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【第五章開始】悪役転生  作者: まな
第四章
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4-12 騎士団からの接触

毎日投稿できればよかったんですが、遅れました。




◆エル



 問題解決の糸口は、相手の方からやってきた。


「魔物討伐の救援要請? この前騎士団が行ってきたばかりでしょう?」

「その件だが、やはり奴らは魔物を倒していなかった。こちらでも独自に調査をさせていたのだが、要請のあった村は壊滅していた。本来であれば仮にそうだとしても領内の安全のために周囲を調査するものなのだが、奴らはそれをしていなかったのだ!」


 怒れるラコスは机を叩き、報告書を投げ飛ばす。マリーアが落ち着いた様子で書類を拾い直しているが、彼女の書類を持つ手にも力が入っている。許せないのは共通の思いらしい。


「でもどうするの? また騎士を出しても、同じ結果になりそうだけど」

「私が出る。今回に限らず奴らは魔物討伐の遠征に出ても、それらをすべて口頭での報告で済ませていた。報告書も討伐証明もない。下手をすれば、領内の魔物被害の殆どが手付かずの可能性すらある。騎士団は魔物の討伐をしているからこそ、民意を集めその存在を認められている。だがそれを放棄した以上、奴らに存在価値はない。我々で先行して問題を解決し、奴らの支持基盤を破壊してやるのだ!」

「では魔物の件はお任せしますわ。足りない要員の補充もお任せすることになると思いますけど、資金に関しては財政が整ってから補填させていただきます」

「騎士団が信用できない以上、周辺の冒険者も募らねばならないからな。まあそれは気長に待つとしよう」


 ラコスの部下が減った原因はボクのせいなので、冒険者の使用を止めることはしない。ラコスの出費は後に騎士団から接収して補えばいい。

 だがそうなると1つ問題もある。


「とはいえ時間がかかりそうね。その間にも騎士たちは貴重な税金を食いつぶしているわ。それに叔父様の部隊が動くとなると、宿舎に監禁しているメイドや常駐していた騎士たちの拘束が緩むと思うのだけれど……」


 そう。事件から数日が経過したが、宿舎には未だにメイドや騎士たちが監禁されている。

 表向きの理由は火災についての事情聴取となっているが、常駐していた騎士の方には騎士団からも状況の確認がしたいとブスタから何度も要請があったのだ。

 ラコスの部下が減れば監禁されている騎士を助けるために実力行使も考えられると思っていたが、そんなことは心配無用とばかりにラコスは不敵に笑った。


「ふっ、メイドたちか。マリーア、あの件はどうなっている?」

「あちらは特に利用価値も確認できませんでしたので、初期の作戦通りに。全て運び出しは完了しています」

「だそうだ。心配はいらない。拘束する相手はもういない」


 やはりラコスは最初から主人を裏切る従者を従えるつもりなどなかったらしい。フリスはボクの屋敷で今も元気にメイドをしているが、彼女の同僚たちは土の下で騎士たちと仲良く眠りについたそうだ。


「はあ。また従者を集め直さないといけないわね」

「それについてはまた後で考えることだな。メイドの代わりにはならないが、最も重要な事務作業員たちはすべての計画に関わらせていない。しばらくは彼らと仲良くやってくれ」

「まあいいでしょう。ご機嫌取りの部下は不要ですしね。しかし、その文官たちは騎士団の圧力に屈しているのではないですか?」


 今日も会議所で働いている彼らの命が狙われているとは思わないが、彼らの働きぶりがすべて正しいとも思えない。現に彼らが用意した財務状況の書類は騎士団から受け取ったものと同じだ。


「彼らは書類の数字をいじってはいない。上からくるものを、そのまま清書しているに過ぎない。騎士団が壊滅すれば、自ずと正常化される」

「そんなものですかね」

「彼らは君が思っているよりも有能だよ。騎士団の武力を恐れて文句を言わず、私を恐れて残り僅かな税金を掠めようともしない。少ない予算で領の経営ができているのは彼らのお陰だ。まあそのせいで金が少なくとも領が回せると、騎士団が増長した部分もあるのだが……」


 ボクは人間に詳しくないので、ラコスがそれでいいというのならいいか。

 騎士団にとっても優秀な人材たちだから、生かさず殺さず程々に脅されて今も働いているのだろう。

 となると、やはり最初に潰すのは騎士団か。


「では私は失礼する。今一度領内を見て回り、騎士団の取りこぼしを回収せねばならんからな」

「気をつけて行ってらっしゃいませ叔父様。お土産はなくていいですよ」

「エル、君も十分に気をつけることだ。君やアールは問題ないだろうが、あのフリスというメイドにはなんの力もない。騎士団が彼女を狙うということになれば……」

「それは問題ありませんよ。彼女は私の弱点にはなり得ません」

「そうか? それならいいが」


 フリスは確かになんの力もないただのメイドだ。だけどボクが殺さないと約束した人間でもある。

 そんな玩具(フリス)を、ボクが何もせずに置いておくわけがない。


「ええ。彼女も立派な私の部下ですので」



◆騎士団



「ラコスは動いたようだな」

「ふん。本来ならば我々の仕事だと言うのに、やつも物好きなことだ」

「だがそれこそがこちらの計画だ。魔物討伐を肩代わりさせている間に、シェルーニャさまを取り戻す。彼女にはいつまでも冷静であって頂かなくてはならないからな」


 騎士団本部の作戦室では、ブスタを筆頭に集まった隊長たちが場当たり的な計画を立てていた。


「で、この後はどのように? 宿舎を探らせていた部下からは、そちらの部隊も動いたと聞いていますが」

「そちらは後回しでもいいだろう。まずはシェルーニャ本人の確保からだ」

「今は会議所にいるようだが、ラコスがいないなら直接出迎えに行くか?」

「それもいいが、会議所内でで抵抗されては面倒だ。あそこは冒険者ギルドも近いし、騎士団で動くとなるとそれなりに目立つ」

「冒険者たちは我々を毛嫌いしているからな。ニームは戦争中に国内で発生していた魔物被害を抑えていた冒険者を重用しているから、迂闊に手出しもできん」


 実際には騎士よりも冒険者のほうが個人技で上回っているため、ことを構えたくないだけだ。

 このように状況が動いても騎士たちの腰は重かった。ラコスが無能の集まりだと言ったのは、隊長クラスでもこの有様だったからだ。

 しばらく無意味な会議とも呼べないおしゃべりは続き、そこで誰かがある提案をした。


「ここは1つ、先に別邸を抑えてしまうというのはどうだろう」

「シェルーニャさまが現在利用しているあそこか。本部からは離れているが、郊外で人目も少ない。しかし何人もで入れるほどの広さもないぞ?」

「そんなに人数はいらない。ラコスの部下がいなければ、シェルーニャさまとメイドが2人だけだ。そのメイドも片方はシェルーニャさまと共に会議所にいる。まさかメイド1人に部隊を動かすつもりなのか?」

「ラコスの部下が全員動いたという確証がない。屋敷に潜んでいる可能性は十分ありえるだろう」


 俺1人でも制圧可能だと騎士は笑ったが、他の隊長は至って真面目に考えを述べる。

 だとしても、他の冒険者や荒くれ者が聞いたら吹き出しそうな内容だが。


 彼ら騎士たちは周囲から疎まれているのを自覚している。

 騎士とは名前こそ立派な役職だが、その中身は最低保証の労働力だ。今でこそシェルーニャから権力をもぎ取ったためにしていないが、元々は土木作業などのインフラ整備や、魔物の生息域を減らすための開拓事業なども行っていた、大変きつい職業だった。

 今の騎士団は人生の絶頂期だ。形式だけの魔物討伐遠征で領民から認められ、シェルーニャから奪った予算で豊かな生活を送れている。監査権限は元々騎士団に委ねられたものだし、領主からの命令であったとしても、自分たちの不正は自分たちでいくらでも握りつぶせる。


 だからこそ、騎士団は失敗を恐れていた。

 ブスタが団長になってから、彼らは失敗をしてこなかった。失敗だったものは、全てもみ消してきた。

 彼らは失敗した時に失うものの大きさを理解している。と同時に、どの程度の失敗でそれを失うのかを知らない。

 だからどんな小さな失敗も、周囲の目があるなら容認できない。


 今回の計画で言えば、領民に不信感を抱かせる行為を忌避していた。

 シェルーニャはすでに騎士団を裏切り、ラコスについている。これは騎士たちの共通認識だ。

 しかし領民はそのことを知らない。と思っている。そのため、表立ってシェルーニャと敵対していると見られるのはまずいのだ。

 実際にはファラルドの屋敷が火災にあったことは翌日には町中に周知されているし、シェルーニャ自身も歩いて会議所に通っているため、その周囲に騎士たちがいないことは噂になっているのだが。


「ならば、そのメイドの方を拐うというのは?」

「……ふむ。たしかフリスと言ったか」

「彼女の外出時にはラコスの部下がついていたはずだが、それがいないのなら、狙い目かもしれんな」

「よし。では次の作戦は決定した。フリスを確保し、それを交渉材料にシェルーニャさまを迎えに行くとしよう。異論はないか?」


 こうして騎士たちの運命は決定した。

 彼らは無意味な警戒心を持ち合わせているが、それでいて短慮であるために、それが正しく発揮されることはなかった。

 彼らには時間があったのに、日頃の怠惰から有意義に活用するということがなかった。


 だから知らなくて当然だった。

 フリスの外出の際について回っていたのが、ラコスの部下ではなくシャドウレギオンだということに。



◆フリス



「やあフリスちゃん。今日は新鮮な夏リンゴが入ってるよ。ぜひ買ってやってくれ」

「こっちのは干魚だよ。たまにはエル様も魚なんか喜ぶんじゃないかい?」

「珍しいってんならこっちにはゴーレムから取れた岩塩がある。安くしとくぜ?」

「あ、あはは…… 全部買います……」

「「「毎度あり!」」」


 ファラルドの町の大通り。隣領であるハレルソンの冒険者や商人が持ち込む品々で賑わうここは、残念なことに押し売りでも有名だった。

 原因はファラルド領内の財政難から来る困窮ではなく、騎士団が勝手に設定した輸出税の拡大解釈のせいだ。

 通常なら領地は違えど、同じニーム国内で物品の輸出入に税金をかけることなどしない。鉱石や魔石などの高価で重要な物品ならともかく、他の領ではありえない。

 しかし騎士団はどこからでも税を徴収するべく、領内からのすべての移動に税をかけた。これは財政難のファラルド領からの逃亡を防ぐ意味もあったのだが、騎士団はそれで満足しなかった。

 彼らが税をかけたのは領内から出ていく全てのもの。それはつまり、他領から入ってきた行商人や冒険者にも及んでいる。それだけなら通行料としてすでに存在するのだが、彼らが持ち込んだもの全てにも税をかけたのだ。

 どういうことかと言えば、入ってくる時点では身分証や通行料で素通りさせ、いざ自領に帰るとなったところに騎士が徴収に現れる。

 その際入ってきた時点で所持していたものは一切確認しない。行商人の商品や、冒険者の消耗品もすべてだ。騎士たちは身につけていた衣服以外の全てに税金をふっかけ、そのせいで真っ当な商人や冒険者ほど割を食らうようになってしまった。


 だから今日も大通りでは商人や冒険者たちが少しでも持ち出すものを少なくするため、せっかく他領まで持ってきてくれたものを安く売り捌いている。

 フリスがそれらを毎日買い取っているのは、何も押し売りに負けたからではなく、シェルーニャの命令でもある。

 現状シェルーニャが財務に関する権限を確保できていない以上、彼らへの救済処置は少しでも多く税金を少なくするしかない。

 なぜ他領の人間にそこまでするのかと言えば、これが結果的に自領での負担軽減にも繋がっているからだ。


 彼らにはゆっくりしている時間はない。こんな何もない領で足止めを食らうよりも、他の領で商売や狩りをしたほうが儲けが出る。

 そのためここで売られているもののほとんどが相場以下、捨て値のような価格で取引されている。

 これらをすべて回収することで、少なくともこの町の生活困窮者を支援できているのだ。


(とはいえ、こんなことでは長く続かないのも事実ですけどね……)


 買った荷物を自身の影に擬態したシャドウレギオンの中に押し込みながら、フリスはため息をつく。

 大通りの商人たちは日に日に減っているし、新しく入ってくるものは少ない。こんな訳の分からない税金をかける領地の悪評などすぐに広がる。

 それに、フリスやラコスの部下たちだけでどうにかできるのはこの町が限界だ。領内には他にも困っている町や村はある。それらを助けられないのは、わかっていても心苦しい。


「それでも、まずはできることからしないと……」


 シェルーニャさま改めエル様が騎士団からすべてを取り戻すまでの辛抱だ。そう思いながらフリスは今日も買い物を続けている。

 その日の買い出しが終わり、いつものように別邸へ帰ると、門のところで声をかけられた。


「シェルーニャのメイド、フリスだな?」

「はい……?」


 振り返ると、そこには現在エル様と敵対している騎士団の男が3人いた。


「ブスタ騎士団長がお呼びだ。大人しく着いてこい」



ここまでお読みいただきありがとうございます。


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