計画
「まあ、俺の人生が上手く行っているかは置いておいて、ともかくやる気は失うなよ」
「あ、そこは置いておくんだ」
俺は自分の人生が悪いものだとは思っていない。ただ、こいつはそうではないと言う。
これはどこまで行っても堂々巡りになるだけだと思うから、これ以上はツッコんだらいけないと思った。
「……で、あたしは何をすれば良いのかな?」
林は気を取り戻したかのように、俺に尋ねてきた。
どうやら、色々言いたいことがあるようだが、俺の提案に乗っかる気にはなったらしい。
まあ、今はその意思だけ合ってくれれば十分だ。
「そうだな。じゃあまずは計画を立てよう」
「計画?」
「そう。どうすれば、二月の簿記試験に一発合格が出来るようになるか。そこまでの道筋を立てるんだ」
「……どんな感じに?」
「まあ、具体的にはこの月までに何点。この月までに何点。確実に取れるようにする、とかかな」
「そんなの計画立てるより、ひたすら勉強し続けた方が効率的じゃない?」
「そういう場合もあるだろうけど、俺の狙いはそこじゃない」
「と、言うと?」
「今は十月。お前が簿記試験を受けるのは二月。勉強期間は述べ四ヶ月。今は確かに高いモチベーションがあるが、果たしてこのままの調子でお前、四ヶ月もモチベーション維持が出来るか?」
「……それは」
本人には言わないが、高校時代の林は勉強に対するモチベーションがそこまで高いようには見えなかった。
むしろ、嫌々やらされているというのがひしひし伝わってきたくらいだ。
それをこれから四ヶ月、維持出来るとは俺は到底思わない。
今黙ったあたり、多分本人も同意見なんだろう。
「別に悪いことじゃない。一番大事なことは、現状を見つめ直して、モチベーション維持出来る術を考えることだ」
「……うん」
「故に、計画を立てることを俺は提案した。四ヶ月、ひたすら簿記試験に合格する、を目標にすることは大変だけど、ぶつ切りに今月はこの点をクリアする。来月はこの点をクリアするとこなしていった方が、モチベーション維持にも繋がるだろう」
「た、確かに……」
「後は、単純に細かく計画を立てた方が進捗具合が把握しやすいってのがあるな。これは文化祭実行委員を経て、俺が直接体感したことだ」
「あー、なるほど」
こいつは、高校一年時の文化祭実行委員の失態を覚えていた。
だったら、それを引き合いに出して話せば、話が早そうだ。
「進捗具合が遅れていることがわかれば、日々の勉強時間を増やそう、だとか対策が出来る。テスト直前に気づくと後の祭りになるからな」
「……ねえ?」
「うん?」
「もし。……もしさ。あんたが手伝ってくれる中悪いんだけどさ。……もし、計画が甘くなったらどうするの?」
林の今の心配はつまり、俺達がこれから立てる計画が甘くなり、結果簿記試験が不合格になったらどうしようということか。
「問題ない」
「挽回の手段があるの?」
「ああ。次回の簿記試験で頑張るっていうな」
「……え」
林は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。
「そ、それ、目的通りになってないじゃん」
「いいや、違うな」
「……何がよ」
「お前の目的は、最終的に簿記試験に受かることだ。見えている失敗はともかく、最善を尽くした上での失敗は仕方ないだろ。その時が駄目でも、次の簿記試験に受かればいいんだ」
「……でも、結局失敗じゃん」
「失敗は別に悪いことじゃない」
林は黙っていた。
「もし、最善を尽くして失敗したのならさ。きっと見えてくるはずだ。何が悪かったのか」
俺は微笑む。
「何が悪かったのか。それを突き止めて対策して次に活かす。人生ってのは、結局それの繰り返しだぜ?」
俺だってそうだ。
一年生の時の文化祭実行委員で大失敗をしたから、対策して三年生の文化祭実行委員に臨んで成功を収めた。
「でも、失敗したくない……」
「別にさ、失敗したって死ぬわけじゃないじゃないか」
深刻そうな林を見て、俺は微笑む。
「一年生の時の文化祭で大失敗をした俺は烈火の如く叩かれたが、今もこうして平穏無事な日々を送っている。失敗したって、死ぬことはないんだ」
と言いながら、林の今の気持ちは何となくわかる。
特に最近、何かとすぐに落ち込む林を見ていれば、一つの失敗を前に尻込みすることだっておかしいとは思わない。
過度なネガティブ思考。
これもまた、モチベーション維持の大敵だな、と俺は思った。
俺は今、とりあえずは林に対して、これからの道筋を示すことは成功した。
ただ、多分今ここで林の不安を取り除かないことは、彼女のモチベーション維持に関わる問題になるだろう。
……ただ、林の今のネガティブ思考を考えるに、どれだけ完璧な計画を立てたって彼女はすぐに不安に駆られることになるに違いない。
つまり、林の不安を取り除くには、今俺がすべきことは彼女のこれからを一緒に考えることではない。
それよりも、彼女の前にモチベーション維持のための新たな餌をぶら下げること。
「じゃあこうしよう」
俺は指を鳴らした。
「計画通りに点数を取れるようなら、コンビニデザート買ってやるよ」
導いた作戦は、食い物で釣ること。
我ながら素晴らしい案だ。だって女の子って、だいたい甘い物が好きって聞くし。
「え、それは別にいらない」
「な、なんだと……?」
「あたし、別に甘い物好きじゃないし……」
……そうだったんだ。
初めて知る新事実に、俺は黙った。
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作者が言うな。あほちん。
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