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【第五章開始】悪役転生  作者: まな
第四章
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4-43 新しい部下

評価、いいね、ブックマークありがとうございます。





「エルさん、いやエル様。俺を正式にあんたの部下にしてほしい。このとおりだ……!」


 そう言ってダンジョンに縛り付けられていた男は頭を下げた。

 彼の経歴は他人から見ると到底まともなものではない。

 終戦後の混乱期にザンダラで盗賊に身を落とし、カンバの策に乗ってファラルドに密入国。元冒険者でありながらダンジョンの存在を隠蔽し、それを自分に都合のいいように改築していた。

 その後はボクたちにダンジョンとともに見つかり、命惜しさに計画を吐いた。それをボク風にアレンジして、カンバの作戦を進めながら彼を裏切って殺害。そして今に至る。

 国も主人も裏切った盗賊など、ふつうなら絶対に手元には置かないだろう。だからこそ彼は頭を下げて必死に頼み込んでいる。


 でもボクは違う。そもそももとより彼を部下にするつもりでいた。

 裏切り者は悪役にとって重要な要素だ。例えそれが悪人から悪人になっただけだとしても、属性として裏切り者であるかないかでは、悪人度が違う。

 だからボクは彼の能力ではなく、裏切り者かどうかというだけで判断していた。


「俺はこう見えても口が堅い! エル様には全部喋っちまったが、あの時は仕方がねえだろう? だが今後はエル様たちのことは何ひとつ喋らねえ。あのダンジョンのことだってそうだ。俺は今まで誰にも喋ってねえし、事実エル様たち以外には見つかってねえ。だから、どうか……!」

「別にいいわよ」

「そこをなんとか……! …………え?」


 まるでボクが言い間違いをしたのではないかと疑うように、彼は間の抜けた顔で見上げてくる。

 うんうん、お約束だね。


「だから、部下にしてもいいと言っているの。序列としてはヴリトゥラの下になるけれど、それでもいいならね?」

「っ! ありがてえ! 本当に、本当にありがてえ! ありがとうございます!!」


 彼は今までの緊張が解けたように顔を崩して泣きはじめる。やつれた強面男の破顔はある意味で恐怖なのだが、今日は仕方がないだろう。


「ところで、配下に加えるに当たって聞かなければいけないのだけれど、あなたの名前は?」

「え? そ、そういえば一度も名乗ってねえが……俺はザンダラでは犯罪者だから名は捨てたんだ。カンバさんに雇われていたときも、定期的に名前を変えていたからな……もしよかったら、エル様が名前をつけてくれ。それが俺の、新しい首輪だ」


 名前は首輪ね。面白い表現をするなあ。

 名前がないならネームレスとか? でもそれはちょっと人前では呼びにくいし、盗賊崩れにはもったいない。

 どちらかと言えば裏切り者を重要視したいし……


「……そうね。少しもじって、トレイタなんてどうかしら」

「トレイタ、トレイタか。わかりましたエル様! 俺はこれからトレイタと名乗らせていただきやす!」

「はい。これからも頑張ってくださいね。とは言えあなたは自分で言ったように犯罪者。大手を振って表を歩ける人間ではありません」


 メタモーフを使えばその限りではないが、彼にこのスキルを与えるのはまだ危険だろうしいちいち掛けてやるのは面倒だ。


「なのでしばらくは今までどおりダンジョンの運営をしてもらいます」

「わかりやした! ……って、ちょっと待ってください。今後ダンジョンはどうなるんです? 今までのように秘密裏に?」

「私としてはその方が都合がいいのだけれど、どうにもそうはいきそうにないのよね」


 トレイタは首を傾げるが、これから話すのは会議所の職員すらも知らない極秘情報なので仕方がないことだ。


「実は冒険者ギルドにはあのダンジョンの存在がバレています」

「……え!?」

「より正確にはあの位置に不審な空間が存在している、と言った認識のようですが、ギルド会議がなければギルドマスターの子飼いの冒険者が調査に入る予定だったそうですよ?」

「なんで見つかったんです? あの場所は入り口の真上に巨木があるせいで、あると言われてもわからないような場所ですぜ?」


 確かにファラルドの森のダンジョンは普通にはたどり着けないような場所にあり、更に彼らの手によって隠蔽されていた。

 それでもボクたちが見つけられたのだ。冒険者たちにできないとは思えない。


「詳細までは聞けませんでしたが、森の魔物失踪になんらかの関連性があるとのことでした。これは想像ですが、あの魔物避けの毒を察知されたものかと。少なくともヴリトゥラはあの樹の下から毒が漏れてることに気がついていました」


 そう言ってヴリトゥラの方に視線を向けると、彼女は無表情のまま誇らしげに胸を反らせていた。


「な、なるほど…… 確かに外の魔物も大量に捕獲するため、バルバスを山のように使ったのは事実だ。まさかアレを感知できる人間がいるとは……」

「ひょっとすると獣人なのかも知れませんね。実はあの失踪事件の直後に、一部の冒険者が原因不明の病ということで一時的に入院していた時期がありました。獣人は亜人種の中でも魔物寄りらしいですし、それが調査のきっかけになった可能性もあります」


 ともかく見つかってしまったものは仕方がない。今はまだ見つかっていないが、ギルド会議が終わればすぐにでも調査が入る。公になるのは時間の問題だ。


「見つかったからと言って、ここで引き下がるわけにはいきません。まず第一にダンジョンは無尽蔵の金脈です。と同時にヴリトゥラの食料庫です。領としては公に冒険者を呼び込めるチャンスですが、私にとってはそれだけではダメなのです」

「そ、それはわかったが…… いったいどうするんだ?」


 これはアールから聞いた話だが、この世界のダンジョンは完全に自身の領域として支配することができるらしい。

 世界の断片が混ざりあって生まれたダンジョンはそれ自体がある種の空間魔法なのだが、ダンジョンにはその空間を支配しているコアと呼ばれる支配者が存在している。

 ダンジョンコアはそのダンジョンごとに性質が違うため、最も強い生物が身体の一部として守っている事もあれば、巨大な魔石のような形で最奥に隠されていることもある。

 だが共通しているのは、コアを入手すればそのダンジョンを自分のスキルとして入手可能ということだ。

 であればダンジョンを冒険者よりも先に支配し、自分たちの快適空間と冒険者たちの過酷なダンジョンで内部を分断してしまえばいい。


「名付けて2重ダンジョン作戦。トレイタたちは1層と2層以下とで分断していたけれど、それを別の階層でより複雑に区分けしてしまえば、領も私たちもウィンウィンってわけ」

「そいつは……確かに理想的なダンジョンに聞こえるが、そんなこと本当に可能なのか?」

「ええ。ダンジョンコアさえあればね?」


 実際にはコアを入手しスキルとしてレベルを上げれば、だが。

 そして直近の問題はそのコアの在処だ。


「トレイタ。あなたがダンジョンを住処にしていたとき、あなたはダンジョンの攻略には手を出さなかったのよね?」

「ああ。あのダンジョンは1から3層までは見た目通りの地下洞窟なんだが、4層は水没していて調査どころじゃねえ。だからそこから先は全くの未知なんだ」

「よくそんなところに住めたものだと感心するけど、逆に言えばあのダンジョンはまだ誰のものでもないということ。水没していて攻略できないダンジョンなんて、冒険者にとっても魅力がないわよね? じゃあどうしましょうか。答えは簡単よ」


 トレイタは薄っすらと気づいたようだが、まさかと言ったような表情のままそれを口に出さないでいた。

 でもそれでは話が進まない。アールとヴリトゥラはボクの魂が混ざっているので気がついたようだが、彼女たちから喋ることはないだろう。

 そこでボクは先程から話に付いてこれないでいたフリスの方を見やる。


「フリスなら、水没した道の先に宝物があるとしたらどうする?」

「え? そうですね……地上なら乾くまで待つとか、水をかき出すとかでしょうか。でも地下のダンジョンだとそれは無理でしょうし…… 泳いでいくとか?」

「あ、バカ……!」


 トレイタはフリスの答えに口を出すが、残念ながらどのみち同じことだ。


「いいわねフリス。それ採用。というわけでヴリトゥラ、トレイタを連れてダンジョンを攻略してきなさい」



ここまでお読みいただきありがとうございます。


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