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【第五章開始】悪役転生  作者: まな
第四章
136/173

4-46 思わぬ再会

ブックマーク、評価ありがとうございます。





 変化とは常に突然現れる。


「エル様。エル様の知り合いだというお客様が来られているんですけど……」

「……今何時?」


 事件から数日が経ったある日。いつものようにアールに抱きついて惰眠を貪っていると、いつかのようにフリスが起こしにやって来た。


「ええと、既に11時ですけど……」

「まったく、まだ昼前じゃない。こんな時間にやってくるなんて、常識がないのかしら? それで、相手の名前は?」

「ヴィクトリアよ! ヴィクトリア・グーラ・エギグエレファ! 自分で呼び出しておいて1年以上も放置するなんて、契約者失格じゃない!?」


 それは聞き覚えのある、しかし懐かしい声だ。

 まだまだ眠い目をこすりながら身体を起こすと、そこには確かに貴族のようなドレス姿のヴィクトリアがいた。


「おはよう、と言ったほうがいいのかしら? それとも、久しぶり?」

「ええ、ええ。久しぶりねエル。で……そっちがアールね? ずいぶん姿が変わったようだけど」

「はい。あなたこそお元気そうでなによりです」

「エル様、こちらの方と知り合いなんですか? 領の外に出たことがないのに?」


 フリスはボクの着替えを用意しながら、そんな失礼なことを言う。ボクにだって知り合いくらいいるさ。

 でも確かに今のボクはシェルーニャであり、シェルーニャは近くの森くらいしか出たことがない。


「私が転生をしてこの身体を借りているというのは前に言ったと思うけれど、彼女はその転生前の知り合いよ」

「知り合いよりは深い関係だと思っていたのだけどね。エルは突然消えてしまうし、残された私たちも大変だったのよ? フリスちゃんだっけ? これから私たちもお世話になると思うから、あらためてよろしくね?」

「はい、よろしくお願いします」

「私たち? ヴィクトリアの他に誰がいるというの? ああ、あの冒険者の2人のことかしら」

「あのあと色々あったのよ。全て話してあげるから、さっさと着替えなさい」





 フリスに紅茶と菓子を用意させながら応接間に向かうと、そこには懐かしい顔が揃っていた。


「まさか、本当にエル殿でござるか!? 女の子になっているとは聞いていましたが、まさかこんな美少女とは……!」

「ええ。久しぶりねアリタカ。まさかあなたがヴィクトリアといっしょにいるとは思っても見なかったわ」


 部屋に入って一番に大きな声で驚いていたのはアリタカ。相変わらず今のボクと同じくらいに可愛らしい顔をしているが、少しでも男らしさをアピールするためか学ランのような格好を着崩している。


「お久しぶりです、エル様」


 次にしっかりとお辞儀をして挨拶をしてくれたのは、ヴィクトリアの後ろに立っていたローブ姿の少女だ。一瞬誰だかわからなかったせいで戸惑っていると、自分からフェルだと名乗ってくれた。


「フェルはあなたが消えたあとも、私の料理技術を学びたいと一緒に旅をしていたのよ。旅の途中で立ち寄る地元の料理をどんどん自分のものにしていって、今ではどこに出しても恥ずかしくない一流の料理人よ」

「お褒めいただきありがとうございます。ですが、私なんてヴィクトリア様に比べたらまだまだです」

「料理人は丁度欲しかったところなのよ。せっかくだから、今日からうちで働いてみない?」

「はい。そのためにここまで来ましたから、またエル様のために料理を作らせてください」


 最後に会ったときからだいぶ性格が変わった気もするけど、そう言えばあの日は夕食を食べられなかったな。思い出したらお腹が減ってきた。


「あら? あのとき私はもう1人を屋敷に住まわせていたけれど、カルソーくんはどうしているのかしら。一緒じゃなかったの?」

「……カルソーは、もう知りません」


 フェルとともに一緒にペアを組んでいた少年冒険者の名前を出すと、彼女の顔が少し曇る。


「カルソーねえ。彼は最後までエルの善性を信じ続けて、勇者に勝負を挑んだのよ」

「は? 勇者って、あの勇者ツルギ?」


 突然出てきた転生者の名前に驚いていると、ヴィクトリアは簡単に事の顛末を教えてくれた。

 ボクがスラー・ハレルソンとして死んだあと、彼ら勇者パーティはボクが悪人だったことを伝えるためにあの屋敷に戻ったらしい。

 その時には既にヴィクトリアは屋敷を逃げ出していたのだが、フェルはカルソーとともに屋敷に残っていた。彼は勇者に何と言われようとも、フェルにどれだけ説得されようとも、スラーが悪人だとは認めなかった。

 結果としてカルソーは自分の信じていたスラーを弁護するために勇者に対して決闘を挑むも敗北。その場では子供だからと見逃されたのだが、彼は公の場でもスラーの善性を力説した。

 そこまで来るともう誰も擁護することはできず、フェルも愛想をつかしてヴィクトリアの後を追ったそうだ。


「カルソーは今でも理想のエルの影を追ってソロでの冒険者活動を続けているそうよ。みんなの理解を得られなかったのは、自分が弱かったせいだって言ってね」

「どう考えたらそんな理屈に行き着くのかわからないわね」

「エル様って、他所ではそんなロクでもないことをしていたんですね…… というかハレルソンの悪夢がエル様の犯行で、そのせいでファラルド領の混乱が長く続いていて…… それを自分の手で復興していくのって、なんだかおかしいと思わないんですか?」


 フリスは訝しげにボクを見つめてくるが、今のボクはシェルーニャだ。なにもおかしなことはない。


「別になにも。それに私が領主になってから改善されたこともあるのですから、むしろ感謝するべきでは?」

「ダメよフリスちゃん。こいつに人の心はないの。物事を結果でしか判断しないから、その過程にある人の悲しみなんてなにひとつ理解しないわ。だから言っても無駄よ」


 ヴィクトリアがそんな事を言うが、ボクだって少しくらいは感情を学んでいる。

 それよりもボクには1つ気になっていたことがあった。


「ところで、その犬はなに?」

「あー! 絶対言うと思った! 絶対忘れてると思いましたー! ユルモです、ユールーモー! ザンダラの研究員でヴァルデスに魔法をかけられた、かわいそうな女ですー!」

「うわ、犬が喋った」

「くーっ! なんでもいいからこの変身魔法を解除してください! 私が今までどれだけの苦労をしたと……!」

「話によればこのユルモ殿はフートゥアから脱出する際にエル殿に魔法をかけられたそうでござる。拙僧と会う前、エル殿がトラマルとの戦いに負けたときでござるよ」


 まったく思い出せないでいるとアリタカくんが助け舟を出してくれた。

 ユルモか。居たなあ。彼女とは特になにも思い出がないせいで、思い出すのに時間がかかってしまった。


「思い出したわ。ゲロ女よね?」

「ヒドい! 確かにそうですが、あれはあなたのせいですよ!?」


 今にも噛みつかんばかりに犬のユルモはボクに飛びかかろうとしてくるが、彼女にはしっかりと首輪がついているため一定の距離から近づくことはできない。


「ユルモ殿、ステイ。ステイでござるよ」

「今は犬扱いするなあ!」


 どうやら今はアリタカくんがユルモの飼い主ということになっているらしい。同じザンダラ出身同士仲良くやっているようでなによりだ。


「エル様、あの犬もヴリトゥラのように変身をしているんですか?」

「そうよ。中身はザンダラの研究員で、一応軍人扱いだったかしら?」

「所属に関しては、国に出る前までは一応そうですね」

「そうですか。でも、それなら変身は解かないほうがいいかも知れませんね」

「……えっ?」


 フリスの言葉にユルモが凍りつく。彼女にとっては思いもよらないところからの否定だったために、反応ができなかったのだろう。


「あら、いつまでも犬のままでは可哀想だと思うけれど、フリスはどうしてそう思ったのかしら」

「えーと。ユルモさんって、犬の状態で入国、入領してるんですよね?」

「ええそうね。彼女はペット扱いだし」

「だとすると、変身を解いたら突然領主の屋敷にザンダラの密入国者が現れることになっていましますよ。魔物事件もワットル商会の企みだったと調査が進んでいる状態で、不審なザンダラ人というのは危険だと思います」


 あー。なるほど。正論だ。ぐうの音も出ないほどの正論だ。


「ちょっと待ってください!? 私は事件とは無関係ですよ!?」

「そんなこと、この場にいる全員がわかっているわ。でも今の私には立場というものがあるし、密入国は擁護できないわ。だからもう少しだけそのままで居なさいな」

「そ、そんなあ…………」


 かくして、ユルモの飼い犬生活は延長されることになってしまった。

 彼女が人間に戻れる日は来るのだろうか。

 それはまた、ボクの気分次第さ。



ここまでお読みいただきありがとうございます。


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