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【第五章開始】悪役転生  作者: まな
第一章
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11 はじめての経験値

連続投稿ってどのくらいでやめておくのが正解なんでしょうね。



 萎える、というのはこういう状況を言うのだろう。


「あーあ、せっかく戦闘員が手に入ると思って楽しみにしていたのに」


 何度目かもわからないため息。心に穴が空いてそこからやる気が抜け落ちたみたいに、何かをする気力が起きない。


『素材を用意すればすぐにでも作成は可能ですが?』

「そう簡単に言わないでほしいなあ」


 スキルを得たことで流れ込んできた知らない記憶によると、素材によって様々なゴーレムが作れる。その種類は本当に多岐にわたり、そのへんの土を固めたクレイゴーレムや泥になっているマッドゴーレム、特殊なものだと水魔法を固めたアクアゴーレムなんてのも作れるらしい。

 つまり素材はどこにでもあるしなんでもいいわけだけど、そうするとボクの求める戦闘員の素材はなんだろうか。

 一番初めに思いついたのは機械兵と呼ばれる(実際にはどう見ても人間の)戦闘員だった。正直これは難易度が高い。設定としては腕を武器に改造された人間なので、素材となる人間だけでなく武器も必要だ。今の状況ではどちらも手に入れづらく、残念ながらボツ。

 次に好きだったのは宇宙から来た原生生物の戦闘員。こいつは近接戦主体で武器も使わない戦闘員だったけど、派手な配色のデザインが好きだった。なお倒されるとどろどろに溶けてしまう不思議設定で、素材はわからない。アクアゴーレムが近そうだけど、それを造るには水魔法が必要なのでやはりボツ。

 他の戦闘員についても色々思い出してみたが、組織に訓練された兵士だったり、クローンだったり、洗脳された人間だったりで、どれもすぐには作れそうになかった。


『まずは練習に簡易的なクレイゴーレムを作ってみては? スキルの経験値も増えますし、僅かですがサモンゴーレムの入手条件を達成することができます』

「んー、折角だから初めての作品は凝ったものにしたいんだよ」


 アールの言い分はわかるが、ボクにもこだわりというものがある。ところでスキルの経験値ってなにさ。


『スキルは何度も使用していくことで習熟度が上がります。これをわかりやすく経験値と呼び替えているのですが、スキルの経験値が貯まり切った状態になると同系統のスキルに補正が入り、更に新たなスキルの解放に繋がる可能性があります。ファイアボールのスキルの詳細を確認してください。派生スキルを確認できます』


 そう言われてスキルブックを確認すると、ファイアボールの経験値が貯まり切ってスキルをマスターすると、炎魔法に少し耐性ができて炎魔法の魔力消費が少し減るらしい。

 それだけではなく初級炎魔法のうちからランダムで2つ、ボクの使い方に合わせたスキルが手に入るのだとか。


「え、なにそれ凄い。どうしてもっと早く教えてくれなかったの?」

『聞かれていませんでしたので』


 それはそうだが、知らなければ聞くことなんてできないだろう。今もたまたま会話の中で経験値なんて言葉が出てきたから確認することができたわけで……


「……もしかして経験値ってスキルだけじゃなくて、例えばボクやダンみたいな人間とか、見たことはないけど魔物とかにもあったりする?」

『基本的には基礎能力値を鍛える行為が習熟度、経験値になります。しかし魔物と呼ばれる存在は区分が曖昧なので、どちらともいいきれません』


 詳細に確認すると、所謂モンスターを倒してレベルアップするとすべての能力値が上がるというゲームのようなことではないようだ。

 なので基礎能力値は地道に鍛えて、職業による補正で強化するというのがこの世界の主流なのだとか。他にも装備品やスキルで補強することもあるらしいが、スキルブックでスキルを獲得するような、一発でドカンと簡単に能力値が上がるようなものはそうそうないらしい。

 まあボクみたいな異世界人は、スキルブックで能力値が上がるスキルや職業を簡単に獲得できる。そういう面でも優遇と言うか、十分チートなんだろう。


「ああ、でもそうか。だからボクの倍くらい生きている盗賊村長を倒せたのか」


 確かに不意打ちではあったけどステータス全体が底上げされるゲーム的なレベルアップであれば、当然体力は年相応に高いだろうし、そもそも魔法防御なんて項目があったらぜんぜん効かなかったかも知れない。

 だけど村長は魔法を知らなかった。だから魔法防御が殆どなく、ボクみたいな低ステータスのファイアボールでも倒し切ることができたわけだ。

 そんなファイアボールの経験値は、先程取り直したばかりなのにもう半分ほど溜まっている。


「もしかして初期スキルは習熟度を貯めやすいとか、そういうのもあるのかな」

『スキルの獲得難易度によっても経験値の獲得量に差はあります。ですがエル様の場合すでに何度もファイアボールを使用しているため、現在の経験値量となっています』

「へえ。一度死んでるらしいけど、それでも引き継がれるんだ」

『肉体に依存しないスキルであれば、その経験は魂にも刻まれます』


 魂に経験がねえ。ボクの主治医だった人は、魂に記憶と経験があるならすべての歴史は実体験を元に正しく綴られているはずだから、未だに過去の歴史の新発見が存在する以上、魂にそんな機能はないって力説していた。そもそも自分に前世の記憶なんてないとも。

 ボクも当時は前世の記憶なんてなかったから、きっとそうなんだろうと思っていたけど、異世界に来た以上は不思議なこともあると納得するほかない。もしかしたら世界ごとに法則が異なるんじゃないかな? ボクは研究者じゃないからどっちでもいいけど。





 ひとまず戦闘員作成を諦めたボクは、ダンが返ってくるまでファイアボールの経験値稼ぎをすることにした。

 でもそれは思ったよりも上げにくかった。ある程度まではただ生み出すだけでも経験になっていたんだけど、慣れてきたらそれだけではダメだった。

 なので今は複数個を同時に発生させたり、素早く何度も打ち出したり、大きさを変えてみたりと、様々な使い方を試しては少しずつ溜めていた。


「半日で半分溜まっていたから今日中にはマスターできると思ってたけど、なかなか思うように行かないね」

『この世界で同年代の人間が魔法スキルを得た場合、マスターするには通常半年から1年ほどかかる言われています。エル様は驚異的に早い方ですよ』

「そうなんだ。なにか理由があるのかな?」

『機密開放レベルに達していないため、これ以上はお伝えできません』


 アールは最初に比べるとよく喋るようになったけど、それでも重要なことは教えてくれない。しかし逆に言えばなにかはあるということだ。

 あの夜ボクがファイアボールでしたことは、簡単に言えば殺人と放火だ。しかしどちらもすぐには試せない。殺す相手がいないし、今使っている小屋を燃やすわけにはいかない。

 森に火を放ってもいいけど、消火できる気がしないし。そもそもファイアボールは炎魔法だが、火種としてはとても弱い。あの時だって油があったから燃やせただけだ。それに加えて生木や生草は水分がたっぷりあるので全然火がつかないと聞いている。


「でも試しちゃう。子供の好奇心を止める大人は、ここにはいないからね」


 というわけで小屋から出て、少しでも燃えやすい乾いた枯れ葉や枯れ枝を探す。

 今は昼過ぎだが、それなりに暗い森だった。深呼吸すると新鮮なひんやりした空気が肺を満たす。足元も湿っていて滑りやすく、落ち葉は腐って泥濘(ぬかる)んでいる。これでは目当てのものは手に入りそうにない。

 目当てのものはなかったが、別の方向で試せそうなものを見つけることができた。


「…………虫でもいいか」


 そいつは抱えるほど大きなイモムシだった。ボクに気がついているのかいないのか、のそのそと木の幹を動いている。

 ボクは人のかわりに虫を殺して、なにかステータスに変化がないか確かめることにした。


「ファイアボール」

「!」


 外から衝撃を受けたイモムシは丸くなってその場に落ちる。この虫は鳴き声みたいなのはないようだ。何度もファイアボールを撃ち込んでもビクビクするだけで、盗賊村長や奴隷のお姉さんみたいに叫んだりしない。

 何度か撃っているうちに、ファイアボールのある性質に気がついた。この火の玉は何かにぶつかると消えてしまうが、その際に少しだけ広がっている。ファイアボールを大きくするとそれはよりわかりやすくなり、更に消えるまでの時間も少しだけ伸びた。

 そこでイモムシをまるごと包めるようなファイアボールを作り出してみた。今まではぶつけても広がって消えてしまうだけだったけど、今回はそのまま維持できるように多めに魔力を込めた。そうすることでファイアボールが消えても、イモムシを燃やせるんじゃないかと考えたのだ。


「よし! イモムシの丸焼きだ! 今度からはこうすればいいんだ」


 結果は大成功。魔力が消えてもイモムシは燃え続け、イモムシだけでなくイモムシ近くの木にも少しずつ炎が広がり、気がつけば酷い匂いの煙を出しながら目の前が真っ赤に燃えていた。


「凄いことになっちゃったな」


 良秀もこんな炎を見たのだろうか。ボクは絵を描かないけど、なるほどこれは立派な炎だ。機会があればボクも炎を描こう。


「っと、急いで逃げなきゃ!」


 ただのスキル実験が、恐ろしい森林火災になってしまった。見つかる前に小屋に帰ろう。ボクはスキルの経験値のことなんてすっかり忘れて、その場を後にした。


 この火事が後にドントル領の大火災として歴史に名を残すのだが、当時のエルには知る由もなかった。



ここまでお読みいただきありがとうございます。


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