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【第五章開始】悪役転生  作者: まな
第五章
148/173

5-1 はじめての遠出

長くなったので分けたら短くなりすぎました。



◆エル



 季節は冬。ファラルドの新年度は1月から始まるため、それに合わせての再入学となる。

 雪は降らないが肌寒い空気の中を、1台の大型馬車が往く。


「暇ね」

「そうですね」


 ファラルドからニーム国立魔導学院までの道中は3つの領を跨ぐ、それなりに長い道のりであった。

 だが観光が目的ではないし、復学は急に決まったことだったので寄り道はできない。そのため道中に娯楽がないのだ。

 もう何度目になるかわからない、アールとの意味のない会話。馬車に乗るメンバーたちもそれほど変わらない外の景色に飽きて、思い思いに暇を潰している。


 ちなみに今回の旅程に他の職員などはいない。それはエル自身にファラルドへ帰るつもりがなかったのと、往復の旅費が捻出できるほど領自体が経済的に回復していないためだ。


「職員さんたちや保安隊の隊員さんたちは、同行は無理でもせめて護衛くらいつけるべきだと言っていましたけどね。本当に私たちだけで出てきちゃって、みんな驚いていましたよ」

「あら、こう見えても私は元冒険者よ? それに御者をしているフェルは現役のBランクだし、馬車1台の護衛なら十分じゃない」

「ヴィクトリアの言うとおりよ。それに領内の情勢は改善したとはいえ、ファラルドは外から見れば貧乏な辺境の田舎。大所帯で移動するとかえって何事かと目を向けられてしまうわ。できるだけ派手な動きはするなとラコスも言っていたのだし、ファラルドのためを思えばこの方が良いのよ」


 などと尤もらしい言葉をフリスに返すが、正規の護衛を雇わない実際の理由は違う。

 1つ目の理由は今乗っているこの馬車、『デス・トロイア号』だ。

 このデス・トロイア号はボクの魔法『クリエイトゴーレム』により改造された動く要塞であり、シェルーニャになってから乗ったどの馬車よりも乗り心地が良く、木製にしか見えない箱馬車は馬がいなくても自走できる。防御性能はボクの全力のメテオアーツを数回耐えられるし、ゴーレムなので自動再生能力もある。

 当然それを引く馬もシャドウゴーレムであり、これらの秘密を何も知らない領の人間に見せるわけにはいかなかった。

 はっきり言って護衛など不要、それどころかボクの仲間以外は足手まといになる。


「昼食はどうするの? 朝はベーコンエッグだったし、昼はさっぱりとしたものがいいわね」

「おや? 昼は町には寄らないので、馬車内で食べれるようにと朝の残りでサンドイッチを作ったはずでござる。たしかこっちのバスケットに……」

「それならもう食べたけど?」

「…………」


 ヴィクトリアは旅の途中でも相変わらずの食欲を発揮していた。魔力生命体の悪魔である彼女は、この世界で生きていくだけで魔力を消費し続ける。そのためものを食べることによって魔力を吸収し生き延びている。

 しかし人間状態に変身するためのメタモーフは空間魔法であり、その中にいるヴィクトリアの本体は魔力の消耗を抑えられている。つまり無理に食事をし続ける必要はない。

 だがそれとは別に彼女は美食家であり、抑えがたい食欲に囚われ続けているのだ。


「フェル? この近くにどこか寄れそうな町はあるの?」


 ボクは御者台のフェルに確認をするが、彼女は首を横に振った。


「いえ。見てのとおりこの辺りは道があるだけの森です。夕方頃には次の宿泊予定地に到着しますが、それまでに人気のある地域は通過しません」

「何か動物でも狩って絞めるしかないかしらね」

「えー? 今から狩るだなんて、昼食までに時間がないわ。なんの下処理もしていない野生動物を食べるだなんて、それは美食以前に生命に対する冒涜よ」


 町がないなら狩るしかないと思っただけなのに、ヴィクトリアは強い思想を持ってこれに反対してくる。お前が昼食を食べちゃったのに、とは思うが、それを口に出すと更にややこしくなるので止めておく。


「それでは、馬をしまってヴィークルモードで進むのはどうでござるか? 今の進行速度はこの世界での常識の範囲内。エル殿のこの馬車であれば、その10倍は速度が出るでござるよ。それなら1時間もかからずに到着できるはずでござる」


 ヴィークルモードとはボクとアリタカくんが名付けたこの馬車の自走形態のことだ。

 確かにこの提案はすぐに実現可能なものだったが、それに対して約2名が反対意見を表明する。


「エル様……私、あの速いのすごく苦手なんですけど……」

「私もなんか妙な振動が伝わってきて今も気持ち悪いの。これ以上激しくなるのは、できれば遠慮したいわ」


 フリスは乗り物慣れしていないために速いのが苦手で、ユルモは犬に変身しているせいか乗り物自体酔いやすいらしい。

 普段のボクなら無視する意見だが、この馬車で吐かれるのは困る。だから慎重に検討する必要があった。


「どうしようかしらね。私たちは最悪食べなくても平気だけれど……」

「緊急時用の保存食はあるでござるが、ヴィクトリア殿はこれで満足しないんでござろう?」

「当たり前でしょう? たかが昼食がないくらいで、緊急時の食料に手を付けるなんてありえないわ。旅を舐めているの? 今は快適でも、いつトラブルが起こるかわからないんだから」

「それをヴィクトリア様に言われたくないんですが……」


 ヴィクトリアは冒険者として正しいことを言っているのだが、この状況になったのは彼女のせいだ。そのため彼女を見る全員の視線は胡乱げなものになっている。

 そんなとき、珍しくフェルが馬車内に声をかけてきた。


「エル様、少しいいですか」

「あら。どうしたのかしら」


 フェルは困ったように、しかし少しだけ嬉しそうに告げた。


「前方の道が塞がれていました。倒木にしては不自然ですので、賊の襲撃が予想されます」

「そう。みんな、お昼が手に入るかもしれないわよ」


 ボクたちが護衛を雇わなかった、2つ目の理由がこれだった。



ここまでお読みいただきありがとうございます。


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