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【第五章開始】悪役転生  作者: まな
第四章
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4-22 最後の障害

遅くなって申し訳ないです。





 フリスに持たせた杖型ゴーレムファイアロッド、改めアクアロッドは予想以上の能力を発揮してくれた。

 ホーンレスやフォレストウルフ等の小型の魔物なら一撃で動きを止め、追撃が当たればそのままトドメになる。

 グリーンベアクラスの中型でも数発で相手を怯ませることができるので、部隊で運用できれば余裕を持って倒しきれるだろう。

 これだけの威力を発揮しながら1回の魔力補充で20発は撃てる。作成にかかるボク自身の消費は少ないし、魔法を使うのはゴーレムなので素材も実際には自由自在だ。

 魔力補充に関しても魔力を奪うスキルがあるので、それをゴーレムに習得させれば保安隊だけで賄える。闇魔法だけど魔石から吸い出す分には問題ないだろう。


 問題はこれで最小威力だということだ。


「誰でも撃てるのは良いのだけれど、誰もが人殺しになる兵器よね、コレ」

「エル様が強くなったためにゴーレム化した際の性能も底上げされています。そのためこれ以上弱くするには、職業で下方補正をかける必要がありますね」

「私は気に入ってますけど、初心者の方が振り回すのは危なそうです」


 フリスはこう言うが、彼女も別に熟練者ではない。半日アクアロッドを振り回したに過ぎず、一度攻勢に出ると性格が変わる。

 強気なのはいいことだが、まだまだ練習が必要だろう。


「大は小を兼ねると言うけど、調整はできないのね」

「きちんとしたとした魔導具でしたらもっと細かく調整できるのですが、エル様が作られたのはゴーレムですから」

「え? コレ魔導具じゃないんですか?」

「もちろん魔導具よ? フリス。あなたは私の言うことに疑問を持たないように」

「……っ、はい! この杖は魔導具で私はなにも聞いていません!」


 保安隊に余計なことを言われても困るので、この杖型ゴーレムは魔導具で押し通す。変に解体されても困るので自壊する機能もつけておくか。


「ともかくこれ以上の弱体調整は不可能ね。どのように運用していきましょうか」

「専門の部隊を用意するというのはどうでしょうか。これなら守秘義務の徹底も比較的容易ですし、運用訓練も限られた人数で行なえます」

「隊長にだけ持たせるというのはどうでしょうか。それなら巡回のときにもとっさの対応ができると思います」

「どちらもいい案ね。でもさっきのとおり、町中で撃つには危険すぎるのよ。人質を取った悪漢を人質ごと吹き飛ばしてしまうわ」

「……騎士団はそれくらいのことをしていましたけど」


 まさかと思ってフリスに詳細を聞くと、どうやら騎士団は事件の解決を優先するため交渉はしないのだとか。

 そのため人質が有効ではないのは周知の事実で、人質を取るのはファラルド領外の人間だとすぐに分かるため騎士団は強気に行動し、犯人が慌てるので事件解決は早かったのだとか。

 しかしそれはニーム国法どころかファラルド領法にも違反している。


「でもそれは騎士団が嫌われる理由の1つだったのでしょう?」

「ええまあ……」

「私たちが目指す保安隊は領民に愛される正義の団体です。そのような脱法行為は許しません。それ以前に、そこまでの武力はふさわしくないとも考えています」

「ですが、それだと不安な領民も多いのではないでしょうか。首都では嫌われ者の騎士も、外の村では英雄視されているところもあります。もちろん今ラコス様がしている行動は理解しているのですが、やはりすぐには意識は変わらないと思いますよ?」


 確かにフリスの言う通り、今の保安隊はまだ首都だけのことしか考えていない。

 だが来年までには、最低でも領内全域で運用できるレベルまで持っていかなければならない。そうでなければあの勇者に領主の座を奪われるだろう。

 ボクの悪役令嬢ライフのためにも、これは重要な課題だ。


「保安隊設立後に、その中から希望者を絞り込んで対魔物用の部隊を作るわ。ここまではアールの案を採用した形になるけど、更にフリスの案を採用しその魔物用部隊のメンバーを通常の巡回任務に同行させます。なにか意見は?」

「私からは特になにも。後のことは会議所職員や、保安隊設立時の隊員に確認するのがよろしいかと」

「私も別に…… ああでも、それだと魔物部隊の人は仕事が多くなっちゃいませんか?」

「いい質問ね。もちろん本人たちに確認することになるでしょうけど、専門なのだから基本的には魔物が出るまで暇な部隊になるはずよ。各員の空いている時間を訓練や通常任務という形でローテーションにすれば、そこまでの負担増加になるとは考えていません」


 通常の保安隊よりも拘束の強い業務内容になるがそれは最初から確認するし、訓練も魔物ゴーレムを使用したハードなものになるだろう。

 なので訓練の時点で逃げ出すような連中なら、そもそも隊員になれないので問題ない、ハズだ。


 こうしてボクの作った杖型ゴーレム『アクアロッド』の大体の方針は決まった。

 あとのことは保安隊が出来上がってから考えればいい。





「エル様。保安隊第一部隊として、まずは総勢60名を決定いたしました」


 ボクの部下たちは本当に心から尊敬できるほど優秀で、ギルド職員を追加してからたったの3日で保安隊の選定が完了していた。


「随分早いわね。第一部隊の基準とかはあるのかしら?」

「はい。エル様が設定した基準の他にいくつかあります。まずは騎士団の募集要項と合致しているもの。書類上のみですが、ざっくり言うなら若くて病気や怪我がない人ですね。次に現時点で冒険者ではないもの。こちらはギルド職員の方からの申し出で、あちらの規約で冒険者は基本的に公的機関の所属に入ることができないそうです」


 ギルドマスターからも聞いていたが、冒険者は自由を愛するから国や領の依頼は受けても、その下に付くことはないんだとか。

 別に領に所属するのも自由じゃないかと思うんだけど、ニームは過去に戦争で冒険者を徴集したことがあるので心情的に許さない冒険者が多いのだそうだ。そのため明確に規約で禁止しているのだが、それが今回は仇となった。

 ファラルド領に溢れる新人冒険者はほとんどが職を失った者たちであり、セーフティである騎士団が機能しなかったためにやむを得ず冒険者を選んだ者たちだ。そのため冒険者としてのやる気も少なく、食うに困っている状況は殆ど変わっていない。

 保安隊はそういった人たちのための新たなセーフティであるため、現役だからというだけで蹴るのは躊躇われる。


「規約の都合仕方ないとは思うのだけど、彼らの中にも冒険者を辞めたいという人たちがいると思うの。直接確認しないとわからないこともあるだろうし…… 応募用紙はもう捨ててしまった?」

「その辺は抜かりなく。あくまで第一部隊からの選考漏れなので、ギルド経由でも確認を取ってくれるそうです。冒険者のまま保安隊もしたいという半端者は、こちらでも願い下げですので」

「残っているのならいいわ。私の方でも保安隊から対魔物に特化した部隊を用意したいと思っていたので、少しでも戦闘経験があるなら切り捨てるのはもったいないと思っていたのよ」

「経験者なら初期訓練も減りますし、逆に訓練の教官役をしてもらうこともできるので、そういった方はありがたいですね」

「あとは男女比を大体半数に分けて若い順に、と言った具合です。第二部隊以降も順次決定していきます。こちらからの報告は以上ですが、すぐに結果の公表を出しますか?」


 当初の予定では保安隊合格者全員を一斉に発表する予定だったが、ギルドとの兼ね合いや書類不備も多数散見されたのでその案は一旦見送りとなった。

 会議所職員からの案はまずは第一部隊合格者を個別に招集し、保安隊として設立。その後彼らに第二部隊以降の発表と招集を任せるという計画だ。


「いいわね。これなら保安隊の運用方法も領民にわかりやすく伝わると思うし、何より最初の任務がすでに警備巡回を兼ねている。会議所の負担も減らせるし、これは採用します」

「ありがとうございます」

「そうだエル様。実は自警団の方からいくつかお話があったんですが、1つまともなものがあったのでここで議題にしていいですか?」

「自警団? なにかしら?」


 いつものクレームなら適当にあしらえとフリスには伝えているが、会議所職員もいる場でとなると重要な案件なのだろう。


「自警団ではあるんですけど、前にも来ていた鍛冶組合の方です。騎士団がいなくなるなら保安隊でいいから、奴らの置いていった装備を買い取ってくれと」

「あー、再募集をしろと言っていた……」

「制服用の予算は捻出できますけど、騎士団と同じ装備となるとせっかく名称を変えた意味がありませんよ?」

「それに騎士の金属鎧は一般人には重すぎます。お断りしましょう」


 会議所職員の意見はわかるが、それでは今度は鍛冶職人たちから失業者が増えることになってしまう。本音で言えばただの一般人よりも鍛冶職人のほうが価値は上だ。彼らが他領に流れるのは後々面倒なことになる。


「鎧の買い取りはできないけれど、新しい装備を用意させる案はあります。例えば盾だけでも保安という意味では目を引いて、領民の安心感に繋がるのではないかしら?」

「言わんとしていることはわかりますが、それで犯罪抑止になりますかね? 町の警備巡回をしているのが丸腰の盾持ちだけでは……」

「しかし露骨に武器だとわかるものでは騎士団を彷彿とさせて悪印象になります。元より犯罪者の対応を冒険者に任せている現状、保安隊も結成直後は名ばかりの一般人です。後々は魔物専門の部隊を設立し、そこから平常時に数名を巡回に混ぜるという形で運用する予定ですが……」

「保安隊員に訓練をさせたとして、どちらにしても時間のかかる問題ですね……」


 どうしても時間が足りない。だけどこれ以上保安隊を遅らせる訳にはいかない。かと言って鍛冶職人が逃げ出す状況はマズい。

 どうしたものかと考えていると、フリスが恐る恐る手を挙げる。


「あのー、お話中申し訳ないんですけど……」

「なにかしら? どんな意見でもきちんと聞くわよ?」

「そのですね、鍛冶組合自体は現状困っているわけではないんですよ。冒険者が増えたのでそちらから利益を得ていますし、自警団の仕事もしていますし……」

「あらそうなの。それではあなたが言っていた、装備の買い取りの話は何だったの?」

「えーと、それは騎士団が逃げ出す前に発注していった不良在庫ですね。装備はあるけど金をもらっていないから、それを払えという遠回りな催促です……」


 どうやらボクが考えていた鍛冶職人の今後の仕事の話ではないらしい。


「あら? でもその辺の書類整理は終わっているわよね? 騎士団もあなたたちに任せていたのでしょう? 騎士団の装備予算はそもそも適正だったと思うのだけど」

「ああ。彼らは不正に得た利益で装備の追加発注をしていたので、正式な書類がないんですよ」

「じゃあなに? 鍛冶組合は、不正利益とわかっていながら騎士の装備を用意していたということ? そしてそれを私に押し付けようということなの?」

「……雰囲気的には……そうです」


 なんという勘違いをしていたことか。

 鍛冶組合が騎士団の再募集を要請していたのは、結局のところ彼らの利益のためだったのか。それも今後の鍛冶職人人生のためではなく、彼らが得るはずだった不正利益のため。

 職人たちは真面目に働いたのかも知れないが、それをこちらに回すというのは話が違う。そもそも請け負った時点で金を取らなかった組合が悪いのではないか。

 なんだかがっかりしたよ。職人ってのは頑固だけど悪さはしない人たちだと思っていたのに。


「わかりました。彼らとは私が直接お話をします。自警団の件もあるのでじっくり詰めていきます。あなたたちは保安隊の設立を進めてください」



ここまでお読みいただきありがとうございます。


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