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【第五章開始】悪役転生  作者: まな
第四章
109/173

4-19 魔物捕獲作戦

ブックマーク、評価ありがとうございます。





 保安隊の選定は会議所の部下たちに任せて、ボクたちは町の外に来ていた。


「あのー、本当にやるんですか? 自作自演って、騎士団よりも悪質なんじゃ……」

「あら、自作自演なんていい方が悪いわね。これは極めて実践的な避難訓練よ?」


 ファラルド領も他の領地と同じように、首都の町はぐるりと壁に囲われている。しかしその壁を出て少し行けば、そこは魔物の出現する雑木林だ。

 ボクが最初に降り立ったドントル領よりも田舎で、首都のすぐ近くにも関わらず土地開発されていないのには理由があるのだが、今回は魔物集めをするので都合がいい。

 なるべき人目につかないように奥へと進みたいのだが、フリスの歩みだけが遅かった。


「それでも、魔物を使うんですよね……? やっぱり危険なんじゃ……」

「危険な魔物を使うわけではないわ。例えば……そうね。このあたりだとホーンレスと呼ばれているホーンラビットがいるでしょう?」

「え? ええ、はい。家畜化に成功して角がなくなったホーンラビットが逃げ出して、再度野生化したものをこの辺りでそう呼んでいますけど」


 ファラルド領は立地と土壌の関係で大規模農業に向いていない。その代わりに発展したのが魔物の家畜化だ。

 今ではどこでも当たり前になっている産業だが、最初期の頃は画期的な発明だった。

 というのも魔物はどういうわけか、人間に対して奇妙なほど攻撃的な性質を見せる。(これは人間が進化の過程で魔物的だった要素を失ったからなのだが、これに関しては今は割愛する。)

 しかし自然界における魔物は他の動物とそれほど変わらない。死んだ魔物を解体しても同系統の他の動物との大きな差は見つからず、違うとすれば魔物のほうが多少魔力を含んでいるということだけだ。

 どこの世界にもチャレンジャーはいるもので、当然魔物を食べた人間もいる。そしてその味はやはり他の動物と大きく変わらず、むしろ魔力の分だけ普通の動物よりも味が良かったり、保存が利いたりするということが過去の経験則から明らかになっている。

 そこで始まったのが魔物の家畜化計画というわけだ。

 ホーンレスはそんな家畜化の歴史の中で紆余曲折を経て、一度は家畜化に成功したが再度自然に戻っていったある意味での人工魔物だ。


「アレは駆け出し冒険者が、それこそ見習いの子供が練習で相手をするような魔物。野生の野ウサギよりも一回り大きくて魔物だから気性が荒いけど、致命傷に至るほどの攻撃性はないわ」

「私も小さい頃に村のみんなで狩りに行ったことがあります。けど、ホーンレスって魔物なんですか? 普通の動物と変わらない、大きなウサギですよ?」

「重要なのはそこよ。動物も魔物もそれほど差はないの。私たち人間が勝手に区別しているだけで、厳密に言えば自然界の生物はすべて魔物なのよ」


 正確には魔物から派生していった子孫だが、そこは今は重要ではない。


「誰でも狩れる簡単な動物だと思っているものが実は魔物だった。それを教えてあげれば、魔物と対峙するときの恐怖も少しずつ薄れていくでしょう?」

「そう簡単に行くでしょうか? 私なんかは今でもフォレストウルフに出会ったら、足が竦んで動けなくなる自信がありますよ」

「なら出会う前まではもっとしっかり歩きなさいよ」

「そんなことを言われても、あの狼は突然木の陰から群れで現れるんですよ? 低い木なら登っちゃうんですよ? 怖くて進みたくありません!」


 その言葉のとおりフリスは雑木林に入ってから、常時シャドウレギオンを展開し続けている。そのための魔力はボクが補っているんだから無駄遣いはやめてほしいが、そうしていないと歩けないというのが歩く速度から見て取れる。


「慣れなさい。いずれはあなた1人で回収させるつもりなの。それにシャドウレギオンがいれば、どこから現れようとあなたの敵ではないわ」

「そんなあ…… それは、護衛が強いだけで、私の強さじゃないですよぉ……」


 フリスが弱いのは確かにそのとおりなのだが、シャドウレギオンが強いのもまた事実。目的が目的なだけに、その辺の冒険者を使うこともできない。

 だからフリスがなんと言おうと、これは決定事項だ。


「エル様。前方100メートル先にフォレストウルフの群れを確認しました。すでにこちらの存在に気づき、接近体制に入っています」

「噂をすればなんとやらね」

「ええ!? だから嫌だったんですが……むしろなぜアールさんはそれがわかるんですか?」

「エル様のメイドですので」


 フリスは同じメイドなのにとぼやくが、アールは特別製だ。でも安心して欲しい。ボクにもフォレストウルフの気配なんてわからない。

 それはともかくフォレストウルフは今回の目的ではないが、いずれ立ち向かわなければならない存在だ。それにこちらも駆け出し冒険者の登竜門らしいので、うってつけと言えるだろう。


「この際だからフリス、あなたとシャドウレギオンだけで対処してみなさい」

「え? えーっ!? そんなの無理ですよ! 私怖くて動けないんですよ!?」

「どうせ直接戦うのはシャドウレギオンなので、動けないのなら逃げ出さない分プラスに働くのではないでしょうか?」

「ヒドい! 私は囮ですか!?」

「動かないのなら、そうとしか言いようがないわね」


 フリスはその場に崩れるが、何も武器や防具もなしにメイド服のまま狼と戦えというほどボクも鬼じゃない。


「ほらフリス。この武器をあげるから立ちなさい」

「うう……? なんですか、これ?」


 それは一見すると何の変哲もない金属製の棒だ。握りがついているので現代人なら警棒を連想するかも知れないが、フリスでも握れるほどの太さしかなく重量もそれほどあるわけではない。


「それはファイアロッドよ」

「名前を言われてもまったくピンときませんね」

「簡単に言えば、魔法のステッキよ。こうやって持って、先端を的に向ける。そしてこのトリガーを握れば……」


 ボクはファイアロッドと命名した杖を近くの木に向けて、握りに付いた引き金を握り込む。その瞬間杖の先から、人を包み込めるほどの大きさのファイアボールが発射される。


「な、なんですか、それ!?」

「おっとマズいわね。アール、フリスを拾って退避よ」

「了解しました」

「ひ、ひいぃぃ!?」


 放たれたファイアボールは狙った木に命中し、爆裂。思ったよりも威力が出たため木は倒れ、周囲に炎を撒き散らす。通常のファイアボールであれば火はすぐに消えてなくなるのだが、なにせこれはボクの特別製だ。飛び散った火の粉は魔力を糧に炎上を続け、温度の上昇によりそのまま木が出火。すぐに通常の炎と見分けがつかなくなった。


「と、まあこんなふうに簡単に高威力の魔法が使える魔導具よ。どう? これならフォレストウルフなんて怖くないでしょう? …………フリス?」


 返事がないのでアールの抱えているフリスを見やると、彼女は気を失っていた。


「少々やりすぎてしまったようですね」

「……もう少し威力を抑えるべきかしら」

「それがよろしいかと。そんなことより早く消し止めなければ、ドントルの森の二の舞いになりますよ?」

「それは大変。でももう少しだけ見ていたいわ」


 赤く燃える炎と周囲を覆い隠すと白と黒の煙。これはボクにとって象徴的なイメージだ。

 エルとして最初に犯した悪事は炎。奴隷村で火をつけた村長の家は見届けることができなかったけど、その後にファイアボールの実験で燃やした魔物が森を覆うほどの大火事になった。そしてドントリアでナクアルさんを助けるために使ったのもまた、炎だ。


「決めたわ」

「何をでしょうか」

「新ファラルドの象徴よ。ファラルドの今の紋章はよくわからない盾と剣の在り来りなものだけど、私が治めるファラルドの紋章は炎にするの」

「なるほど。よろしいかと思いますが、そう簡単に変更できるものなのでしょうか?」


 変更できるかどうかをボクは知らない。

 だけどできないのならむしろその方が好都合だ。


「通らないわがままを押し通す。なんだかそれってとっても悪役令嬢みたいじゃない?」





 魔物の回収のために郊外の森に入ったわけだが、気絶したフリスは目を覚まさなかったので結局ボクとアールの2人で練習用の魔物を集めることになった。

 いやあ、大変だったよ。しばらく眺めていたいと言ったのはボクだけど、その間に炎はどんどん広がって、ボクの全力のアクアボールでも3回発動しなければならなかった。

 そのお陰で魔物の死体は大量に手に入ったけど、さすがにアレだけ景気よく燃えていれば町からも煙が見えていた。

 ギルドを中心に冒険者たちが消化の準備を進めていたらしいけど、そんな森からボクたち3人がのんきに歩いて出てくるものだから余計に大騒ぎ。

 これ以上の騒ぎはボクとしても面倒だったので、炎は消し止めたと伝えたけれど信じてもらえず。

 最終的にボクがもう一度アクアボールを発動して見せて、ようやく信じてもらえた。でもそのせいでボクに『水の魔女シェルーニャ』とか言うたいへん不本意な二つ名が付いてしまった。


「水の魔女って……ダサくないかしら?」

「さあ。私にはそういったセンスはないのでよくわかりません」


 翌日の会議所は一躍有名人になってしまった領主を見てみたいと、たくさんの冒険者が集まっていた。

 見てどうするんだとボクはすぐに事務室に引っ込んだのだが、会議所のメンバーから外に出るたびに冒険者に絡まれるとクレームが来た。

 仕方がないので冒険者ギルドに挨拶に行くからと冒険者たちを追い払ったところで落ち着いたのだが、冒険者たちがいなくなると今度は領民たちが押し寄せてきた。

 領民たちには保安隊に入れば直接会えると言って帰らせたのだが、それでもまだ外には保安隊応募以外の用事で人だかりができていた。


「これじゃ仕事になりませんよ。ようやく戻ってきた応募用紙に手を付け始めたというのに、また配る羽目になった」

「しかも何人かは何度も応募しに来ていますよ。ほらこっちとこっち、あとこの名簿にも名前があります」

「熱心でいいじゃない。そいつは採用ね」

「そんな、プロフィールも見ずに決めていいんですか?」

「いいわよ。保安隊はまだそういった段階じゃないわ。応募用紙が正しく記入されていれば、まずは全員合格とします」


 現時点での保安隊の権限などないに等しい。だから冒険者と同じ程度の能力があれば即採用だ。


「採用の通知はどのように? 人数が多いので一人一人には対応できませんよ?」

「大通りの掲示板を使って、合格者の名前をすべて張り出します。そして会議所に現れた合格者を使って、合格の掲示をしていることをこの町の全員に数度に渡って周知させます」

「ははあ、保安隊最初の活動ということですか」

「もちろんきちんと給金も払います。まずは現金即日払い。冒険者と同じシステムだし、場合によっては食料品での配布も有りね」


 こうすれば合格したものはすぐにでも飛び出てくるだろう。合格したけど気が変わった人間を引き止めることもできるかも知れない。

 もちろん問題がないわけではない。


「でもこれ、不合格だった人もすぐに分かりますよね……?」

「応募人数が膨大な数だけに、一握りの不合格でも人数は多くなります。彼らも生活がかかっているので、下手をすれば暴動なんかも……」


 最初の名簿記入で最低限の足切りをしているが、それでも不合格者は出てくる。一番多いのは応募用紙の記入漏れだ。数ヶ所程度ならスルーするが、名前がないのはどうしようもない。


「そういったことの相談も含めて、一度冒険者ギルドに行くことにしたのよ」

「ああ。あれ本当に行くつもりだったんですか。てっきり外の連中を黙らせるための方便かと」

「すぐにバレる嘘をついても仕方がないでしょう。まあギルドのマスター? その方にも仕事があるでしょうから、今日は約束を取り付けるためだけになりそうですけどね。じゃあ、一度出てくるわ」

「行ってらっしゃいませー。外の連中には気をつけてくださいねー」


 というわけでボクは冒険者ギルドに向かうことにしたのだった。



ここまでお読みいただきありがとうございます。


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