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【第五章開始】悪役転生  作者: まな
第四章
107/173

4-17 新しい組織

ブックマーク、評価ありがとうございます。



◆エル



 シェルーニャが奪われていた権力は、拍子抜けするほど簡単に手元に戻ってきた。


「奪っていった人間が居なくなったのだから当然といえばそうなのだけど、なんというか釈然としないわね」

「まあまあ、いいじゃないですか。これでエル様は正当に領主としてラコスに認められますよ」

「権力の回収は必要最低条件よ。叔父様が私を認めるのは、少なくとも領を正常なところまで戻してからでしょうね。……ところでこれ、いつ終わるのかしら」

「あと半分くらいですよ。筆跡の癖で偽造書類のパターンがわかってますから、結構早く終わるんじゃないですか?」


 会議所の倉庫内。ボクたちは書類の山に埋もれていた。

 騎士団本部に残されていった書類や資料は、偽造されたものも含めるととても会議所の人間だけでは運び出しきれなかった。

 さらに書類はこれだけではなく、ブスタは自宅でも不正行為をしていたようで、一週間が経過したが不正の全容は掴めていない。

 取り急ぎ人を使って会議所にかき集める作業完了させたが、この時点で騎士の不在は首都の領民の間で噂になっていた。


「しかし騎士団の問題は財政の不正だけではありません。別の問題も起きていますよ。騎士団が逃げ出したことで、町の治安は悪化の一途を辿っています。大通りなど人目のつきやすい場所では、ラコスと関わりのある商人たちが冒険者たちとともに自警団をしていますが、やはり騎士という正当な組織ではない以上反発もあります。徴税がなくなった代わりに盗みが増えたと苦情が来ています」

「人数が多い分まともなのが少数でも、それなりに役に立っていたということなのかしらね」


 ボクの誤算は騎士団のその殆どが逃げ出してしまったことだ。

 彼らが逃げ出した当日にはまだ数人の騎士が残っていたそうが、人数が減ったことで随分大人しくなっていたとのこと。

 それだけならまだよかったのだが、残った彼らもボクの報復を恐れて首都から去ってしまった。そんな事をするつもりはないのに、嫌われたものだ。


「そうだ。エル様が私につけている護衛。あれを街角に立たせておくのはどうでしょう。強くて頼りになりますよ」

「ならフリス、あなたが一緒に立っていなさい。あなたの護衛のために特別に用意したものを、そんなにたくさん用意できるはずがないでしょう」

「……ですよね……」


 実際にはシャドウレギオンを用意するだけなら簡単だ。しかし護衛ではなく警備として運用するなら、ゴーレムとしての命令が非常に複雑になる。

 逆にゴーレムへの命令権を与えた警備員などが用意できるなら話が早いが、それだとボクが転生者であるという秘密を警備員に話していく必要がある。

 会議所の人たちにはラコスとの件もあり早くから教えてあるが、これ以上無闇に拡散させるのは避けるべきだ。


「冒険者に期限付きで自治権を認可するというのはどうでしょう?」

「それなら今の商人たちの自警団に与えても変わらない。一見いい案だけど、でもそれは余計なトラブルの原因になるわ」

「どういうことです?」


 フリスは首を傾げるが、会議所の職員が代わりに説明をしてくれた。


「領民の中で権力の格差が発生してしまうんだ。同じ商人なのに、どうしてあいつだけってね。しかも自警団を結成できるということは、その商人たちはすでに資金力や人脈で他の領民よりも上に立っていることが考えられる」

「事実として彼らは冒険者を雇えるだけの資金があるわ。ラコスと取引のある地元の鍛冶職組合も装備を融通しているし、若い職人なんかはそのまま自警団の戦力になっているわ」

「普通に商売をしているだけでも差は生まれてしまう。そこに来てこんな状況下でもやっていけている連中に、更に一時的にでも権力が追加されるとなると、領民の不満は今よりももっと溜まるだろう。少なくとも、俺の隣の机の同僚がいきなり俺の上司になったら耐えられないね」

「同意見だ。俺もこんな部下はいらない」

「でも、それは持つべきものの役割なんじゃないでしょうか?」


 職員が冗談交じりに自警団に権力があるとどうなるかを説明するが、フリスはいまいちピンときていないらしい。

 彼女はどうにも流され体質というか、現状をすぐに受け入れてしまう。そのため余程のことがなければ不満が溜まらないのだろう。


「フリス。持つべきものの役割とは、持つべきモノを持つべき者が持っているときに言うことなの。私は優しいから、聞かなかったことにしてあげるわ」

「……はい?」

「フリスくん。この場合の持つべきものっていうのは、権力側の人間、つまりエル様のことになるんだよ。シェルーニャさまの頃にとはいえ、権力を奪われた領主の批判にもなってしまうから気をつけようね」

「……あっ」


 フリスは青い顔をしながらこちらを見るが、奪われたのはシェルーニャのせいなのでボクは気にしない。それに今はもう全て取り返したし。

 ただそれはそれとして、説明はしてあげないとね。


「商人がどれだけ資金力を持とうと、武力を持とうと、権力だけはそう簡単には手に入らない。だからこそラコス叔父様が私を殺そうとしていたのを、まさかあなたが忘れたということはないでしょうね?」

「う、うう……」

「商人にしろ騎士にしろ、本来は同じ領民だ。騎士の方は直接脅威と敵対するから権力側だけど、だとしても持つべきものではない。騎士は持つべきものに使われる側かな?」

「要するに金があるだけじゃ持つべきものじゃないんだよ。だから多少金があるだけで同じ側であるはずの自警団が、自治権を与えられてしまえば同じ側にはいなくなる」

「そして可哀想なことにファラルドの領民はかつてそれで痛い目にあっているのよ。自治権だけでなく財政権も手に入れた、暴走した権力のせいでね」

「あー、騎士団……」


 かつての騎士は職がない領民のためのセーフティネットだった。そのため権力側であっても、領民より立場が下に見られことも多かった。

 しかし領主がシェルーニャに変わったことで騎士団の立場も一転。領民にとっては自分の側にいた存在が突然上に来たことになる。

 しかしそれでも彼らが認められていたのは、元々騎士は自治権を持つ権力側の存在だったからだ。下には見ていても騎士には逆らえない。この事実が根底にあったため、彼らの過剰な権力も領民から黙認されていた。


「だから新しい騎士団は慎重に選ばないといけないし、これ以上権力を分け与えてもいけないの。今の領民には誰からも認められて権力に溺れない、例えるなら正義の味方みたいな存在が必要なのよ」





 わかっていたことだけど、騎士団の代わりを求めるものはたくさんいた。


「今日も泥棒が出たんです! 騎士がいた頃にはこんなことはなかったのに!」

「町中に冒険者が増えて不安でたまらん。やつらが見て回っているのは、次に忍び込む家を探しているからじゃないのか?」

「商人どもが偉そうに。普段は表に顔を出さん連中までもが大手を振って威張り散らしておる」

「この町でも外れの方には顔を出さないのよ? 騎士団は毎日取り立てに来ていたから、うざかったけど安心だけはあったのに」


 と言った領民側の不満。


「そろそろ我々の努力を認めていただいてもよろしいのではないですか?」

「居なくなった騎士団の代わりをしているのだ。補助金ぐらいは出すべきではないのか?」

「こちらとしても長時間の冒険者の拘束は、自由を愛する冒険者の信条と反します。ギルドのルールではないとは言え、金銭以外での保証も与えてほしいですな」


 と言った自警団からの要求。

 どちらもすぐには対処できないというのに、会議所にシェルーニャがいるからと毎日のように面会を求められた。

 ちなみに対応をしていたのはメタモーフでシェルーニャに変身したフリスだが、戻ってくる度に疲れ切った顔をしていた。


 しかしその中でも1つだけおもしろい意見があった。


「騎士団が逃げ出す前に置いてった装備をどうにかしてくれんか? あんなもんお前さんのところしか使えんのだぞ? 騎士の再募集はせんのか?」


 フリスはすぐには答えられないと返答を後回しにしたが、これは聞くべき意見だ。


「騎士団の再募集……これってしているわよね?」

「ええまあ。人事権が戻っているので会議所から募集は出していますが、応募はありません」

「アレだけのことをしでかして、悪評も酷いですからね。しばらくは騎士団を編成するのは無理でしょう」

「ふむ。なら募集をするはずだった人間はどこに行くのかしら」


 騎士団は居なくなったが、領全体での魔物の脅威は消えていない。そのため経済活動の回復にはまだまだ至っていない。

 だからこちらで食料支援をしていた領民は今なお燻っているはずなのだが、彼らはなにをしているんだろうか。


「それなんですが、どうやら現在新人冒険者が溢れかえっているようなんです」

「冒険者はなるだけなら簡単ですからね。それに今は自警団の需要もある。ただまあ、人数が多すぎて新人から上手くやっている冒険者はほんの一部でしょう」


 なるほど。人目を気にして騎士にはなりたくないけど、騎士団の真似事をしたい層は一定数いるということか。


「それならいい案があるわ。騎士団と名乗らなければいいのよ。早速募集要項を変更しましょう」

「ええ……? そんなに単純なことなんですか……?」


 フリスは疑問符を浮かべるが、人間は単純なものが好きだ。なら名前が違うだけで認識も改まる。


「騎士団で行っていた業務をそれぞれ細分化して、それぞれに人員を募集します。例えば公共事業としての土木作業と、町中の警備業務を別々に募集します。徴税などの過去の騎士団の印象が強く、かつ領民に嫌われていた業務を隠すのです」

「悪印象を隠すのはいいと思いますが、それだと応募に偏りが発生しませんか?」

「偏るとしても、無いよりはマシでしょう? そして業務に対して人が余ったら、足りない作業に回せばいいのよ」


 先程の例で言うなら警備員の募集で入ってきたとしても、警備するための通路が必要だとかなんとか言って道路の基礎工事をやらせる。これなら問題なく騎士団の穴埋めが可能だ。武力に関してはまだまだ自警団の冒険者を頼ることになるだろうが、そればかりは訓練の時間もないので諦めるしかない。

 本当なら即戦力が欲しいのだが、そんなものはこの領にはいない。あるものを使ってやっていくには、このやり方が一番だ。


「それって詐欺なのでは……?」

「相手は職がなくて食うに困っている人間よ。そんな人間が食と金を手に入れてから、仕事の内容が違うと言ってまた元の生活に戻れると思う?」

「難しいでしょうね。以前のように選択肢が増えれば十分にありえると思いますが、今のファラルドには選べるほど仕事はない」

「それに俺たちだって入ったときに言われた仕事と、今やっている仕事はかなり違っている。世の中同じままでいられるもののほうが少ないですよ」

「そういうことよ。不正防止のために税金関係はもっと厳しく選定するとして、ひとまず騎士団の代わりはそれでいいわ」


 そうしてボクは騎士団に変わる新しい組織を設立することに至った。


「新設される組織の名前は『新ファラルド保安隊』。これなら騎士のイメージが薄れているし、人も来るのではないかしら?」



ここまでお読みいただきありがとうございます。


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