ご褒美
困ったな。
林が甘い物が好きではないんだなんて。
これでは折角俺が編み出したご褒美作戦が、実行されることなく流れてしまう。
一体、どうしたら良いのだろう。
俺はうーんと唸った。
……まあ、別に甘い物を買ってやる必要はないんだよな。
とにかく、林が目標を達成することで喜べるようなことをしてやれば、彼女のモチベーション維持や不安の先送りになるわけだしな。
だったら、一体どんな褒美をあいつに与えれば良いと言うのだろうか?
難しい。
具体的に、何も思いつかない。
こうして考えると、やはり俺と林の関係は、まだまだ発展途上なのだと思わされる。もし、ツーカーの仲だったのなら。例えば笠原が林にご褒美をぶら下げて勉学に励めと言うのなら、すぐに良案が提示されたことだろう。
まあ、俺達の関係性の薄さをここで痛感していてもしょうがない。
憂いや後悔は時間の無駄。
今ある手札で、俺が林に与えられるものを考える。
それが、今俺が出来る最良であることは間違いない。
こういう時は、逆の立場になって考えてみよう。
俺だったら、褒美として何を与えられたら嬉しいだろうか。
……金?
……権力?
……自由?
思想家かなにかか?
まるで魅力を感じない。ただ、その辺に魅力を感じないのは、俺に人一倍の野心が特にないからなんだろう。
もし、野心があったらそれらが与えられると言うのなら喜べるかもしれない。
ただ生憎、林はそんな大層な野心を持ち合わせている様子はないし、何よりそんな大層なもの、俺が与えられるはずもない。
考えるまでもなかったことをひとしきり考え終えて、俺は首を横に振った。
本当、難しいな。
そもそも、俺が逆の立場だったとして、林から褒美を与えられて嬉しそうなことが見当たらない。
そんな結論に至るあたり、自分の物欲だとか、私欲のなさには呆れるばかりだ。
俺が褒美を与えられるとして、嬉しいもの……。
……掃除?
今俺は、林に毎日の掃除を一日一時間に制限されている。
もし、試験で高得点を取れば、その制限が解除されると言うのなら……あ、それは凄い嬉しい。目的のため、勉強を必死に頑張れると思う。
「林、掃除をしてみるか?」
「は?」
意味不明だと言わんばかりに、林は顔を歪めて言ってきた。
……確かに。
冷静になって考えると、これは俺限定の褒美だった。林にはとてもじゃないが、刺さるものはなかっただろう。
「……手取り足取り、教えるぞ?」
「まあ、構わないけどさ。あんたは良いの? あたしに趣味の邪魔されて」
「……駄目だ」
言われてみればその通りだ。
その褒美はとてもじゃないが、俺が飲むことが出来ない。
まったく。なんて非道なお願いを思いつくんだ!
……ああ、俺か。
「林、お前欲しいものないか」
色々悩んだ結果、俺は気づく。
これもまた、当人から望むものを聞くのが一番早い、と。
「……まず、何がどうなって今の話になったの?」
林に可愛らしく小首を傾げられて、俺はきちんと彼女に俺の思考を説明していなかったことに気づかされた。これぞまさしく、独り相撲。
俺は、簡潔に林に俺の考えを伝えた。
今の林の悩みは理解できる。ただ、その悩みは多分、資格を取得するまではずっと付きまとう。一番の懸念は、ずっと不安に駆られることでのモチベーション低下。それを維持するためのご褒美作戦。
ざっとこんな感じだ。
「だから、お前の目的達成のため、俺も一肌脱いでやろうってことだな」
「……なんでよ」
「そりゃあ、同居人だし」
「同居人だからって、あんたはそこまでする必要ないでしょ。むしろあんたは、あたしに身の回りのこと全部奉仕させたって良い立場だよ」
「身の回りのことは全部やってもらっているだろ?」
「どこがよ」
林は、吐き捨てるように言い、少し感情的だった。
「……それもあんた自身のためなの?」
「そうだな」
「だったらあんたは、とんだお人好しだね」
皮肉めいた言い方だ。
一体、どんな風に捉えるのが正解か。答えが出せず、俺は微妙な顔で黙っていた。
「それで。何か欲しいものはないか。林」
「ないよ。……あたし、あんまり物欲ないし」
「……そうだよなぁ」
彼女の物欲があまりないことは、これまで二ヶ月一緒にいて良く理解していた。
だからまあ、望み薄だってことも何となくわかっていた。
俺は困ったように頭を掻いていた。
そんな時だった。
林から、妙な熱視線を感じたのは。
「……あった」
林は呟いた。
「そうか。なんだ?」
林はそっぽを向いて俯いた。頬がほのかに赤く見えるのは、気のせいか。
「……林?」
「……頭」
「ん?」
「頭、撫でてほしぃ……」
なんか最近この二人ただイチャイチャしてないか?
なんでここまでされて主人公は気付かないんだろうな!?
不思議だぜ!!!!!
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