4-14 騎士団の破滅 2
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◆エル
「俺はニーム王国の勇者ツルギ! 騎士団が布告した税は明らかな王国法違反だ! 速やかに撤回し、騎士団を下がらせろ!」
なんとまあ久しぶりに再開したのは転生勇者のツルギくんだった。転生者に出会ったとき特有の違和感は感じなかったけど、すでに知り合っていたからかな?
ぱっと見る限り他の勇者パーティはいないようだが、彼だけでも十分に脅威だ。それに偽の騎士がシャドウレギオンだとバレるのもマズい。ここは大人しく引くとしようか。
「チッ、勇者とは分が悪い! お前たち、ここは一度引くぞ!」
号令をかけてボクの偽騎士団を退避させる。そしてボクも捕まるわけにはいかないのでさっさと退散だ。
大通りから路地裏に入り、メタモーフで更に別人の姿に切り替えて影に潜る。最近習得した移動魔法シャドウダイブだ。影から影にしか移動できないけど、これも空間魔法に連なるレアなスキルで入手難易度はそれなりに高かったが、使い勝手がいい。
さて、ボク1人で逃げ出すのは簡単だが、問題は退避させた偽騎士のほうだ。彼らを消すのは簡単だが、今回は騎士団に憎悪を向けさせるための作戦なので、その姿が変わるのを見られるとマズい。
ボクは影から影へと1体1体シャドウレギオンの足元に移り、周囲を確認しながら消していく。面倒だが、これは必要なことだ。
そうしてシャドウレギオンを消しながらツルギくんの様子を伺ってみると、彼は壊された大通りの後片付けをしていた。やはり他の仲間は見当たらない。
と、そうこうしている間にちょっとした事件が発生した。騒ぎを聞きつけた本物の騎士たちが現れたのだ。
荒れ果てた大通りには、ボクの偽騎士たちが破壊した屋台や踏み荒らした露天の数々が今も散乱している。それを騎士たちが疑問に思うのは当然のことだったが、その対応が悪かった。
「これはいったい何の騒ぎだ!」
騎士は自領民ではない行商人や冒険者に対しての態度が悪いのは前々から聞いていた。しかしよりによって今この場でそれを発揮してしまった。
その場にいた行商人から話を聞こうとし、彼の胸ぐらをつかみ上げたのだ。
「なんの騒ぎだと!? ふざけるな! お前らがいきなり現れて、暴れていったんだろうが!」
「なに……!?」
それを見て飛び出したのは、またしても勇者ツルギくんだった。
「お前、話を聞いていなかったのか!? お前たち騎士団が課した税金は、明らかなニーム王国法違反だ! 騎士団長ブスタ・バウマンにその旨を伝え、破壊活動を行う騎士たちは下がらせた。それなのにまたこの場に現れるとは……! 恥を知れ!」
「なんの話だ……? 俺たちはそのブスタ団長の命令でこの場の騒ぎを確認するようにと…… いや、そもそもお前は何者だ?」
お互いにわけがわからないといった様子で、怒りを滲ませながらも困惑している。
まあそれはそうだろうね。だってあの場に本物の騎士は誰もいなかったんだから。
「ブスタ団長には伝えたはずだが、ここの指示系統はいったいどうなっているんだ? 俺はニーム王国の勇者ツルギだ」
そう言ってツルギくんはなにかメダルのようなものを取り出し、それを見た騎士たちはその場に跪いた。たぶん勇者の証みたいなものなんだろう。
あいつらいいな。ボクは見せてもらってないぞ。
「なんだと!? なぜ勇者がこんなところに……!」
「理由はどうでもいい。それよりもなぜまたこの場に現れたんだ。ブスタ団長はいったい何をしている?」
「団長は、今は、その、今は忙しい状況だ。勇者殿であろうと、今はお会いできない」
勇者の証を見てもなお、騎士は口を割らない。ブスタの忙しいなど、どうせろくでもない理由だろう。
その態度にツルギくんはため息をつき、静かな怒りを吐き出した。
「勘違いをしているようだが、勇者である俺は国内のあらゆる公的機関に対して調査を行う権限を、国王から直々に授かっている。俺の質問は国王の質問だ。その上で改めて聞くが、先程までこの場で王国民に対して王国法違反の課税、徴税を行い、その支払いがないと王国民の財産を破壊して回ったブスタ団長は、どこで、何をしているんだ? 答えられないのなら、重罰も有り得るのだと覚悟して返事をしろ」
「な、そ、それは……」
勇者の最後通告のような言葉に、騎士たちは見る間に青くなっていった。
しかし勇者の権限って凄いんだな。公的機関に対する調査か。
ひょっとすると彼を上手く利用すれば、騎士団の力を大きく削げるかもしれない。
「ブスタ、団長は、その……」
「…………続きを」
「……団長は、騎士団の本部にいます……」
「そうか。では案内してくれ。今回の一件について、彼には確認するべきことが山ほどあるからな」
そのようなやり取りをして、ツルギくんは騎士とともに行ってしまった。
まあボクの方も問題なく偽騎士の始末ができたのでちょうどいいタイミングだ。
「それにしても、勇者が何をしにこんな所まで来たのかな」
ハレルソンの件ならすでに片が付いているはずだけど、まさかね。
ボクは次の作戦を考えながら、別邸へと帰った。
◆ブスタ
ブスタの予定では、今日の来客予定はシェルーニャのメイドであるフリスのはずだった。
しかし部下が応接室に通してきたのは、ニーム王国の勇者だった。
「な、勇者、ツルギ殿……!? なぜここに……!?」
「ファラルド領騎士団長ブスタ・バウマン殿。はっきりと申し上げるが、あなたには王国法違反の嫌疑がかけられている。先程の場では国民保護を優先し一度は見逃したが、この場からは逃げられないぞ」
「は!? 先程? 王国法違反? いったい、なんの話ですか?」
ブスタには全く身に覚えのない話だった。
そもそもブスタは朝から本部で書類仕事をしていたため外に出ていない。騎士団を動かしたのもフリスの連行くらいだが、その程度では王国法違反には当たらない。フリスの逮捕に必要な書類はきちんと捏造してある。
しかしその態度に怒りを覚えたツルギは、勇者の証を机に叩きつけた。オリハルコン製とも言われるそのメダルを木製の机が受け止められるはずもなく、机は証の形に凹んでしまった。
「ひぃっ……!」
「お前は! お前は自分が何をしたのか、本当に理解していないのか!? 先程大通りで生存税などという許されざる税を課し、すべての国民から税を取り立てただろう! それだけに飽き足らず、支払いがなければその場で人々の私財を破壊した。これが王国法違反でなければ、なんだというんだ!」
王国法では人間が自由に生きることは個人にとって最上位の尊厳であり、それを脅かすことを許さないという、現代で言うところの人権や生存権に当たるものが存在する。
これの差すところを更に細かく規定していくのが王国法だが、今回ツルギが指摘しているのは生きることに対して税を課したことだ。
だがブスタは当然それを知らない。あの場にいたブスタ率いる騎士団は、すべてエルの用意した偽物だからだ。
「ご、誤解です勇者殿! 本当に知らないのです! 私は本日はこの本部より一歩も外に出ておりません! それは部下たちや、周辺の住民に聞いても同じことを言うでしょう! 私には身に覚えがありません……!」
「黙れ! 俺はあの場で、お前の目の前であの凶行を止めたんだぞ!? それを知らないなどと……! ……? おい、ちょっと待て、ブスタ団長。顔を上げろ」
「は、はいいいぃぃ……!」
「……なんだ?」
直接会ったはずなのに白を切るブスタに怒鳴っていたツルギだが、頭を下げる彼にふと違和感を覚えた。
目の前で会った時の妙な圧力というか、あの場にいたブスタや騎士たちにあった独特な気配が一切感じられないのだ。
「ブスタ団長。一度装備を整えて、中庭に降りてきてくれ」
「? ……わかりました。……剣もですか?」
「そうしてくれ」
言われるがままに鎧を着込み、剣を携えて外に出るブスタ。
あのときと同じように彼の目の前に立ったツルギは、先程とは違う違和感を感じた。
「……あの場にいたときよりも背が高い……? それに、こうしてみると、騎士の鎧のデザインが違うような……」
「騎士団の鎧は同じものですが、隊長格と団長である私のものは特注ですからな。騎士のものとは違いますが……」
「……そうか」
そこでツルギは違和感の正体に気がついた。あの場にいた騎士団は、全員が同じ背格好で、同じ鎧だったのだ。それは団長であるブスタも同じで、なによりあそこにいた彼からはもっと強気な態度が全身から滲み出ていた。
今目の前にいる、新品の鎧を纏った新兵のような男では断じてなかったのだ。
「なんのためかは知らないが、ブスタ団長が何らかの策略に巻き込まれた可能性があるな……」
「よ、よかった……! 誤解は解けたのですな! ああ、よかった…… 行きた心地がしませんでしたぞ……!」
ブスタはほっと息をつくが、ツルギの本来の用件は実のところそれだけではなかった。
「……今日の一件に関しては、後日改めて国から調査員を用意して詳しく調べるとしよう。悪かったな」
「そんな、勇者殿が謝罪するようなことでは……」
「だがそれはそれとして、ブスタ団長。貴殿にはこのファラルド領の領主、シェルーニャ・ジス・ファラルド殿への脅迫容疑がかかっている。そちらに関しては、もう少し詳しく話を聞かせてもらおうか」
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