになる。一応は国のお金で作った建造物だし、何にも利用しないまま壊すのはもったいないってことで、王様は大砲の内側に転生者専用の施設とエレベーターを作ったってわけなの。さあ、もうすぐ着くわよ」
いくつもの結界を通り抜けた先で、ボクたちは思わず息を呑む。
地下を降りていたはずなのに今いる場所は塔の上で、目の前に広がっていたのはテレビの中で見たのと同じ都会のような光景。
たくさんのビルが建ち並び、何台もの自動車が走り回り、あちこちからなにかの宣伝の音が聞こえてくる。
それに加えて、地下の特別な空間なのに明らかに人が多かった。
「お、驚いたでござる…… まさか学院の下にこんな世界があったなんて……」
「凄い……! 天上もあんなに高いし、端が見えないわ。ここって講義塔の地下なのよね?」
「ふふっ、驚くのも無理はないわ。ここは地下であって地下ではない、この世界に存在する異世界、ダンジョンなのよ!」
「えっ!? ダンジョンって、あの魔物が出てくる、あのダンジョン?」
ボクは驚きのあまり中身のある言葉が出てこなかった。
ダンジョンと言えばボクもファラルド領に1つ隠し持っているものがあるから、扱い方は多少は知っている。
だけど実際にコアを使ってダンジョンの改変を試したが、元のダンジョンから大きくかけ離れたものを作るのは無理だった。
そのため今はヴリトゥラとトレイタの2人に管理を任せた状態になっている。
アリタカくんもその事を知っているので驚きを隠せないでいた。
「ダンジョンの存在は知っていたでござるが、まさかこのような形で運用できるとは知らなかったでござる。このようなダンジョンは他の国にもあるんでござるか?」
「さあ? うちはそのへん詳しくないし。アリタカくんはさ、スマホがどうやって作られて、どうやって操作できるのか、それって説明できる? 無理っしょ?」
「む……た、確かに説明書通りの操作ならともかく、原理の解説は拙僧には無理でござるな……」
「でしょ? わからないものを無理して調べるのはうちらの仕事じゃないわけ。ここでの転生者の仕事は、この世界にはなくてあっちにあった便利アイテムを、この世界でも使えるレベルに引き下げることなの。ダンジョンの研究はあの人たちに任せておけばいいのよ」
バニラがあの人たちと指差すのは転生前の日本のビル街では目立ってしまう格好をした、こちらの世界の人たちだ。
よくよく見てみるとなんともチグハグな風景である。
ビルや通りを歩いているのは白衣を着た研究者や、それを護衛する明らかに場違いな冒険者たち。
道路を規則正しく走っている自動車はよくよく見れば無人であり、前衛職の冒険者が攻撃を仕掛けて吹き飛ばされていたりした。異世界でなければ正面衝突の人身事故だが、この世界の冒険者は多少のダメージで立ち上がった。
かと思えばビルのガラス壁をクライミングしている斥候がいたり、それを内側から見て驚いている貴族がいたり……
現代では考えられない事件がそこかしこで起きていた。
「今更ですけど、あの人たちはいったい……?」
「アレはこの世界の冒険者や研究者よ。このダンジョンの名前はニーム学院地下迷宮。上の学院の敷地内にダンジョンがあるのは知ってると思うけど、ここはそこから繋がっているの」
「なんと! つまり彼らは普通のダンジョン攻略に来たつもりで、ここにいるということでござるか!」
「そういうことになるわね。今私たちのいる場所は結界で隠れているけど、同じダンジョンではあるから落ちないように注意してね。エレベーターはこっちだから」
ボクはまだこの塔からの風景を眺めていたかったが、バニラが先に進んでいったので渋々ついて行く。
ついて行った先でもボクはまた驚きで固まってしまった。
彼女がエレベーターだと言っていたものは、かなり古典的な円盤型UFOだったのだ。
バニラはボクたちに振り返って笑う。
「アハッ、ナニコレって思うっしょ? これはユーフォーって……言ってもわかんないか。簡単に言うと反重力で浮き上がる魔導具なんだけど。まあいいや。さ、乗って乗って!」
「え、ちょ、そんなに急がなくても……」
一瞬バニラにUFOを知っているのではと疑われたのかもと思ったが、特にそんな素振りはなく彼女はアリタカくんの手を取って走り出した。
彼女はせっかちだな。ボクにとってもアリタカくんにとってもこの世界に来てから初めて見るものの連続だと言うのに、息をつく暇もない。
エレベーターと呼ばれているUFOに乗ったときもボクはその内部構造を見たかったのだが、バニラはボクとアリタカくんの出会いについて聞きたがり、そう簡単に明かせる内容ではないのでどうやって誤魔化そうかと必死だった。
「ふーん。じゃあなに? アリタカくんがザンダラの森で迷子になってたのを、エルちゃんが偶然見つけてそれ以来一緒って感じ?」
「うむ、だいたいそうでござるな。エル殿はニームに帰り、拙僧はザンダラで仕事を果たし、旅の流れでまたこちらで再会したのでござる」
「すごい! それって運命じゃん! 異世界で別れた2人がまた出会うなんて、そんなことなかなかないよ! ね、ね、エルちゃんはアリタカくんのことどう思ってるの!?」
どうやらバニラは恋愛マンガに憧れているらしく、こんなベタな作り話にでも乗っかってくるのが厄介さに拍車をかけていた。
でも運命ね。ボクはそんなものはないと言い切れない。
だって今目の前にいるのはボクを殺した女だし、つい最近にも勇者と再会している。
転生者同士は出会うとお互いがそうだとわかる勘のようなものがあるし、先生たちの話では転生者同士は神になるための競争相手だ。
そう考えると転生者たちは惹かれ合うようになっているのかもね。
そんな事を考えながらバニラの無意味な追及をかわしていると、間の抜けた鐘の音と共にエレベーターの動きが止まった。
どうやら目的地に着いたらしい。
「ああ残念。講義室に着いちゃった」
「拙僧はなんとも息が詰まるような空気感から開放された気分でござる」
「そんなこと言っちゃってー、続きはまたあとで聞かせてもらうからね」
エレベーターから降りた先は庭だった。
いつかのテレビで見た、岩や砂が敷き詰められた庭とその奥に鎮座するお寺のような屋敷。振り返ると古めかしい木製の門があり、UFOはその奥で待機していた。
「これは……立派な枯山水でござるな……」
「アリタカくんはこれの良さわかっちゃう感じ? 私は堅苦しくて苦手なんだよね。エルちゃんはみたことないでしょ? この庭勝手に入って足跡つけると死ぬほど怒られるから注意して。講義室はこの石畳だけをあるくように! ってね」
あの屋敷が講義室らしい。ところでボクはこの背景に見覚えがある。それは王様と話をした際に見え隠れしていたものだ。
ということはここには王様も来るのか?
「たっだいまー! ああエルちゃん、ここでは靴を脱ぐんだよ。脱いだらそっちの箱に入れてね」
「失礼するでござる」
「失礼します」
「もう2人ともかたいなー」
屋敷の中もしっかりと日本家屋のような作りになっていた。まさか異世界に来て初体験できるとは思っていなかったので、想像以上に感動している。
「ああそうそう。他の転生者の前に先に紹介しておきたい子がいるんだ。まだ若いんだけど、めっちゃ優秀だから私の護衛をしてくれてるの」
「ほう。勇者パーティにいた賢者殿が優秀と評価するとは。いったいどんな方でござる?」
「エレインって言うの。強い上にかわいいんだよ。かわいいって言うと怒るから言っちゃダメだけどね」
その名前を聞いたときに、ふとボクの中から黒い繋がりのようなものが見えた気がした。
それは物理的にでも魔力的にでもない、しかしたしかに繋がっているナニか。
嫌な予感がしたのはほんの一瞬のことだ。
だってそいつはすぐに目の前に現れたんだから。
「ああ、お戻りでしたか……主サマ」
黒い髪に黒い目の、どこかで見た覚えのある学生服の少年。
かつてシャドウキャリアーとして召喚した闇魔法のゴーレムがそこにいた。
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