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【第五章開始】悪役転生  作者: まな
第一章
15/173

15 罪の報い

新連載。実質スタート地点。



 解放軍に来て数日経つが、エル(ボク)は自由を満喫できていなかった。


「おうエル、少しは運動したほうが良いぞ。軽い訓練を教えてやろう」

「エル、遊びに行きたいのか? なら釣りを教えてやる。取ってきて夕飯にしよう」

「もう外は暗いぞ? 一体どこに行くんだ?」

「……トイレだよ」


 何をしようにも、どこに行こうにも、ダンが常についているのだ。


(ダンはいい人なんだけど、本当にボクのことを守り切るつもりでいるらしい)


 ボクは今不満を抱えている。それはファイアボールのスキルをマスターしたことで獲得した2つのスキル、ファイアショットとフレイムスロアについてだ。

 唯一完全に1人になれるタイミング、トイレの個室で新たなスキルが使用可能になったことを知ったのだが、せっかく覚えたのに使用する機会がない。


(試し撃ちしたいのに、ダンがいるんじゃ隠せないじゃないか)


 ファイアショットは速度と威力の上がったファイアボールの攻撃特化版で、複数の火の玉を同時に放てるかわりに応用は少なく、そこからの派生スキルもなかった。

 フレイムスロアは少し特殊で、持続する炎を放つスキルだ。最初は手から火炎放射を出すだけだと思っていたが、どうやらこのスキルは持続する炎を設置することもできるらしい。らしいというのはスキルの説明にそう書いてあるからで、まだ試せていない。

 ボクは新しく知ったことは何でも試してみたい主義なので、早速なにかにフレイムスロアを使ってみたかったのだが、ダンの監視下で火を出すのは危険だ。

 ボクにはわからないけど、魔力の種類だとか、スキルの痕跡だとか、そういったもので森林火災と結び付けられる可能性はゼロじゃない。


「はあ。訓練や釣りは楽しいけど、与えられた娯楽はボクのしたいこととは違うんだよなあ」

『その訓練のお陰で新しい職業やスキルも開放されていますが、入手しますか? 職業はともかくスキルの入手には身体的負担があるので、定期的な入手を推奨しますが』

「サモンゴーレムを取って戦闘員のスキルセットを揃えたいんだけど、取れないんだよね……」


 サモンゴーレムの獲得にはゴーレム制作か討伐の実績が必要であり、ボクはクリエイトゴーレムを持っているのにゴーレムを作ったことがないから、まだ入手できなかった。


「とりあえず自分でつけた火を消火できるようにアクアボールを取ろうかな…… そう言えばなんでアクアショットを先におすすめしたの?」

『スキルブックを確認してください。アクアボールとアクアショットでは維持に必要な魔力の消費量が違うからです。またファイアボールとアクアボールの差ですが、ファイアボールはエル様自身の魔力を火種に、周囲の魔力及び可燃物を使用するため魔力消費量は表示通りです。しかしアクアボールは自身の魔力により水を発生させ、攻撃が命中するまで維持する必要があるため、ファイアボールよりも実際の魔力消費量が多いのです』


 要するにファイアボールもアクアボールも基礎魔法スキルだが、出現した魔法球の維持コストがあるぶんファイアボールのほうが安いということだそうだ。

 ちなみにアクアショットのコストがアクアボールよりも安いのは、アクアショットの方はボールの状態で維持する必要がないから。ショット系攻撃魔法は大雑把に言うと魔力を属性変化させてぶつけているだけであり、手で水を掬って保持し続けるのは難しいけど、手で掬って飛ばすだけなら簡単だよね、という話らしい。

 更に補足するとファイアショットは複数放つ火種1つずつに魔力を消費するので、アクアショットよりも消費量が多い。アクアショットの方はイメージ的には大きな水の塊を砕いて飛ばすようなもので、ファイアショットの細かい火種一発よりも消費は多いけど、総合的に見るとこちらの方が安上がり、と言った具合だ。

 まあどちらも使い方次第で、魔力消費量はいくらでも変わるんだけどね。


 少しだけ考えたが、他に直ぐに必要そうなスキルがなかったのでアクアボールを獲得。これでトイレ使用に関する問題が少しだけ解決した。

 セレンの言うとおりこの村にトイレットペーパーはなく、乾燥させた葉っぱを水で戻してから汚れを拭き取り、汲んできた水で洗い流すというのがこちらの世界流だ。なら最初から水魔法で洗えば良いのではと思っていたのだけど、誰もが水魔法を使えるわけではないということもセレンから聞いて知った。


「スキルはこれでいいとして、新しい職業って? ボクは【敵】でしょ?」

『はい。しかし【敵】は特殊な職業であり、同時に他の職業を取得することが可能です。他の職業を取得した場合、基礎能力値への補正はその職業のものになり、その職業で獲得可能なスキルも成長に応じて開放されます』

「……ふーん?」


 他職業への派生はないけど、他の職業にはなれるのか。確かに正義の味方の敵にはいろんな職業のやつがいた。補正もスキルもないと聞いたときはがっかりしてたけど、そういうことだったのか。


「それならなにか職業を……」


 スキルブックを確認しようとしたところで、トイレの扉をノックされた。


「おい、早くしてくれ……! も、漏れちまう……!」

「……いま出ます」


 この村では複数の家で1つのトイレを共用している。そのためこうやってボクのプライベートな時間を邪魔されることも多い。

 ボクはため息をついてダンの家に戻った。まだしばらく、スキルを試せそうにない。





 ボクが解放軍の村に来て1週間経った頃、今更ながらに自分がここに来た理由、そしてあの村があのあとどうなったのか気になってきた。

 村長を殺して火を放ち、ナクアルさんを置いてきた村だ。村長の話では村人全員が盗賊になりかわっていたらしいし、ナクアルさんにとっては相当危険な状況のはずだ。


「ダンさん。ボクはダンさんに助けられてここに居ますが、ボクはこうして遊んでばかりです。あの、ボクが居た村は今どうなっているんですか?」


 日課のトレーニングのあと、ダンと釣りをしているときに直接聞くことにした。


「……そのことなんだがな。メンバーが調査に向かった時には、すでに全ては終わっていたんだ。盗賊たちは立ち去った後で、焼かれた家もあった。幸い、と言っていいのかはわからないが、集団になるとどうしても痕跡が多く残るものでな。奴らにつながる重要な手がかりを得て、今はそれの追跡をさせている」


 焼かれた家というのは、多分ボクが燃やしたものだろう。それよりもナクアルさんのことが気になった。


「その、ボクを助けてくれたお姉さんは無事なんでしょうか?」

「……わからない。だが奴隷狩りが目的であるなら、命までは取られていないはずだ。それにさっき言った手がかりもある。それを使って必ず奴らのアジトを突き止め、悲劇の連鎖を断ち切ってみせるさ」


 ダンの言葉に熱が籠もっているのがわかる。どうやら相当有益な手がかりらしい。


「そんなにすごい情報だったんですか?」

「ああ。奴らはこのあたりでは珍しいハシリトカゲを飼っていた。1頭だけだったから、恐らく盗賊のリーダー格のものだろう。と言うことは、こいつらがこの領地で暗躍している奴隷狩りの主犯格で間違いない。そこからうまく辿っていけば、奴隷ブローカーや領主まで辿り着ける……! いや、必ず辿り着くんだ!」


 ダンは興奮したように手を握るが、ボクは確信していた。この調査、絶対に迷宮入りすると。

 そのハシリトカゲはナクアルさんのものであり、リーダーと思しき人間はすでに死んでいる。

 解放軍は困るだろうなと考えていたけど、ボクは逆に嬉しくなってきた。

 なにせ現場を荒らして正義の味方を困らせるのは、立派な悪役ムーブではないか。そしてそれがうまく機能している。雑な証拠隠滅だと思っていたけど、まさかそれがこんな結果になるとは。自然と顔が綻ぶ。


「……うまくいくといいですね」

「ああ! そうやって領主を公の場で裁けるようになったとき、そこでエル、お前の出番だ。被害者であるお前が重要な証人になる。大変だと思うが、頑張れよ!」

「はい」


 そんな日はきっとこないだろうなと思いながら、ボクは返事をした。





 一頻り釣りを楽しんで村に戻ると、なんだかメンバーたちがやけに騒がしかった。


「何かあったのか?」

「ダン、戻ったか! 例の盗賊たちを追っていたメンバーから報告があってな。行き先は領主の居る町で、なんと8号村を襲ったやつが捕まったらしい。衛兵どもが公開処刑について告知を出していた。いずれこの村にも情報が来るだろう」

「なに? 盗賊たちは領主側のはずだろ? ヘマをして尻尾切りにでもなったのか?」

「それがどうやら違うんだ。捕まったのは奴隷狩りの盗賊じゃない。犯人は天門教会の信者を騙る冒険者で単独犯。罪状は殺人と放火。詳しいことは聞かされてないが、どうも女らしい」

「……え?」


 ボクは思わず持っていた桶を落としてしまった。天門教会の冒険者で、女性。ボクの知る限り、あの村に居て該当するのはナクアルさんだけしかいない。


「エル、大丈夫か? 顔が青いぞ?」


 頭の中をいろんなことがぐるぐると巡る。

 ナクアルさんが捕まって、処刑されるだって? そんなのおかしいじゃないか。

 彼女は見知らぬ子供を助ける正義の心の持ち主であり、殺人も放火も犯人はボクだ。だから彼女が処刑されるのは冤罪で、絶対に間違っている! きっとあの村の盗賊たちが罪をでっちあげたんだ!


 ナクアルさんは正義の味方だ。たとえそれがボクの起こした行動の結末だったとしても、正義が悪に負けるなんて、そんなのは絶対に許せなかった。


「ダンさん。その人は、きっとボクを助けてくれた人だと思います」

「なんだって? 俺はてっきりエルフに助けられたものだと……」

「その冒険者はナクアルさんと言って、ボクを助けてくれた恩人なんです。きっと盗賊たちが罪を被せるために、犯人に仕立て上げたんだ……! ダンさん、お願いです。彼女を、ナクアルさんを助けてください……!」


 正義の味方のために存在しようとしているボクはどうするべきか。そんなのは決まっている。なりふり構わず、ダンも解放軍も、何もかもを巻き込んででも、ナクアルさんを助け出す。


 こんなのは本来悪役のすることじゃない。でも正義の味方が居なければ、ボクの目指す悪役は存在できなくなってしまう。


 だから、やるしかないんだ。



ここまでお読みいただきありがとうございます。


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