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【第五章開始】悪役転生  作者: まな
第四章
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4-25 保安隊活動開始

評価、ブックマークありがとうございます。





 正直ボクは冒険者なんて金のためにやっているものだと思っていた。

 依頼を受ければ仕事はするが、その金額の多寡で選り好みをする。安かったり危険だったりすれば依頼なんて受けないのは当然だ。

 そして領の騎士団の代わりなんてのは正にそれで、安くて危険な仕事だ。誰も受けるはずがない。だから領の最底辺層を救済目的で雇用している。そう考えていた。

 だけどトーピーズがあまりにも熱心に語るものだから、ボクは冒険者ギルドに保安隊の足りない部分を補う依頼を出すことにした。


 どうせ受ける人間なんているはずがない。来たとしても騎士団に入れなかったファラルド出身の新米たちだけだろう。あるいは自分で語った手前トーピーズが顔を出すくらいだろう。そう考えていたのだが……


「彼の言う通りというわけね。まさか保安隊一部隊分も集まるなんて思っていなかったわ」

「しかも彼らは既にクランやパーティという少人数の班を形成できています。装備が整っており、訓練も必要なく、必要なときだけ動かせる。緊急時とは言えこの金額は少し申し訳なくなりますね」

「彼らがそれで良いというのだから良いのよ。まあ、騎士団と同じくらいの手当は出してもいいとは思うけれどね」

「でもこれで保安隊は完成ですね!」


 フリスが無邪気に笑うように、保安隊としての最低限の運用が可能になった。

 部隊の拠点も騎士団のものを流用する予定だし、いよいよ明日から活動開始だ。

 だけどこれは始まりに過ぎない。なぜならボクが目指すのは悪役令嬢であり、今の時点では普通の領主だからだ。


「町が正常に機能していなければ、悪役の役割はないの。そこはただの混沌であり、正義も悪も区分がない。悪役のために正義を整えているのは本当に頭が痛くなるけど、これでようやく悪を初められるわ」

「……それ、私の前で言わないでください」


 フリスが苦い顔で目をそらすが、君はあの場にいたメイドの唯一の生き残りだという自覚を持った方がいい。


「あなたは正義と悪の境界をフラフラするために生かされているのよ。私が作り出した正義が私によって崩されていくのを見て耐えられるのか、それとも悪を裏切れるのか。どう選択しようとあなたを殺さないと誓ってあげるけど、その時が来るのが今から楽しみね」

「……私は今のエル様が好きです。悪いことをするなんて、言わないでください」

「可愛いことを言ってくれるのね。でもダメ。私はそのためにここに来たのだから、恨むのならシェルーニャを殺そうとした自分たちを恨みなさい。私のことは、彼女の呪いや怨念だとでも思えばいいわ」


 ボク自身はシェルーニャのことなどどうでもいいし、彼女のために何かをしようというつもりはない。保安隊のことも領の立て直しも、全てはボクの理想のためだ。

 しかし彼女が死んだことでボクがここに現れたのも事実なので、利用できることはなんでも使わせてもらう。恨みでも呪いでも、悪役らしければそれでいい。


「とはいえすぐに私が暴走するわけではないわ。 いくつかやってみたいこともあるし、むしろ今よりも良くなる可能性もあるのよね」

「そうなんですか? よければ何をするのか教えてもらうことは……?」

「いいわよ。どうせそのうち会議所で発表するし。私はこの領の税制度を破壊させるつもりよ」

「…………え? それは、どういう……?」


 うんうん、フリスはいい反応をするね。でもボクには今の騎士団が破壊した税制よりは、ずっと良くなるものだと確信がある。


「フリス。騎士団が勝手に釣り上げ、勝手に設定した意味の分からない領の税金。あれらを肯定的に考えているのかしら?」

「いえ、それは許せなかったですけど……」

「そうよね? 今のファラルド領の財政は困窮しているけど、それ以上に領民が疲弊している。そんな税金払いたくないわよね? ならなくしてしまえばいいのよ」

「あの、でも、そんなことをしたら領の財政は回復しないし…… せっかく作った保安隊や会議所の人たちのお給金が……」

「もちろん必要最低限の入領料だとか、領民税だとかは取ります。でもそれ以外は一旦すべてなくします。どのみちこのままでは来年度の予算をしっかり確保できる見通しもないので、なくて大丈夫です」


 これに関してはそもそもの問題として税金を取り立てる騎士団が逃走してしまった部分もある。しかしそれとは関係なく、ボクは領民からこれ以上税金という形では搾取したくない。

 もっと効率的に、必要な金だけ取ったほうが領民の理解を得やすいだろう。たとえそれが税金よりも高く付くことになるとしても。


「ふふ、私はこの領で、税金の代わりに民間保険会社を立ち上げるわ」





「領主のシェルーニャ・ジス・ファラルドです。この度はファラルド領に新設される、新ファラルド保安隊のために集まっていただきありがとうございます。騎士団が蒸発してしまったのは私の不徳の致すところではありますが、その代わりに成り得るだけの人材がこれほど多く集まってくれたことを、私はありがたく思っています。事前にお伝えしたとおり無理な仕事を押し付ける事はありませんが、それでも大変な業務だと思いますので、皆さんのお力には期待していますわ」

「「「はい!」」」


 会議所内の倉庫だったスペースで、集まった保安隊の新メンバーに領主らしい挨拶をする。でもボクは今までにこんなことをしたことがないので、内容は薄っぺらいものだ。


「それでは今から皆さんにはこちらで分けた班ごとに集まっていただき、保安隊第二部隊以降の合格発表の手伝いをしてもらいます」

「合格者の公表と集合場所の告知がメインとなりますので、その場で答えられない質問があった場合には必ず会議所まで案内をしてください」

「また今回の班には保安隊とは別に冒険者の護衛が付きます。中には良いイメージを持たない方もいるかとは思いますが、現状保安隊には武力を期待できないため、どうしても我慢出来ないという方はあちらで別に対応させていただきます」


 会議所の人間の他に冒険者ギルドの受付まで手伝ってくれた、保安隊最初の大規模出動。

 初出勤は60人全員欠けることがなく、冒険者の方も依頼を受けてくれた半分が来てくれた。残りの半分も依頼を放棄したというわけではなく、すでに町中の見回りをしている。


「ではみなさん、今日からがんばってください。新ファラルド保安隊、出動せよ!」

「「「おー!」」」


 共通装備は間に合っていないため、その代わりに今回は騎士団が用意していた共通の礼服を使用している。これもまた鍛冶組合と同じように、ブスタが服飾ギルドに発注を投げていたものだ。

 鍛冶組合で起きた、組合長の知らない公的書類の偽装。後々会議所で調べたところ、服飾ギルド以外にも多数の組合やギルドからの書類が発見された。

 今回はうまく流用できたが、中には騎士の彫像のようなまったく使い物にならないものもあって、今後も個別に対応していくしかないだろう。


 保安隊が出動したのを見届けたら、ボクが領主としてすることはない。

 一先ず仕事は終わったので、次は武力としての保安隊整備だ。


「彼らの中に騎士団のように魔物退治をしたいという人はいなかったの?」

「そうですね。力仕事や書類整理などは興味がある人もいるんですが、やはり直接戦闘となると第一部隊にはいません」

「前に言ったとおり現役冒険者は低ランクでも全て弾きました。ただ、第二部隊以降は冒険者ギルドとの調整もできていますし、そちらからならある程度は確保できるかと」

「ならそのまま進めてください。ただし保安隊戦闘部門には私から直接伝えることがあるので、信用できるものを選んでくださいね?」

「ああ、例の魔導具ですか」

「…………なぜあなたが知っているのかしら?」


 今返事をしたのはフリスではなく、会議所の職員だ。今日は私が表に出ているので、フリスには外の仕事を任せているためここにはいない。

 ボクの問に会議所の事務室に沈黙が広がる。


「いや、あの、秘密だったんですか?」

「フリスがすごく自慢していましたよ。私でも魔物を倒せるようになれた、と」

「自慢気に金属の棒を振り回していましたね。危ないから止めるように言ったんですが、魔力がないから大丈夫だと」

「アール。アクアロッドの調整後、フリスから回収していないの?」

「エル様がお作りになったものですので、私は特には何もしていませんが。やはり回収するべきでしたか?」


 再び訪れる気まずい空気。

 これは完全にフリスの落ち度というわけではない。回収しなかったボクも悪いし、強く口止めもしなかった。いずれは保安隊に配るものだと軽視していたのは事実だ。

 アールから見ても、フリスには魔物の死体を回収させるのだとボクが言っていたのを知っているわけだし、そのために作ったのも事実だ。無理にフリスから取り上げる理由にはならない。

 どうせ魔力は切れているのだし、今は護身用の金属の棒くらいに思って使ってもらうのが一番だろう。


「まあいいわ。既に周知されているなら話が早いし。フリスが言う通り、私は簡単に運用可能な魔導具を開発しました。ただどうしても高威力なためにそう簡単に信用のないものには渡せません。そのあたりを理解してもらった上で、戦闘部門の選定をしてください」

「わかりました。しかし実際どのくらいの威力なんですか?」

「前の森の火事で冒険者たちと揉めてたときに水魔法を使って、『水の魔女』なんて呼ばれているのは知ってますけど、それがそのまま魔導具になったわけではないでしょう?」

「アレは凄かったですからね。伝説の天門教会の巫女が生まれ変わったのかと思いましたよ」


 生まれ変わりという単語ですこしドキリとするが、天門教会の巫女ってなんだ。ボクは別世界から来たのでまったく別人だと言い切れる。

 それはともかく彼らには今後も領の政治を担ってもらう都合、ボクが開発する武器の威力を知ってもらうのは大事だ。なんなら彼らには渡しても構わない。


「実際に同じものを複数用意してあるから、運用試験をしてみましょうか。ただ、ここでは狭すぎるから騎士団の本部の練習場に行きましょう」



◆フリス



 その日のフリスの役割は保安隊の仕事ぶりを観察することと、未だに大通りで商品を投げ売りしている行商人の荷物を回収することだった。


「いらっしゃい。乾燥イチゴの量り売りだよ。安くしておくよ」

「こんなに安くですか? それならあるだけ全部買わせていただきますけど、なぜこんな値段で? もう輸出税はないですよね?」

「お! 買ってくれるのか!? なら全部で5万だ! この荷車ごとあんたにやるよ!」

「あの、それはありがたいんですけど……」

「おいあんた! 金があるならうちのも買っていきな。中身は乾燥肉でこっちは一箱2万、いや3箱で5万でいいよ!」

「なに! 買い物客がいるのか! ならうちにも来てくれ! こっちのはザンダラのハーブだ!」

「待ちなよ! こっちが先さ!」


 彼らは普通の行商人ではない。一般の領民ではなく商店を相手にものを売る運び屋だ。だから本来はこんなところで露店を開くことはなく、大量の積み荷を納品してさっさと領から出ていく。

 それなのになぜこんな場所に溢れているのかと言えば、それはワットル商店の圧力だった。

 ワットル商店はファラルド内では力のある運送業者であるため、そこが抱える顧客は首都内だけなら半分以上を占めている。

 そんなワットルが領外の商人からものを買うな、買えばお前の店には商品を運ばない、などと脅せば力のない店は首を縦に振るしかない。

 その上でワットルは買い取り拒否された荷を格安でせしめようと動いていたのだが、領外の商人たちもそのことはわかっているため販売を拒否。積荷をそのまま領外に持ち帰るつもりでいた。

 しかしワットルも当然そんなことは予想している。では彼らは何をしたのかと言うと……


「商人だけを狙う盗賊、ですか」

「ああ。それもファラルドから出ていく行商人だけに絞っているらしい。生きて帰ってきたやつの話では、護衛の冒険者も相手が誰だかわかった瞬間に逃げ出したんで、グルなんじゃないかって疑っていたぜ」

「でも、それならギルドも動きますよね?」

「普通はな。だが今この町のギルドには護衛依頼を受ける冒険者は極端に少ない。魔物を狩ったほうがサクッと稼げるから、時間ばかりかかって退屈な護衛は人気がないんだ」

「だからギルドを通さないモグリの護衛を使っちゃったらしいんだけど、こいつが大ハズレだったってわけなのヨ。まあワタシから言わせればそんな信用のないやつを安く使おうとしたのが間違ってると思うケド」

「そのモグリの冒険者はザンダラ人だった。どう考えたってワットル商店の子飼いだ。だけど証拠がないからとギルドも踏み込みきれていない。あんたのとこの領主サマが保安隊ってのを作ったのは知ってるが、それだってまだできたばかりだ。今の現状は、すぐには変わらねえ」


 彼らが運んできた商品を投げ売りしていたのは、旅人のフリをして襲われないためだった。それでリスクがなくなるわけではないが、商人よりは旅人のほうが護衛依頼を受けられやすいのもあるのだという。

 ファラルド領は今正に生まれ変わろうとしている。だがその足を引っ張ろうとしているのが、領のために働いていると思っていたワットルだったとは。フリスは少しの絶望と、大きな怒りが胸に湧いてくるのを感じた。


 許せない。エル様が領を正しく作り上げようとしているのを邪魔する悪が許せない。

 そんな時、大通りの中で事件が起きた。


「キャーッ!」

「強盗だー!」

「そっちに行った男だ! 誰かそいつを追ってくれ!」


 混乱する大通りで声のする方に振り返ると、そちらには白と黒の不快な煙と火の粉が上がっていた。


「あの野郎、火をつけやがった! 早く逃げろー!」

「あ、ああ、俺の店が!!」

「水をもってこい! こんなんじゃ全然足りないぞ!」

「中に人はいないか!? 畜生、誰か水魔法を使える冒険者はいないのか!」


 許せない。悪事をしただけでなく、なんの関係もない人まで巻き込むなんて。

 気がつくと、フリスは燃え盛る店の前まで走り出していた。


「おい嬢ちゃん! 危ないぞ!」

「……エル様、今だけでも正義のために力を貸してください! アクアボール!」


 フリスはあの日魔力が切れるまで使い倒した魔法の杖を正面に向けて、ただ目を瞑ってスキルの名前を叫んだ。

 瞬間、その場にいた全員が目を見開いて驚いた。

 人を包めるほどのアクアボールが杖から発射され、店の炎はその水の玉の当たった衝撃で吹き飛ばされ、なにもなかったかのように鎮火されたからだ。


「嬢ちゃん……やっちまったな……」


 無論、その店とともに。




ここまでお読みいただきありがとうございます。


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