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【第五章開始】悪役転生  作者: まな
第四章
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4-11 はじめての別邸

ブックマーク、評価ありがとうございます。

励みになります。



◆エル



 騎士団や財政よりも前に1つ、早急に解決しないといけない重大な問題がある。


「今日はどちらに泊まりましょうか」

「屋敷、すぐには直らないのよねえ」


 襲撃の日にはメイドたちの宿舎で休んだが、今日はメイドや騎士たちの他にラコスの部下たちも居る。今日はゆっくりしたいから、人数が多いのはゴメンだ。


「私の泊まる宿に来るかい? この領内では一番で、サービスも行き届いている。うちの護衛もいるから安全度はどこよりも高いが」

「そうねえ……それは遠慮しておくわ。私がいるとお邪魔でしょうし」

「ふむ。それほど気にしなくてもいいのだけどね」


 ラコスはともかく、マリーアには直接危害を加えたから彼女がボクやアールを恐れている。仕事のときは問題ないけど、休息の時くらいは距離を取っていたほうがいいだろう。彼の部下だって同僚を殺されているわけだし、たった1日で心情を切り替えられるとは思えない。

 そんなわけで本日の午後は、ボクとアールの新しい拠点探しに当てることになった。


 とはいえ候補はすでに絞ってある。

 ファラルドの町の郊外にある別邸か、過去に文官たちが使用していた宿舎だ。

 前者はシェルーニャの母が出産、育児をするために用意されたもので、使用はされていないが今でも清掃が行き届いているとのこと。

 後者は単純に屋敷から近い。ただ、本来は使用されていないことになっているのだが、こちらは無断で騎士が使用しているとの噂がある。別邸がダメだったときの予備だ。


「別邸の管理はメイドたちではなく、母方の親族が義理で行っているらしいですね」

「使えればなんでもいいわ」


 そんなわけでまずはファラルド家別邸に向かう。

 スラーの時ほど酷いことはないだろうと思っていたが、ラコスの部下が先行していたようで、着いたときにはすでに使用できる状態になっていた。

 崩れた屋敷よりはずっと小さいが、2階建てで普通に生活するには文句がない。というかたぶんボクは持て余す。

 外から様子をうかがっていると、荷物の運び入れをしている男がこちらに気がついて寄ってきた。


「シェルーニャ様、ですね。ラコス様から聞いております」

「まだここにするとは決めていないのに、気が利くのね」

「ははは、そういう訳だけでもなかったんですけどね」


 話を聞くと、本来の計画では作戦終了後に崩れた屋敷の方を仕事場に、こちらをマリーアとの生活に使うつもりでいたらしい。

 なら悪いことをしたかなと思ったが、元はと言えば崩れたのは彼らのせいだと思い出した。


「中も確認いただいて、なにか問題があれば言ってください。ある程度はご用意できると思います。水回りの点検も終わっているので、すぐにでも生活できますよ。もちろん、気に入らなければ出て行ってくれて構いません」

「ふふ、ならここにするわ。問題は、そうねえ……下着の替えがないことかしら」


 男が自信有り気に言うので、ボクもすぐに嫌がらせを言ってみた。

 ところが彼はそれも想定済みだったのか、営業スマイルを崩さない。


「それなら寝室を確認してください。クローゼットに新品の衣服を詰めてあります。きっと気に入るものがありますよ」

「へえ。なかなかやるじゃない」

「ありがとうございます。うちの本業は一応商売なので、ひと通りは揃えてありますよ」

「従者として見習うべき点ですね。参考にします」


 自分からはあまり喋らないアールも、なにか感銘を受けたようだ。

 早速別邸の中を確認すると、まずエントランスホールの花瓶に花が活けてあった。普通のことに思えるが、屋敷のメイドは枯らしていたのでこれだけで感動的だ。

 次に向かったのはベッドルームだ。元々シェルーニャの母のための部屋なので大きな部屋だったが、そこには2人で横になっても余る巨大なベッドがあった。こちらもシーツが張り替えられていて、すぐにでも眠れてしまう。

 彼の言っていたクローゼットはいくつもあり、下着だけでなくドレスや普段着なども取り揃えられている。いったいいつ測ったのか、アールによればシェルーニャのサイズにぴったりらしい。

 ちなみに下着はシンプルなデザインのものから、いつぞやのケウシュやメルシエが履いていた怪しげなものまであった。


「……また穴が空いているのだけど、これって隠すためのものじゃないの?」

「こう何度も見ると標準装備のように思えてきますね。ちなみにこれらは異性を誘惑するためのもので、下着本来の機能はないと言っていいでしょう」


 異性って、ボクの場合はどっちなんだろう。元のエルは一応男だったけど生殖機能は失われていたし、今のボクは実際には魂だけ。性別の概念ってあるのかな。

 難しい話はさておき、再び屋敷の探索に戻って次はバスルームだ。こちらはシェルーニャの部屋と同様にベッドルームと隣接するように配置されていて、赤子用の小さな桶もあった。

 排水はきちんとしているし、シャワーの温度調整もできる。さすが貴族だ。


 その他元はメイド用であった部屋を数ヶ所を見て回り、キッチンに食材が補充されていることを確かめる。

 一番驚いたのは、なんと裏庭にプールがあったことだ。こちらもしっかり使える状態になっている。


「異世界にもプールの文化が……というか、水着ってあったっけ?」

「バスルームがあるように、水浴び自体は一般的な行為です。こちらのプールは夏場の暑い時期に外で利用するためのものでしょう。エル様のいう水着に該当する衣服はありませんので、基本的には着衣、あるいは下着、裸での入水になります」

「ええ……貴族なのに裸? それはないでしょ……」


 ヴァルデスだったときにはなんとも思わなかったけど、なぜか今のシェルーニャだと想像しただけで羞恥心が湧いてくる。

 外で、人前で脱ぐなんて今のボクには無理だ。

 そんなことを考えていると、先程のラコスの部下が声をかけてきた。


「こちらのプールは療養のためのものです。妊娠中の運動能力低下の解消や、過度な肥満、それから出産後のリハビリなどのケアに使用されるんですよ。下々の民のように脱いで泳ぐなんて、そんな下品なことはしません」

「あら、そうだったの。変な想像をしてしまったわ」

「外と言ってもご覧の通り塀に囲まれた場所なんで、脱いでも誰にも見られませんけどね」


 それだけ言うと男は去っていった。まあ、だからと言って脱がないが。

 今の時期はちょうど夏であり、水を浴びたらさぞ気持ちがいいだろう。入らないけど。

 そう言えば、下着は自分のだけではなくアールの、アンネムニカの分もあったような……


「……ひと通り見終わったかしらね」

「そうですね。彼らから鍵を預かって、お引取り願いましょうか」


 別にボクはそんなつもりは一切ないけど、今日はもうすることはない。

 ただまあ、下着のつけ心地は確かめておく必要があるだろうし、せっかくならアールと一緒に選んでみようか。

 そんな言い訳をしながら、ボクはクローゼットにあった下着を全部持ち出して、結局全部水浸しにした。



◆ブスタ



「護衛の解任だと!? いったい今まで誰が守ってやっていたと思っている!」

「遠征費用のための予算を領に戻せなどと、何を考えているのか!」

「それに加えて財政にも口を出すなど、越権行為も甚だしい!」

「小娘が、ラコスなんかに騙されおって!」


 ブスタの報告を聞いた騎士たちは瞬く間に激怒し、今すぐにでも考えを改めさせようと武器を取った。

 ブスタも同じ気持ちだったが、遠征帰りの疲労した状態でラコスとことを構えるのはまずい。そう判断できるだけの冷静さはあった。


「お前たちの気持ちは痛いほどわかる! ワシも同じ気持ちだ! しかし今すぐに動いて、ラコスと戦えるものはどれだけいる? 少しは落ち着いて考えるんだ」

「うっ……」

「それは……」


 実のところ、騎士たちに目立った損傷はない。彼らはオークに襲われた村まで出向き、村が壊滅したのを見届けて返ってきた。だから損害は一切なかった。

 ならなぜ彼らが立ち上がらないかと言えば、ラコスとの戦力差を理解しているからにほかならない。

 騎士たちは口では偉そうなことを言うが、自分たちの実力が伴っていないことをわかっている。だから集団で行動し、より弱いシェルーニャを剣で脅して担ぎ上げていたのだ。

 シェルーニャは魔法使いだったが、戦闘向きの魔法使いではなかった。だから彼女を懐柔して騎士団を重用させ、今の地位を手に入れた。

 しかし彼らにあるのは地位に紐づいた権力だけだ。実力ではラコスの部下どころか、駆け出し冒険者にも負けるだろう。


「しかしどうするのですかバウマン団長。このままシェルーニャさまがラコスの言いなりになっていれば、我々が努力して勝ち取った資金が奪われてしまいます」

「増員した騎士たちだって、元はと言えばシェルーニャさまの無策によって職にあぶれた者たちだ。彼らをまた路頭に迷わせるつもりですか?」

「そんなことはさせん。だが実力では戦いにもならん。それに実力行使に出れば、その時点で謀反として正式に処罰されてしまう。ラコスの思い描くとおりにな。その場合は全員死罪だ。それだけは避けねばならん」


 騎士は騎士という地位自体が首輪であり足かせだ。平民よりは上だが、どうあがいても領主よりも上に立つことはない。

 これまではシェルーニャに力がなかったから無理を通せていたが、あちらにラコスがついたのなら、それはそのまま騎士団がラコスの下につくということだ。

 それだけは、数々のブスタの行ってきた不正を暴かれてしまうがために、避けなければならなかった。


「ではどうするのです?」

「……簡単なことだ。シェルーニャを襲えばいい」

「しかし、それはラコスの部下が守っているのでは……」

「そんな護衛など、引き剥がしてやればいいだろう。そのための材料も、我々にはある。そうだろう?」


 騎士たちはなんのことかわからないようで顔を見合わせている。

 元々無能の集団だったが、ブスタも流石に額を手で打った。


「お前たち…… 今日まで我々はどこに、何をしに行っていた?」

「それは、魔物の討伐のための遠征ですが……」

「そうだ。それで、我々は何をした?」

「はっ、救援要請のあった村はすでに壊滅していたため、戻ってまいりました!」


 本来なら、仮に村が潰されていたとしても魔物は狩らなければならない。だがブスタ率いる騎士団はそれをしていなかった。


「そうだろう? なら生き残っている魔物たちは必ずまた別の村を襲う。それをラコスたちに任せればいい。その間に、我々がシェルーニャを確保するのだ!」



ここまでお読みいただきありがとうございます。


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